“地域ではたらく”をテーマにした森ノオトの「Hello local work」プロジェクト。
はたらくを通じて、わたしたちが暮らす地域の今、未来を見つめてみませんか?
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この世に授かった命を育てていく喜びを感じながら、人生の転換期を迎える産前産後の時期。日ごとに成長していく赤ちゃんに目を凝らしながら、喜びと不安と……。さまざまな思いとともに、それぞれの子育てがスタートしていきます。
そんな産前産後の家庭に入り、子育てや家事のサポートをする産前産後ヘルパー派遣事業をNPO法人ピッピ・親子サポートネット(ピッピ)は、2012年から続けています。コロナ禍に入り、里帰りや親族のサポートを受けるのが難しい家庭も増え、この4年で派遣件数は倍増しました。
担い手を増やし、ケアを必要とする人の声に応えていきたいと、ピッピでは一緒に働く仲間を募集しています。ピッピのスタッフがはたらく場では、どんなかかわりが生まれているのでしょうか。“切れ目ない支援”を目指すピッピならではの、地域でのつながりがはぐくまれていました。
たわいもない話に、救われた。
「コロナの最中、親に来てもらうことができなくて……」。そう話すのは、2020年2月に第二子、第三子の双子の男の子を出産した志村香織さんです。産後2カ月ごろ、どうにも手が足りずに、産前に区役所で紹介された産前産後ヘルパー派遣を思い出し、申し込むことに。子どもが1歳になるまで、週に2日間、1日2時間ずつ、ピッピのスタッフに来てもらいました。双子の赤ちゃんの入浴や、お洗濯などを中心にサポートしてもらったそうです。
子育てや家事で助けられたのはもちろんですが、スタッフの方との会話がうれしかったと志村さんは言います。
「そのころ外出もできなくて、大人の人と話す機会がなかったんですよね。洗濯物を畳んでもらいながら、たわいもない話をして。それが私にとって、すごく救われたと思うんです。自分以外の人が子どもを見てくれる時間が、ありがたくて。人が作ってくださった食事を味わえるのもうれしかったです」。そう振り返ります。
「コロナもあり、外で人に会うのが怖いというイメージがあったんです…。でも、みなさん明るくて優しくて。当時3歳だったお兄ちゃんとも全力で遊んでくださって!」
この家庭に入っていたスタッフの一人、皆川典子さんはどんな思いでこの仕事を続けているのでしょうか。
お母さんを、そのまま受け入れたい。
「新しいご家庭に入る時には、まっさらな気持ちで伺っています。固定概念でなくて、お母さんの人となりをそのまま受け入れることが大事かなと思っているんです」と皆川さん。
ピッピではたらき始めたのは、15年前。お子さんが幼稚園に入ったタイミングだったそうです。「それまで、子どもと二人で24時間365日、煮詰まっていたんですよね。自分の時間を生かして活動したいと思って」
一時保育の補助と兼ねて、短時間のヘルパーの仕事を始め、その後、親子の広場「はっぴぃ」の立ち上げも経験していきます。はたらきながら、保育士の資格も取りました。「根底にあるのは、『自分だったらこういうところで子どもを見てもらいたい』『こういうところで預かってもらいたい』という思いです。子育てして辛かった時期がある。同じようにいま、子育て中で煮詰まっている方の手助けになりたいと思っています」
どんな人がこの仕事に向いているのでしょう? そんな質問に、皆川さんが答えてくれました。
「何かの資格よりも、自分の生活経験だったり、子育て体験だったり、経験してきたことが大事かなと思います。収入として仕事を考えるのももちろん大事だけど、社会的に役割をもって貢献できる。自分の経験してきたことが生かせて、他の人に笑顔になってもらえる。ありがとうっていう気持ちを受け取れる。そういうところでやりがいを見い出せる方がいいのかな」
切れ目のない、ゆるやかなつながりを
今、皆川さんは、産前産後のさまざまな家庭の支援に入っています。中には、両親とも外国人で双子の赤ちゃんを育てる家庭で、言葉のサポートをしながら入るケースも。「ヘルパーの利用だけでなく、広場や一時預かりにつなげていく、コーディネートする役割も担っていると感じています。いろんな情報を持っていって、つながれる。それが出向いていくアウトリーチ型の支援のよさではないでしょうか」と語ります。
時にはママたちと、アイドルの話題で盛り上がる。そんな皆川さんを、「ヘルパーさん、家政婦さんっていう、これまでのイメージとは違いました。子どもが親以外で安心できる存在というか、私もお会いするとほっとするんです」と、志村さんは語ります。
