おいしい、うれしいは心を開く。誰でもおいでよ。オープンなトニーさん流「ノヴィーニェこども食堂&フードパントリー」
東急田園都市線・青葉台駅より徒歩3分ほど。駅前のバスロータリーより1本奥まった路地にあるマンションの外テラスで開催されている「ノヴィーニェこども食堂&フードパントリー」は、子どもたちはもちろんすべての人に開かれた街のホットステーション的存在として、訪れる人の心にやさしい明かりを灯し続けています。

「こども食堂」という言葉を聞いたことがありますか?現在、こども食堂は全国で約6,000カ所にものぼる(*1)ともいわれます。運営している民間団体や個人により活動の中身は多少異なるものの、「子どもが1人でも行ける無料または低額の食堂であり、子どもへの食事提供から孤食の解消や食育、さらには地域交流の場などの役割」(*2)を担っています。

ところが、トニーさんのこども食堂はちょっとユニーク。「こども」とうたいながらも困っている人であれば、誰でも大歓迎。赤ちゃん連れのお父さんお母さん、妊婦さん、お年寄り。地域の人に広く開かれた場を提供しています。そんな食にまつわる活動を2015年より続けているNPO法人アフリカヘリテイジ代表トニー・ジャスティスさん(以下、トニーさん) にお話を伺いました。

青葉台のフードパントリー(食品の無料配布)会場前にて。ボランティアさんと一緒に、準備に告知に大忙しのトニーさん。オレンジ、黄色、緑―ガーナの国旗を連想させる鮮やかな色使いのポスターと共に

取材に訪れたのは、青葉台会場でのフードパントリー開催日。気温は20度を大きく下まわり、まだ10月半ばだというのに季節をすっ飛ばしてうっすら冬の気配すら感じられます。急に訪れた季節の変わり目の寒さにまだ慣れない街の人たちは首をすくめ、足早に通り過ぎていきます。パントリー開始時刻の16時には薄曇りの空から冷たい雨が降っていました。「お待たせしました、こんにちは」。ボランティアスタッフの明るい声かけを合図に、傘をさし道路に並んでいた人の列が少しずつ動き出します。

「パン、それで足りる?もう1袋持っていっていいよ」

「来週は土曜日ね。また来てくださいね」

トニーさんは来てくれた人、一人ひとりに声をかけます。

 

新型コロナウィルス感染拡大防止のため、現在は集って食事を楽しむ従来の「こども食堂」のスタイルから、食料品の無料配布「フードパントリー」やキッチンカーによるお弁当配布の形に切り替えた運営をしています。ここ青葉台では毎週木曜日の夕方、もう一つの拠点である相模原会場では毎週土曜日に食料品などの配布をしています。

 

「コロナでいろんな問題が浮上してきた。学校が止まっていろんなものが止まって……」と言うトニーさん自身もコロナの影響により経営していた飲食店の規模縮小を迫られるなど、生活に大きな打撃を受けたうちの一人です。それでも、7年間信念を持ち取り組んできた活動を止めるという選択肢はありませんでした。子どもだけでなく「一人暮らし、お年寄り、シングルマザー。ここは止めたくなかった」と語るトニーさん。フードパントリーのために用意する食料品の量はコロナ前と比べると、2倍、3倍に増えたと言います。青葉台会場だけでも毎回40〜50世帯分、人数に換算するとおよそ100〜150人分の食料を提供し続けています。

フードパントリーに並べられた配布用食品の数々。袋詰めにされた無添加パンや野菜、調味料や加工食品などが並びます。設営や袋詰めなどボランティアの方が早くから来て、「無料だからこそ、きちんとね」と丁寧に準備を進めている姿がとても印象的でした

西アフリカ、ガーナ共和国出身のトニーさん。まさに幼少期より「ダイバーシティ (多様性)」を全身で感じながら育ちました。「都会の中の都会」だとトニーさんが呼ぶ首都アクラには世界中からさまざまなバックグラウンドを持った人たちが集まっており、ファンキーで自由なスラムがあり―。またトニーさんらしいシェアの精神や周りの人を気遣う声かけも、この中で自然と身につきました。

