干し野菜で台所と食卓に笑顔を。澤井香予さん
横浜の農と福祉の現場を干し野菜でつなぐ、干し野菜研究家の澤井香予さん。市内の福祉事業所などとコラボして、さまざまな干し野菜商品を送り出しています。お会いするたび、パワフルな笑顔と干し野菜への情熱に引き込まれます。そのエネルギーのみなもとと、干し野菜の魅力に迫りました。

干し野菜といえば、私が暮らす横浜市青葉区では、社会福祉法人グリーンが、自家製野菜を干し野菜に加工して、商品として販売しています。干し野菜とパスタを組み合わせたパスタセットや、しょうゆやオリーブオイルと混ぜるだけでドレッシングができるドライ玉ねぎなど、手軽なのに野菜のうまみを十分に味わえて、干し野菜を身近に感じるようになりました。私の周りでもファンが増えているそれらの商品をプロデュースしているのが、澤井香予さんです。

 

右側の2点はグリーン、左側の2点は泉区のるあなが製造販売している商品。どちらも手軽に調理できるのにおいしくて、一度食べてからすっかりファンに

 

澤井さんは、昨年度に森ノオトが開いていた「いいかも市」で、たびたびグリーンのブースに立って、おいしい食べ方やおすすめの商品を紹介してくれました。ひまわりのような明るい笑顔と、干し野菜への熱い気持ちが伝わってきて、澤井さんとお会いするといつもパワーをもらうのです。私とは「はまふうぅどコンシェルジュ」11期の同期という縁もあり、今回取材させていただきました。

 

福祉事業所とのコラボだけでなく、干し野菜についての情報発信にも精力的な澤井さんですが、かつては乾物といえば干ししいたけや高野豆腐というイメージだったそうです。干し野菜の魅力を知ったのは、次男を出産した7年前にさかのぼります。その当時をこう振り返ります。

 

「長男を出産したときに乳腺炎を繰り返したことをきっかけに、食を見直すようになりました。でも、次男が生まれてからは、時間がなくて。公園に行って帰ってくると子どもはお腹を空かせているでしょう。食事にこだわりたくても、何を作ったらいいかわからないという日々でしたね。ある時、偶然テレビで干し野菜のことを知り、真似して干したエリンギとレンコンをだしにして味噌汁を作ってみたんです。だしなのに食べられて、時間もだしがらも無駄にならないし、栄養もとれそう。これは画期的だ!思ったんです」

 

それから干し野菜の世界にどっぷりと入っていきます。

 

それまで、毎日ご飯を作ることがおっくうに感じるときもあったそうですが、干し野菜に出会ってからは、そのストレスがなくなったと言います。ちょっとした工夫で日々の料理の負担が減って、野菜本来のうまみを味わえるーー。「干し野菜の魅力をみんなと一緒に感じていきたい」と、干し野菜を仕事にしていこうと決めます。

小松菜やにんじん、キノコ類をこんなふうに干せば、自家製干し野菜にできる

 

いったんは干し野菜の製造販売の工房を立ち上げた後に、工房はたたんだものの、今度はさまざまな団体や企業に協働のアプローチを仕掛けていきます。利益を重視する企業とのコラボは難しいかな、と感じていた頃、小学校の支援学級の教師をしている友人から「干し野菜を作るのは障害のある子に向いている」とアドバイスを受けました。「クッキーやパンの自主製品は福祉施設にあふれているから、干し野菜を自主製品として福祉施設の仕事に提案してみたら?」。今度は、地域の社会福祉協議会にパートナー探しの相談をします。

 

2015年に泉区の福祉事業所と初めての取り組みが始まりました。そこで感じた手応えが、澤井さんの思いを一層強くします。

 

最初にかかわった事業所では、ボールペンの製造にかかわることがおもな仕事だったそうです。そこに、干し野菜を作ることが、新たな仕事として加わりました。包丁を持つことが、利用者さんにとって新しい挑戦です。最初は恐る恐る包丁を握っていた利用者さんも、「この野菜知ってる」「これ好き」などと会話を弾ませながらどんどん上達していったそうです。「命のある野菜を扱う、いきいきとした利用者さんの姿を見て、この仕事をもっと広げていきたいと思うようになりました」

 

瀬谷区の「まちふく」での干し野菜商品の作業の様子(写真提供:まちふく)


 

その後、泉区の社会福祉法人いずみ苗場の会「るあな」での協働につながっていきます。生活介護事業所のるあなでは、ある車椅子の女性は干し野菜の作業に興味を持って、作業のある日は必ずその場所にやってくるそうです。干し野菜の仕事がしたいと入所される方も出てくる中で、澤井さんは「自分がやりたいことをやるっていうことは、人生のいろどりが豊かになって、楽しみになることだと思うんです。干し野菜を通じて、そんな楽しみをつくっていけると思うとうれしいです」と話します。

