技術と話術で地域をつなぐまちのミシン屋さん|斉田ミシン商会
日々布に囲まれている森ノオトの布工房「AppliQué」にミシンは欠かせません。
カタカタと心地よい音を響かせている時はいいのですが、突如調子が悪くなることも。
そんな時にお世話になるのが斉田ミシン商会の斉田正則さん。いつもは緊急な時ばかり連絡するのですが、今回は初めてゆっくりお話を伺いに行ってきました。

「斉田さんのところ、なくなった?」「なんか工事してる……」

昨年、AppliQuéスタッフの間に激震が走りました。

青葉区つつじが丘のバス通りに面したまちのミシン屋さん「斉田ミシン商会」。

そこにあることが当たり前の風景だったので、何事もない時にはすっと通り過ぎていたのですが、確かに!なんだか工事している!

斉田さんのお店の行末を心配していたものの、ミシンは調子が良いので、まさか「お店閉めちゃいました?」と連絡はできず、悶々としていました。

その後、運良く?ミシンの調子が悪くなり斉田さんに電話をしてみると、いつもと変わらない元気な声が。「お店、やってますよ!」との声で、ホッと胸をなでおろしました。

 

青葉台駅から十日市場駅へと抜ける環状4号線のバス通り。車窓からオレンジ色の看板が目にとまる

 

AppliQuéで使っているミシンは4年前に斉田さんのお店で購入し、以来メンテナンスもずっとお願いしています。

何かあれば電話一本ですぐに対応してくださり、場合によっては電話で症状を伝えるだけで的確なアドバイスをいただけたりと、ミシンのかかりつけ医のような存在です。

工房に集うメンバーやその友達などから「ミシンを探している」「ミシンの調子が悪い」と聞くと、ついつい紹介したくなる、そんな身近で頼りになるミシン屋さんなのです。

 

新しくなった店内。白を基調としたショールームのような雰囲気に

 

斉田さんがミシン屋をつつじが丘のこの地で立ち上げたのは、28歳の頃、43年前です。

 

「昔、この辺りは、お盆や正月はみんな実家に帰るから誰もいなくなったものだけど、今は、逆にここが実家になってお盆や正月は人でごった返す。変わったよね」と、43年、同じ場所でまちが移り変わる様を見てきた斉田さん。

この間、青葉台に斉田ミシンのほか2軒ミシン屋があったそうですが、今では斉田ミシンのみです。

 

どうしてミシン屋を始めたんですか?と問いかけても、

「ミシンは相手が女の人だからだね、ははは!」と間髪入れずに冗談が口を付き、ついついつられて笑ってしまいます。

 

「子どもの頃から学校の家庭科でも女の子の運針を全部やってあげたり、針仕事が好きだった」と言う斉田さん。

実はお母さんも、かつて、ミシンメーカーで働いていました。

 

開業してすぐの頃、ある大手ホームセンターに営業に行き名前を告げたところ、「もしかして息子さん?」と、そのホームセンターの経営者の方から声をかけられ驚いた、と。その経営者の方は以前お母さんと同じミシンメーカーで働いていて、教育係だった斉田さんのお母さんから色々教わったのだと話してくれました。後日その方から「お母さんにはずいぶん助けられたから」と、大口の注文をいただいたのが最初の幸運だったと懐かしがります。

 

リフォーム前のお店。昨年1年かけてリフォームをした(写真提供:斉田ミシン商会)

 

斉田ミシンのお客さんは、つつじが丘一帯のご近所さんはもちろん、神奈川県全域、町田市など都内からも訪れます。個人のお客さんやアパレルメーカーなど様々。現在はメーカーのサービスセンターも少なくなってきたため、メーカーから修理を直接依頼されたり、お客さんを紹介されることも多いそうです。

 

ミシンの販売というと、昔はミシンのセールスマンがいて、訪問販売でミシンを購入するという時代もありました。
家電量販店や大型手芸店などが台頭してくると、各種メーカーのミシンが一堂に取り揃えられ、値段や機能を比較しながら購入できたり、今では家にいながらネットで購入することも可能です。

 

しかし、斉田さんは、開業当初から、お客さんにはお店に足を運んでもらう、ネット販売をしないどころかいまだホームページもない、対面のみという販売方法を変えていません。顔が見える間柄を大切にしています。

 

