外国人在住者と子育て〜外国人主婦が地域活動に関わるとは? 都筑区在住・アキラ・モハンダスさん
2027年には、世界一の人口大国、中国を超えるといわれるインド。現在、約13億6600万人(2019年)の人口を抱え、公用語のヒンズー語、英語の他に22の言語があるといいます。多民族、多宗教、多言語の国から来日したインド出身のアキラ・モハンダスさんにお話を伺いました。

文・写真/NPO法人Sharing Caring Culture 代表理事 三坂慶子

このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー方式でお送りしていきます。

 

地域の外国人主婦を講師とした子ども多文化交流事業

 

私が代表理事を務めるNPO法人Sharing Caring Cultureは、任意団体として活動を始めた2014年から、外国人在住者とともに運営をしています。日本語の能力を問わず、外国出身の人たちが地域活動に参画し、彼らが主体的に働きかけられる場をつくりたいという想いで、主に英語をコミュニケーションの手段としながら、ともに活動をしてきました。20194月にNPO法人として組織化した結果、これまでイベントに参加するだけだった人も正会員になり、活動の担い手として、より深く関わってくれるようになりました。この連載で取材をしてきたコスタリカ出身のエレナ、タイ出身のイブ、イギリス出身のマシュー、インドネシア出身のソフィアに続き、法人化をきっかけにSCC運営チームに参画したのが、今回の記事の主人公でインド出身のアキラです。

 

2020年9月にアキラは子ども多文化交流事業でインド文化体験の講師を務め、参加型のイベントを実施。インド式のあいさつ、おもてなしに始まり、鮮やかな色粉を掛け合う「ホーリー」というインドのお祭りを紹介。子どもたちも一緒にカラーパウダーを手や髪につける場面もありました

 

アキラと初めて会った20199月。私は、新たに始まるプロジェクトのメンバー編成を思案していました。ちょうどドコモ市民活動団体助成プログラムの採択が決まり、地域の外国人主婦を講師とした子ども多文化交流事業に関わる外国人在住者を探していたところ、イブの紹介でアキラと中国系マレーシア人のメイに会うことになりました。2人は、同い年の幼児がいて、同じ都筑区仲町台に住んでいることから、イブが引き合わせて以来、親しくしているママ友達。子ども同伴でセンター北駅前の待ち合わせ場所に現れました。2人ともイブを介して、SCCの活動のことはよく聞いていると言い、自己紹介もほどほどに私が持参したプロジェクトのスライドを見せて事業概要を説明すると、身を乗り出さんばかりに話を聞き始めました。

 

私がかつて川崎市の小学校教員を務めていた頃、外国出身の両親をもつ子どもが日本風ではないお弁当を恥ずかしそうに食べていたエピソードなどに触れながら、日本の子どもたちに多様な文化を伝える必要性を語りました。また、外国出身の母親が講師を務め、母文化を披露する姿をわが子に見せていくことで、外国にルーツを持った子どもたちのアイディンティティが安定する効果が期待できるのではないか、とも伝えました。返事を待つまでもなく、2人はぜひプロジェクトに関わりたいとその場で即答でした。

 

それから1カ月後の10月、アートフォーラムあざみ野の交流ラウンジでプロジェクトのキックオフミーティングを開催。インド、インドネシア、韓国、タイ、中国、日本、マレーシアとアジア圏の女性が集まり、順番に自己紹介をしていく中で、アキラは、子育て以外に夢中になるものを見つけたくて、仲町台の地区センターで絵手紙を習い始めたこと、私が語ったエピソードに強く共感して、外国につながる子どもたちや日本の子どもたちのために、プロジェクトに関わりたいと思ったことを話してくれました。

 

子ども多文化交流事業のキックオフミーティングにて。自己紹介に続いて、世界の料理、文化、多言語おはなし会の3つの活動から、自分が提供できるコンテンツを発表してもらい、年間スケジュールを決めました

 

