ますます植物が好きになる園芸店「たかはし園芸」
青葉台に50年前から店を構える「たかはし園芸」。店内は季節の花や多種多様な苗木が並ぶ、ガーデニング好きにはたまらない空間です。植物への愛であふれる店主の高橋佳晴さんと話をしながら、次の春に向けた庭の計画をたててみませんか?

(text,photo:牧志保)

 

東急田園都市線・青葉台駅から徒歩6分、つつじが丘のなだらかな坂の途中に緑が眩しい一角があります。50年前からこの地に店を構えている「たかはし園芸」です。店主の高橋佳晴さんが、店を始めた時に植樹したというアメリカハナミズキが今では立派な大木となり、店の歴史を伝えています。

アメリカの山に自生している原種のアメリカハナミズキ。4月下旬頃うすいピンク色の花を咲かせる

たかはし園芸の周辺は、今はマンションや戸建て住宅が立ち並ぶ閑静な住宅地ですが、開店当時は、店の裏は杉の山が広がっていて、薄暗く寂しい場所だったそうです。東急田園都市線の溝の口駅-長津田駅間が開通して間もない頃で、当時の青葉台駅の周辺はまだ住人も少なく、なかなか苗や植物は売れなかったそうです。「トラックに乗って都内の園芸店にアルバイトに行きましたよ。そんな時でも、好きな植物に関わる仕事だったので、全く苦にならなかったですね」と高橋さんは言います。

坂の途中、苗木、観葉植物、種子、植木鉢など園芸にまつわるものが並んでいる。緑豊かな生命力にあふれる空間

高橋さんの植物への好奇心は、幼い頃に育まれたものでした。新潟県長岡市の出身である高橋さん。お父様のご実家が山を所有されていて、お父様は山菜採りなど山に入る際には、4人兄弟の中で唯一植物に関心があった、佳晴さんだけを同行させたそうです。そういった経験から自然と、佳晴さんは山歩きや山野草、植物に興味を持つようになり、中学生の時に日本の植物分類学の父とされる牧野富太郎氏の牧野植物同好会の会員となりました。

「佳晴君、植物はね、どうしてそのような名が付けられたのか、名前の由来を覚えると、その植物の名前を忘れることはないよ」と牧野富太郎さんから直に教わったそうです。その後高橋さんは、高校、大学と園芸を学び、大学卒業後はライフワークである植物の研究や山歩きを続けるために、自身で園芸店を経営することを決めました。

「勤めていたら、夏に1カ月も休みを取れないでしょう」(高橋さん)。植物の研究や山歩きを続けるために、園芸店を経営することを決めた高橋さん。高橋さんは園芸店を経営する傍ら、藤が丘地区センターで園芸講座を担当したり、毎月近郊の山に植物を見に行く山歩きの会「横浜青葉山草会」を主催したり、植物にまつわるさまざまな活動に携わりながら多忙な日々を送っている

高橋さんのご自宅の本棚には植物に関する専門書がぎっしりと並んでいます。中でも高山植物やトレッキングに関する本が目立ちます。壁には雪山登山で使用するピッケルが掛けられ、ヒマラヤに生息する幻の青いケシの花の写真が飾られています。

植物の専門書や日本全国の山歩きに関する本、高山植物に関する本が所狭しと並んでいる

 

高橋さんの写真と文による『ヒマラヤ ランタン花紀行』。世界一美しい谷と言われるネパールのランタン村の花々が美しい写真で紹介されている。ランタン村は2015年のネパール地震により壊滅的な被害を受け、この写真集は貴重な記録となっている

高橋さんは若い頃から日本各地の山に登り、30年前からはヨーロッパアルプスやヒマラヤへ高山植物を見るためにトレッキングに行くようになりました。特にヒマラヤの花の美しさに魅了され、これまで50回はネパールを訪れています。

 

高橋さんがネパールを訪ねるなかで、タカリ族の村長との出会い、ジョムソン街道沿いの村々に日本のサクラを植えて、村を訪れる人々を歓迎しようという話が持ち上がりました。当初は高橋さん一人でソメイヨシノの苗木を30本担いでネパールへ行き、植樹したそうです。翌年からは協力してくれる人も現れ、これまでに24回、合計約1000本のソメイヨシノの植樹を行ってきました。