ネットで購入したものは、お店で修理対応してもらえなかったり、メーカーに相談しても、すぐに基盤交換を勧められたり、10年経過すると部品がないため修理不能と言われたり……泣く泣く買い換えたという声もよく聞きます。しかし、斉田さんのお店には今でもメンテナンスをしてほしいと、40年前に購入したミシンを持ってくるお客さんもたくさんいます。

 

「新しいものはどうでもいいの(笑)。でも、親が使っていたミシンとか、思い出があるものはなるべく残してあげたいから徹底的に直す」と話す斉田さん。

自分が販売した商品はメンテナンスまでしっかり面倒を見る、それは何十年前に売ったミシンでも同じです。冗談を言うその裏側に、ミシンそれ自体だけでなく、その先の使う人の気持ちに寄り添う斉田さんの姿勢が垣間見えました。

 

電器屋さんやネットで買ったんだけど……と修理を持ち込まれることも。うちで買ってないから修理しないよ!とは言わないよね(笑)と。これを聞いてほっと一安心

 

お店には、ずらりと並ぶ新機種の他に、年代物の古いミシンもたくさん積んでありました。お客さんに古いミシンの廃棄を頼まれ無料で引き取ったものです。

 

「このガラクタは宝の山!」と部屋の一角に積まれたミシンを指差し話す斉田さん。今では製造中止になっている貴重な部品をここから外して使うのだとか

 

レトロな姿がおしゃれな年代物の手回しミシン。蔵の中にしまいこまれていたもの。家族からは捨てろと言われるけどどうしてもかわいそうで捨てられないと持ち込まれた

 

「正しく組めばいいわけではなく、部品が減っているからわざとずらして組み立てる。わざと針が曲がってずれてつくように組み立て直すと縫えるようになる」

 

そういえば、以前AppliQuéのミシンを修理していただいた時にも、斉田さんの手にかかると、笑って雑談しているうちに、いとも簡単にカタカタと軽快な音を響かせてミシンが動き出しました。お話を聞いて、長年培ってきた経験がものをいう技術であり、職人技なのだなあと改めて感じました。

 

人と話すことが大好きで、この仕事はいろんな人に会えるから楽しいよ!と。取材中も斉田さんのお話に、一緒に取材に訪れたAppliQuéのスタッフが笑い出す場面がなんども

 

斉田さんは、ミシン屋を開業してから縫製機械整備技能士という国家資格をとりましたが、基本的にミシン屋を開業するのに資格は必要ありません。

でも、ミシン屋は売るだけではなく、メンテナンスまでが仕事。そのメンテナンスまでこなすミシン屋さんは今非常に少ないと言います。

跡取りがなくそのまま廃業するケースが多いとか。

 

「娘が最近、お父さんの跡を継ごうかなあって言ってくれているんだよね。今教えていて、配達に行ってくれたり、説明できるようになってきているんだ。まだまだ専門的な内容になると僕じゃないとだめなんだけどね」と話しながら相好を崩す様子を見て、青葉区のミシンは安泰だ!と嬉しくなりました。あ、斉田さん、とってもお元気でまだまだ現役なので、全く心配していませんが。

 

この日も、ミシンを買い換えようか悩んで一緒に伺ったAppliQuéのスタッフは、帰りにはミシン購入を決めていました。

なんでも最新式を進めるのではなく、値段やその人の使用頻度など、笑い話の中から情報を引き出しつつ、その人にあった最良のものを提案する、何かあればここに持ち込めばいいと思える、顔の見えるやりとりだからこその安心感がありました。

 

「今は必ずしも景気がいいとは言えないかもしれないけど、衣食住で暮らしている以上、洋服は誰もが必ず着ているわけだから、ミシンもそれなりに。それでいいんだよ」と。

 

長くこの地でお店を続けられるのは「人がつないでくれているんだよ」と話していましたが、私には、斉田さんがつないでいるように見えました。

Information

斉田ミシン商会

横浜市青葉区つつじが丘29-2

TEL:045-981-1321

齋藤 由美子
この記事を書いた人
齋藤由美子ライター/スタッフ
森ノオトの事務局スタッフとして、主にAppliQuéのディレクションを担当。神々が集う島根県出雲市の田舎町で育ったせいか、土がないところは落ち着かない。家では「シンプルな暮らし」関連本が十数年にわたり増殖中。元アナウンサーで、ナレーターやMCとしての顔も持つ。小1女子の母。
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