凸凹した違いが誇らしげに感じる カプカプ川和の仕事と居心地のつくり方
思わずププっと笑ってしまう…そんな心くすぐる作品を数多く生み出し、ゆるさと居心地の良さが売りの生活介護事業所「カプカプ川和(喫茶店)」と「カプカプWA!(アトリエ)」は、横浜市営地下鉄グリーンライン・川和町駅にほど近い場所にあります。そこで働くスタッフの新楽愛子(にいらあいこ)さんにお話を聞き、カプカプ川和の魅力に迫りました。(2022年ライター養成講座修了レポート・松尾圭威子)

「カプカプ川和」とその分室「カプカプWA!」は、喫茶店をしたり、お菓子づくりや料理をしたり、絵を描いたり、詩を書いたり、織り物や縫い物をしたり、時には歌って踊って、リアカーをひいて地域をウロウロしてみたり、まったりのんびり過ごしたり……。一言で「こんなことをしているところです」と説明できないような多様さがあり、大らかでゆるい空気感のある居心地の良いところです。

人の似顔絵描きが得意な直美さんがつくった人形。最近、直美さんは人形づくりのワークショップで先生としてあちこちで活躍中です

私は、大学生の時に阪神大震災のボランティアで神戸へ行き、そこで初めて自閉症の青年と出会いました。彼の独特なコミュニケーションが、横浜に帰ってきてからも気になっており、そんな時に目にとまった「自閉症児者作品展」に何気なくフラっと入ってみたのです。当時美大生だった私は、その表現の豊かさにすっかり魅せられてしまいました。それからというもの、そこで出会ったアーティストグループに混ざり、福祉施設等でアートワークショップやアトリエをしたり、商店街などで作品展を企画したりと、そんな活動の中で障がいのある人たちの表現のあり方に憧れのようなものを感じていました。

 

カプカプ川和のみなさんとは、私が今働いている子育て支援センターに絵を飾るため、作品を借りに行ったことからお付き合いが始まりました。仕事をお願いすると、いつも私の想像の斜め上をいくような仕上がりに、そう来たか!とそのユニークさに笑ってしまい、思いもよらない裏切り方についつい心がときめいてしまうのです。

額に使うためのダンボールシートを絵具で塗ってくださいと依頼したら、世界の建物がたくさん描かれてやってきました(笑)。 奥の壁にも10mの紙に描かれた世界の建物の巻き絵が飾ってあります

2010年に都筑区川和町に開所した「カプカプ川和」は、2021年1月末に川和町駅周辺再開発に伴い、駅をはさんで反対側の場所へと移転しました。建物が取り壊される前には、壁にみなで絵を描いて、最後の1週間は引越しイベントとして、毎日パフォーマンスをしたそうです。新型コロナウィルス感染拡大によって出された緊急事態宣言により、一般公開が中止となってしまったので、後日スタッフの新楽さんがその時の動画を9本送ってくれました。

それは、メンバー (カプカプ川和では、障がいのある人のことをメンバー、職員のことをスタッフと呼びます)それぞれの個性や好きなことを一緒に面白がって作った舞台を見ているかのようで、とにかく楽しそうな感じが伝わってくるものでした。そして、この動画を一人で編集したという編集経験ゼロの新楽さんに、タダならぬものを感じ、今回話を聞いてみることにしたのです。

引越しイベントとして毎日パフォーマンスをしたそうです。これは最終日の「ファンガ」パレード(写真提供:カプカプ川和 新楽さん)

― カプカプでは、こんな人がいたから、こんな作品や仕事が生まれた…というように、枠に人をはめていくのではなく、人に合わせて枠も仕事もつくっているような感じがするのですが、そういうメンバーの個性を大切にした仕事のつくり方とか考え方とかを今日は聞いてみたいです。例えばここにある「西野の本」ってどんな感じで生まれたんですか?

