東急田園都市線・青葉台駅からバスで10分。
暑い夏の日にはコクワガタが街灯の下にいたり、寒い冬の日にはバスを降りると駅前より1~2度気温が低く感じる、時には歩道橋でタヌキとすれ違ったりする、そんな自然が残る小さな町が私の住む青葉区鴨志田町です。
息子同士が同級生で、我が家が引っ越してきてすぐの頃から声をかけてくれた鴨志田郵便局の局長、戸塚昌行さんに誘われて、この春まで2年間、私は鴨志田町内会の書記をしていました。
町内会のさまざまな行事を通して見えてきた、この町で受け継がれている人の姿や思いに触れ、私は自分が暮らすこの町をより大好きになりました。
鴨志田町の魅力をもっと知りたいと思い、鴨志田町内会の会長を務める戸塚さんに、話を伺ってきました。
町内会に入るメリット
戸塚さんは今から34年前(昭和60年)、お父さまが鴨志田郵便局を建てたのを機に、15歳の時に鴨志田町にやってこられたそうです。鴨志田の歴史はとても古いものですが、同じ頃に鴨志田緑小学校、鴨志田中学校、グリーンヒル鴨志田東団地・西団地なども建てられ、今の鴨志田町の原型となりました。
戸塚さんが29歳の時にお父さまから同郵便局を引き継ぎ、地域に根ざした郵便局長としてキャリアは今年で丸20年です。同時にこの町の住民として過ごしてきた戸塚さんは、現在大学生の息子2人を持つお父さんでもあります。息子さんが小学生のころから鴨志田緑小学校のPTA活動を始め、小学校で4年間、鴨志田中学校PTAを4年間(その内3年間は青葉区PTA連合会会長も兼任)務め上げました。
PTAで経験した「組織を残すためでなく、“子どもたちのために”という目的を残すことが大切」という考えは、今の鴨志田町内会活動のもとになっているそうです。PTA活動を通して「地域の人がこんなに子どものために関わってくださっていることがわかったのは大きかった」と話します。
「地域福祉は手段であって、目的は幸せになることだ」と戸塚さんは町内会活動について語ります。私が書記をした2年間、各組の組長さんが集まる初回の定例会で戸塚さんはこんな話をしました。
「一番は皆さん自身の幸せを大切にしてください。そして、ご家族の幸せ。しなくてはいけないことは、何もないです。できないことは皆でわけあい、本部役員も手伝いますし、できない仕事はなくしてもいい」
そして実際に、皆で手分けして行ってきた回覧板の仕分け作業については、今年から地域にある廣田新聞店の協力を得て、廣田新聞店により仕分けられた回覧板配布物が組長の家に届く、というこれまでにないやり方になりました。
定例会時には、これまでは地べたに座布団をひくという、足の悪い方や高齢者にはつらい態勢でしたが、テーブルと椅子を導入してより誰もが参加しやすく、楽しめるようにと改善されます。
仕事や子育て、健康上の理由や介護など、町内会に集まる誰もがそれぞれの事情を抱えています。私自身も時間や仕事をやりくりしながらの参加でしたので、この方針にとても助けられました。毎月一度開かれる定例会は、回を重ねるごとに雰囲気も穏やかになっていき、定例会終了後に拍手が起こるそうです。町内会の感想やご意見を手紙やメールでくださる方もいて、心の温まる交流が生まれています。
現在の鴨志田町内会は全2,000世帯ほどの約60%にあたる約1150世帯が町内会に加入しています。主な町内会の活動として、防災訓練や地域清掃、夏祭りなどの行事があって、参加することでご近所さんと顔を合わせると身近に感じることができます。
私はこれまで、町内会というと、順番に役が回ってくるから仕方なくする義務のように感じていました。しかし、町内会の役員を経験してみて、人と出会い、話すことで、実際にはたくさんのメリットや幸せを自分が受けていた、ということに気づきました。普段の生活では知り合えないような自分の親世代くらいの人や若い方々とも気軽に話せる仲間となれたこともとてもうれしいことでした。
町内会の活動ってどんなことをするの?
