消えつつあるまちの書店を守りたい! 妙蓮寺 石堂書店の挑戦
東急東横線の妙蓮寺駅。改札を出て少し歩くと、コンビニやパン屋さん、電気屋さん、八百屋さん、本屋さん……どこの商店街にもありそうな店が並んでいます。個人が経営するまち商店は年々減ってきているのですが、中でも特に見かけなくなったものがあります。本屋さんです。まちから本屋さんが消えていくことに危機感を抱き、「まちの本屋リノベーションプロジェクト」を立ち上げた石堂書店の石堂智之さんにお話しを伺いました。

石堂書店の入口近くには書店をテーマにした本が並ぶ。中央には地元の出版社・三輪舎の最新刊『ロンドン・ジャングルブック』が。石堂書店らしさが感じられる一角

2000年ごろから現在までに、日本のまちの本屋さんの数は約半分まで減ってしまったといいます。今年、我が家の最寄り駅にあった書店も閉店していました。ほぼ同時期に両隣の駅の書店もなくなり、私は本を買うには、ネットで買うか、わざわざ電車や車に乗って、駅ビルやショッピングセンターにある大型書店へ出かけて行きます。

 

ほんの少し前まではスーパーや銀行に行きがてら立ち寄るほど、自分の身近にあった「本屋さん」が、「ついで」ではなく、「わざわざ」出かけなければならない、遠い存在になってしまいました。そして、小さな子どもを育てている中で、本屋さんが身近な存在でなくなってしまったことに不安を感じています。子どもが一人で出歩く年頃になった時に、書店や図書館に行くだろうか。本は身近な存在であるだろうか。悩みはつきません。

 

そんな時期に、私は「まちの本屋リノベーションプロジェクト」のことを知りました。このプロジェクトの中心メンバーである石堂書店は妙蓮寺駅前(横浜市港北区菊名)に昭和24年に創業したまちの本屋さんです。小さいながら雑誌、コミック、文庫、児童書、実用書、参考書など幅広いジャンルを取り揃えています。70年もの歴史があり、商店街の中心的存在と思いきや、石堂書店にも危機が訪れていました。

 

まちから書店が消えていく

従来、まちの書店の売り上げを支えていたものは、雑誌とコミックでした。かつて石堂書店での両者の売り上げは全体の6割程度だそうですが、他店では売り上げの7〜8割を雑誌とコミックが占めていたといいます。

 

ところが2000年以降、雑誌とコミックの売り上げが低迷します。IT、特にスマートフォンの普及でネットでの情報収集が主流となり、週刊誌や月刊誌で情報を入手する人が減ったのです。また、コミックは電子化も進み、紙離れが加速する要因にもなりました。

 

「スマートフォンのコミックに慣れ、紙のコミックが読めない子どもたちも出てきています」と石堂さんは危機感をつのらせます。スマートフォンのコミックは一コマずつ表示されており、画面をスクロールしながら、読み進める作りになっています。1ページに数コマ描かれている紙のコミックは、読み進める順番がわからないのだとか。紙のコミックですら読めない子どもたちが、書籍を読むとは考えにくく、想像以上に本離れの状況は深刻だと感じます。

 

また雑誌やコミックを買わなくなった人はまちの本屋さんに立ち寄ることも減ってしまいます。そして同時期にあらゆる書籍を取り扱うネット書店が台頭し、書籍の入手経路そのものも変わりつつあります。

「書店に未来を見出せず、まちの書店を継続させていく事は困難になった」と石堂さんは言います。後継者もおらず、店主の高齢を理由に閉店する店も多いのだとか。

 

一方、智之さんは祖父、父の後を継ぐ三代目。大学卒業後は一旦就職したものの、実家に戻った時に地元の温かさに触れたことをきっかけに書店を継ぐ決意をしたそうです。

右は3代目店主の石堂智之さん。左は石堂さんのお父さんで2代目店主の石堂邦彦さん。以前は当たり前だった家族経営の書店はいつの間にか珍しい存在に

 

