「きなりっこ」の原料は、川崎市内の小中学校や市民などから集められた使用済みてんぷら油や、家庭内から出る賞味期限が切れた食用油、通常は捨てられることの多い廃食油です。廃棄されるものを資源として有効活用し、環境循環の仕組みを作ったことで、神奈川県認定「かながわリサイクル製品」にも認定されています。
さかのぼること1960年代後半、水俣病・新潟水俣病・イタイイタイ病・四日市ぜんそくなどの公害による健康被害が発生していた頃、川崎市でも多摩川の排水汚染が社会問題になっていました。
下水道の普及率も低く、家庭や工場からそのまま川に垂れ流しにされる排水の中に含まれる合成洗剤で、泡だらけになってしまった多摩川の写真を見た方も多くいるのではないでしょうか。同じ時期に合成洗剤追放運動が全国的に広がっていました。
その情勢も重なり、1978年、生活クラブ神奈川(本部:横浜市港北区)が母体となり「加害者になることをやめ生き方を変えよう」を合言葉に、「自然環境の破壊に市民の手で少しでも歯止めをかけよう」と市民運動が始まりました。
NPO法人川崎市民石けんプラントの代表、清水真理子さんはこう話します。
「はじめは行政に訴えても、全く取り合ってもらえない状態が続いたそうです。最終的には(生協の)組合員が1983年統一地方選挙市議会議員に立候補して当選、それから川崎市にも訴えが届き始め、市から石けんプラントを設立するための土地を貸してもらえる流れとなりました。そうなると大変なのは設立資金のこと。生活クラブ神奈川の組合員を中心に、4,900人から1,000万円、川崎市の労働組合連合会から400万円の出資金を得たり、市民バンクから融資してもらったりと、はれて株式会社として石けんプラントを立ち上げることができました」。
「立ち上げに関わってきた方の当時のことを聞くと、なぜここまででこられたのか……それを今、歴代かかわってきた方に話を聞いてまとめ、記録として残そうとしています。それを今後、子どもたちをはじめ、いろいろなところで伝えていこうとしています」と清水さん。
自然環境に危機感をもった多くの一般市民が声をあげ、資金集め、工場建設、廃油回収から製造販売すべてが、市民資本事業として運営されてきたという経緯を聞きながら、「市民の行動力……今の私たちの世代にその熱量はあるだろうか……」と、私は帰りのバスで考えこんでしまいました。
ところで、この「石けん」という名称について、ひらがな、カタカナ、漢字の表記について使い分けられていないのが現状です。
「石けん」「石鹸」「セッケン」「せっけん」と表記されることもあり、定義も特定の分野・製造会社・製品ブランドの各々の好みで表現が異なり、明確な区分はされていません。
そういったものをひとくくりにして、「石けん」と私たちが慣習的に使っている言葉なのです。※本記事では「石けん」と表記。
そして「石けん」と「合成洗剤」の違いですが、消費者庁の家庭用品品質表示法によると、主成分である界面活性剤の種類と割合によって区別され、製品に表示がされています。
参考:消費者庁HP
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/zakka/zakka_05.html
日本では、人体や生態系に有害性のある化学物質が、どこ(事業所)から、どれくらい環境中に排出されたかなどを把握し、集計し公表する仕組み「PRTR法(化学物質排出把握管理促進法)」が1999年に法制化されました。現在、合成界面活性剤に使われている9種類の物質が「第一種指定化学物質』に指定され、管理される対象になっています(特に生産量と排出量が多く、水環境での環境負荷が大きい物質として指定された)。
【PRTR法で管理されている合成界面活性剤の一部】
- 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)
- ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル(AE)
- ビス(水素化牛脂)ジメチルアンモニウム=クロリド(DHTDMAC)
- N,N-ジメチルドデシルアミン=N-オキシド(AO)
「石けんは多量の水で希釈されると界面活性作用を失うという性質があり、これが他の界面活性剤を使った合成洗剤と違う特徴があります。生分解性(物質が土や川などの自然に排出された時、微生物などによって分解される性質であること)が高く、他の原材料より環境負荷が低いと言われているんですよ」と清水さんは丁寧に説明してくれます。
商品の成分表示を見れば石けんか合成洗剤かは、簡単に見分けられます。商品を選ぶときに、ぜひ一度「品名」と「成分」に注目してみてください。
<きなりっこの使い方>
きなりっこは、純石けんと炭酸塩のみで作られています。
作る過程で金属イオンもカットして、泡立ちよく石けんカスも出にくいように改良もされました。
「石けんはよごれが落ちやすいので、クリーニング店では石けんを使って洗っているところもあります。きなりっこは、以前よりも洗浄能力や溶けやすさなどが変わっています。ずっときなりっこを使っている業者の方からも、前よりも匂いが気にならなくなったし、泡切れも良いとの声も届いています」(清水さん)。
家庭での食器洗いや洗濯はもちろん、おふろやトイレ掃除、レンジまわりにも使えますし、個人的にはアウトドア、キャンプ場での使用もおすすめできます。
「先日、親子で来られたお客さまと話した時に、その家庭のお父さんは、液体洗剤ではない状態の石けんを見ることが初めてで、固形石けんの存在を知りませんでした」というエピソードを聞きました。
私の知り合いにもきなりっこを持っていても、使い方がよくわからないとの声を偶然聞いたので、食器洗いのオススメのやり方を説明します。
①きなりっこを深さのある大きめの器に降りだす
②ボールにお湯を入れ石けんを溶かす。これがポイント!
③スポンジをくしゅくしゅして細かい泡をたくさん作る
④細かい泡ができたらこの泡で食器を洗う。洗った食器はできるだけ早く水ですすぐ
現在、川崎市の下水道の普及率は99.5%にまでになりました。また残りの0.5%についても浄化槽の設置が義務付けられているので、以前の泡だらけのような衝撃的な川や海の様子は見ることがなくなってきています。
ですが私たち消費者は、CM見たから、なんとなく、安いから、スーパーの棚の目の前にあったから、ということではなく、洗剤と環境の関係について知ることを続けながら「選択をしている」という意識を持つことが大切なのではないかと、取材をしながら考えました。
川崎市民石けんプラントは新たな取り組みとして、廃食油からバイオディーゼル燃料生産も始まり、さらに資源循環の可能性に向けた調査研究活動を続けています。
地域で回収された廃食油から、石けんや再生可能エネルギーが生まれるというリサイクルの輪が少しずつ大きくなっています。NPO法人川崎市民石けんプラントのNPO会員も随時募集中です!
NPO法人川崎市民石けんプラント
住所:神奈川県川崎市川崎区塩浜2-21-3
URL:http://kinarikko.kazekusa.jp/
アクセス:JR川崎駅より臨港バス塩浜二丁目行き、大師高校前下車徒歩約5分
休み:土・日・祭日・夏休み、年末年始休みあり
オンラインショップ http://kinarikko.kazekusa.jp
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