(text&photo:遠藤千里)
現在、小学校3年生と年長、2歳の子を持つ私ですが、実は小学生の放課後の過ごし方について思うところがありました。自分が小学生だったウン十年前と、今の子どもたちの過ごし方が全然違うので、そのギャップを親子でどうやって埋めようか……と感じていました。家にずっとこもっているか、お友達のお家にお邪魔するかで、私が子どものころのように近所の子たちと学年をまたいで遊ぶようなこともありません。それが個性であるといえばそれまでなのですが、年齢の低いうちにいろんな経験ができるといいのにな、と思いつつも、その機会を作れずにいました。いずれ私もフルタイムの仕事をすることになるかも……その時、子どもが放課後にのびのびと過ごせて、親も安心して預けられる場所があったら、と思っていました。
そんなある日、子ども一人ひとりに合わせた保育をしているユニークな学童があるらしい、との噂を聞きつけました。「子どもが主体」という「桂台学童保育ちびっこの家」での毎日を、指導員の望月里紗さん、田中瑛士さんに伺ってきました。(取材は2020年2月)
「こんにちは!」。桂台学童の扉を開けると、子どもたちが元気な挨拶と笑顔で出迎えてくれました。入ってすぐ広場があって、玄関から全体が見渡せる開放的な空間で、外を通りがかった学童以外の友達が話しかけられるような、敷居の高くないアットホームな雰囲気です。
子どもたちは学童にやってくると、まず壁際にあるロッカーに荷物を置いてから、宿題を始めます。
「宿題は絶対ではありません。が、特に低学年は学童が終わってうちに帰ってからだと、疲れて寝ちゃうという場合もあるので、できるだけやるようにしています」と田中さん。
全員が終わったらおやつタイム。みんなで消灯して2階へ移動します。そこはキッチンと食事をするスペースがあり、自分たちで決めた班長さんがテーブルごとにいて、おやつを人数分配ります。おかわりもあって、食べ終わった高学年生から順に取りに行きます。
おやつを食べ終わったら、その後の活動をどうするかは、高学年が中心になって話し合って決めます。取材時は年に一度のイベント「遊びのオリンピック」の開催中で、けん玉やコマなど各種競技を数日にわたってやることが決まっていたので、子どもたちはすぐ練習を開始。お互いが技を競い合っていました。
「こういう一人ひとりが時間を気にせずじっくり行う競技ができるのは、少人数の保育ならではだと思います。1年生もだんだんできるようになっていくし、6年生はこれまでの集大成で、その成長を本人自身も仲間も知ることができます」(望月さん)
競技が始まる前のフリーの練習も、黙々と一人でやっている子、できることをアピールする子、やってみて失敗してへこんでいる子と、様々です。みんな真剣なので、取材をしているこちらも物音を立てないように、邪魔しないようにと緊張します。終わると、長くできた子もそうでない子も一様にやりきった!といった表情を見せてくれました。
特に行事がない場合は、学童の目の前の公園で、外遊びもします。「公園では学童以外の子どもたちとも一緒になって遊んでいます。僕たちが外に出てくるのを待っている場合もありますよ。自分たちだけで遊ぶのとはまた違って楽しいのかも」と笑って田中さんが教えてくれました。
預かり時間は平日は18時まで(延長は19時まで)ですが、最後までいる子、習い事があって早めに帰る子、一旦習い事へ行ってまた学童に帰ってくる子もいます。学童から習い事に行って、後で保護者がランドセルだけ取りに来ることもあるといい、それぞれの生活に合わせた柔軟なサポートがされています。
1年生が最初に通所するときには、各学校に職員がお迎えに行き、学校ごと、学年ごとにまとまって1、2カ月は様子を見て通います。子どもの段階に合わせて、自分たちだけで通えるように、だんだんと職員も離れて見るようにしていきます。 最終段階では、職員は通所路で見つからないように隠れて様子を見て、無事学童までたどり着くかを見守ったりと、小規模ならではのきめ細やかな対応が印象的でした。
今年は新型コロナウイルスの影響でイレギュラーな対応を迫られていますが、例年は年間を通じて、高学年合宿や学童祭り、遊びのオリンピック、キャンプなど、工夫を凝らした行事を開催しています。
「中でも一番重視しているのは『卒所式』です。卒所証書やアルバム、スライドなどは指導員が手作りしています。在所する子は卒所する子のエピソードに合わせた替え歌を歌ったり、卒所する子になりきっての劇を披露したりします。例年は卒所生2、3人の所を、保護者、OBOG、100人ほどが参加しています」と望月さん。
