自由な対話から生まれる新たな一歩。 オンライン花端会議の先に見えたもの
静かに降り続く雨が秋の気配を感じさせる、9月最初の土曜日。
青葉区と森ノオトの協働事業「フラワーダイアログあおば」のプログラムの一環として「区役所で花端会議 『育てる』を語ろう!」がオンラインで開催されました。

私が「フラワーダイアログあおば」を知ったのは、今年の4月のこと。

同事業によるSNSキャンペーン企画「#マイツリーおしえて 春のSNSキャンペーン」に縁あって参加することになったのがきっかけでした。

私はいわゆる「出戻り組」で、実家のある青葉区へ再び転入してきたのは、ちょうど1年前。大学を卒業し、埼玉の企業に就職するまで20年近く住んでいた学生時代にはまったくと言っていいほどその良さに気づけなかったけれど、子どもと一緒に帰ってきた地元横浜に、今はとても魅力を感じています。

町全体が緑豊かで四季を感じられるつくりになっていること。家から歩ける距離にいくつも公園があって、そのどれもが気持ちよく過ごせるようきれいに整えられており、子どもを安心して遊ばせられること。また、公園に行くまでの道路もきちんと整備されていて信号機や横断歩道がある上、道路沿いには等間隔に街路樹が植えられ、その木々の足元にそよぐ季節の草花はちょうど子どもの目線の高さということもあり、「お母さん、これ何の花?」と一年を通じて、私たち親子を楽しませてくれているお気に入りスポットでもあります。

「横浜って、すごいなー」。引っ越してきた当初、事あるごとに口癖のように呟いていた私。実はこの「すごい」が横浜市だけでなく、地域のボランティアとして活動してくださっている人々の手により作り上げられているということを、この春「フラワーダイアログあおば」とかかわるようになり自分で調べてみるまで、知りませんでした。今回、地域の花と緑に携わる活動をしている、もしくは活動に興味をもっている人が一同に集う場「区役所で花端会議『育てる』を語ろう」が開催されると聞き、実際に活動しているのはどんな方々なんだろう、どんな話し合いが繰り広げられるのだろうと内心とても楽しみにしていました。

開放感あふれる青葉区役所4階の交流ラウンジより、花端会議の参加者同士をつなぐ。オンライン開催という新たな試みもラジオ配信のようで面白い。右は森ノオト事業担当の梅原昭子、左がゲストの森健太さん

 

さて、今回の花端会議のテーマは「育てる」。

プログラム前半では、ゲストトークとして桜台園芸の森健太さん(以下、森さん)に花農家の一年に照らした育苗の工程についてお話しいただきました。栽培ポット数、栽培面積共に横浜市内で1位を誇る大規模農園でありながら、苗を育てる工程はまさに繊細そのもの。

苗は市場のシーズンに合わせるため、季節前倒しで種まきを行います。

例えば、これからの季節に登場するパンジーやビオラの苗ですと、7月の最終週には種まきを終えているイメージです。育てている品種にもよりますが、通常、種まきから発芽までは2日から5日かかるので、その間は冷暖房付きの発芽器に入れ、苗を適温に保ちます。

いざ芽が出たのを確認したら、今度は温室へ苗を移動させます。温室に移してからも手厚いケアは続きます。遮光カーテンにより外の光に徐々に慣れさせ、扇風機をあてることで室温に慣らしていくそうです。想像をはるかに超えた細やかなケアは、まるで人間の赤ちゃんを育てているかのよう。

環状4号線沿いの植え替えプロジェクトのサポートを始めたり、今まで育てたことのない花の育苗にも積極的に挑戦したりと、勉強熱心で好奇心旺盛な森さん。仕事として花を育てることについて尋ねられると、「そうですね、プレッシャーもあるんですが。苗を買っていかれたお客さんが半年後に『きれいだったわー』と報告に来てくれたりすることがあって、やりがいも感じる」と落ち着いた口調で返されていました。そのクールな横顔から垣間見えたのは、人や地域とのつながりや、コミュニケーションといった森さん自身が大切にされている価値観なのかもしれないと私は感じました。

生産苗の7割が受注品だという桜台園芸。生協グループや近隣のホームセンターに卸している他、周辺の自治会の納品株など、町中のいたるところで森さんのお花を目にしているかもしれません

 

またゲストトークを終えた森さんに、育苗・栽培に関する悩み相談ということで、参加者より寄せられた質問にも答えていただきました。「パンジー・ビオラを長く楽しむための工夫や切り戻しのタイミング」、「年間を通して花を切らさないための、花苗の選び方」、「購入したニチニチソウの花苗が移植後、溶けるようになくなってしまった原因と対策」、といった花選びと育て方に関する具体的な対処法から、堆肥・土作りに関するものまで幅広く質問が寄せられました。端的に、そして質問の背景にある質問者の意図までしっかり汲み取ってアドバイスや提案をされていたのがとても印象的でした。森さんのような花と緑の専門家が身近なところにいてくれて、いつでも気軽に相談できるとしたら、なんて心強いんでしょう。

 

参加者からの質問に答える森さん。「できるところは手伝いたい」と真摯な姿勢で答えてくれました

 