 

グリーンやるあなのほか、瀬谷区の福祉事業所「株式会社まちふく」とコラボも始まり、植物工場で農福連携に取り組む株式会社アグリ王とは、エディブルフラワーの商品開発を進めています。また、はまふぅどコンシェルジュのつながりで、横浜市中央卸売市場の藤岡食品から、大量に廃棄されるキャベツや白菜の外葉を引き取り、干し野菜商品として加工する取り組みも始めました。こうした規格外野菜や廃棄野菜を干し野菜に加工し、商品に生かすプロジェクトについて、「生産者、加工者、流通、消費者、そして地球もハッピーになる取り組みです。干し野菜で、いつか世の中の余剰野菜をなくしていきたい」と話す澤井さんの表情には、顔いっぱいに笑顔が広がります。

 

この秋、アグリ王から販売予定のドライエディブルフラワーをお皿にあしらって。小松菜は自宅でちょい干ししたもの、ドライ玉ねぎは商品を使っている

 

澤井さんは、農福連携にとどまらず、家庭の台所にも目を向けます。小学生の男の子2人のお母さんでもある澤井さん。自分自身が日々の食事作りに悩んでいた経験があるからこそ、主婦や子どもを育てるお母さんの料理のストレスを、干し野菜を使って少しでも減らしたいという思いがあります。「食事を作ることは命をつくること。本当はうれしいはずのことなのに、煩わしいことに傾いてしまう。どうせなら楽しくやりたいですよね。スイッチをちょっと変えるだけで楽しいものになります。ポイントはたくさんあるけど、その一つが干し野菜だと信じています」

 

干し野菜を家庭に

 

自身のSNSやブログでは、レシピ公開や干し野菜の情報を積極的に発信している澤井さん。香予流レシピのポイントは「簡単・おいしい・シンプル」の3つです。澤井さんに、自家製干し野菜の作り方をお聞きしました。

 

こんなふうにざるや干しかごに入れて干す。さわやかな秋晴れの日は干し野菜日和

 

特にこれからの季節におすすめなのがキノコ類です。エリンギは薄切り、シメジは石突きを切ってほぐして、それぞれざるや干しかごに入れて4日間でフルドライになります。保存パックに入れて、冷凍庫で3カ月ほど保存が効くそうです。管理のコツは洗濯物と同じで、夜や雨など湿度の高い時は室内に入れること。干すことで、味が濃くなり、うまみがぐっと増すそうですよ。

 

また、フルドライではなく「ちょい干し」という方法もあります。朝や夜に洗って切って、ざるや干しかごに入れて、朝干したものは晩ご飯に、夜干したものは朝ご飯に使えます。「歯応えは残しつつ、フレッシュなときにはない味の奥深さが出ます。調理のときに包丁やまな板を使わないので楽な上に、味がよくなるのでおすすめですよ」。干し野菜を使うようになって、澤井さんは化学調味料に頼らずとも料理ができるようになったと言います。教えていただいたスープは、干しキノコがだしとなって、塩だけの調味でうまみ十分な味わいで驚きました。

 

干し野菜を使って、ほんの数十分でぱぱっと澤井さんが作ってくれた3点。パスタは自家製の干しキノコ入り

 

だれしも今日はご飯を作るのがきついなぁという日がきっとありますよね。干し野菜商品を買うもよし、ちょっぴり余裕のあるときに自家製干し野菜を作っておくもよし。干し野菜が、苦しい日を助けてくれることでしょう。

 

干し野菜の伝道師として、畑から福祉事業所、企業まで縦横無尽に駆け回る澤井さん。あくまでも明るく、食の現場に笑顔を運んでいます。迷いなく干し野菜の道をつき進んでいくそのエネルギーのみなもとは、干し野菜を通じて自分自身が心からうれしい気持ちを感じて、それを広げたいという思いに尽きるのでしょう。私も干し野菜の商品を味わったり、澤井さんに教わって干し野菜を作ることを始める中で、楽なのにおいしい、野菜をむだにせず食べきれる、という、うれしい気持ちがじわじわと広がっているのを感じます。

Information

干し野菜研究家・ 澤井香予さん

公式HP https://home.tsuku2.jp/storeDetail.php?scd=0000106455

梶田 亜由美
この記事を書いた人
梶田亜由美ライター/スタッフ
2016年から森ノオト事務局に加わり、AppliQuéの立ち上げに携わる。産休、育休を経て復帰し、森ノオトやAppliQuéの広報、編集業務を担当。富山出身の元新聞記者。素朴な自然と本のある場所が好き。一男一女の母。
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