「浜なし」の成長支えた農家のお母さん 坂田静江さん
横浜のブランド果実として知られる「浜なし」。ちょうどこれから9月まで、旬を迎えます。市内でいち早く梨栽培を始めた坂田農園(横浜市青葉区鉄町)に45年前に嫁いだ坂田静江さん。女性の視点で直売を盛り立て、規格外の梨を生かした季節限定の「焼肉のたれ」は大勢のファンが毎年心待ちにしています。

神奈川県小田原市のみかん農家に生まれ、短大を卒業後に坂田農園に嫁いだ静江さん。坂田農園は、都市農業としての観光農園に着目した静江さんのお義父さんが、昭和20年代に梨栽培を始めました。「横浜で梨栽培?」という時代を経て、伸び盛りの梨農家を陰で支えてきたのが、お嫁さんの静江さんでした。

「少しでも家族が長く農作業にかかれるように」と、家族8人の三度の食事の支度は毎日の仕事。梨畑では子どもをおぶって、梨の袋がけをし、パートさんにおやつを出します。夏場は果樹農家として年に一度の勝負の季節。庭先の直売に立ち、週末には梨狩り体験の受け入れ。休みは雨の日くらいという忙しい暮らしです。「家の中で私の居場所は自分の部屋とキッチンだけでした」と、その時代を振り返ります。「それが当時の農家の普通でしたから」。

市内でも梨栽培が盛んな青葉区の中でも、とりわけ老舗の坂田農園。直売期には大勢のファンが訪れる。この看板が目印

梨の袋づめやお客さんの対応を任された静江さんは、独自のやり方で直売を盛り上げます。「いらっしゃいませ」と明るく声をかけ、お客さんの顔は一度見たら覚えるようにしました。当時は、こうした丁寧な接客はまだ珍しかったそうですが、”固定客”の大切さをいち早く意識していたのです。テーブルにノートと鉛筆を用意して住所と名前を書いてもらい、名前と顔を覚えたら、翌年には名前で呼びかけ、毎年年賀状を出しました。今では、当時のお客さんが孫を連れて訪れてくれように。「まるで親戚のよう」と、そのつながりを大切にしてきました。直売は代替わりして今度は静江さんのお嫁さんに任せ、「今はお嫁さんのほうがお客さんをよく覚えているのよ」と信頼を寄せています。

農園の外では、女性農業者を後押しする時代の流れの中で、その先駆的な存在となってきました。1996年、横浜市が女性農業者のために設けた「よこはま・ゆめ・ファーマー」の1期生に。「これからの時代は女性も名刺を持ってやっていきましょう」と励まされ、生まれて初めて名刺を手にし、そこでの女性農業者との出会いが大きな支えとなったそうです。

「共通の生活スタイルがあり、共通の悩みがある。ゆめ・ファーマーの仲間と悩みをぶつけ合い、元気をもらってまた頑張ろうと思えました」。

よこはま・ゆめ・ファーマーの同期で、同じ青葉区の梨農家・三澤百合子さんから教わり、独自のレシピを研究しながら開発した、規格外の浜なしを使った焼肉のたれは、売り切れ続出のヒット商品。梨の季節限定で売り出し、あっという間に完売してしまう名品です。私もいただいきましたが、浜なしのとびきりの甘さを生かしたジューシーな味わいは、焼肉にはもちろん、冷奴や炒め物にも好相性で、一度食べたら忘れられない美味しさです。

坂田さん特製の焼肉のたれ。JA横浜「ハマッ子」直売所中里店、たまプラーザ店、都筑中川店で、季節限定で購入できる。1本480円

「もったいない」から生まれたこの加工品。静江さんは、冷凍の梨は使わないのがポリシーです。ファンからの要望が多く、梨の収穫期には毎日作らないと追いつきません。このたれ、多い年で1500本も一人で作っているそうです。1びんに使われる浜なしは2〜3個。手作業ですから、一度に作れる数は限られています。手間と素材、価格を考えると、ファンの多さにうなずけます。「むだになったところが生かされたと思えばね。みなさんの声に背中を押されているんですよ」と笑顔を見せます。

2009年に自宅のそばに設けた工房「風知草」。風知草の風に揺れる姿が好きで、その名を付けた。看板の書は、今は亡き書道の恩師の手によるもの

2010年には、周囲からの推薦を受けてJA横浜の初めての女性理事になりました。「農家のお母さんをずっとやってきて、長い積み重ねを認めてくれたのかな、と思うとうれしかったですね」と静江さん。男性社会の中で、「女性だから」と言われないように、飲み会でも懇親会でも、断らずに男性たちと一緒に行動するように心がけてきたそうです。女性の目線を生かした食の発信を意識し、2期6年の任期をまっとうしました。

その日、とれた野菜を使って食事を作ること。これが、農家の嫁に課せられた仕事だったといいます。「毋の作ってくれた野菜を無駄にすると厳しい目で見られます。もったいない精神は両親から受け継いだものですね。この積み重ねが、いま伝えていることの源です」。核家族化が進み、食の風景が様変わりしていくことに、危機感を抱いています。「家族みんなで同じものを毎日一緒に食べることが大事なんですよ。伝統行事もレジャー的にではなく、みんなで若い人に受け継いでいきたいですね。伝えていかないと、なくなってしまいますから」。昔ながらの生活文化の継承にも情熱を寄せています。

森ノオトは9月28日に、坂田静江さんから、横浜の女性農業者としての生き方や農家の暮らしにまつわるお話や、浜なしを使った焼肉のたれ、コンポートづくりを教わる体験講座を開きます。旬の味覚を囲みながら、ブランド果実の成長を支えた女性の生き方にふれてみませんか。ご参加お待ちしています。

Information

【坂田農園】

住所:横浜市青葉区鉄町1590

電話:045-971-3675

営業:2017年の梨の直売は8月20日ごろから、9月中旬ごろまで。

facebook:https://www.facebook.com/%E5%9D%82%E7%94%B0%E8%BE%B2%E5%9C%92-588659954567618/

【農家のお母さん発!横浜の地産地消を未来につなぐ体験講座 第2回】

平成29年度 横浜市経済局消費生活協働促進事業

講師のお話・テーマのクッキングのデモ・試食

「旬の浜なしを加工しよう!」講師:坂田静江さん

日時:2017年9月28日(木)10:00~12:30

会場:クッキングサロンハマッ子(JA横浜都筑中川支店3階)

(横浜市都筑区中川中央1-26-6)

横浜市営地下鉄ブルーライン、グリーンライン・センター北駅より徒歩1分

料金:2,500円

定員:15名

持ち物:筆記用具

申し込み方法:参加希望回 、氏名 、生年月日 、住所 、電話番号 、E-mailアドレス ⑦参加動機 を記入の上、event@morinooto.jp まで、または下記のフォームからお申し込みください。

主催:特定非営利活動法人森ノオト

〒227-0033 横浜市青葉区鴨志田町818-3

TEL:045-532-6941/FAX:045-985-9945

共催:アートフォーラムあざみ野(男女協働参画センター横浜北)

後援:横浜市環境創造局、JA横浜

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この記事を書いた人
梶田亜由美編集長/ライター
2016年から森ノオト事務局に加わり、AppliQuéの立ち上げに携わる。産休、育休を経て復帰し、森ノオトやAppliQuéの広報、編集業務を担当。富山出身の元新聞記者。素朴な自然と本のある場所が好き。一男一女の母。
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