工業地帯に“ノイズ”が起きる!都筑区池辺町に創・職・住をつなぐ「THE GUILD – IKONOBE NOISE -」が誕生しました
洗練されたデザインの「店舗+賃貸住居+木材加工場+シェアスペース」リノベ物件が完成したと聞き、内覧会に参加してきました。場所は都筑区の池辺(いこのべ)町。目の前に大規模な商業施設「ららぽーと横浜」があるものの周辺は昔ながらの立てて込んだ工業地帯という場所です。そこにそんなトガったスポットができるなんて、と、同じ都筑区に住む地元民として興味津々でうかがってきました。

ららぽーと横浜から徒歩数分、多くの車が行き交う緑産業道路を挟み、倉庫や事業所が立て込んだ小路をちょっと入ったところに「THE GUILD – IKONOBE NOISE – 」(ザ・ギルド イコノベノイズ 以下「ザ・ギルド」)はあります。建設現場の足場をイメージしてデザインされた正面の鉄製フレームが目を引く外観は、「ものづくりの臨場感」を表現しているそうで、通りすがりだったとしても思わず立ち止まってしまうような存在感です。

 

「ここは元々車の工場だった建物を、昭和の終わりにうちが購入して木材加工場として運営してきたんですよ。当時はもちろん、ららぽーとなんてまだ無い工業地帯。ここで大工たちがみんなで柱や材を加工していました」と話すのはこの「ザ・ギルド」のオーナーである桃山建設の専務取締役・川岸憲一さんです。

 

内部は1階に小さめのテナント用スペースが3店舗分、共用の通路の奥にはキッチン付き大空間のシェアリビングスペースが。その隣には改修前から使い込まれた桃山建設の木材加工場。外階段から続く2階は賃貸の住居というかなりユニークな機能の掛け合わせが、素材を生かしたかっこいいデザインで再生されています。改修前、1階は木材加工場とお弁当屋さん、2階は会社関係の人や外部の人にも賃貸物件として貸し出していたそうです。

 

オーナーである桃山建設専務取締役の川岸憲一さん。青葉区つつじが丘で自らリノべした「BADAI BASE(バダイベース」も運営。青葉区の工務店4社で運営する「一般社団法人 青葉台工務店」の一員として森ノハナレの改装でもお世話になってきた存在

 

天井が高く大空間のシェアスペース。テナントのスタッフや2階の居住者が共同のリビングのように使ったり、大工さんたちが休憩したり。さらに地域の人も訪れることができるイベントも構想されているそう(写真提供 桃山建設 TOP写真も同様)

 

2階の賃貸住居。コンクリートや木材などの素材をそのまま生かした内装。もと2DKだった間取りは借主が自在に使えるようワンルームに。広い土間のついた間取りもあり、「陶芸家だったら、ここで作品をつくって売ることもできそう」「自転車だってここでつくれちゃう」と川岸さんは楽しそうに案内してくれます(写真提供 桃山建設)

 

住居部分の通路。既存のサッシ窓の上からはめた、十字にかまちの入った木製建具がかわいい。建物の木部は職人さんのていねいな仕上げできれいに収められており、それが建物全体の空間をさらに上質にしています(写真 渡辺絵梨)

 

正面外壁の前に組まれた通称「足場フレーム」。川岸さんはデザインを初めて見たとき「ずっとつくり続けているようなイメージに見えた。すっごくいいじゃんと思った」と振り返ります(写真提供 桃山建設)

 

「創・職・住をつなぐ新たなものづくりの拠点」というキャッチコピーでリリースされたザ・ギルド。なるほど、職人組織を意味するギルドの名の通り、ものづくりに携わる人たちにぴったりの場所だと感じます。

 

1階の店舗と2階の住居は賃貸。地元だけでなく広範囲から感性の高い人に入ってほしいと、借り手やテナントの募集はリノベ物件に特化した「東京R不動産」が手がけます。

入居者や借主と運営の担当の方で、月に1度程運営について打ち合わせをする交流の場を設け、地域に向けたイベントも計画していきたいとのこと。建築というハード部分だけでなくソフトの仕組みもインストールされているところに、ギルドのコンセプト実現に向けた強い意志を感じました。

 

住居部分の広さは31.537.5平米、若いときだったら私もここに住んでみたかった!入居するお隣さんやお店の人たちとシェアスペースで交流しながら、自分の感性を磨いていき、楽しく刺激的な日々を送っていったのではと、見ているだけで妄想が膨らむ物件です。

 