 

「クリスマスになると、お父さんがヤギをさばいてね。宗教とかそんなの関係なく、田舎の方に住む人とかにもみんなに配るんです。そういうのを見て育ったから」とトニーさん。「それに、みんな家の前の外でごはんを作るんだけど。出来上がった料理を囲んでいると人が通るもんだから、挨拶するでしょ。『こんにちは。一緒に食べてきませんか』なんてね。それで一緒に座ってご飯を食べていると、また別の人が通るから『どうぞ』なんてね」。

 

日本にも「同じ釜の飯を食う」という言葉がありますが、家族以外の人たちと日常的に食事を共にする機会に恵まれていたトニーさんにとっては、声をかけたりかけられたりという人との距離感や関係性がとても自然でごく当たり前のことだと感じられるのでしょう。それが食堂名に掲げられた「ノヴィーニェ」(家族・仲間)という言葉となり、子どもも大人も関係なく誰でも平等に歓迎するというオープンな活動姿勢にそのままつながっているのだと私は強く感じました。

食べ物もダイバーシティが大事というトニーさん。アレルギーがある人、信仰上の理由で食べられないものがある人、ベジタリアン、ビーガン、どんな人でも食事を楽しめるようこども食堂では毎回10〜20種類以上のメニューを用意していました(写真提供: NPO法人アフリカヘリテイジ)

映画で見た忍者、侍の強さに憧れを抱き、また音響、スピーカー、自動車など街で見かけるメイド・イン・ジャパンの製品からものづくりのテクノロジーに惹かれ、渡日したのは20代後半のこと。英会話学校などでの勤務を通じて人と接するうちに、日本ではアフリカについてほとんど知られていないことを知りました。中国の中に日本があると思い込んでいた来日以前の自分と同じように、知らないことによる思い込みや偏見があるのかもしれない。そこで自らアフリカ料理のレストランを開き、料理と一緒に文化や考え方も伝えようと、トニーさんは早速動き出します。また同時にスポンサーを集める形で「アフリカヘリテイジフェスティバル」という大型のイベントを立ち上げ、東京、横浜など都心部の各地に赴き、楽しみながら五感でアフリカを味わえる機会を設けると多くの来場者を迎え大変盛り上がりました。

「子どもはありのまんまが一番いい。プッシュしない。のびのび自由に好きなものやってください」、とトニーさん。今年10月に数年ぶりの開催となった青葉台商店街を巡るイベント「ハロウィン仮装パレード&スタンプラリー」は地域の人に見守られながら大盛況となりました

精力的にアフリカについての発信活動を続ける中、「こども食堂」を始めるきっかけとなったのは「日本では7人に1人が貧困」という報道ニュースでした。信じられない思いで、実際に養護施設を訪れたりインターネットで情報を検索してみると日本にもただ見えていないだけで、貧困により生活に苦しんでいる人が実はたくさん存在していることが分かりました。住んでいる場所や身に着けているものなどからアフリカの貧困は目に見える、対して日本の貧困は目に見えないのだということがトニーさんにとってはとても衝撃的でした。

 

同時に、「心の貧困」についてもトニーさんは言及します。「日本はモノはたくさんあるけれど……」。ネットカフェ難民、孤食の問題、子どもの居場所が減りつつあること、生きづらさを感じる要因は、経済的問題以外にもさまざまです。アフリカに学校をつくるプロジェクトを進めている最中ではありましたが一旦その手を休め、少しでも困っている人の助けになりたいと月に1度子どもたちが無料で楽しくごはんを食べられる場「ノヴィーニェこども食堂」を、遊びと学びの場「こども寺子屋」とセットで始めることにしました。支援の対象をまず子どもとしたのは、子どもが一番弱い立場にあるから。それと同時に「子どもは未来の宝物、財産」と大きな期待も込めます。

 

