「大人のためのおはなし会」とはどんなものなのでしょう。まず、お二人にお聞きしました。
普段は子ども向けのおはなし会でやっている絵本や紙芝居、昔話や創作の物語の「語り」を大人の方にも楽しんでいただく会だそうです。
昔話や創作の語りは、語り手がそらで覚えて語る「ストーリーテリング」で語り聞かせるので、独特の味わいがあります。「素話(すばなし)」や「語り」としても、親しまれています。
緑図書館では、毎年読書月間が始まる秋から冬ごろにかけて大人のためのおはなし会を開いていて、緑図書館に登録している地域のボランティアの方や図書館の職員の方たちが話し手となっています。
今年1月の大人のためのおはなし会は、以下のプログラムで行ったそうです。
司書の小山さんが、プログラムの構成について次のように説明します。「ストーリーテリングが3本入り、その他に、手あそびや紙芝居をバランスよく入れています。気をつけているところは、『おだんごぱん』というお話でお団子がコロコロする話と、『おむすびころりん』でおむすびがコロコロする話など、同じような話が続かないこと。昔話を入れるときは、おもしろい話や、こわい話など、さまざまな話を組み合わせること。『太郎』など登場人物もかぶらないように配慮します。さらに、会全体を1時間半で行うため、それに合ったボリュームのお話を組み合わせながら、プログラムを組み立てます。お話がゆっくりと進むよう、時間に余裕をもたせることも大切です」
担当する方のお話の知識と経験から織りなされるおはなし会の内容には、厚みがあるのだなと感嘆しつつ、おはなし会のプログラムの作り上げ方にも興味を持ちました。また、聞いて下さる方々に楽しんでもらいたいという主催者の思いも垣間見えたような気がしました。このように丁寧に考えられて構成されたおはなし会は、参加者の世界観を広げてくれる出会いになる予感がしました。
会の当日の様子について、写真を見ながらお二人にお聞きしました。
話し手の男性は手に拍子木を持っています。その方の隣には紙芝居が置いてあり、紙芝居の扉が開かれ、表紙が写っています。拍子木は、始まりの合図として鳴らされたのでしょうか。会場に並んだ3列の椅子に座っているお客さんたちが見つめます。普段の生活では、あまり聞かない拍子木の音をイメージするとワクワクします。
みなさん大きく体を伸ばす場面の写真もあり、「これは、手遊びですか?」とお聞きすると、「とても寒い日だったので、みんなで体を動かすために体操をしました!」と小山さん。大人のための会ですが、手遊びもあります。手遊びで季節を表すものもたくさんあるそうで、例えば春には、たんぽぽやつくぼんじょ(これってつくしんぼのことなのだそう!)などがあり、小山さんに少し実演していただきました。とってもキュートなリズムと歌詞と動きに心が温かくなりました。季節や草花を、手や体を使って、歌やリズムに乗せて表現することは、忙しさの中で忘れがちな身近な自然を意識したり、大切に思ったり、一緒に楽しんだりすることにつながる大切な感覚を育ててくれると感じました。
そして、ストーリーテリングを行っている写真では、語り手の方が参加者の方を向いて、立っています。体の前におろした手は組まれ、顔をお客さんの方へ向けています。この会のストーリーテリングの参加者からは、「絵が浮かんできたので楽しかった。耳で聞くのが楽しい。心温まりました」という感想が聞かれたそうです。
「おはなし会に参加された皆さん、何かしら心がじんわり温まってお帰りになるようです」と、小山さん。体操ありお話ありの効果で、きっとポカポカと温まったのではと思いました。
ストーリーテリングは各地域の図書館や地域センターなどでも行われています。
緑図書館では、学校や地域で活動しているストーリーテリングのボランティアの方を広く集めて、参加者の方に見て楽しんでもらいたいという目的で、平成22年から「大人のためのおはなし会」を開催しています。そのため、この会の構成にはストーリーテリングが3本入り、メインとなっているようです。
