本格的な夏の兆しを感じる2018年6月26日、横浜市青葉区のリノベーション住宅「桜台の家」では、森ノオトとReBITA(株式会社リビタ、以下リビタ)によるコラボ企画第三弾「断熱座談会」が開かれました。
「断熱」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?
「断熱材のことかな」程度で、ふつうの暮らしの中では、断熱が何たるかを知るチャンスはほとんどないものです。この「住まいの熱について、熱く語る!」座談会は、ばっちり断熱改修された素敵な住宅を会場に、断熱の意義についてとことんわかりやすく素人目線で話し合ってみようという企画でした。
この日「断熱博士」と紹介された講師役は、黒田大志さん(一級建築士、リビタ戸建事業部グループリーダー)です。黒田さんはリビタの戸建てリノベーション事業の立ち上げ当初からかかわっており、これまで何百戸という住宅リノベーションの経験があるとのこと。一般社団法人リノベーション住宅推進協議会品質基準技術委員という肩書きも持っている、知見豊かな方です。
進行役は、森ノオトのエコロジー&エネルギー担当の事務局長・梅原昭子さん。持ち前のゆるりとした雰囲気で会場を和ませていきます。
そしてこの日の座談のお相手は、建築はまったく専門外という“素人マダム”のお三方。森ノオトのNPO会員で青葉区在住の谷幸子さん、野口幸子さん、山本久美子さんです。
さらに会場には、フェイスブックの告知でこの会を聴講しようと申し込みをした8名と同伴の子ども1名が続々と集まりました。ギャラリーの方々は、はからずも地元の工務店や建築系コンサルタントなど「建築業界」に携わるという人がほとんど。一体どんな座談会になるのでしょう?
リノベで「性能向上」
まずプロアマ問わず、参加者全員興味しんしんだったのが、この素敵な桜台の家。集まった人から内部を自由に見学してまわりました。
黒田さんの解説によれば、桜台の家はリノベーションによって“性能向上”された物件だとのこと。
特に断熱性については「等級4」に相当するそうです。等級4というのは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」で定められた住宅性能表示制度の断熱の枠の中では2020年新築義務化予定のレベルにあたります。
「リビタはリノベーションという手法を使って、既存ストック(中古住宅)を改修し再度流通させて社会に戻すという事業を軸にしています。中古の戸建ては建て方によってどこまで手を入れるか、どのようなブランドを作っていくかは当初悩んだところでした」と黒田さん。現在リビタの戸建てリノベーション事業「HOWS Renovation」が扱うほとんどの物件は、既存住宅の内装外装を一度取り去り、スケルトン(構造体である骨組み)の状態に戻してから施工するのだそうです。そうすることで、耐震強度も材の劣化状況も新築当初の工事の質までもはっきり把握できるのだとか。
断熱性は、命や健康に直結
心ときめくようなお宅訪問タイムが終わったところで、宇宙や地球、そして人の暮らしの中の「熱」の基礎的な話を梅原さんがおさらいし、いよいよ本題となる座談会がスタートします。
「ヒートショックという言葉を知っている方も多いと思います。冬にそのヒートショックが原因で亡くなる人の数は、全国で年間約1万9000人(※1)もいるというデータもあります」
と、黒田さん。冒頭から実にインパクトあるお話です。
冬に暖かい部屋から寒い脱衣室、そしてまた暖かい浴室から湯船へと移動すると、急激な温度変化により血管が収縮して急激に血圧が上がり、めまいや心筋梗塞、脳梗塞を引き起こしてしまうのがヒートショック。東日本大震災で亡くなった方の数が約1万6000人、交通事故の死亡者数は2017年は全国で約3700人(※2)といいますから、ヒートショックの危険度はちょっと無視できません。
家全体の断熱性能が向上し、室内での温度変化が少なくなればこうした事故も防げることでしょう。
ヒートショックについては、過去に森ノオトでも紹介しました。浴室の断熱対策の記事
ヒートショックは高齢者の方が発生リスクが高まりますが、年齢問わず健康に影響するのは、室内外の温度差で生じる結露によって発生するカビの問題だとのこと。カビは、喘息やアレルギーを引き起こしたり悪化させる原因になります。
古い家に住んでいるというだけでカビ由来の健康リスクまで背負いこむことにつながっていたとは、驚きでした。
たとえば冬に、体感温度が15℃で寒かった室内を、体感温度20℃になるくらいにまで断熱性を高められれば、暑さ寒さの差を感じることが減って快適な生活になるうえに、健康にもつながります。そして、冷暖房を使う時間もぐっと減らせることでしょう。
30年で510万円の省エネ節約
次は、気になる省エネとお金の話に。
桜台の家は生活に使うエネルギー使用料金の表示証明書「エネルギーパス」が発行されているそうです。
エネルギーパスとは、冷暖房や換気、給湯、照明などを合わせその建物で一年間生活した場合のエネルギー量を把握できる指標のこと。「家の燃費」とも呼ばれます。そのエネルギー消費量に電気代やガス代、灯油代を換算すれば、かかる光熱費を導き出せるということになります。
桜台の家では、全館冷暖房で生活した場合のエネルギーパスは年間26万円、使う部屋だけを部分冷暖房した場合23万円ということです。
年間26万円ということは1カ月単位で換算すると2万円少々になりますが、長期的なスパンではどうでしょう?