桃山建設は、材木屋さんの出身だった川岸さんのおじい様が昭和29年に創業した工務店。本社を世田谷区に構え、手の仕事を大事に、住まい手のことを考えた上質な注文住宅をつくり続けています。仕入れた材木はこの加工場に運ばれ、大工さんがお客様のために刻んできました。

現代の住宅建設では、大工さんは外注することが多いそうですが、桃山建設では自社で雇用する「社員大工」にこだわりがあります。若手の社員大工を登用してきた川岸さんは、もともと木材加工場だったこの建物をリノベするにあたり、「若い大工さんが輝く場にしたい」という思いが根源にあったのだそうです。

 

川岸さんが改修を相談し、ザ・ギルドのプロデュースを手掛けたplan-Aの相澤毅さんによって、このプロジェクトには様々なプロフェッショナルが参画しました。プロジェクトチームは桃山建設のブランディングまでも行い企業ロゴやHP、理念の整理や目指す方向なども一新。建物のデザインはエリアリノベーション)を日本中で手掛けている馬場正尊さん率いる株式会社Open Aに一任しました。

 

シェアスペースからは材木がずらりと並んだ木材加工場がのぞめ、大工さんたちの手仕事を目にしながら過ごせます(撮影 渡辺絵梨)

 

)エリアリノベーションというのは、例えば、アートイベントをきっかけにビルの空き物件を100軒以上も再生した神田日本橋エリアや、アメリカ西海岸からコーヒー店が出店したことを皮切りにコーヒーショップの聖地とマスコミで謳われるようになった清澄白河エリアなどのように、衰退しかけた地域が自然発生的にぽつぽつと再生され、それが地域全体に広がっていくこと。建築という地域資源を活かしたリノベーションを点から面へ広げていく新しい潮流となっているのだそうです。(参考『エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ』馬場正尊+OpenA編、学芸出版、2016年)。

 

そもそも都筑区は、北側が巨大な開発によって生まれた港北ニュータウン、南側は池辺町や佐江戸、折本町といった古くからある既存集落&農地のさらに南に工業地帯が続きます。ららぽーと横浜も、以前はNEC(日本電気)の事業所だった土地が再開発されたところ、近くにあるイケア港北もヤナセの車両整備拠点だった土地を大きな商業地に転用されており、区内のにぎわう場所というのはこれまで大規模に計画的に生みされてきたところばかりでした。

 

そこに、このザ・ギルドの試み。1の魅力的なリノベ物件が起爆剤となり古い物件がその街らしさをあらわす新しい魅力になって、こじんまりとした素敵なお店や人の集まるスポットが1軒、また1軒と連鎖的に生まれていくことになったら

 

ザ・ギルドのプランと位置のイメージ図。車で10分ほどのところにはイケア港北もあります(作図 松園智美)

 

周辺にはこれぞ工場(こうば)という様相の飾り気ない小中規模の工場や倉庫が多く建っています。「あの古い工場の建物の中にビアホールがあったりしたら、楽しいでしょう」と想像を話す川岸さんの顔には、笑みがにじんで嬉しそう

 

ここはJR横浜線鴨居駅からも徒歩10分、沿線には女子美術大学や多摩美術大学のキャンパスもあり、アートに造詣の深い若い世代が注目するエリアになってしまうかも。プロジェクトメンバー同士のそんな話を聞くだけでも、地域民としてはワクワクが止まりません。

 

テナントや入居者の募集は202012月に開始され、テナントオープンは春頃の予想だとか。テナントが入った後にもう一度ここを訪れるのが今からとても楽しみです。この地域に新しくも異質なノイズを生み出し、広がる可能性をもったザ・ギルドのこれからに注目です!

Information

●THE GUILD – IKONOBE NOISE –https://the-guild.jp/

横浜市都筑区池辺町4653

<アクセス>JR横浜線 鴨居駅北口より徒歩10分。車の場合は、近隣駐車場を利用。

桃山建設

https://www.m-design.co.jp/

物件情報 東京R不動産

ノイジーな交錯場【テナント】

https://www.realtokyoestate.co.jp/estate.php?n=10703

ノイジーな交錯場【住居】

https://www.realtokyoestate.co.jp/estate.php?n=10702

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この記事を書いた人
松園智美ライター
まちづくりの専門誌、自然派住宅雑誌編集部を経てフリーの編集・ライターに。その後結婚、出産し、3児の母。港北ニュータウンの団地に住む。レイアウトデザインも手がける。新潟県長岡市出身、1年の楽しみは親子で行くスキー。
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