このストーリーテリングについて、経験者でもある小山さんにもう少しお話を伺いました。実演にあたって、体力、時間、記憶力と、とても丁寧な準備が必要となるそうです。小山さんは、移動中の電車の中など、合間合間で覚える時間をとったそうです。そして、覚えたものを声に出す練習も必要です。
「覚える」ことについては、私は、単に記憶するということとは少し違った印象を受けました。語り手は覚えるときに、文字から物語を自分なりにイメージし、つくりあげるのだそうです。
「覚える際、物語に出てくる登場人物が歩く場面も、歩いた距離感までイメージします。それぞれの語り手なりの物語がつくられているので、登場人物の年齢設定も語り手によってまちまちな時があります。また、語り手自身の物語のイメージを、表情や声の強弱や速さで表します」と小山さん。たとえば、『おおきなかぶ』の物語に出てくる、「うんとこしょ、どっこいしょ」の部分は、ゆっくり読むのと速く読むのとでは、想像するかぶの大きさが違ってきます」と小山さんは話します。
このように作り上げられた語り手のイメージを表情と声によるいろんな表し方で、聞き手も想像を膨らませます。聞き手は、語り手の声を聞きながら、まるでその場にいるような、もしくは物語の主人公になりきるような臨場感をもって楽しむことができます。小山さんも以前ストーリーテリングをした際、主人公が橋を越えてうまく逃げ出せた場面を話し終わったとき、にっこりした子どもがいて、「本当に主人公と一緒になっていたのね」と思ったそうです。また、「子どもたちは瞬きもせずにお話に入り込んできます。絵本の読み聞かせ、本の朗読とはまた違ったよさがあり、難しいことを考えずに聞いてもらえます。お話を聞いて物語の世界に入っていけるのでしょう」と小山さんは話してくれました。
語り手が内容を記憶しイメージし、それを表情や声で表すと、物語はいきいきとし、聞き手はそれに引き込まれ、その物語を体感したように物語の世界に入っていく。また、語り手自身が物語を楽しみ、そして、聞き手も語り手を通して一緒に物語を楽しめるそうです。私は、語り手がファンタジーの世界への案内人のようにも感じます。
そういえば、子どもの頃に時々聞いていた「昔話」。ファンタジーの世界にひたり、楽しさで心温まったのを思い出しました。何であんなにお話を聞くのが好きだったのだろう、と思います。今、そのような時間を普段の生活の中でゆっくりと取ることはなかなか難しいもので、こういうおはなし会のような機会にそのころの気持ちを思い出せるかもしれません。
小山さんのお話を聞きながら、私は、体験しないとわからない魅力があるのかもしれないと思いました。取材を終えて、早速絵本を使って、自分の子どもに試してみることに。ストーリーテリングとは違いますが、絵本の最後の2行だけ覚え、その部分だけ、いつもは絵本に向けていた自分の視線を子どもに移し、語り進めました。そのとき気づいた、絵本を見るわが子の真剣な眼差し。ふと、小山さんの「大人より子どもの方が、すっと物語に入り込めるようですよ」という言葉を思い出しました。しばらくすると、私の視線に気づき、顔を合わせにっこり。お互いの表情を見合うことで、ぽかっと温かいヒトトキでした。
おはなし会の魅力を聞き、生活の中の嬉しい気づきももらえたように思います。普段の絵本の読み聞かせの中にも楽しみがたくさんあるのだと学びました。イメージをどのように表現しよう。声や仕草をアレンジしてみたり、「くるりんくるりん」「ぱぱぱぱっぱー」といった、一緒に楽しめる言い回しや好きな表現を探して、一緒に言ってみたり。読んでいる途中に時々子どもの顔を見てみたり。見ること、読むこと、語ることを楽しむ可能性はどのような方法でも広がる、もしかしたら、いつもの散歩道に置いてある猫の置物だって、自分の頭の中でイメージを広げてみることでファンタジーの世界の扉が開くのかもしれません。おはなし会は扉を開ける鍵ですね。次回のおはなし会が楽しみです。
横浜市緑図書館
住所:横浜市緑区十日市場町825-1
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