もうひとつの食卓は毎日食べたい南欧料理|江田トラットリアシャント
一品一品の料理に丁寧に向き合い、レストランに訪れるお客さまのために心をかたむけるシェフが腕を振るう南欧料理店は、地域に根づいて10年。東急田園都市線・江田駅近くのトラットリアシャントは毎日食べたくなるおいしい家庭の味でした。

江田駅からの緩やかな登り道を、道路脇に続くレンガで囲まれた花壇を眺めながら歩くこと4分。スペインの国旗が風になびき、店先にあるレモンやブドウの木々が迎えてくれるのが南欧料理のレストラン、トラットリアシャントです。

職場が近くにある私は、繁忙期明けにおいしい料理でホッとできるひと時を求めて、シャントでよくランチをしていました。ある時、店先に緑色の果実がなっているのを見つけました。ほかにもブドウやトマトなどが実っていて、シェフの原田亮さんと育て方などのお話をしながら楽しいひと時を過ごしました。そんな原田さんに、お店のことお料理のことをお聞きしたいとお店を訪ねました。

 

ステンドガラスの光があたたかな店内

お席の数(2021年10月15日現在)は、カウンター2席を入れた心地よい広さの20席。感染症対策のため原田さんが手作りしたパーテーションが優しい雰囲気でお店になじみます。店内に入るとまず目につくのが、原田さんのお姉さんでステンドガラス作家の吉田志麻さんが作った作品の数々です。
「姉は本当に天才的な才能を持っているんです。僕も作ることは好きでしたが、姉の才能にはかなわないと小学生の時に気がつきました」。原田さんのお父さんもプロの画家で、店内にはお父さんが描いた作品も飾ってあります。

ペンダントランプのあたたかい光が店内を照らします。他にもパネルやスタンド型のランプなど店内にあるステンドガラスすべてが販売されているそう。お気に入りを見つけるのも楽しい

 

そんな芸術家の家族を持つ原田さんが料理を始めたきっかけもまた、作ることが好きという思いからでした。「モノを作る仕事をしたいと思っていました。でも作品となって後に残ることに恥ずかしさがありました。その点、料理は消えてなくなるのがよかったんです。それから、まずはお店を持ちたいという思いがありました。そのために、お店を持った経験がある人のもとで修業がしたかった」。飛び込んだのは、家の近くにあったスペイン料理のレストランでした。「お店を持つことが第一だったので、正直料理は何でもよかったんです。家の近くにあったスペイン料理のお店が、食べに行ったときにおいしかったことが印象に残っていました。働きたいとお願いしに行ったら、次の日から来てと言われて。そのまま次の日から始めて6年働きました」。その後、イタリア料理のレストラン2軒で8年修業を重ねました。

 

2011年10月29日、江田駅近くでトラットリアシャントを開店します。
「緑区の北八朔町に住んでいて、田奈から鷺沼の間でお店を始めたいと考えていましたが、目の届く範囲でお客様、一組一組に丁寧に仕事がしたかったので、人通りが多い場所は考えていませんでした。そんな時、たまたま出会ったのがこの場所。不動産屋さんで見つけて気になったので、夜、仕事帰りに物件を見に行ったんです。当時、イタリア料理のレストランが営業していたのですが、通りから見えたお店の光がきれいだったんですよ。やわらかいあたたかさを感じていいなあと思いました」。お店の名前は、日本人にも馴染みがある「トラットリア」(イタリア語で家庭的なレストランという意味)と「シャント」(イタリア語で休憩)。シャントには日本語の「しゃんとする」という意味も込めているのだそう。「しゃんと料理しようという思いも込めて」。と原田さんは茶目っ気を含んだ笑顔で話します。