以前トイレの壁中に貼ってあったしょうちゃんの文章。表紙に「西野の本」とだけ書かれた本にはこんな文章がたくさんつまっています

(新楽さん:以下「に」)

しょうちゃんは養護学校を出てすぐカプカプに来てるんですけど、その頃からパソコンでずっと文章を書いています。人と語り合うことも好きで、会話を通して自分なりに考えをまとめて文章を書いているんです。パソコンの中に文章がどんどん溜まっているだけだったので、石井さん(施設長)が、何かカタチにしていろんな人とやり取りができるようになったらいいよねと、この本をつくったんです。しょうちゃんの文章に結構食いついてくる人もいて「これ、売ってないんですか?」と聞かれるので「もちろん、売ってますよ~っ」と言って買ってもらっています。しょうちゃんは、少年から大人になっていく過程での、ホントはもっとこうしたいのにこうできないんだ…とか、恋愛もしたいけどなかなか出会いがなくって…とか、そんなモヤモヤした葛藤も文章にしていて、たまに本人が読み返して「若かったな~」とか言いながら、その文章を書き換えたりして、自分の成長と共に考え方も文章も変化していてそういうのがみられるのも面白いんですよ。

沖縄の伊良部島出身で漁師をしていたという与那嶺さんがつくる「よねみねばっち」 は、魚の刺繍がされています

―魚の「よなみねばっち」をつくっている与那嶺さんは、昔から縫い物をしていたんですか?

 

(に):与那嶺さんは、昔、靴下に「光雄」って刺繍をしていたんです。それでスタッフが「与那嶺さん、そんな刺繍とかできるんですか!」となって、それがきっかけだったんじゃないかなぁ。

与那嶺さんは、素材とかを置いておくと「ほら、こんなんできたよ」ってつくって持ってきてくれるんですよ。それで羊毛フェルトがあった時に、その上に魚の絵をのせて魚を刺繍して、それが、すごい勢いですごい量のものができて(笑)、スタッフと「これかわいいよね~。売れるようにしたいね~」と話していて、それがバッチになったんですよ。

 

 

―今日は、喫茶店に飾ってあったたくさんの顔の人形を見つけました。とてもカワイイですね。ゆかさんが作ったと聞きましたけど、ゆかさんって以前はパッチワークで袋とか座布団カバーとかいろいろつくっていましたよね?今は人の顔をつくっているんですか?

 

(に):そうなんです。布をたくさんいただく機会があって、ゆかさんがミシンを使うようになったんです。ゆかさんは、決まりごとがあると心が落ち着くというか。パッチワークの布を四角に切って、それをつなげて縫い合わせるという決まりごとに、心が落ち着きハマったのだと思います。

それでコロナが始まったくらいから、突然「おかあさんといっしょ」のブームがやってきて、おにいさん、おねえさんの顔をつくるシリーズが始まったんです。これは私の想像ですけど、「おかあさんといっしょ」も決まった時間に始まって、決まった人が同じテンションでやってるじゃないですか、それがゆかさんにとっては心が安定するものがあったのかもしれないなぁと思うんですよね。

それでこのブームの時に、パペットもつくったので、地域の子どもたちと楽しむイベント「キッズデー」の時に「ゆかおねえさん」として、エプロンシアターをやってもらったんです。子どもたちに「ゆかおね~さ~ん」って呼んでもらって「は~い!」ってゆかさんが登場して、みんなで手遊び歌をやるという。新しく入ってきたスタッフが元保育園とか幼稚園の先生とかで、盛り上がったんですよね。

あと私、ゆかおねえさんのカプカプ川和のCM動画っていうのをつくりたくて。カプカプの喫茶店で出しているカレーのCM動画なんですけど、カレーの歌あるじゃないですか。あれをカプカプのカレーの材料に合わせて替え歌にしてつくりたいんですよね。

 

―そのカレーのCM動画すごく面白そうですね。そうやって、こういうのがつくりたいっていう思いがあると、やったことのない新しいことにでもチャレンジってできちゃうんですね。

 

(に):私だけではなく他のスタッフも、この人のこういうところがすごくいいなぁと思うことがたくさんあって、そういうのをなにかにできないかな~と常に考えています。思いついたことに対しては「いいじゃん!やってみようよっ」と言ってくれるので、そういう職場の雰囲気がとってもやりやすいですね。

キッズデーに向けてパペットシアターの練習をする ゆかおねえさん(右)と新楽さん(左)(写真提供:カプカプ川和 新楽さん)

―「キッズデー」はどうやって生まれたんですか?

 

(に):キッズデーは、夏に何かしたいねと話がでて、夏休みだから子ども向けのイベントにしようとなって、みんなで「キッズデー」を考えたんです。

こんなことやりたいっていうのもスタッフだけが考えるんじゃなく、メンバーも準備のところからおもてなしするところまで一緒に考えてできるような流れをつくりたいなって思っているんです。それで、カプカプ川和だけで完結するのではなく、カプカプの人と地域の子どもとか大人とかが一緒になってつくり上げられるような地域のおまつりにしていけたらいいな~と思っています。

 

―もともと地域とつながりたいって、みんなでリアカーを引いて、近隣の公園とかにおでかけしていましたよね。キッズデーもその流れででてきた取り組みですか?

