ショコラボのチョコレートに初めて出会った時、それが、障がい者の方によるものだとは全く気が付きませんでした。パッケージの中のカードを読んで初めて知り、このような工房が近くにあったのだと驚きました。
ショコラボは、センター南の区役所からほんの一区画ほど歩いたところにあります。チョコレートという旗と木のイラストがかわいいドアが目印。店舗のガラス窓からチョコレートを買うことができます。
取材した日は、ファンの集いが開催されていて、参加者の親子連れが集まっていました。私も白衣と帽子をお借りして、さっそく工房へ。
中に入ると「いらっしゃいませ!」と職人さんたちの声が元気よく響き、明るく迎えてくれました。
白を基調とした清潔感あふれる工房は、スイーツの甘い香りに包まれ、職人たちが無駄のない動きで作業をしています。ゴロゴロゴロ……ゴロゴロゴロ……チョコレートのコーティング作業の音が小気味よく響いています。
一般社団法人AOH会長の伊藤紀幸さんは、息子さんに障がいがあったことから、ショコラボの創設を決意しました。福祉に関しては全くの素人だったとのことでしたが、障がい者の賃金の平均が1カ月で1万4000円という現実を目の当たりにし、「子どもが自立できる生活なくしては、親として先にこの世を去るわけにはいかない。なんとか仕組みづくりをして、子どもが仕事できる場所を作りたい……」と、創業について語る伊藤さん。
さらに、「障がい者が作ったものだから買ってください」というスタンスではなく、「実際に美味しいから買いたい」、そして、結果として工賃が上がるとう、持続性のあるサイクルの中で、障がい者の賃金アップへつなげたいという思いがあるそうです。
現在、横浜市の最低賃金は905円。フルタイムで1カ月間働けば、アルバイトでも15万円は得ることのできる計算です。けれども、障がいを持った方の賃金は、その10分の1。確かにそれでは、自立といっても、実現は不可能です。
ショコラボの名前は、「ショコラ・コラボ・ラボラトリー(工房)」から成り立っています。ショコラのラボラトリー(工房)であり、健常者と障がい者のコラボレーションでもあるとのこと。「プロや健康な人たちと障がいを持った方たちがコラボレーションしながら、通常の市場で売れる商品を作っていきたい」という伊藤さんの想いや活動が、「共感」と「参加」を呼び、一つのうねりとなり、形となっていき、今に至っているそうです。
現在マネージャーとして資材調達や職人のケア、作業振り分けなど、工房を取り仕切る菅原平(すがわらたいら)さんも、もともとパティシエをしていたのだとか。
そして、今年12月1日には、京都・ショコラボが正式にオープンしました。フレンチレストラン「ル・クロ」のオーナーシェフである黒岩功さんが、クラウドファンディングで出資者を募り、実現した姉妹店です。まさに、ショコラボのストーリーに共感し、行動・参加してくれる人・ファンがいるからこその広がりであると言えます。
かつては金融マンとして最前線を走っていた伊藤さんは、多くのビジネスパーソンがそうであるように、成果主義で結果が伴わないのは努力不足だと、自分を責めるようなところがあったそうです。
けれども、息子さんが生まれてきて、考えが変わりました。「確かに、息子は得意不得意もある、だけど、命を奪われるほどのことではない。そう考えれば、障がい者福祉も、ビジネスも、企業のあり方も、広くとらえて、色々な形があってもいいのではないか」と感じたそう。
ショコラボの理念「一つひとつ違っていい」は、人の生き方も一人ひとり違っていていいという私達へのメッセージであるとともに、ショコラボで働く職人たちに向けられています。
障がいを持った方は、障がいを「個性」としてとらえるそうです。例えば、言葉を話せない人がいると、Aさんは、「Bさんはしゃべれない」と、さらりという。それは、見たままのことをそのまま受け止めているだけで、「山田さんは足が速い」「小林さんは絵が描くのが上手い」というのと同じなのだそうです。
お話を聞いていて、私の息子が通っている幼稚園での子ども達を思い出しました。息子が通っている園には、障がいを持った子も通っています。一緒に遊び、ケンカもします。子どもたちには、「障がい」という概念がありません。一人の人間同士として、お互いに向き合っていて、対等ですがすがしい。その姿に、子ども達一人ひとりの輝きを見て、はっとさせられるのです。
「一人ひとりが、お互いに完全に受け入れているからなせること」、「健常者が障がい者から教えられることもたくさんある」と、伊藤さんは言います。
ショコラボでは、新しく入ってきた職人さんに対しては、基本的な工程を教えたら、あとはその人の自主性を引き出すようにしているそうです。工房で、それぞれが自分のリズムで黙々と作業する様は、テキパキしていて、一人ひとりが自ら望んで、誇りをもって仕事をしているのだと感じました。「個性を認め合う安心感」は、働く喜び、そして自主性も引き出すことができるのかなと感じました。さらに、ショコラボでは、障がい者だけでなく、外国の方や、高齢者など様々なバックグラウンドの人たちが働いていて、障がい、健常の枠に留まらない雇用も生みだしています。
健常者が障がい者を助けるという一方通行の関係ではない、互いに補い合いながら、何かを成し遂げることができる関係を大切にしているショコラボの在り方、「コラボ」という言葉の根底にあるものが少し見えてきた気がしました。
福祉の世界では、障がい者の工賃だけでなく、職員の給与も低いので、持続可能なビジネスを続け、広げていくことでの工賃アップは大きな課題です。伊藤さんは、ショコラボでの経験を、ゆくゆくは福祉業界の人材育成や教育にまで広げていきたいと思っているそうです。現在、日本では身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者を含めると、全人口の約6パーセントの人がなんらかの障がいを持っています(「平成25年度障害者白書より」)。しかし、高齢者介護の従事者数から比べると、まだまだ障がい者福祉の人材育成は遅れているのが現状。伊藤さんは、そこに挑戦していきたいと考えています。
工房にお伺いし、お話を聞いて、ショコラボは一つの大きな家族のようだなとも感じました。お父さんお母さんは伊藤さん夫妻。老若男女、障がいがあってもなくても、互いに受け入れあって、補い合いながら、目標に向かって進んでいる。温かく、おおらかな家族です。
「ノーマライゼーション」という言葉を以前から知ってはいましたが、今回、ショコラボの取材を通して、改めて私たちは、障がいの有無、性別、年齢、国籍、環境の違いを超えて、共にこの地球に存在しているのだということに思いをはせ、その無限の可能性を感じることができました。
ショコラボのチョコレートは、クーベルチュールを使用するなど、素材にもこだわっているだけでなく、ドライフルーツやナッツなど、素材同士のマッチングも絶妙です。本当に美味しくて、特別な時にこそ食べたい、贈りたい、私にとっては、ご褒美的チョコレートです。
と、同時に、食べるたびに、そこに広がる夢と想いに満ちたストーリーを感じ、「一つひとつ違っていい」と、気づかせてくれる、甘くて希望に満ちた、チョコレートでもあります。
スイートドリーム!
ショコラボ
住所:横浜市都筑区茅ヶ崎中央30-17
TEL:045-507-8688
営業:10:00-17:00
休日:土日祝日
Online shop: https://chocolabo.or.jp/online/
Facebook: https://www.facebook.com/横浜-ショコラボ-142979312519330/
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