他の色々な年間行事も、それを通して次年度につながるようにということを考えているそうです。
「残念ながら6年生まで在所しない児童もいるのですが、できたら6年間通ってくれると嬉しいですね。毎年毎年の行事の中でそれぞれが成長していって、その集大成が卒所式になるので。とはいえ途中で退所する子も、その子自身にしっくり合うところに入れたら、それが一番だと思っています」と田中さん。
そんなアットホームな保育をしている桂台学童は、全学年で30名ほどの小規模保育施設です。どんな保育方針があるのでしょうか。
「まず『ルールがない』ということでしょうか」。保育にあたって大切にしていることを聞くと、田中さんが答えてくれました。
「毎年4月に新しい体制になると、『今年のルール』を高学年生中心につくります。たくさんはつくらず、最小限にとどめます。『ボールを道端でついちゃダメ』というルールを子どもたちが決めたとしたら、ルールを決めるだけでなく、『何でダメなのか、理由からわかるように伝えよう』と言います。もしそこで、なかなかうまく下の学年の子に伝えられないなど、何かあったら低学年の子どもの声も聞きながら、高学年を集めて話し合いをします」と具体的にお話してくれました。
毎日何をするかだけでなく、ルール決めやチーム割り、班長決めなど、基本的には何でも子どもたちが話し合って決めていくのですが、その中で指導員として感じることもあるそうです。
「だんだんと子どもたちが自分の意見を言えなくなってきていると感じます。まずは子どもの声を聞いてあげることを大切にしています。『自分の意見が通った』という体験を積めるように、『ダメ』や『無理』といった言葉をなるべく使わないように心がけています」と田中さん。
「例えば、けんかをした時、『ごめんね』『いいよ』という文化がありますよね。小さい頃からそうしてきているから、習慣になっているのだと思うのですが、ここ桂台学童では『今、もし納得できなかったら、ちゃんとそう言っていいんだよ』と伝えています」
望月さんも「納得ができるまでは、黙っていてもいいし、場合によっては取っ組み合いをしてもいいと思います」と続けます。
その言葉に、ハッとしました。子ども自身は納得していなくても、自分を押し殺して「いいよ」と言ってしまうことも多々あるのかも、と気づかされます。そうした機会ばかりだと確かに自分の意見が言えなくなるのかも……ついついわが子を押さえ込んでいないかな。納得がいくまで時間をおくと、お互い歩み寄れることもあるかも……とわが家に置き換えて考えさせられました。
「それから、子どもたち同士お互いが認め合う場でありたいと考えています」と田中さん。
例えば、年間行事の中に高学年だけが参加する合宿があります。「合宿をする上で、色々課題が出てきますが、子どもたちがお互いをフォローし合えたらいいと考えています。もし、あるところでできないとこがあったとしても、『こんなところは他の子ができないこともやっているよね』とお互いが認め合う時間を持っています」
子どもによっては面と向かってはなかなか思いを口に出せないこともあります。「『あの時こうだった』と時間が経ってから言うことも。そういう場合は『その時にちゃんと言おうね。面と向かって言ったら、それは悪口ではないんだよ。陰で言わなければいいんだよ』と伝えています」と望月さん。
方針を聞く中で、印象に残ったのは、田中さんの「子どもたちには『失敗しなさい』と言っています」という言葉です。
「ここ数年で失敗を恐れる子がより多くなっていると思います。失敗を恐れるあまり、自分からは行動を起こさない子も増えてきていると感じます。学童で何か宿題を出して、家に帰って何をやるかわからなくなった時があるとします。そんな時、保護者の方から問い合わせがあることがあるのですが、できたら子ども自身が聞くように伝えています。失敗しないようにという思いがあるからだと思いますが、失敗してもいいし、翌日になってもいいので、本人が自分で聞くように伝えていきたいと思います」と田中さん。
望月さんは「最初から『できない』と言わないようにと伝えています。やる前からやらないというのは失敗が怖いからだと思いますが、まずやってみてね、その上で失敗してもいいよ、と伝えています。時代によって伝える内容、伝え方が変わってくると感じています。また、『ルールはない』『失敗してもいい』とは言いますが、『マナー』はあります」。