母となっても、子育て以外の時間がほしい

 

アキラは、アラビア海に面する海辺の街、インド西南部のケーララ州コジコーデ(旧カリカット)で生まれ育ちました。大学では、電気電子工学を専攻し、卒業後は、送電会社へ就職。医師の父親が将来の結婚相手を決め、その許嫁(フィアンセ)だったのが、夫のサンジェイさんでした。結婚を機に住み慣れた街を離れ、インド中西部のマハーラーシュトラ州へ。同じ国でも、多様な民族、宗教、言語を持った人々が暮らすインドでは、地方によって文化や習慣が異なり、南部から西部地方への移住は、大きな環境の変化だったと言います。

 

出産の時は、里帰り出産で実家へ戻り、産後も3カ月ほど帰省。その後、マハーラーシュトラで子育てを始めますが、息子サドウィックが1歳半になった時に子育て以外の何かをしたい想いに駆られたそうです。そこで、自宅にいながらオンラインでできる仕事を探したところ、教育コンテンツの会社で理科や算数の教材を用意する仕事を見つけ、小学校の先生の教材準備を手伝うようになりました。ところが、息子が3歳になり、これから幼稚園入園を考え始めた頃、車のデザイナーをしている夫の日本赴任が決まりました。夫は、日本での生活基盤をつくって家族を迎え入れる体制を整えようと一足先に単身で日本へ。半年後の20194月にアキラと息子は来日し、日本での生活を始めました。

 

日本に住んで気づいたこと

 

多様性あふれる多様性大国のインドから日本への初めての移住。アキラはどんな違いに気づいたのでしょうか。

 

夫が単身赴任中、アキラが夫に日本での生活の様子を聞くと、少しでも日本語を勉強しておいた方がよいということだったので、インドで日本語の勉強を始めました。アキラは、簡単な会話なら多少は理解できると思えるくらい準備をしてきたつもりだったそうですが、いざ日本で生活してみると、自分の日本語が通用しないと落胆したと言います。実際にスーパーで買い物をして、会計の時に「1000円お預かり致しましたので、500円のお釣りです」と言われても、さっぱり意味がわからなかったそうです。また、「日本には、お米も魚もあるから大丈夫」と夫から聞いて安心していたものの、住んでみると、インドで使っていたスパイスやココナッツペーストなどは日本では手に入らず、インド在住の母親から小包を送ってもらったり、コロナ禍で海外からの荷物が届きにくい状況になってからは、インドの商品を取り扱っている日本のインド系商社の通販で取り寄せたりすることもしばしば。

 

さらに、日本の学校は、新年度の始まりが4月で、幼稚園入園の募集は秋に行われることを知らず、来日早々、息子の幼稚園探しに奔走したとか。夫婦ともに外国人なので、区役所の相談窓口のスタッフにはインターナショナルスクールを勧められたそうです。しかし、息子に日本人の子どもたちと交流しながら、秩序だった日本の社会に親しんでもらい、礼儀正しさや協調性を身につけることを願って、敢えて日本の幼稚園を希望。区役所でもらった幼稚園リストを見ながら、入園が可能な幼稚園はないかと片言の日本語で幼稚園へ電話で問い合わせをしたそうです。

 

地区センターで出会った日本人のママ友

 

都筑区役所の窓口では、幼稚園の入園相談の他に、子育て中のママに会える場所を探していることも伝え、都筑区の子育て支援センターポポラと仲町台の地区センターを教えてもらいました。それからは、息子を連れてポポラと地区センターへほぼ毎日交互に訪れ、英語が話せるスタッフを見つけては、イベント情報などを聞き出したそうです。

 