「2020年から新築住宅で義務化予定の国の省エネ基準があるのですが、その基準だと同規模の建物で全館冷暖房をする場合の光熱費は年間43万円かかることになります。この家は、2020年基準よりも半分程度の光熱費だということがわかります」(黒田さん)
桜台の家で全館冷房の場合の年間光熱費26万円と、2020年に義務化予定の省エネ基準で算出した場合の43万円、差額は17万円となります。桜台の家にこの先30年暮らしたとして、単純計算で510万円も光熱費がお得になります。
節約できる光熱費が何百万円もの額になると知っていれば、最初の段階で断熱工事を行うという選択肢も十分あり得るのではないでしょうか。
さらに、断熱工事には国や自治体からの補助金も使えることも紹介されました。
断熱というと私はこれまで「お金をかけた人だけが暑さ寒さを防いだ快適な家で暮らせる」というイメージを漠然と抱いていたのですが、この話を聞いて、まったく違っていたのだと知り驚きでした。
空気の層をつくり出し、その空気を動かさない
ちなみに家の中で一番熱の出入りが多いポイントは、開口部、つまり窓だそう。窓をペアガラスに取り換えたり二重窓(内窓)を付けることで、とても有効な断熱になるのだとか。
なるほど、断熱というと何がどこにあるのかわかりにくいものですが、「窓」という切り口なら素人でも考えやすくなります。
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黒田さん、窓のほかに、断熱って具体的に家のどこで、どのようにするものなのでしょうか?
「天井、壁、そして床ですね。断熱材で層をつくって、家全体をくるんであげるのが大事なんです。隙間はできる限り少ない方が効果が出ます」
それを聞いたゲストの谷幸子さん、「我が家はリフォームで、2階の傾斜屋根の下についていた天井をとりさって天井を広くしてしまったのですが、それは失敗だったのかもしれません。夏、すごく暑くなってしまったんです」と話します。
素人が依頼する時のひけつ
住まいづくりを依頼された側は、空間のデザイン性を優先すべきか、それとも快適性への影響を考えて、別の提案を行えるのか。プロとしての知識や姿勢が大いに問われるところです。もちろん、実際の施工の技術も大切。話題は建築業者の選び方にも広がりました。
「ど素人が建築工事を頼む時は、窓口の人にこうしたいと頼めば当然現場でつくってくれる人にまで伝わると思うじゃないですか。工事してみて、実は隙間だらけでした、では困りますものね」と、山本久美子さんが素人陣の声を代弁してくれます。
ギャラリー席でじっくり話を聞いていた工務店経営者の川岸憲一さんも、「断熱材は、プロでも厚みさえあればいいと思っているところがある。本当は断熱には“気密”も大事なのに」と加わり、率直なコメントで場が盛り上がっていきます。
建築会社や施工会社、職人さんの中には、断熱や気密の工事をしっかり行えるレベルに達していない施工業者もあるから、これから建築業界の中での断熱に対する理解を深めていくことがまず大事だということを黒田さんや川岸さんが語ってくれました。
では、そんな状況の今、どうやってしっかりした業者さんを選べばいいのかという声が上がると、黒田さんは「『断熱や気密の値はどれくらいで設計していますか?』と質問するのもいい手ですよ」と、いいアドバイスをしてくれました。
山本さんからも、住まい手どうしがつながれば、素敵な家を見つけた時にその住み心地や手がけた業者の情報がやりとりできるんじゃないかというアイデアが。「クチコミでおいしいお店探しをするのと一緒だなと思いました。私たち素人は、建築の勉強をするわけではなくて、選び方を学んでいけばいいのかな」との言葉には、その場にいたプロの皆さんも深く同意していました。
後付けでも考えられる
野口さんのお住まいは、築40年のマンションを素敵にリノベーションをしたばかり。みんなのあこがれの暮らしそのもののようで、森ノオトでも記事になりました。断熱はどうされましたか?
