(ローカルライター講座修了レポート:取材・文・写真=戸谷美帆)
私は今、6歳と3歳の子どもを育てています。私は我が子に、やりたいことを見つけ、自分の強みを生かし、たくさんの人と協力し合いながら、生き生きと社会に貢献できる大人になってほしいと思って、子育てをしています。
そんな大人に育つためには、いわゆる「お勉強」だけでは不十分なのではないかと思っています。
NPO法人Connection of the Children(コネクション オブ ザ チルドレン)=CoCでは「旅で身につく生きる力」を子どもたちに提供すべく、旅の体験を基にした出張授業や、CASACO(カサコ)と呼ばれるコミュニティスペースの運営などを行っています。CoCの活動には「お勉強」だけでは補えない 「生きる力」を培うためのエッセンスがたくさん! CoCの拠点でもあるCASACOで、理事の堀口雄貴さんにお話を伺ってきました。
京浜急行「日ノ出町駅」を降り、駅の裏手にある小道の石階段をどんどん進んで住宅街に入ると、3つに分かれた道の先に、真っ白な民家が見えてきました。
「きっとあれがCASACOだ!」私は昼時の穏やかな住宅街の空気を感じながら、静かにCASACOの玄関を開けました。
「こんにちは~。少し早かったですかね?」。私がそう尋ねると、一人の若い男性が「大丈夫ですよ~。ちょっと掃除機だけかけさせちゃってください」と返事をしてくれました。「誰かのお家に来たみたい」。そう思いながら部屋の中を見回すと、まず目に入ったのは空間の真ん中を突き抜ける大きな木製の階段。その先の2階の天井には、むき出しになった屋根の梁に2台の自転車がかけられています。そして、CASACOの2階には、5人の外国人留学生が住んでいるそうです。
まるで忍者屋敷のような独特の空間にわくわくしながら待っていると、先ほどの若い男性が奥のソファーに案内してくれました。この男性こそ、CoCの理事として、代表の加藤功甫(こうすけ)さんと二人三脚で事業を運営している堀口雄貴さん。弱冠26歳だといいます。「CoCに参画したときは22歳だったんですが、最近は子どもたちに『おっさん』て言われるんですよー」。いやいや、それじゃあ私はおばあちゃんになっちゃう…。「代表の加藤は、僕の4つ年上です」。ということは、加藤さんは現在30歳。CoCは2018年11月に法人化5周年を迎えたので、当時はまだ20代前半から半ばだった若者たちが立ち上げたNPO法人ということになります。
CoCの設立のきっかけは、2011年4月に代表の加藤さんがご友人と2人で断行した「ユーラシア大陸 自転車横断の旅」。帰国後、旅の経験を全国1000人以上の子どもたちに講演しているうちに、講演を聞いた先生や保護者から「一度きりの講演会ではもったいない!ぜひ教育プログラム化してほしい」という声が多く上がり、旅をベースとした教育プログラムを開発、学校や企業に出張授業を行うようになったそうです。最初は週末起業のような形でやっていたそうですが、代表の加藤さんと意気投合してCoCに参画した堀口さんの尽力もあり、NPO法人化が実現。これまで400回12ヵ国で6000人以上の人たちに、旅の教育プログラムを届けてきました。
エッセンス1:「生きる力」の正体は「6つの旅力」!?