プログラム後半は、オンライン上で参加者全体を3つのグループに分けて、グループワークを実施。既に公園愛護会などに所属し活動を始めている「活動層」、興味はあるんだけどなかなか最初の一歩が踏み出せずにいる「関心層」。それぞれが混じり合って、花と緑の活動を今後も続けていくための工夫や、新しい人たちにも活動に参加してもらうにはどうすればいいのか、意見を交換し合いました。

活動層、関心層がお互い歩み寄り、この場をきっかけに小さな変化が起きれば…と企画された場。参加者一人ひとりの心の中にもう芽生えてしまったかもしれませんね、ポッと灯る小さな変化が

 

「活動層」の方々が地域の公園愛護会を立ち上げたきっかけや活動に参加するようになったきっかけは実にさまざま。慣れ親しんだ風景が、コンクリートに覆われどんどん様変わりしていくのを目にし、緑の癒やしの場を作ろうと熱い思いを胸に立ち上がった人。成り行きではありながら、地域活動のバトンを受け継ぐことになり、その活動を通じてさらに興味が出てきた人。また、きっかけは子どもが通う高校のPTA活動という役割を通じた活動参加でしたが、「コロナの影響で急に授業がオンラインに切り替わったり、準備してきたイベントがことごとく中止になって、子どもたちは心の拠りどころがない。たまに登校する時には、花壇の花を見て、拠りどころとしてほしい」と願いを込めて活動をする人。皆それぞれ心惹かれるストーリーがあり、書き起こせばどれもすてきな記事になりそう。

そして活動継続のモチベーションとなっているのが、自身の健康のために体を動かすことだったり、楽しみを共有できることだったり。「公園がきれい」という声が励みになっているという声も聞かれました。誰かから認められたり、感謝されるのってやっぱり嬉しいもの。委託された業者ではなく、自主的な活動として同じ地域に住む人たちが携わってくれているということを、「行政からももっと発信していく必要があると感じた」とはグループワークに参加した区役所の担当者からの声です。

「公園のおじさん」の愛称で地元住民から慕われている桜台公園愛護会会長の目黒さん。公園にいるだけで「お月見するためのすすきはどこにある?」「学校の課題で蚕を育てているのだけど、桑の葉はどこで取れますか?」などたくさんの質問を受けるそう

 

 

一方、「関心層」の声を拾ってみると、「お花は大好きだしいつも気になってはいるけれど、時間的余裕がなかったり体力的な心配があって……」という率直な意見や、既にできあがっているコミュニティに自分は受け入れてもらえるのだろうかという心配、また引っ越しが多く活動の継続が難しそうといった懸念なども、一歩を踏み出せずにいる理由として挙げられました。「関心層」の立場でグループワークに参加させてもらった私には、どれも痛いほどよくわかります。

そうした、新しい人が活動に参加しやすいように、そして今参加している人たちも無理なく継続できるような工夫も、活動層の方々から紹介いただきました。「焼き芋大会」など子どもが参加するイベントの前後に花植えなどの活動をセットで組み込むことで参加者数がより期待できることや、公園内に自由に花を植えていいフリースペースを設けたい、定年退職後のシニア層に参加してもらえるように広報してみては?など、これまたいろんな案が出されました。その他、活動を楽しんでやること自体がいいPRにもつながるといった意見もありました。

花端会議後、参加者に配られたたかはし園芸の多年草の苗。アロマプランツ、ウィンターコスモスに、ブルーサルビアか、チェリーセージの組み合わせ。優しい花の色合いに思わずほっこり

 

緊急事態宣言の延長により、急遽オンライン開催となりましたが、参加者のみなさんの前向きな姿勢での参加により、とても有意義な時間となったのではないでしょうか。花・緑の専門家、公園愛護団体などで現役で活動されている方、学校の花壇から子どもの気持ちに寄りそう活動を続けている方、行政、そしてこれからの担い手となる人たち。限られた時間ではありましたが、立場の違いを越え、お互いを尊重しながら話に耳を傾けることができたのではないかと感じました。参加後のアンケートには、「他の人の意見を聞くことで自分たちの活動を客観的に見直すきっかけになった」「『活動層』『関心層』の悩みを共有することで、これからの取り組みを考える糸口になった」などと、前向きなコメントが寄せられていました。

地域の花や緑を愛でたり、お世話をすることにより人々の交流が生まれることを願い名付けられた「花端会議」。お互いを知ることで、少しホッとする気持ちが芽生えたり、誰かの悩みが少しだけ自分事に近づいたり、同じようなことを感じている仲間がいると知ってまた頑張ろうと思えたり。自由な対話がきっかけとなってそれぞれの中に芽生えた小さな変化が、今後の花と緑の活動をそっと後押ししていってくれるのかもしれません。

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この記事を書いた人
河原木裕美ライター卒業生
生まれも育ちも横浜市青葉区。息子の幼稚園逆留学のため、バリ島より一時帰国中。まだ見ぬ世界が見たくて、北はノルウェイから南はウガンダ共和国まで旅を続けてきたが、改めて地元の魅力を再発見。日々の暮らしの中での小さな発見と大きな喜びを形に残したいとライターを志望する。
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