




作業場とショールームと住居がまとまった、小ぶりな小屋で迎えてくれた寺本義昌さんは、スラリと背が高く、穏やかな笑顔の持ち主です。元々この工房は、寺家ふるさと村のアート&クラフトを盛り上げていた家具工房KASHOがあった場所。森ノオトでもおなじみの、こぢんまりした心地よい空間です。
作業場には大きな機械がいつくも置いてあります。手押し鉋(かんな)、板の厚みを削る機械、組み立ての際に使うプレス機……などなど。

作業場にもお邪魔しました。中央の棚は現在製作中の品
大きくて使い込まれた機械に囲まれた寺本さんは、なんだか仲間や先輩と作業をしているような雰囲気で仕事をしています。というのも、お世話になった先輩から譲り受けた機械もあるそうで、機械そのものにキャリアというか、存在感があるのです。
「もともと、自分の手で形あるものをつくることが好きだった」という寺本さん
本格的に家具づくりの道に進んだのは、品川にある木工の職業訓練校で学んだ後、お世話になった群馬の木工作家さんの影響が大きいそうです。最初は見学のつもりで訪れた家具工房で、「よかったらウチで働かないか」と誘われ、そのまま3年ほど親方の下で過ごしました。群馬での日々を終え、ベニヤを扱う木工所で4年ほど経験を積んで現在に至ります。

寺本義昌さん。友人からの贈り物という、お気に入りのマトリョーシカと
「子どもの頃から、好きなものをずーっと手元に置いておいて、愛で続けることが多かったですね」
ご両親の「よいものはいつまでも残る」という言葉が、寺本さんの心に残っていらっしゃるとのこと。寺本さんが家具職人の道を選んだのは、やはりご両親の影響なのかしら? と思ったら、一緒に育ったご兄弟の志向はちょっと違ったそうで…
「両親に聞いてわかったのですが、家族旅行に行ってお土産を選ぶとき『他の兄弟は細かなものをいくつも買って帰るのに、あんたはひとつだけ、ちょっと高価なものを選んでいた』って。そう言われて思い出せば、旅行のお土産には木彫りの置物や陶器の人形なんかを選んでいて、今でも実家に飾ってあるんです」
大事なもの、気に入ったものをずーっと大切にする気持ちを子どものころから身につけていた寺本さん。ご両親も、今のお仕事をしている姿をとても自然に受け入れられているそうです。
作業場の隣のショールームも、なんとも落ち着く雰囲気。穏やかな空気感は丁寧につくられた家具一つひとつから醸し出されるようです。

飾り棚に寺本さんの選んだ陶器が並び、空間に調和している
入り口に置かれた飾り棚は、食器を置いても、本を並べても、まるで大きな絵のような雰囲気。もともと「キッチンカウンターの下に付ける棚を」、というお客様のご要望に応えて設計し、狭い奥行きしか取れないことを利用して、棚板だけの構造にしたそうです。

円座がなめらかで座り心地がよい椅子
こちらはオリジナルのテーブルとスツール。それぞれの木の色が優しくて、手触りも気持ちよく、とてもなめらか。いつまでもさわさわとふれていたくなる感触です。
「このテーブルの木材はチェリーで、つくった当初は薄い桃色でした。それが半年過ぎた今、この色になっています。使うほどに色が変化するチェリー材が、一番好きですね」
寺本さんが手がける家具は、使う人と共に時間を過ごしていくなかで、まるで相棒や、あるいは家族の一人のようにも見えてきます。
木材の調達は、今は電話で頼んでいらっしゃるそうですが、いずれは丸太材のまま見て、買い付けたり、素材に近いところでつくりたいと思っていらっしゃるとか。

アンティークの家具。まだ修復中のところにお邪魔した
寺本さんは、オリジナルの家具づくりの他に、修復の依頼も多く受けています。
「直しの仕事は、図面を引いたり設計する手間はないものの、塗装をはがしたりする作業があって、オリジナルとは違った難しさがあります」
特に家具の修復に関しては、使う人の「この家具を大事にしたい」という気持ちに寺本さんご本人も強く共感するからこそ、持ち主さんの思いや期待に応える仕上がりになるのだと思いました。
「最初に家具づくりを始めたころ、すぐに思いついたことがあって……。子どもが落書きしたものを『これ、つくって』と言って持ってきたら、それを形にできたらいいなぁ……という夢がありました。今となっては現実的に考えて難しいこともあるやろうなぁと、わかってきましたが(笑)」
ここ寺家の工房でも、お客様の望む、思い描くものをつくることもしていきたい、とのこと。
こんなアイテムが欲しい、落ち着く空間をつくりたい……など、具体的なイメージがなくても、寺本さんとお話しながらつくったら、いつの間にか心地よい家具ができあがりそうです。
自分のことを語るときはとても控えめな寺本さん。
気がつくとインタビューはすぐ脱線して、ついついいろんなおしゃべりに花が咲いてしまいます。
そこで、敢えて伺いました。
Q:家具職人として、どんな家具をつくりたいですか?
「目立たないものをつくりたいんです。商売としては、それではアカンやろうなぁって思うんですが……」
空間に溶け込む、そこに存在するのが当たり前な家具。それは家族の一員のような、仲間のような友達のような家具のイメージ。
その一方で、どこかに特徴のある、オリジナリティのある家具をつくりたい。そう考えてらっしゃることを、ゆっくりと丁寧に語ってくださいました。
「家具と言うと一番イメージされるのはダイニングセット。そのなかでもやっぱり椅子が華やかな存在なので、自分なりの椅子をつくりたいと考えています。つくり始めるとなかなか難しくて大変で。工房のマークも椅子だから、TERAMOTOらしい椅子をつくらなきゃと思っているんですが」
家具工房TERAMOTOに、自然でありながら存在感のある椅子が登場する日が楽しみです。
おまけのひとコマ

ショウルームの棚には抹茶の茶碗と茶せん。これは??と伺ったところ。「よく自分でささっと点てて飲むんです。祖母がいつもインスタントドリンクとして
抹茶を飲んでいて、それを見て、自然と普段使いで飲むようになりました」。そう言って、手際よく一服点ててくださいました!
気取らない、優しい味のお抹茶は、まるで寺本さんそのもの。自分にとって心地良いものを大事にするその姿に、とても和やか
なひと時をいただきました。
※家具工房TERAMOTOは、あくまで家具の工房です。カフェのようにも見えますが、カフェではありません。


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