CoCでは、旅で身につく生きる力を「6つの旅力」と定義し、旅力を培うことを教育プログラムの狙いとしています。
<CoCが定義する6つの旅力>
・共感力
・適応力
・挑戦力
・解決力
・教養力
・表現力
これらの力は、CoCのメンバーが旅でさまざまな課題を克服していく中で身に付けた力で、旅だけに限らず、これからのグローバル社会を生き抜く上で、とても重要な力だといいます。
それぞれ具体的にどのような力なのか、堀口さんにお聞きしました。
「共感力と適応力は、海外に限らず、自分とは違う価値観に触れるときに必要な力だと思います。例えば、僕はインドで半年間働いたことがあったのですが、インド人は日本人と全然仕事のリズムが違うんです。『明日までに』とお願いしたものが1ヵ月後に戻ってくるような文化の中で、怒っても何も始まりません。それよりも相手の文化に共感し、うまくいく方法を考え、適応することが大切です」。
「挑戦力と解決力は、例えば海外を旅していたときに、移動手段が何もない中で、知らない街に放り出されたことがありましたが、その時は自分で困難を解決するしかありませんでした。旅に限らず、答えのない問題に自分なりの解答を出さなきゃいけないときに必要とされる力です」。
「教養力があれば、一方的な情報をうのみにせず、自分の中で考えられるようになります。例えばイスラム教に対して、今は不安なイメージが先行しがちですが、実際に現地に行って、イスラムの教えを少しでも体験すると、見方が変わります。実際に体験してみることで、知識を自分の中に深く落とし込む力が教養力です」。
「表現力は、言葉や文化に限らず、価値観が違う人に対して、自分の考えを伝える力です。例えば、言葉が通じないエリアで道に迷ってどうしようもなかったときに、身ぶり手ぶりを使って現地の人から情報を引き出したことがありました」。
私は仕事で企業の創業者の方々にインタビューする機会があるのですが、0から事業を創造し、社会に貢献している経営者の方々は、たしかにCoCのいう「6つの旅力」を発揮しているケースが多いと思います。
AIに仕事が奪われる時代だなんて言われていますが、人から指示されたことを完璧にこなす仕事をAIが担っていくのだとしたら、人間は0から創造する仕事を担っていかなければならないのかもしれません。
経営者とまでいかなくても、誰かに言われた仕事をこなすだけでなく、一人一人がスクッと自分の足で立って、0から社会に価値あるものを生み出していくような時代になるのかなぁ、なんて私は想像しています。
「6つの旅力」
これが、CoCの活動から浮かび上がる1つめのエッセンスです。
エッセンス2:異なる文化や価値観の中に身を置く
堀口さんによると「6つの旅力」はずっと同じ場所や居心地のいい場所にいるだけでは、なかなか身につかないそうです。「異なる文化や価値観を体験できる場に身をおいてこそ、身につくものだと思います」(堀口さん)
そこで、CoCの教育プログラムは、実際に旅人が体験した出来事を基に組み立てられています。例えば「言葉が通じないエリアで道に迷い、身ぶり手ぶりで現地の人から情報を引き出した」という体験からは「ノンバーバルコミュニケーション」というワークショップが生まれました。
その内容は、「道を聞いてみる」「家に泊まらせてもらう」といったお題を身ぶり手ぶりで表現し、授業に同行している留学生に伝えてみるというものです。
こうしたワークショップを企画する際に工夫していることは「旅の世界観をきちんと作ること」と堀口さんは話します。子どもたちに「あっ普段とは違うんだな」と感じてもらうことで、教室にいながら実際に旅で体験しているかのような感覚を味わってもらい、学びが深まるようにしているそうです。
さらに、授業を体験した子どもたちが「もっと外国人と触れ合ってみたい」と思ったときに、それが実現できる場所としてCASACOが存在しています。
CASACOで開催されるイベントには、留学生が母国の料理をふるまう「世界の朝ごはん」や「トルコナイト」、留学生と英語で交流するイベント「英語で話さNight」など、異文化を体験できるイベントがたくさん! 子どもだけでなく、地域の大人たちも多く集まるので、外国の文化に限らず、さまざまな考え方や価値観に触れることができる場となっています。
また、夏には外国人留学生と一緒に行くサマーキャンプ「タビターン」も開催。 三泊四日で東京都の「式根島」を訪ね、現地の子どもたちも参加し、島をあげてのプログラムが展開されています。本土の子どもたちにとっては、船に乗っていく離島ということで海外の気分が味わえ、島の子どもたちにとっては、島外の異なる価値観を持った人と交流できる貴重な場となっているそうです。
さらに2019年4月からは、CASACOで「アソビバ」が開校予定! 平日の小学校終了後から18時までの間、経済、文化、歴史、アートなどに精通した外部講師に話をしてもらったり、自分でやりたいミッションを決めて毎日挑戦したり、といったプログラムを計画中だそうです。
「異なる文化や価値観の中に身を置くこと」
これが「生きる力」を培う2つ目のエッセンスです。
エッセンス3:自分で考える時間や、振り返りの時間を作り、自己理解を深める
どんなにいい体験をしたとしても、それが他人事のままでは、なかなか「自分のやりたいこと」には結びついていかないと、私は考えています。そもそも、やりたいことを見つけること自体が、私には難しいことでした。CoCでは、どのように「体験」と「やりたいこと」を結びつけているのでしょうか?