近隣の川和団地で開催されている「多世代交流サロン・暮らしの保健室 だんちらんたん」にカプカプ川和がリアカーと共に参加。こども達とみんなでリアカーをひきました(写真提供:カプカプ川和 新楽さん)

(に):前の建物にいた時からよく「カプカプって聞いたことあるけど一体なんなの?」とか「なんとなく入りづらい」とか言われていて、カプカプの中にいるだけじゃダメだなと…。だから、どんどん外に発信していったり、外に出て行かなきゃなって思っていて、そこからリアカーをひいて地域をウロウロしてみたり、瓦版(フリーペーパー)を作ったりしだしたんです。キッズデーもその一つですね。

 

―今もリアカーをひいて地域をウロウロしているんですか?

 

(に):一応やってます(笑)

リアカーをやっていて何かわかりやすい効果みたいなものは特にないですけど、そういうことをあまり期待せずに、ゆるくのんびり続けていくことに意味があるのかもしれないな~と思ってやっています。外に出たり、やっていると楽しいので。そういえば「リアカー見ましたよ!」と声かけてくれる人もいました。

 

―確かに、効果を期待してやるのではなく、楽しいからとかやりたいからやる。それって大事ですよね。楽しいと続けられるし、楽しそうなことに人は寄ってきますしね。

カメラの前でさまざまなポーズをしてくれた鵜飼さん(左)と新楽さん(右)の一コマ

(に):仕事をつくるっていう点で言うと、鵜飼さんとかは、みんなで何かやる時になかなかノッてこれないタイプなんです。よくある価値観でいうと、仕事をしない人、できない人っていうレッテルをはられがちなんですが、鵜飼さんはすごいパフォーマーで、月に一度、即興楽団UDje(ウジャ)とのアンサンブルの時間があるんですけど、その時はすごく輝いていているんですよね。だからこういうパフォーマンスを仕事にしたくて、地方をまわったり、それで稼いだり、そういうことができたら楽しいだろうなぁって思うんです。いわゆる仕事と考えられていないことではたらいていくこともアリだよなって思って。

新楽さんは、3歳からクラシックバレエをやり、中学高校の時はヒップホップに夢中だったそうです

―新楽さんがカプカプで仕事をする上で、大事にしたいことって何ですか?

 

(に):私は、自分が常に楽しめるようにしておかないとダメだな~と思っていますね。そのためには視野を広げることだったり、心のゆとりを持っておかないと、せっかく目の前で起きていることに気づけなかったり、例えば鵜飼さんが人知れずこっそりどこかを掃除をしてる…とか(笑)、ちょっとした小さなステキな出来事がどこかで起きていて、自分がいっぱいいっぱいだとそういうことに気づけないから、ゆとりって大事だな~って思うんですよね。

あとどうしても、スタッフ、メンバーって、何かをしてあげる人してもらう人、できる人できない人みたいな構図になりがちなんですけど、自分も意識していないところでそういうふうになっちゃうこともあると思うから、そこは気をつけていたいんですよね。

 

―上下の関係ではなく同僚みたいな関係性の中で仕事をしたいっていうことですか?その上下の関係がダメだって思うのはなぜですか?

 

(に):う~ん、上下の関係だと、つまんないかなぁ…。これやってね。はい分かりました。の関係だとその人の面白いところとか、自分が良いと感じている部分がないことにされちゃうというか、活かせないというか……。さっきの鵜飼さんの話も、できない人っていうままで終わっちゃうことも環境によってはあると思うんですけど、環境とか見方とかルールとか価値観とかがほんのちょっと変わるだけで、急にそれが輝いたりするんですよね。
だからカプカプでそんな空間ができあがってきて、それを外に発信していったら、もしかしたら生きにくいなと感じている人が生きやすく感じたり、認め合えたり、今までダメと思っていたものが見方を変えただけでこんなステキなものだったんだって気づくようになったり、変わるんじゃないかな…って思うんです。
いろんな人が、カプカプっぽいですねとか、居心地がいいですねと言ってくれるのは、きっとそういう価値観の幅とか、ものの見方の幅が広かったりすると、みんな居心地がいいと感じるんだろうなぁって。
メンバー同士でも、いわゆる世間一般的な常識「これはこうするもの、こうしなければならない」というような考え方がもとになったトラブルがよく起きているんです。でもそういう考え方は一体どこからきているのか?「〜ねばならない」「こうあるべき」と思っていたり、それにとらわれたりすると生きづらいだろうなぁと思ったりするんです。

