新しい公共図書館のカタチ 大和市立図書館
人口約24万人の大和市に話題の施設「大和市文化創造拠点シリウス」(以降、シリウス)があります。このシリウスの利用者はなんと年間約300万人。文化度が高いと話題になり、大和市内外から多くの人が訪れています。これほど愛される理由を探すべくシリウス内の大和市立図書館にやってきました。

突然ですが、森ノオトの読者の皆さんは図書館を利用しますか?利用する方はどのように利用しますか?

私は、図書館や書店に住みたいと思うほど本が好きで、図書館にもよく行きます。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、利用頻度は減りましたが、利用者の少ない時間帯を狙って訪れています。

ある日、図書館で貸し出しの列に並びながら気づきました。貸し出しの列なのに前に並んでいた数名は誰も本を手にしていません。私を含め全員が予約の本を取りに来ていたのです。

本を予約して借りるサービスは、便利で欠かせないものになっています。でも、実際に本を借りるまで手にすることなく検索で探した本は、実際に本を開いてみると読みたかった内容とずれている場合もあります。また、予約をした時は読みたかった本なのに、順番が回って来るまでに時間がかかり過ぎて、読む意欲を失ってしまったことや、本が回ってきたタイミングが忙しい時期に重なり、読み終える時間がなかったこともありました。予約だけでは読みたい本に、もしくは読みたいタイミングで本に出会えていない、と感じます。

 

そして、疑問も湧いてきました。本の貸し出しだけが図書館の役割なのでしょうか。そう思った時、ふと大和市立図書館のことが思い浮かびました。2016年にオープンした比較的新しい図書館です。私の住む横浜市青葉区からは車で約30分。図書館が入るシリウスは文化創造拠点と名付けられた複合施設で、来館者が多いことでも話題にもなっています。

 

1階。入り口横のカフェでは本を片手にコーヒーを飲む人たちの姿があります。

駅の近く、多くの人が行き交う場所にある大和市文化創造拠点シリウス。図書館という言葉から想像していたよりも、ずっと大きな地上6階建ての建物です。ここには芸術文化ホール、図書館、生涯学習センター、屋内こども広場といった文化施設が集約されています。他の施設と同居しているとはいえ、フロア面積の約4割が図書館なので、図書館だけでも相当な広さがあります。

 

ラウンジに置かれているような椅子が並ぶ1階。ちょっと贅沢な気分で本が読めそう

 

正面出入り口から入ると、目の前には上階へ続くエスカレーター。書架が並ぶ従来の図書館のイメージとは異なる開放的な空間です。エスカレーター横の書架の周りには、たくさんの椅子もあります。図書館でよく見かけるベンチシートもありますが、それ以上に一人用のゆったりできそうな椅子が目につきます。自宅に置くにはなかなか手が出せない、読書にぴったりの椅子。こんな椅子なら、ここに思わず座って本を読みたくなります。

そして1階には、暮らしにまつわるもの、ファッション誌、旅行本など、気軽に手に取りたくなる本が並んでいます。通勤や通学、そして買い物の途中など、ちょっとした時間の合間に寄りたくなる空間です。ホールのイベントに行く、人と会うのにカフェを利用するなど、図書館を目的としてシリウスに来館していなくても、書架に寄って本を手にしたくなる、そんな衝動に駆られる場所ではないでしょうか。

 

2階には政治、法律、経済、教育など、社会に関する図書が並ぶ。エスカレーターを挟んだ反対側には、有線のLAN、電源、印刷機が完備された有料の市民ラウンジがある

 

私が行った日は、2回目の緊急事態宣言前の平日の昼間でしたが、想像していた以上にどのフロアにも利用者がいました。書架の前で本を選んでいる人よりも、椅子に座って本を読む人や調べ物をしている人、勉強や仕事をしている人の姿が目につきます。図書館の席が本を読むだけにとどまらず、市民の居場所となっているのだと感じました。

 

3階はこども図書館。背の低い色とりどりの書架の間には、子どものサイズに合う椅子と机が置かれている。こんな空間で本に触れられるなら本好きに育ちそう

 

私がイメージする、いわゆる「図書館」は5階にありました。書架がずらりと並んだフロアです。書架の間を歩きながら、何を読もうかとワクワクが止まらなくなります。そして驚いたのは、書架が本で埋まっていること。図書館に本があるのは、当たり前ですが、シリウスは年間300万人もの人が利用する施設なので、図書館は貸し出しが多く、書架にある程度の空きがあるのではないかと予想していたのです。利用者が多くても十分本がある、しかも読みたくなる本がたくさんある。これは嬉しい発見です。

 

5階は落ち着いた色合いの書架が並ぶフロア。書架の間には、机と椅子がある。ここならじっくり調べ物もできそう


 

私はまず、以前から読みたかった本を探しました。横浜の図書館で予約待ちの人数が多く、予約することさえ断念してしまった本です。その本を見つけて手を伸ばしかけた時、隣のタイトルが目に入ります。「こっちも面白そう。その隣のこれも読みたい」。新しい本との出会いの瞬間です。これが図書館の醍醐味、そう感じました。読みたくなる本は、どこの書店にも置かれているような新刊や長年読み継がれたベストセラーとは限りません。幅広いジャンルの蔵書が多い図書館だからこそ、今まで目にしたことがない本との出会いがあるのだと思います。

そして、この5階にも座って本を読む人の姿がありました。デスクがあるので、調べ物をする人や勉強している人の姿もあります。私もこの空間でしばし読書を楽しみました。落ち着いた空間、そして座り心地のいい椅子での読書は、時間が経つのを忘れてしまうほどです。

 