「子どもたちが自分で考える時間や、振り返りの時間をなるべく作るように意識しています。僕らが答えを出すのは簡単ですが、子どもたちが『自分たちだったらどうやるのかな』と考えることが大切だと思うからです。『やってみてどうだった?』という感想も、こまめに聞くようにしています。自分で考える、自分でやってみる、さらに振り返ってみるという時間を設けることで、体験したことが自分の中に落とし込みやすくなるのかなと考えています」(堀口さん)
たしかに、キャリアは「自分はどう思うのか」「どうしたいのか」を自分自身に問いかけながら、選択していくことの連続だと私は感じています。誰かの価値観をまねしたとしても、幸せに生きられるとは限らないなぁと。自分が本当にやりたいことを実現し、幸せに生きるためには、自分自身の価値観や考え方を深く理解することが大切なのかもしれません。
「自分で考える時間や、振り返りの時間を作り、自己理解を深めること」
これが3つ目のエッセンスです。
最後のエッセンス:「興味」×「知識」×「実体験」
ここまで「生きる力」を培うためのヒントを、たくさんお話ししてくださった堀口さん。そんな堀口さんは、幼少期の頃から海外関係の仕事を夢見て、大学は国際関係学部に進み、たくさんの国を旅しながら学生時代にCoCに参画、まさにやりたいことを実現し、挑戦し続けている大人の一人です。さぞかし刺激的な環境で育ったのだろうなぁと私は想像していたのですが、実は堀口さんは宮崎県出身で、小学校は全校生徒が30人もいないような地域で育ったといいます。私も田舎出身なので想像できるのですが、田舎は都会に比べると刺激は少ないし、情報やさまざまな機会も乏しいし、ましてや観光地でもない限り、外国人なんてほとんど歩いていません。
なぜ堀口さんは狭い田舎に住みながら、広い海外を見据えることができたのでしょうか?
「小学校2年生くらいのときに、インドの楽団の女の子たちが30人くらい学校を訪ねてきたことがありました。そのときに一緒に交流をしたという経験が、ものすごく自分の中で印象に残ったんです。そこから海外ってものすごくおもしろいなぁと関心を持つようになりました。もともと遺跡などにロマンを感じるタイプだったので、歴史の本を読むのも好きで、実際に行ってみたいと思っていたのも大きかったと思います」。
そのお話を聞いて、私はハッとしました。堀口さんの場合、海外に対する「興味」や「知識」に「実体験」がかけ合わさったことが、とても大きかったのではないかなぁと。実際に体験することで、机上の知識を自分の中に深く落とし込むことができ、行動につなげていけたのではないかなぁと。
インドの子どもたちとの原体験は、CoCの活動にも通じていると堀口さんは話します。
「CoCの活動を通して、普段の生活では得られないような体験や出会いを子どもたちに提供し『こういう生き方や考え方もあるんだな』と気づきを得て、行動につなげてもらいたいなぁと考えています。実際に子どもたちが変わっていく姿を見られるのが、何よりも嬉しいです」。
「興味」×「知識」×「実体験」
これが、今回お伝えする最後のエッセンスです。
堀口さんにお話をお聞きした約1週間後、私は6歳の娘と3歳の息子を連れて、CASACOで行われた「トルコナイト」というイベントに参加してきました。
当日はトルコ人のハッサンを始め、10人近くの外国人留学生や、地元の人たちが参加し、総勢20~30人の参加者が集まりました。
3歳の息子は普段なら場所見知りをするのですが、CASACOの魅惑的な空間に一目ぼれしたようで、着くなり姉と楽しそうに探検し出しました。
2人ともハッサンが作る「チキンのトマト煮」がかなり気に入ったようで、大皿から何度も取り分けて食べていました。
特に、ドイツ人留学生のアンソニーにはたくさん遊んでもらい、子どもたちはまるで子犬のようになついていました。
子どもたちはこのイベントを通して、
・トルコ料理は少し辛いけど、とてもおいしかったこと
・外国人留学生たちが、とても優しかったこと
・アンソニーのくれたチョコのパッケージには、日本語ではない文字が書かれていたこと
・いつもとちょっと違う夜のお出かけが、とても楽しかったこと
そんなことを、深く心に刻んだことと思います。
なによりも、初対面のたくさんの大人に遊んでもらったことで「自分たちはどんな場所でも、どんな人にでも受け入れてもらえる」という感覚を味わえたのではないかなと思います。その感覚は自己肯定感へとつながり、人生を前向きに生きる原動力となるのではないでしょうか。
CASACOの挑戦から浮かび上がった「生きる力のエッセンス」。
皆さんも、日々の子育てに生かしてみませんか?
特定非営利活動法人Connection of the Children
拠点:CASACO(http://casaco.jp/)
住所:〒231-0066 神奈川県横浜市西区東ヶ丘23-1
ACCESS:京浜急行線 日ノ出町駅から徒歩5分/JR桜木町駅から徒歩15分
CONTACT: http://casaco.jp/contact
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