「子どもたちはすごくよく見てる」。

子どもたちとの交流を通じてトニーさん自身、学んだことは少なくないと言います。

毎回のようにこども食堂に来てくれる子どもたちの中にも、外国人のトニーさんを見るといつもびっくりして泣きだしてしまう子もいるそう。でもある日突然、「トニー、トニー。ほら、全部食べた!」と空っぽになったお皿を見せに来てくれたり、寺子屋のステージ上にいるトニーさんのところまで来てハグをしてくれるようになったり。そんな時、「あー、私がやってきたことは間違ってなかったんだなと思うよ」。言葉でのコミュニケーションがまだ難しい子どもであっても、思いはちゃんと伝わっている。トニーさんは声を詰まらせます。

支援物資として寄せられる無添加パンや米などの食料品はボランティアさんが手作業で小分けの袋に詰めかえ並べられます。「食料品を運んだり思っていたより力仕事もあって大変ですが、やりがいも大きい」とはボランティアさん談

「助け合うってそう簡単なことじゃないよ、大変。エネルギー、パワーが必要。いつまでできるかわからないけど、やれるところまで頑張ろうと思ってる」。トニーさんの思いから始まったこの活動が、この先も継続的に助けが必要な人たちを支援できるようクラウドファンディングで支援金を募ったり助成金の申請を進めたり、サポーターやボランティアも積極的に募集しています。トニーさんが活動の柱・コンセプトとしている「食(子ども食堂)」「学(こども寺子屋)」「絆(地域の交流)」をバランスよく維持し続けるには、「一人じゃできないよ。みんなの力が必要」と訴えます。この日もフードパントリーの準備の傍ら、自らチラシを片手に開催が迫ったハロウィンイベントの協賛スポンサーのお願いに、小雨の降る中小走りで出かけて行きました。

 

今後の活動について尋ねると、従来の人が集まる形で行う「こども食堂・寺子屋」をリアレンジした形での再開も視野に入れ思いを温めなおしているところとのこと。クラウドファンディングにより得た資金で調達したキッチンカーでなら、「ここに来られない人のためにこちらから行ってあげることができる」とトニーさん。

 

支援というと大げさかもしれない。トニーさんにとっては目の前にいる人、一人ひとりと丁寧に向き合い続けてきた結果が今の「ノヴィーニェこども食堂&フードパントリー」の活動につながっているのかもしれません。「だって当たり前のことをしているだけだよ」と笑うトニーさんの横顔を思い出しながら、私たち一人ひとりがトニーさんのように身近な人に目を向ける時間をつくりお互いのことを少しだけ気にかける心の余裕を持てば、この街は、この世界はもっと温かく暮らしやすい場所になるに違いない。そう確信すると同時にまずは自分ができる私サイズの支援について、思いを巡らせるきっかけになりました。

 

*本記事は、独立行政法人福祉医療機構の<WAM助成2022>として実施した取材記事です。

 

<脚注>

*1 「NPO法人 全国こども食堂支援センター むすびえ」ホームページ内「こども食堂とは」より

https://musubie.org/kodomosyokudo/

 

*2 厚生労働省ホームページ内「子ども食堂応援企画」より

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202010_00002.html

Information

団体名:NPO法人アフリカヘリティジコミティー

住所:横浜市青葉区青葉台2-9-6 青葉台Kハイム105

電話:045-482-4665/080-5453-4163

メール:info@africaheritage.jp

フードフードパントリーの開催日やボランティア募集の情報は、以下をご覧ください。

Facebook:  https://www.facebook.com/AfricaHeritageCommittee.official

Instagram:  https://www.instagram.com/africa.heritage_novinye/?hl=ja

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この記事を書いた人
河原木裕美ライター
生まれも育ちも横浜市青葉区。息子の幼稚園逆留学のため、バリ島より一時帰国中。まだ見ぬ世界が見たくて、北はノルウェイから南はウガンダ共和国まで旅を続けてきたが、改めて地元の魅力を再発見。日々の暮らしの中での小さな発見と大きな喜びを形に残したいとライターを志望する。
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