「うちは、予算がなくて断熱リフォームを断念したんです。でも実際住んでみてから後付けで考えていこうというのは、最初から話していました」(野口さん)
暑さや寒さが気になるところを、暮らしながら考え手を入れていくという野口さん。それもまた賢い断熱の取り入れ方ですね。
断熱材の種類
最後に、断熱材にはどんな種類があるのかも紹介してもらいました。
黒田さんが代表的な断熱材をあげ、モニターにその施工現場の写真をランダムに検索しながら「これは上手な施工」「すかすかな悪い施工」とコメントすると、女性陣は、「え、どれどれ?」「どれが上手でどれがダメなのか知っておきたい!」と、どんどん距離が近まりました。最後は講師を参加者が取り囲むという座談を超えた面白いスタイルに。
もし「予算がないけれど断熱したい」という時には? という質問には、窓をペアガラスにしたり二重窓(内窓)を付けることがかなり有効であるという話もありました。森ノオトの事務所も、内窓をセルフビルドしてずいぶん暑さや寒さがしのげるようになっています。
私はこの会に参加してみて、断熱は、住まいの脇役などではなかったことがよくわかりました。冷暖房費は人それぞれ違うけれど、そこを把握すれば最初の工事で取り入れるのか、後から取り入れるのか、それとも部分的に取り入れるのかが選べます。断熱を考えるうえでは、信頼できるプロを探すこともとっても重要。
この日は話に出ませんでしたが、2020年に住宅の省エネ基準が義務化されたあかつきには、断熱性の劣る住宅は資産価値が大きく下がってしまうといいますから、住まいづくりの中での断熱性というキーワードは、これから注目していきたいと思いました。
参考
※1 羽山広文他「住環境が死亡原因に与える影響その1 気象条件・死亡場所と死亡率の関係」第68回日本公衆衛生学会総会2009、『これからのリノベーション 断熱・気密編』伊藤菜衣子、竹内昌義、松尾和也著、株式会社新建新聞社発行
※2 警察省発表「平成29年中の交通事故死者数について」
【この記事はNPO法人森ノオトと株式会社リビタのコラボレーション事業により制作しております】
<株式会社リビタ 戸建てリノベーション事業 HOWS Renovation Lab.>
リビタの中古戸建てリノベーション事業については、森ノオト記事のこちらの対談にも詳しく掲載しています。
(対談前編)
(対談後編)
エコロジー、持続可能な社会づくりをめざす森ノオトは、今年、古い物件をリノベーションで活かし持続可能な社会をつくろうという方針のリビタの戸建てリノベーション事業「HOWS Renovation」とコラボレーションをスタートしました。すでにこの桜台の家では、ものづくりのワークショップ(「あずま袋をつくろう」by AppliQué × HOWS Renovation)や手仕事マルシェを開催。
<株式会社リビタ 戸建てリノベーション事業 HOWS Renovation Lab.>
<参考図書>
住まいの断熱や気密、熱環境を考える上での最新情報が満載された黒田さんおすすめの一冊です。
リビタの「世田谷の家」も掲載。
伊藤菜衣子、竹内昌義、松尾和也著 新建新聞社発行
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