たとえば、1年生は幼稚園や保育園で最年長を経験してから入ってくるので、上級生との接し方が難しい場合があります。その時はマナーとして、「年上の人には偉そうに言わない」といった接し方などを学んでいきます。
学校ではどうしても学年ごとのふれあいが中心になりますが、日常的に学年を超えた上下の関わり合いを持つことができる、学童ならではのマナーが身につくようです。
小学生の放課後の過ごし方ついては、私が小学生の頃は選択肢が限られてように思いますが、今では小学校に設置されている放課後キッズクラブや学習が主体の民間保育施設など様々あります。そんな中で、元々保護者が主体で始まったということも、桂台学童の特徴です。
「子どもが主体で、本人の成長そのものを大事にしているので、子どもはいろんなことができる、挑戦できる場所だと思います。その姿を保護者も一緒に見守りたい、というご家庭に向いていると思います。例えば、学童で少し怒りすぎたから、家では慰めてとか、その逆の場合もあったりします(笑)。6年間という長い期間を見守る中で、学童と家庭でお互いを補い合いながら、一緒にかかわりあう、困った時は助け合う、そういう関係になっていくのが、この学童の特徴かなと思います」と、相互にかかわり合う関係性について望月さんは話してくれました。
保護者自身が学童の運営に携わるということですが、実際保護者は何をするのでしょうか。
「保育自体は指導員に任されていますが、経営は2年生の保護者が主体となって担っています。会長を中心とした役員会があり、各種役割を分担しながら一年間稼働していきます。年間行事でも関わり合いがありますが、時代背景もあって、保護者の負担を減らすことも随時必要になってきました。例えばキャンプは従来保護者が参加していましたが、一年間ほど話し合って保護者の参加はなくなりました。学年を超えた保護者同士のつながりをつくれるといった、いい面もありましたが、こうした機会は別の年間行事で引き継いでいく形になっていっています」と、田中さん。保護者のかかわり方も時代の変化に応じて変わっていっているそうです。
実際に学童へ通所する子どもたちは、だいたい年中くらいから問い合わせが始まり、たまたま学区内に住んでいたり、通りすがりに存在を知ったり、各保育園に配ったお祭りのチラシからきたり、引越しを機に保護者同士の関わりをもとめてきたりと、様々なきっかけで通っています。
学校と家庭とは別のもう一つの居場所として、子ども一人ひとりに合った保育を受けられる桂台学童保育ちびっこの家。学年をまたいでの交流が日常で、上級生が下級生の面倒を見るのが当たり前になっているところや、自分たちで考えて行動するここでの毎日からは、主体性やリーダーシップ、周りを思いやる気持ちが自然と養えるのではないかと思いました。
何より、小さいうちに失敗をたくさんして色々な経験を積めること、お互いの存在を認めあえることは、ついつい失敗を恐れたり、できないことを責めたりしてしまうこともある親子にとって、とてもありがたい場所であると感じました。
核家族化が進み、共働き世帯も多い中で、学校や放課後の施設で子ども同士のつながりができたとしても、保護者同士のつながりがなかなかできないこともあると思います。実際私も、幼稚園や保育園の時と比べて、小学生になった途端にわが子の活動を把握できる量が少なくなり、保護者の知り合いも数がぐんと減りました。ちょっとした悩みや困りごとを相談する相手がおらず、時に子育てに孤独を感じることもあります。
桂台学童の特徴の一つである保護者主体の運営は、各家庭の負担もあると思いますが、学童に任せきりではなく、密に関われることで、家庭と学童とが一緒に子を育てていくことができます。子育てに悩んでも相談できたり、孤独な子育てから少し解放されたり、そんな面もあるのではないかと感じました。
現在幼稚園や保育園に通っていて、来年以降の小学生の保育をどうしようか考えている方も、すでに小学生だけど放課後の過ごし方に悩んでいるご家庭も、行事や見学などで桂台学童保育ちびっこの家を一度訪れてみてはいかがでしょうか。
桂台学童保育ちびっこの家
住所:〒227-0034横浜市青葉区桂台1-8-39
tel/fax:045-961-3166
HP https://katuradai.jimdo.com/
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