書店から「まちの文化拠点」へ

どうすれば、「まちの本屋」を守れるのか。石堂さんが最初に相談したのは、地元、妙蓮寺で不動産建築業「住まいの松栄」を営む酒井洋輔さんでした。

 

酒井さんと石堂さんのお兄さんは幼馴染み。そして妙蓮寺で生まれ育った酒井さんにとっても石堂書店は幼い頃から通った馴染み深い場所でした。4年前に妙蓮寺に古民家カフェをオープンさせた時に酒井さんは石堂さんに紙芝居の上演を依頼。それを機に石堂さんは酒井さんに相談するようになったそうです。

 

酒井さんは「まちから書店が無くなるということは、まちから文化がなくなるということ」と言い、「コンビニやスーパーがあれば便利だけど、文化がないまちはつまらない」と続けます。

 

そこで酒井さんが考えたのは、本を売るだけの書店ではなく、コミュニティの中心的な役割を担う、文化拠点としてリニューアルさせることでした。そして、酒井さんは、今は有効活用されていない石堂書店の2階と向かいの倉庫スペースを活用することを提案したのです。

石堂書店の頼もしい味方、住まいの松栄。左は代表の酒井洋輔さん。酒井さんもまた家業を継ぐ3代目。右は設計担当の能勢宇量さん。本屋が大好きな建築士だそう

その第一弾として石堂書店の2階をシェアオフィス 「ホンヤノニカイ」としてリニューアルしました。酒井さんは近い将来、在宅勤務が増えると考え、ターミナル駅の近くではなく、自宅から徒歩圏内にシェアオフィスの需要が増えると考えたそうです。驚くことに、あえて自社で今回の工事の受注はせずにまちの人たちに協力を要請し、みんなでDIYすることにしました。より多くの人に関わってもらうことで、その人たちに場に愛着を持ってもらいたかったのだとか。それに加え、酒井さんは地元で出版社を営む三輪舎の中岡祐介さんに奥の個室への入居を依頼しました。

リノベーション第一弾としてホンヤノニカイをみんなでDIY。子どもから大人まで地域に住む人たちが手伝った(写真提供:石堂書店)

中岡さんもまちの書店が消えてゆくことを危惧していた一人。「生活圏の中に書店がないということは、生活の中に本がないこと」と言います。まちの書店の減少は出版社にとっても危機的状況なのです。

 

中岡さんがプロジェクトメンバーに加わったことで、プロジェクトはパワーアップ。著者や関係者を招いたトークセッションをホンヤノニカイで開催することを提案し、9月の上旬にはシーリズ「暮らしの街で本と本屋を考える」の第1回「あなたの街の、あなたの本屋。」が開催されました。都会の大型書店で著者を招いたイベントは珍しくありませんが、まちの書店での開催はあまり聞きません。

 

「あなたの街の、あなたの本屋。」では、中岡さんがファシリテーターを担当し、第1回には『街灯りとしての本屋』の著者の田中佳祐さんと、構成を担当された双子のライオン堂の店主・竹田信弥さんがゲストに招かれました。わずか8坪のスペースが満席になるほどの盛況ぶり。私も参加しましたが、また、このようなイベントを通じて、石堂書店が本を売るだけの店ではなく、文化を発信する拠点に変わりつつあることを感じます。

狭いスペースだからこそ、登壇者との距離も近く、熱い熱気に包まれたイベントとなった(写真提供:石堂書店)

ホンヤノニカイの運用がスタートし、いよいよリノベーションプロジェクトの第二弾がはじまります。今度はクラウドファンディングで資金を集め、石堂書店の斜め前にあるスペースを『こいしどう書店』(小さい石堂書店の意)として生まれ変わらせます。そこは1980年から2000年代はじめまで、児童書とコミックを置いた石堂書店の別館として使われていましたが、売り上げの低迷とともに、店舗は1箇所に集約。これまでは有効活用されていませんでした。