 

ヒマラヤでは10月下旬から11月下旬にヒマラヤザクラが淡いピンク色の花を咲かせるそうです。高橋さんがソメイヨシノを植樹した村々では、春と秋の年に2回サクラを楽しむことができ、登山やトレッキングで村を訪れる世界中の人を喜ばせています。

 

植樹したソメイヨシノが乾期に枯れてしまわないように、街道沿いの村の小学生が水やりをしてサクラを管理しています。高橋さんはそのお礼として毎年、村の小学生に日本から学用品、運動靴を持って行くそうです。

高橋さんはネパールにいるシェルパ族の友人に頼んでヒマラヤザクラの種子を採取してもらい、日本でヒマラヤザクラの苗木を栽培している

 

高橋さんが種から苗木を栽培し育てたヒマラヤザクラ。藤が丘地区センターの15周年記念樹として正面玄関で見ることができる。11月下旬から12月下旬に淡いピンクの花を咲かせる

たかはし園芸で販売している苗や植物は、市場で仕入れたり、生産者から直接買い付けたり、手に入らない苗は、高橋さん自身が種から苗木を育てています。店頭には多種多様な植物が並んでいて、高橋さんに育て方や植生を聞きながら選ぶことができます。花やハーブを育てるのが好きな私には、胸踊る空間です。取材に訪れた日も、早朝から多くの人が店を訪れ、高橋さんとお喋りを楽しみながら苗を選んでいました。若い人が園芸相談に来ることも多く、小学校の先生が授業で育てるアサガオやホウセンカの栽培に関して相談に来ることもあるそうです。

取材に訪れた8月は、1年のうちで最も苗の種類が少ない時期だそう

また、高橋さんは市ケ尾に200坪の畑を借りて野菜を育てています。「苗を売るからには、栽培方法や植生をしっかり理解していないとね」と言う高橋さん。実際にご自身で野菜を作っているので、店に野菜の苗を買いにくる人に具体的なアドバイスをすることができます。「シシトウと唐辛子を近くに植えると、ミツバチの受粉で辛いシシトウができます。私は辛いシシトウが好きなので、わざわざシシトウと唐辛子の苗を近くで育てていますよ」(高橋さん)。自分で野菜を育てるのが楽しくなるようなヒントを聞くことができます。

ツルコケモモ(クランベリー)の苗を森ノオウチに植樹することに。「クランベリーはつる性で、実はそのままでは食べず、一般的には加工してジャムなどにします」(高橋さん)。植物の深い知識を持つ高橋さんの話を聞くと、その植物を育てるイメージがぐんと鮮明になる

 

国道246号線から青葉台へおりてくると、目立つ場所にあるつつじが丘第三公園。美しい花が植えられ、暑い日でも木陰は涼しく気持ちの良い空間。取材当日も公園愛護会の方が手入れをされていた

青葉台駅からたかはし園芸へ向かう途中、国道246号線下り方面から青葉台駅方面へ下りてきた所にある、つつじが丘第三公園はいつも季節の花が美しく咲いています。高橋さんの奥様もメンバーとして活動する、つつじが丘第三公園愛護会の方々が日々管理されています。公園の花が枯れていたら「花が枯れているよ」と店に来るお客さんが教えてくれたり、「次は何の花を植えるの?」と道ゆく人と公園の花の話をすることも多いそうです。木陰が涼しく気持ちの良いつつじが丘第三公園は、まちの人の憩いの場であり、まちの顔でもあります。「あの場所は、いつも綺麗にしておかないとね」と高橋さんは言います。このまちの変遷をずっと見てきた高橋さんのまちへの愛を感じた瞬間でした。

 

これから秋を迎え涼しくなると、種まきの季節です。植物への愛であふれる高橋さんと話をしながら、苗や種を選んでみてはいかがでしょうか。きっとこれまで以上に春が待ち遠しくなるはずです。

Information

たかはし園芸

住所:横浜市青葉区つつじが丘7-9

電話番号:045-983-2847

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