アヤさん作の大きなキリンの絵は、スペースが広くなったことで描く絵が大きくなったそう

 

(おわりに)

私は、家族の仕事で約5年滞在していたマレーシアから4年ほど前に帰国して横浜市青葉区に越してきました。いろんな民族が暮らし、文化も宗教も価値観も多様なマレーシアは人に対しても大らかで寛容な国でした。帰国して感じたのは、暮らしのいたるところに細かいルールがとても多いなぁということです。それにより周りの目が気になってしまうことに息苦しさを感じて、だんだんと暮らしづらさを感じるようになりました。

そんな時に森ノオトやカプカプ川和を見つけたことで、少しずつ地域の面白さを知り、気持ちも徐々に前向きになれたのです。

 

カプカプ川和にいると、違いや個性がなんだか誇らしげに見え、凸凹した違いがあるからこそ、そこが魅力的でオモシロイんだよなぁと感じるのです。違いだらけの多様な中では、はみ出している感じがせず、例えはみ出していてもそんなことが気にならないくらいの大らかさとモノのとらえ方の広さがあり、それが心地良く感じるのだと思います。

カプカプ川和のものづくりは、料理でいうと冷蔵庫にあるものでご飯をつくることに似ているなぁと思います。必要なものを買ってくるのではなく、今ここにあるものを眺め工夫してつくる。冷蔵庫の中に今あるその偶然性をも楽しむと、その時だからこそできる名前もつかないような思わぬ料理が生まれたりします。

 

上下関係じゃつまらないという新楽さんやカプカプ川和のみんなの関係性や、その時を面白がる姿勢が、創造の芽を見出し、予定調和的なものではない、その時のその人達とそこだからこその表現のカタチを生み出しているのだなぁと感じました。

目の前で起きているささいなことに気付けるよう心のゆとりを持っていたい…。

そう新楽さんが気付きたいささいなことには、与那嶺さんの靴下の刺繍のように、カプカプ川和の仕事をつくるヒントが隠れているのかもしれません。

目の前に広がる景色の多様さを受け入れて、「仕事とは?」とそんなところから考え、今のあり方に価値や魅力を見出そうとしているからこそ、見方や捉え方の幅も広がり、その人だからこその仕事や、そこにしかない居心地の良さを生むのだと思いました。

 

住んでいる地域に少しでも自分の好きな場や人やモノ、コトがある。

暮らしの中でそんな小さなことが実はとても大切で、暮らしやすさにもつながっていくことなのだとつくづく感じます。

Information

○カプカプ川和(喫茶)

横浜市都筑区川和町1288-1 さかなや2  1F

(横浜市営地下鉄グリーンライン 川和町駅から早歩き1分)

TEL:045-938-5801

Open:平日11:00-18:00(17:30L.O)

 

○カプカプWA!

横浜市都筑区川和町2439

(横浜市営地下鉄グリーンライン・川和町駅から徒歩15分)

 

Mail: kapukapukawawa@wine.ocn.ne.jp

Twitter @kapukawawa

Instagram @kapukawawa

 

第4土曜日営業(翌月曜は代休)

 

○7月23日「カプカプ川和 キッズデー」

カプカプ川和が川和町の子どもたちをおもてなし!

日時:7月23日(土)11:00~15:00

会場:

①カプカプ川和(喫茶) (横浜市都筑区川和町1288-1 さかなや2  1F)

ゆかおねえさんの手あそび歌/コッシ-の新作紙芝居14:00~

②カプカプWA!(横浜市都筑区川和町2439)

家族会バザー

③川和集会所 (横浜市都筑区川和町1276-2)

ゲームコーナー

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この記事を書いた人
松尾圭威子ライター
横浜市港南区で育つ。結婚後は藤沢、マレーシアで暮らし、現在青葉区に在住。 色やカタチを扱うこと、人と何かをつくることが好き。思いもよらないモノ・コトに出会うことに喜びを感じ、足元にあるまだ見ぬ景色を見たくてライターへ。家族は夫、息子二人、トイプードル。
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