すると、ある日、仲町台の地区センターのプレイルームで日本人のお母さんに「こんにちは」と声を掛けられました。会話を続けていくうちに、メキシコに在住歴があり、英語も話せるお母さんだとわかり、気持ちが明るくなりました。やがて地区センターで出会ったママ友、ゆうこさん親子と一緒に親子イベントなどに参加するようになり、息子の幼稚園の編入についても相談をしました。区役所でもらった幼稚園リストを見ながら、ゆうこさんに日本語で電話をかけてもらったところ、定員の関係で3歳児なら入園可能、外国人で4歳児の途中入園は受け入れが難しいという返事でした。インドでは、6月が新年度の始まりで通年、幼稚園の入園が可能なので、なかなか柔軟に対応してもらえないことに諦めかけていたところ、東山田の幼稚園が面談の日程を連絡してくれました。その後、ゆうこさんに申請書類の準備などを手伝ってもらい、息子の幼稚園編入が整いました。また、幼稚園探しから入園までのサポートだけでなく、銀行の口座開設の時も、窓口のスタッフに「日本語がわかる方に同行してもらってください」と言われ、ゆうこさんにお世話になったそう。来日以来、さまざまな場面で言葉の壁にぶつかるそうですが、それでも日本語、英語とお互いコミュニケーションが難しい状態であっても、身振り手振りで説明しようとするお医者さんに会ったりすると、言葉が話せるかではなく、相手を理解しよう、伝えようと努めるその気持ちに心が打たれることがあると言います。

 

仲町台地区センターで出会ったママ友、ゆうこさん親子。あの日彼女がプレイルームで声をかけてくれたことで、日本での生活の輪が広がり始めました

 

地域活動に参加するきっかけをくれたイブ

 

日本での子育てを劇的に変えることになったもう一つの出会いは、イブでした。子育て支援センターポポラで月に1回開催される外国人のための相談日では、英語で相談ができると聞いて足を運んでみました。ポポラで外国人相談を担当するタイ出身のイブは、とても気さくで、初めて会ったというのに、「今度ランチしましょう」と声を掛けられ、びっくり。イブとのランチをきっかけに仲町台在住のマレーシア出身のメイともつながりました。何か子育て以外にできることはないかとイブに相談すると、イブが活動している地域団体Sharing Caring Cultureのことを教えてもらいました。「自分もNPOで何かをしたい!」イブにそう伝えると、前述の私との出会いにつながりました。

 

その後、アキラ、イブ、メイの3人は、子ども多文化交流事業の企画運営のほか、201911月に実施した都筑区の企業、株式会社スリーハイのオープンファクトリーの企画も担当。地域の在住外国人とその家族に工場を開くことを目的に、企画の運営を受託し、子ども向けに英語で簡単な実習型の理科実験ができるイベントを企画しました。アキラは、スリーハイが産業用ヒーターの会社であることに着目し、「温める」をテーマに熱を使った実験を提案。風船をつけたペットボトルをお湯につけると、ペットボトルの空気が温まり、風船が膨らむといった実験をしたり、とうもろこしを熱してポップコーンを作ったり、日常生活に馴染みのある物を使って、子どもたちの熱への興味を引き出すプログラムを組み立て、参加者に好評でした。理系女子のアキラだからこそできる企画で、大活躍でした。こうして、徐々に私たちの活動のプレイヤーとして関わるようになったアキラ。「次は子どもたちとどんなことをしようかと考えながらテーマや素材を集めるのが楽しい。こうした機会に恵まれて毎日が生き生きとし始めた」という言葉を聞いて、小さなNPOでも果たせる社会的な役割があると私は感じています。

 

2019年11月に株式会社スリーハイで実習型の実験イベントを実施。アキラは、欧米で盛んなSTEAM教育(Science科学、Technology技術、Engineering 工学、Arts人文科学・リベラルアーツ、Mathematics数学の領域を対象とした分野横断的な学びの手法)に興味があり、地域の子どもたちに科学の面白さを体験する機会をもっとつくっていきたいそう

 

日本は「美しい」国

 