「ニワトリって可愛いから」とお姉さんが作ってくれたお店の看板はシャントのロゴマークに。店先ではゴーヤ、シシトウ、ハーブ類、グレープフルーツも育てているそう

ひとつひとつ手作り。口の中で溶けていくじゃがいものニョッキ

店内の黒板にはその日のおススメメニューが並びます。どのお料理も色鮮やかでテーブルにお皿が並ぶとワクワクします。

ひと口食べただけで思わず驚いてしまうのが、じゃがいものニョッキ。口の中でまるで溶けていくかのように柔らかく、チーズのコクに包まれたじゃがいもの旨味が広がります。「一般的なニョッキはつなぎのために入れる小麦粉が多いのですが、うちは限界まで小麦粉を減らすことで、じゃがいものおいしさが活きて柔らかくなります。ひとつひとつ手でまとめていくので7~8人分を2時間半くらいかけて作ります。手間暇はかかりますが、おいしいものお出ししたいという思いでやっています」。魚介の旨味が口に広がるパエリアも、鍋についている味が染み込んだおこげまでしっかり楽しめました。この日、メイン料理のじゃがいものニョッキとパエリアはシェアをして、前菜(北海だこのカルパッチョ、しらすのブルケッタ、スペインのオムレツ、イタリアのカポナータ)からドルチェまで食べ終わった後にはお腹いっぱいの満足感がひろがりました。

フワフワなじゃがいものニョッキ。口に入れたとたんあっという間に溶けてしまう食感がやみつきになります。ニョッキファンがいることにも深く納得

街にとけこむ家族の食卓

「当たり前の料理を、当たり前に丁寧にやることを大切にしています。食材も珍しい食材を使うのではなく、どこの家庭でも使うような食材が売っている近くのスーパーの食材を使って、おいしい料理を作りたい。同じ食材を使って料理をして、おいしくなるのがプロだと思っています。技術を磨き職人として評価されたいという思いがありますね。料理嫌いな人もいるけれど、塩加減や火力などちょっとしたコツで料理っておいしくなるんですよ。お店に来たお客様にもお店で出す料理の作り方をお伝えするのですが、え?それだけ?と言って驚かれます」

 

原田さんのお料理はどれも、どこか馴染みがある食べやすいおいしさがあります。「お店を始めるにあたって、一番に思ったことが10年20年ここにいたいという思い。そこで、ここに暮らす方々に合わせた料理の仕方が大切だと思ったんです。今日はご飯を作るのがめんどくさいな~と思った時に、あの店に行ってみようか?とお客さんがいつも安心して来ていただけるようなお店でありたいと思いました。そう考えると風味を強く出すことはしない方がいい、いつも食べたくなるような優しい味がいいと考えたんです。あぁお腹いっぱいになった~と思っていただけるような、街にとけこむような家族の食卓のようなお店として来てほしいと思っています」。

この日一緒にランチをした森ノオトライターの仲間たちからも「おいしい~毎日食べたくなる味!」「優しい味!」との声が。シェフ手作りの期間限定シークワーサーソーダも「ミントが効いていてお料理にピッタリ!」

心をよせるお客様や青葉区のシェフたち

そんな地域に溶け込むお店の主役は、あくまでお客様と原田さんは言います。「僕はどうやって黒子になろうかと常に考えています。今はスペイン、イタリア料理を中心とした南欧料理店としているお店も最初の2年くらいは、パスタをメインとしたイタリア料理のレストランとして始めました。そのうち、いらっしゃるお客様からこのあたりには洋食でお酒が飲めるお店が少ないんだよ、という声を聞いて。おつまみになるようなスペイン料理を徐々に増やしていった感じなんですよ。こだわりというのはお店が出すものではなくて、お客様に感じ取っていただくもの。自らを発信することもあまり好きじゃないんです」と話す原田さん。お客さんがお店を出る時に、厨房で料理している手を一旦止めて、声をかけている姿がいつも印象に残っていました。「お家に来てくださったお客様をお見送りするのは、当たり前のことですよね。家族の食卓として、レストランに来ていただいたお客様へも、いつもお見送りしたいと思っています」。