まだまだ読み足りないと思っていた矢先、横浜市民でも利用者カードを作れることを発見!大和市立図書館と相互利用協定を締結している横浜や町田の市民は利用者登録ができるのです。本の予約ができないなど一部の利用制限があるものの、館内の本は借りられます。本を借り、返すタイミングでまた次の本を借りる。いつの間にか、そんなループにはまってしまうのも、図書館を利用する楽しみなのかもしれません。

 

大和市立図書館を満喫した後日、副館長の山口友理子さんに図書館の取り組みについてお話を伺いました。

シリウスは「全館図書館」だと言います。書架や座席があるスペースに限らず、ホールやカフェ、生涯学習センターを含む館内のどこででも、図書館の本を持ち込み、読むことができるそうです。そういえば、入り口横のカフェでは、本を読みながらコーヒーを飲んでいる人を多く見かけました。家庭ではコーヒーを片手に本を楽しむように、公共図書館でも、家のようにリラックスできる環境で本が読めることが嬉しくなります。

座席は全フロア合わせて950席。図書館の規模から考えると多い印象です。新型コロナの感染症対策で、取材時は間隔を確保するために約半分に減らしているとのことでしたが、私が滞在していたのは平日ということもあり、空席を見つけるのに苦労はしませんでした。

図書館以外にもホールや生涯学習センターが入る文化創造拠点のシリウス。図書館以外の目的でシリウスに来館された方にも、図書館を利用してもらえるきっかけづくりをしているそう。「例えば、ホールの近くにはホールの演目に合わせた本を陳列するような工夫もしています」と山口さん。確かにホールに来た時に、演目に関連する本が置かれていれば目にとまりやすいでしょうし、合間のちょっとした待ち時間に本を読むこともできます。本がより身近に感じられる取り組みです。

 

話題のテーマを集めた本の特集コーナーは各階に設けられている。クリスマス前のこども図書館にはクリスマスとSDGsに関する本が並んでいた

 

また4階は、大和市が掲げる「健康都市」をテーマにしたフロア。健康に関するセミナーが日々開かれているイベントスペースがあります。ガラス張りのセミナースペースは、途中からでも気軽に入れる工夫なのだとか。山口さんは「おひとり様の参加が多いのですが、参加者同士の交流がコミュニティの生まれるきっかけになります」と言います。

 

4階は健康都市図書館。書架の隣にあるセミナースペース「健康テラス」では健康に関するイベントが開催されている

 

山口さんのお話の中で私が一番驚いたのは、年間の貸し出し利用者数と貸し出し冊数でした。シリウスの利用者は年間300万人ですが、図書館の貸し出し利用者は年間約24万人、貸し出し冊数は約67万冊だそう。図書館に来館しても、本を借りない人が多いという事実があります。

図書館を評価する指標として、蔵書数、貸し出し利用者数、貸し出し冊数などがありますが、大和市立図書館では、貸し出しの冊数を増やすことをそこまで重視してはいないと言います。それよりも、居場所を提供する滞在型の図書館を目指しているそう。

私自身が利用したときも、館内に読むための居場所が十分あるから、手にとった本を館内で読みました。利用者が館内で読み終えることで、結果的に在架の本が多くなります。読むスペースが十分に確保されていることが、市民と本との出会いを増やしていることにつながっているのではないでしょうか。

じっくり読みたい本があれば、借りる。選ぶ本や自分の持ち時間によって、図書館を自由に使い分けもできると思いました。

 

本の自動貸出機は各階にある。コロナ禍において列に並ぶことなく本が借りられるのはありがたい仕組み

 

そして今、気になるのが新型コロナウイルスの感染拡大です。大和市立図書館では、コロナの感染拡大以前より、図書の貸し出しと返却を蔵書管理と利用者のための利便性向上のため機械化していました。機械化する前は、時間帯によっては窓口に列ができていたそうですが、現在は自動貸出機が館内の数カ所に設置されているので、並ぶことはありません。天井が高く、開放的な空間ということに加え、全館の席数が約半数に減らされているので、密になりにくいよう工夫されています。また、来館者にマスクの着用をお願いしているほか、入り口に消毒アルコール、窓口にはビニールカーテンが設置されています。この他にもイベントの回数や収容人数を減らすなどの対策も取られています。そして、来館者に人気なのは、館内に5台ある図書除菌機です。本の貸し出しおよび返却の際、自分で機械に入れ、除菌をすることができます。来館者同士がお互いに配慮しながらにはなりますが、コロナ禍であっても安心して図書館に出入りできる体制が取られていることに嬉しくなります。

 

大和市立図書館は、文化創造拠点という言葉が腑に落ちる、まさに文化の発信地でした。これは、図書館の役割が本の貸し出しにとどまらず、市民の居場所を提供していることで、本と出会い、人や文化との出会い、そして未知と遭遇する場となっているのだと感じました。大和市立図書館の存在が、図書館のあり方を考えるきっかけになって欲しいと思いました。

Information

大和市立図書館

住所:神奈川県大和市大和南一丁目81

小田急江ノ島線・相鉄本線 大和駅から徒歩3

HPhttps://www.yamato-bunka.jp/library/

利用時間:3階 9時~19

4階・5階 9時~21時(平日)/ 9時~20時(日祝)

休館日:1231日・11

  • 施設の清掃や保守点検等のため、上記日程以外に臨時休館することがあります

緊急事態宣言の発令中は利用時間が異なる場合があります。事前にホームページなどでご確認下さい。

藤本 エリ
この記事を書いた人
藤本 エリライター
外食産業や広告制作会社でマーケティングや宣伝を担当した後、有機的な食や暮らしに関わりたいと、ドキュメンタリーの世界へ。子育てをしながら年に数本字幕翻訳をする中、惚れ込む作品に出会い、自身で配給したいという思いから配給レーベル「たんぽぽフィルムズ」を立ち上げた。
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