旧石堂書店別館。今は店頭にガチャガチャが置かれ、奥は倉庫として使われている。このスペースが「こいしどう書店」に生まれ変わる

リノベーション後は、商店街を通る人たちに気軽に入ってもらえる、カフェスペースを設け、そこでは読書もできるそう。また壁もギャラリースペースとして使われる予定。そうなれば、将来的には絵本の原画展が開催されるかもしれません。ここで開催されるイベントも現在企画中とのこと。

 

こいしどう書店の完成イメージ。本を読むスペースを十分に設け、中では飲食も可能に。商店街の中のコミュニティスペースとして活用されそう(イラスト提供:石堂書店)

そしてコイシドウで販売する本は、新刊ではなく、まちの人から寄付された古本、“ブックファンディング”です。ブックファンディング、少し耳慣れない言葉です。ここでは、寄贈してもらった本を販売するだけではなく、本の贈り主からのメッセージカードも添えられています。「ただ古本を置くのではなく、読んだ人の想いやこれから読む人へのメッセージがあることで、本を読むきっかけになってもらえれば」と石堂さんは言います。ただ店先に話題の本を並べるだけでは、本は売れない時代。石堂さんの取り組みは、読書家を作る取り組みでもあります。

ブックファンディングに寄せられた本とメッセージ。この本の贈り主は「メッセージを書いているとき、心がすごく幸せだった」とお話しされたそう

 

まちの書店を守るために

石堂書店に限らず、わずかに残るまちの書店は危機に直面しています。自分たちのまちの書店を守るために、何かできることはないのでしょうか。石堂さんは「まずは気軽に店に入って欲しいです」と言います。どんな本が置かれているのか、気になる本があれば手に取る、それが最初の一歩だそうです。

 

わずか23坪の石堂書店に置ける本は約1万2千冊です。一方、日本全体で、現在年間7万点以上の本が出版されています。過去に販売した本や、書店に通われる客層などから分析して、店に置く本を選ぶのは簡単なことではないはずです。

 

「できれば、お客様とちょっとした話ができると、それが選書のヒントになるのです」と石堂さんは言います。「こんな本が好き、こんな本は好きじゃなかった、といった本の好みでもいいですし、小さな子どもがいる、料理が好き、というような家族構成や趣味を教えていただくのも一つのヒントです」

 

来店される人々とコミュニケーションを取りながら、店に並べる本を決めるのは、顔が見える関係のまちの書店だからこそできることなのだと思います。規模は小さくても、徒歩圏内にある書店に読みたい本が並ぶようになれば、自然と通う頻度は増えるはずです。客足が増えれば、次第にまちの書店も潤ってきます。また、子どもたちにとっても自分の足で通える範囲に書店があれば、本の中で育つようになるでしょう。本が再び暮らしの一部となるはずです。

 

石堂書店の取り組みは、はじまったばかりです。でもここに関わるたくさんの人の力で、少しずつですが変化を感じています。石堂さんのお話は、暗い話しが多いまちの本屋に“希望の光が見える“、そう感じるものでした。そしてまちの書店を残すために、私も何かできることをしたいと思いました。

Information

石堂書店

住所: 〒222-0011

神奈川県横浜市港北区菊名1丁目5−9

電話: 045-401-9596

営業時間:10:00〜20:00

定休日:月に2、3回ほど。主に日曜日。

http://books-ishidoh.com

https://www.facebook.com/booksishidoh/

 

<まちの本屋リノベーションプロジェクト>

https://note.mu/mrp

 

<クラウドファンディング>

https://camp-fire.jp/projects/view/184484

目標金額の150万円を達成しましたが、2019年9月30日23時59分59秒まで支援を受け付けています。

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この記事を書いた人
藤本エリライター卒業生
外食産業と広告制作会社でマーケティングを担当した後、有機的な食や暮らしに関わりたいと、ドキュメンタリーの世界へ。惚れ込む作品に出会い、自身で配給したくなり「たんぽぽフィルムズ」を設立。2021年に長野県東御市に移住し、映像の世界観を自身でも実践すべく奮闘中。
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