 

同じ青葉区で働くシェフの方たちへも思いが向けられています。「チョコレート専門店SOCORAの西山浩平さんジェラート専門店Quattro Panchineの磯部浩昭さんなど、この地域にはレベルの高い方たちがたくさんいます。そんな方たちの味をお店でお客様にご紹介したい、食べてもらいたいという思いがあります」。こうして、店先にあるレモンはQuattro Panchineでシャーベットに、SOCORAでボンボンショコラとしていただくことができます。

 

 

2011年震災の年に子育てをしながらお店を開店、そして10周年

奥様と一緒にやってきたからこそと前置きしながらも、迷いなく「子育てって楽しいですよ」と笑顔の原田さん(左)と、週末はアルバイトに来ているという息子さん。シンボルツリーのレモンの木の前で

 

2人の子どもたちのお父さんでもある原田さん。お店を始めた2011年は震災の年でした。「当時、子どもたちは小学生と保育園児でした。家族の安心を考えて、何かあった時のために子どものところへすぐ駆けつけることができるエリアがいいと考えたのも、この地域を選んだ理由の1つです」。共働き夫婦で、平日は自分が仕事を休めるからと、学校行事の面談や役員活動にも積極的に参加したそうです。「子どもがいたことで、もう1回子ども時代を体験できて気付いたことがたくさんありました。潮干狩りを本気でやるとこんなに面白いんだ!とか、動物園ってこんなに面白いんだ!ってあらためて発見したり。本気でやればやっただけ楽しい。そのあたりは、子育ても仕事も同じかもしれません」。大学生と高校生になった原田さんのお子さんたちですが、原田さんは今でも変わらずに学校行事に参加しているそうです。家族への思いは料理にもつながります。

「家族のために料理を作るのも、家族が食べてくれるからじゃないですか。お店でお料理をお出しするのも同じで、お客様がおいしいと言ってくれる言葉があるから頑張れるんです。誰かのためにという思いがなければ働けないですね。自分の食事には全然興味がなくて、自分のまかないなんて味見もしないんですよ。毎日コンビニのおにぎりでもいいくらい」と言って笑う原田さんに、家族や子育てに対してもシェフのお仕事と共通する真摯な姿を感じました。

2021年10月29日、トラットリアシャントは10周年を迎えました。ここ数年「好きでやっている仕事を、とりあげられてしまったような思いだった」と話す原田さん。お料理やお酒とともに、シャントで味わう楽しいひと時を私は心待ちにしていました。
開店時にお祝としていただいたというレモンの鉢も今はぐんぐんと根を張り、豊かな実を実らせています。このレモンのように、江田の地域に根をはったトラットリアシャントへ、ホッとするひと時を求めてまた食事に出かけようと思います。わが家のもうひとつの食卓が江田にあります。

Information

住所:横浜市青葉区荏田北3-8-7(東急田園都市線・江田駅から徒歩4分、駐車場3台あり)

電話:045-915-8666

Facebookhttps://www.facebook.com/scianto.Ryo/

Instagramhttps://www.instagram.com/ryo.har/?hl=ja

https://tabelog.com/kanagawa/A1401/A140201/14044703/

営業時間:11:30~15:00L.O.14:00)、17:00~22:00L.O.21:30

定休日:毎週木曜日、第3水曜日

ランチメニュー:

本日のパスタランチ(前菜盛り合わせ、ドリンク付き)1,530円(税込)~

パエリアランチ(前菜盛り合わせ、ドリンク付き)1,640円(税込)~など

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この記事を書いた人
松井ともこライター
神奈川県出身 ワークショップデザイナー。劇団の養成所を経て俳優のマネージメント、文化施設で事業企画運営などを行う。青葉区の子育て仲間と地域でアート活動(トトリネコ)を始めたところ、子育てとアートの関係に興味がわき、立教大学大学院にて研究中。二児の母。
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