故郷のインドに住むアキラの両親は、このようにアキラが次から次へと彼女の日本での生活を支える人たちに出会うことに驚いているそうです。アキラは、「生まれ育ったインドは自然も豊かで美しい国だとずっと思っていたけれど、美しい国というのは、自然の豊かさだけではなくて、困っている人を助けたいという思いやりの精神によってもつくりあげられるのかもしれない」と、生まれて初めてコンフォートゾーン(居心地の良い場所)を抜け出して、日本という国の美しさを感じたと言います。息子が幼稚園へ通うようになってからも、幼稚園のお手紙や配布資料が日本語で書かれているため、理解できないことも多く、電話で問い合わせると、勤務時間中の先生たちに迷惑をかけてしまうのではないかとためらいがあったそう。ところが、そうした様子に気づいた幼稚園のママ友がLINEのグループをつくって日本語と英語で情報交換をしてくれて、とても助かっているそうです。

 

外国人主婦が異国で子育てをするとは

 

これまで私が活動を通して見聞きしたところでは、私たちが活動拠点としている横浜市北部地域に住んでいる在住外国人の女性は、同じ市内の他の地域と比べて、仕事を持たずに子育て中心の生活をする主婦も多く、比較的ゆとりのある生活をしているように見えるからか、何も困っていないかのように思われるようです。しかし、実は、多文化環境が保たれている外資系企業やグローバル企業で働く夫とは違って、配偶者の帯同ビザで生活している彼女たちは、これまで培ってきた専門性や経験を日本で生かす機会もなく、どっぷりとローカルの日本の社会に浸からざるをえず、手探りで子育てをしています。

 

SCCの理事を務める韓国出身のイム・ソニョンは、自らの日本での育児体験を振り返りながら、「言葉もわからず、初めての育児で自己肯定感がどんどん下がっていく外国人主婦は多いのではないか」と言います。ソニョンは、日本での育児体験をきっかけに、大学院で外国人主婦の地域参画をテーマに研究し、私たちの活動に注目したのですが、「大学や大学院を修了し、医師やジャーナリストなどの専門職に就くなど順調にキャリアを築いてきた外国人主婦ほど、異国での育児によって、言葉や文化の壁にぶつかった時に自分の無力さを思い知り、挫折感を覚えるのではないか」と自らの体験も含めて語っています。「母国では仕事をしていたのに、日本では育児に専念せざるを得ない。子どもと公園へ行っても言葉が話せず、つくづくアウトサイダーだと感じる」と話すアメリカ人のママもいました。

 

私も出産を機に教職を退く決心をし、産後は子育て中心の生活へと切り替えたものの、娘が1歳半の時に保育園の一時保育を利用し、小学校での外国人児童への日本語指導等協力者のボランティアへ復帰しました。また、前職の職場の校長から外国語活動講師としてのチャンスもいただき、子育てをしながら自分が好きなことに取り組める時間を持つことができました。日本人だけでなく、アキラのように、育児中でも子育て以外の何かに打ち込みたいと思うのは、外国人も同じ。たとえ、言葉に不自由があったとしても、自分が好きなことを通して、彼女たちが日本で生き生きと暮らせるきっかけをこれからもつくっていきたいと、多種多様な人たちがそれぞれの個性と潜在能力を地域で発揮するNPOとしてのミッションをあらためて感じています。

 

Information

アキラ、イブ、メイによるインド、タイ、中国の絵本の読み聞かせ(日本語訳もあり)と絵本にちなんだゲームを楽しむイベントを行います。

「親子であそぼっ アジアぐるっと絵本の世界」

日時: 2021321日(日)14:00-15:00

参加費:無料

会場: 神奈川県立地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)1F 大会議室
    (横浜市栄区小菅ヶ谷1-2-1

定員:20名(付き添い含む)

協力:NPO法人Sharing Caring Culture

イベント詳細:http://www.earthplaza.jp/event/0321yomikikase/

*新型コロナウィルス感染症の状況により、一部内容変更または中止する場合があります。詳細は、ホームページからご覧ください。

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