その後志村さんは、一時預かりのサービスを教えてもらい、赤ちゃんが10カ月のころから、時々お子さんを預かってもらっているそうです。
「子どもを連れて一時預かりの登録や見学は、私にはハードルが高くて。でも、ここなら知っている先生もいて、他の場所より安心して預けることができると思って。ここに来て、『大きくなったね』って言ってもらえるとうれしいです」。そう話す穏やかな笑顔が印象的です。
はっぴぃの責任者、岡田綾子さんはこう言います。「産前産後の支援を入り口に、必要があれば一時預かりにもつなげていくことができます。どういうふうに支援をつなげるか、家庭と一緒に考えていくことが大切かなと思っています」
子育て中の家庭に支援に入っているスタッフは、8人。リーダーの水野久美子さんが、通いやすさや、適性を見ながら支援に入る家庭とのマッチングをしています。料理の得意な水野さんは、料理の支援を希望されている家庭に入ることが多いそうです。水野さんに同行して、実際にお仕事の様子を見させていただきました。
普段着の食事をつくること
訪れたのは、4カ月の男の子を育てる家庭です。赤ちゃんが生後2カ月半になるころから、週に2日ピッピのスタッフが訪れ、おもに食事作りをサポートしています。
「何か希望はありますか?」
「じゃがいもがあるので、肉じゃがを作っていただきたくて。あと、小松菜があるので使ってください」
この日、赤ちゃんのお母さんとそんなやりとりをしながら、水野さんが冷蔵庫を開けながら食材を取り出し、ぱぱぱっと手際良く料理を進めていきます。
「この食材でなにを作ろう?と、考えているだけで時間が過ぎていきます。材料を見てこんな感じかな、とイメージしながら作れるといいのかな。求められているのは、普通の食事だと思うんです」と話します。時には、食事以外の支援で入ったご家庭でこんなことも。トマトしか食材がなく、何か作ってあげたいと、トマトのスープを作って帰ったこともあるそう。臨機応変に、お母さんたちを支える水野さんです。
スタッフが作るのは、それぞれの普段着の家庭料理。産後に作ってもらいたいのはこんなご飯だなぁと、水野さんの料理を見ているだけで、優しい気持ちになります。
来てもらえると、ほっとする。
「お話しながらやってくださるので、ほっとします。一日中子どもとしかいないので、大人としゃべれるのがありがたくて。日によっては疲れて寝ていることもありますけど。お料理だけながら、宅配や宅食などありますが、来てもらうのってお話できるっていう意味があるのかなって思っています」。依頼した女性が、そう話してくれました。
「離乳食はみなさんどうしてます?」「お散歩って何時ごろ行ったらいんでしょう?」
水野さんたちに来てもらう時間は、育児の悩みを何気なく相談できる機会でもあると、利用する女性は言います。子育て経験者で、他のお母さんとも接しているスタッフは、他の方の育児の様子も交えてお話することができるのだそう。
「『頼んでよかった!』『来てもらってよかった!』と言ってもらえることが、一番うれしい」と、水野さんはほがらかに笑います。自分の生活圏の中で、自分の生活の時間の合間に、子育て経験を生かしながらはたらく。そんな仕事を模索している人に来ていただけたら、とピッピでは考えているそうです。
今、産前産後ヘルパー派遣は、ご自身からの申し込みのほかに、保健師さんからの紹介も増えています。母親がメンタルの不調を抱えていたり、家族全体を支援していく必要のあるケースが珍しくなくなっていると言います。ピッピでは、相談支援事業にも力を入れ、スタッフそれぞれがケースを持ち寄り、よりよい支援につなげていこうという動きをしています。
産後は、女性にとって大切な静養の時期であり、子育てのスタート地点でもあります。この時期に、先輩ママやお母さんのような存在が家庭に入っていくことは、その家庭の子育ての今、そして未来に穏やかな変化を生んでいくように思います。生活と子育ての経験を生かして、地域の子育てを支えるはたらき方をしてみませんか?
(文・写真/梶田亜由美)
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ピッピヘルパーケアのスタッフを募集しています。
仕事の内容:産前産後など子育て中のご家庭の家事・育児に関する支援
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勤務時間:平日、9時〜17時の間。週1日・2時間から可
時給:1200円、交通費~750円/日 (実費)
問い合わせ先:NPO法人ピッピ・親子サポートネット
ピッピヘルパーケア(担当:水野)
TEL:045-342-5674
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