春めくクラフトビールで乾杯! 横浜市大木原生物学研究所・麦ひと粒から始まる物語
横浜市戸塚区舞岡町にある横浜市立大学木原生物学研究所で、麦からビールを造るプロジェクトが進んでいます。学生たちが種まきからかかわるビールは、「食の当たり前」を問いかけながら、地産地消の新たなムーブメントになりそうな予感です。春らしい季節限定ビールも完成しました。

「麦がもし明日なくなったらどうなると思います?」。ビール造りの取材に訪れた私に、横浜市立大学木原生物学研究所の坂(ばん)智広教授は、そう質問を投げかけました。「当たり前にあるものに対して、みんな気にしないでしょう。それを気にしないといけない。ビール造りの背景にはそんな思いがあります」と話します。

 

木原生物学研究所は、横浜市営地下鉄ブルーラインの舞岡駅から数分歩き、のどかな里山風景が広がる小高い丘の上にあります。同研究所は、コムギ博士として知られる故木原均博士(1893-1986)が設立した研究所です。舞岡町にあるキャンパスには、さまざまな植物が花を咲かせ、生物の多様性と進化から地球環境の変化と人類発展の歴史を学び、子どもたちに未来を託すために、植物科学・食料科学の教育と研究を進めています。

 

校舎の内外に麦のモチーフが見られるユニークな建物。「国公立大学系で、人の名前がついた研究所はここだけ。非常に珍しいです」と坂教授

2015年に「みらい麦畑化計画」という研究プロジェクトの一環として、大学が借りた舞岡町の畑でビール用の麦栽培を始めます。「横浜の農業には高齢化などいろいろな課題がある中で、社会環境に加えて、世代を超えて自然環境を受け継ぐという視点で循環と調和を考えていくという視点が大事だと思います。ビールを醸すことで、話題を、物議を醸していきたい。そうやって、みんなで集って語ることを大切にしたいんです。また、お酒には理屈や頭で考えるだけでなく、楽しくつながることができますから」。坂教授は熱を込めて話します。

 

 

ビールの前には、パン用小麦の生産者からパンを食べる消費者までをつなぐ地産地消のネットワークづくりに取り組んできた坂教授

ビールの原料にする麦作りには、学生が自ら農機具を動かし、農作業に携わります。「アルコールの発酵の理論を学んでも、ビールがどうやってできるのか分からない学生が多い。プロセスを体験しながら、自分たちの手で道を切り開いていってほしい」と坂教授。このプロジェクトには、理系文系を問わず、学域を越えて学生が参加しています。ビールを醸造する企業との交渉や、イベントへの出展など、学生が担う部分は幅広く、実践的な学びの場になっているようです。自然の循環を意識し、除草剤を使わずに麦を育てています。わらの部分は、ストローやわら細工に加工し、プラスチックごみを考える(※)SDGsの取り組みも進めてきました。

 

大きな農機具を動かしながら麦を収穫する学生たち。「大変な作業を経験したからこそ、麦一粒にもたくさんの思いが詰まっていることを実感した」と話す(写真提供:横浜市立大学)

さて、どんなビールに仕上がったのでしょう。最初にデビューしたのは2017年、自家栽培の大麦を使ったオリジナルのクラフトビール「KORNMUTTER(コルンムッター)麦畑の精霊」です。昨年11月には第2弾として、「KORNMUTTER 豊穣のしるし」3,000本をリリースしました。

 

「豊穣のしるし」に使った大麦・ミカモゴールデンは、ビール発売の1年前の11月に種をまいたものです。冬場に霜柱を防いで根張りをよくし、麦が伸びすぎないようにするため麦踏みを経て、5月に収穫しました。このプロジェクトの思いを託し、厚木市のクラフトビールメーカー、サンクトガーレンに醸造を依頼しました。

 

実際に私も取り寄せて飲んでみたのですが、軽やかな口当たりなのに、麦の豊かな風味を感じられる印象的な味わいでした。横浜市大の卒業生でもある、森ノオトの北原まどか編集長も「甘美な香りと、スッキリとした味わい。ほのかなカラメルと苦味は、ビール単体でも楽しめて、他の料理を邪魔しない」と母校発のビールを堪能していました。

 

輝くように美しいゴールデンエールの「KORNMUTTER 豊穣のしるし」。黄色に輝く麦が印象的なクラフト感のあるパッケージは、学生たちの声が反映されている

第2弾の3,000本は好評を得て完売し、この3月に追加販売が決まりました。「KORNMUTTER 豊穣のしるし」に加え、季節限定のさくらの風味の「KORNMUTTER SAKURA」が新たに登場しました。桜の花と葉を使った、桜餅風味のビールです。さまざまな門出を祝う春にぴったりな華やかなパッケージで、爽やかな味わいに仕上がったそうです。ビールの売り上げの一部は、同大のYCUサポート基金として寄付されます。商用ビール発祥の地である横浜の、地産地消のクラフトビールとして注目が高まり、今回から横浜市内の百貨店にも販路を広げます。

 

 

季節限定のクラフトビールは、学生さんが学びを花咲かせる卒業シーズンのお祝いと記念にも(写真提供:横浜市立大学)

 

商品名の「KORUNMUTTER(コルンムッター)」は、ドイツ語で”麦の母”を意味します。母なるビールが媒介役となり、どんな芳醇な話題を醸していくのでしょう。学内では、学生だけでなく教職員も、学域を越えてビールを話題に盛り上がる場面が生まれているそうです。わがまちのビール、母校のビールとして、さまざまなつながりを生む可能性を秘めています。ビールを味わいながら、地域の農の未来について、思いを交わしてみませんか。

 

5月の麦刈りのシーズンには黄金色に麦畑が染まる(写真提供:横浜市立大学)

 

(※)SDGs(エスディージーズ)とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2015年9月に国連で開かれたサミットで決められた、世界が抱える問題を解決し、持続可能な社会をつくるための目標。

Information

木原生物学研究所みらい麦畑化計画(木原生物学研究所内)

https://www.facebook.com/Mirai.Mugibatake/

問い合わせ先:TEL 045-820-2404

コルンムッター販売店

・ファミリーマート金沢八景駅前店、クイーンズ伊勢丹横浜店 ほか

・オンラインショップ:サンクトガーレン

https://www.sanktgallenbrewery.com/news/korunmutter.html

KORUNMUTTER SAKURA…330ml入り、460円(税抜)

KORUNMUTTER 豊穣のしるし…330ml入り、400円(税抜)

梶田 亜由美
この記事を書いた人
梶田亜由美ライター/スタッフ
2016年から森ノオト事務局に加わり、AppliQuéの立ち上げに携わる。産休、育休を経て復帰し、森ノオトやAppliQuéの広報、編集業務を担当。富山出身の元新聞記者。素朴な自然と本のある場所が好き。一男一女の母。
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