では、実際に町内会の活動はどんなことをしているのか、今年4年目の任期となる現役町内会長・戸塚さんに詳しく話をきいてみましょう。
「町内会に入ることで、自分たちが福祉などの制度を利用できたり、行政との連携のチャンスが広がっていることに気づけます」と戸塚さんは話します。
町内会の一番大切な活動は、住民一人ひとりに地域の情報を届けて、人と人がつながっていくことだそうです。例えば回覧板をまわす取り組み一つをとっても、町内会の役員をすることで、行政からくる地域福祉の情報を知ったり、ご近所さんと知り合うことができます。この番地に住んでいるからこの情報を知れるのだ、というのがメリットになっていく町内会になるといいと、戸塚さん。
「何か困ったことがあった時に、最後に悲しい選択をしない地域づくりをしたい。高齢者も若い世帯も、自殺や孤立死などの現実が普通にあります。日本では基本的人権が守られているので、法律的には最低限の生活ができるはず。支援が必要な人に、行政とのパイプをどうつないでいくか、どう情報を届けるか、それが鴨志田町内会の役割だ」とも、話します。
また町内会の中だけでなく、地域の小中学校との連携や、中里北部連合町内会(鴨志田町内会をはじめとする、鴨志田町・寺家町・たちばな台の8つの自治会・町内会で組織される)の中での横のつながり、また地域福祉を担う鴨志田地域ケアプラザや、民生委員・児童委員、また「カモまち食堂」などこの町を支えるボランティア団体などのつながりが徐々に広がっているそうです。
「学校やPTA、町全体の地域福祉活動との横のつながりや連携ができてきたのは、この町をこれまで支えて来てくれた先輩たちのおかげです」と話す戸塚さんの言葉を聞いて、私はこの2年間に出会った町の人の顔をたくさん思い浮かべました。「この町で地域のために動き、支えてくれた鴨志田の人たちは、“子どもたちのために”“地域のために”と、純粋な心持ちで地域活動に取り組む姿を見せてくださいました。その姿勢がとても勉強になり、今の町内会会長の仕事を感謝してできることにつながっている」そうです。
震災の多いこの国で、いざという時の防災活動も町内会の大切な仕事です。
鴨志田町では毎年9月にある地域防災総合訓練を、鴨志田中学校や鴨志田緑小学校、鴨志田第一小学校と合同で、地域一体となって行います。昨年は「無事です」札を各世帯の玄関に出して、いざという時の安否確認をこの日に行った地域もありました。
鴨志田町内にある日本体育大学での防災訓練への参加の呼びかけや、消防署との連携など、有事の際には地域の最小団体として緊密に動けるように、地域の諸団体と情報を共有しています。
鴨志田町では、中里北部連合町内会が実施する運動会や「ふるさとマラソン大会」、鴨志田の5自治会で開く「鴨志田夏祭り」や、子ども会の映画会や紙ひこうき大会など、人が集う機会や子どもたちのための活動がたくさんあります。
そういった活動を長年続けてきた青少年指導員やスポーツ推進員をはじめとした方々が、「子どもたちのために」と熱心に話してくれたのを、私は何度も耳にしました。
読者の皆さんの暮らす「自分の地域」にも、そんなあたたかさを支える人が、きっとたくさんいるのではないでしょうか。
横浜市青葉区の地域福祉保健計画を立てる時、主に高齢者福祉がメインになりがちななか、中里北部地区だけ子どもたちが福祉の対象にはいっているそうです。これから向かう少子高齢化社会で、高齢者だけの地域福祉じゃなく、子どもたちの帰宅時間にあわせて、見守り活動やパトロールを行うなど、たくさんの大人がこの町の地域福祉に関わってくれていることにもこの町らしい温かさを感じます。
これからの町内会は?
こうして培われてきた鴨志田町の地域福祉ですが、今の鴨志田町内会のように本部役員の年齢が40代主流というのは珍しいことだそうです。少子高齢化は鴨志田町内会や地域のボランティア団体でも進んでいて「町内会役員に若い世代が入ったことは大きい」と戸塚さんは言います。
今年6年目の任期となる兼元亮さんが立候補して鴨志田町内会本部役員になったのは、彼が20代の時です。「鴨志田町の魅力は公園や自然が多いだけでなく、日本体育大学や横浜美術大学が近く、若いパワーであふれています。町内美化活動や夏祭りでは大学生が積極的に参加し、町内活動を手伝ってくれます。食事も美味しいお店ばかりです。学生の頃から10年以上鴨志田町に住んでいますが、これからも鴨志田町に住み続けたいと思っています!」と兼元さんは鴨志田町の魅力を語ってくれました。
兼元さんが話してくれるように、鴨志田夏祭りでは日体大生が準備や片付けなどで率先して重い荷物を運んでくれ、出し物にも参加して祭りを盛り上げてくれます。大学生だけでなく、昨年は小学生たちが、今年は中学生たちが夏祭りを手伝うそうです。
また年2回、6月と12月に行われる沿道美化活動では、住民だけでなくこの地域の女子サッカークラブチーム「日体大FIELDS横浜」の皆さんや、地域の少年サッカーチーム、少年野球チームも参加して、町全体で多世代がつながる貴重な機会となっています。
子どもや大学生、若い子育て世代からシニアの方まで老若男女、多世代が集う鴨志田町内会で「子どもたちのために」と動く大人がいて、それを見ながら鴨志田で若い人がまた育っていく。町内会を通して、そんな地域の姿を私は垣間見ました。
「自分や自分の子どもの幸せだけを考えるのではなく、町内会長として、この地域全体の幸せを感じられる立場になったからこそ得られる幸福感は、ものすごく大きい。自分だけじゃできないから仲間を増やして、将来のためにも責任を果たしたい。今は俺の番だなぁと思うし、それができるのはラッキーなことだと思います」と戸塚さんは話してくれました。
人と幸せをわかちあうこと、支えあうこと、人とつながる幸せ。いつの時代も変わらない、人としての喜びが、自分の暮らすこの身近な場所にあると、鴨志田町内会というドアを開けて私は知りました。
町内会活動に携わった2年間に、たくさんの人と一緒にいろんな作業をしながら過ごした穏やかな時間、楽しかったおしゃべり、かわした言葉のあたたかさは、私にとって大切なものとなっています。
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