見つめ続けた夢がかなった場所。いつでも食べたくなるおやつ「hanacafe」
京浜急行線・戸部駅から、小高い坂を登った先にある約5坪の小さなカフェ。住宅街の中に位置するhanacafeは、この夏にオープンしてから早くも地域の方のとっておきの隠れ家として根付いています。子育てをしながら、ご夫婦でカフェを経営する店主・川合華子さんに、カフェへの思いや働くことについて聞きました。(2022年ライター養成講座修了レポート・佐藤沙織)

横浜市西区の険しい坂を登り切った先に続く住宅街の一角、hanacafeは街に溶け込むようにたたずみます。大きな通りからも外れ、人目につきにくくはありますが、その愛らしい店の雰囲気に、私は引き寄せられるようにhanacafeを訪れました。

お住まいの1階部分をカフェにしています。ガラス張りの開放的な入り口は、中の様子がよく見えて入りやすい

店内に入ると、清潔感のある落ち着いた空間が広がり、ショーケースに並ぶかわいいスイーツが目に飛び込んできます。そしてコーヒーを待つ短い滞在の間にも、頻繁に訪れるお客さんの姿がありました。

曲線を描くカウンターが印象的な店内。空間設計士と店主のセンスで作り上げた居心地の良い空間

2022年7月にオープンしたhanacafeは、開店間もないにもかかわらず、住宅街の隠れ家スポットとして地域に根付いています。

「あさ・ひる・よる、いつでも食べたくなるおやつ」という hanacafe のコンセプトは、店主・川合華子さん(以下華子さん)のそれまでの積み重ねの中からふっと出てきたそうです。

 

「実際夫が朝・昼・夜、いつでも私の作るスイーツを食べていたんです。それをいつも見ていたせいか、自分が今まで作り続けていたものについて、自然とそう表現できました」と華子さんは話します。

いつでも食べたくなる、という言葉の奥には、華子さんの細やかな気遣いがあります。「おやつは、あくまで食事と食事の間を補うもの。あまりおやつが重いと、ごはんが食べられず栄養が取れません。だから、くどくなく、シンプルで、それでいて季節の素材の味が活きるようなおやつを作っています」。

取材当日の季節のタルトは、横須賀産のバターナッツかぼちゃを使用。なめらかですっきりとしたパンプキンクリームと、じわっと甘味のあるアーモンドタルトの相性は抜群で、私も夕食後のデザートにペロリと完食

そんなhanacafeの定番は、「さがみっこプリン」と「リコッタチーズケーキ」です。

「さがみっこ」は、神奈川県相模原市にある井上養鶏場が自社配合の飼料で育てる平飼い鶏の有精卵です。養鶏場としてSDGsに取り組む経営姿勢や、地産地消につながるかながわブランドであることがhanacafeのコンセプトとマッチし、使用を決めたそうです。

「のびのびと育った鶏の産む元気な卵。そんな卵を食べれば人も元気になれると思って選んでいます」と話す華子さんは、環境や人に配慮する生産者を各地から見つけ出し、そっとhanacafeに取り入れます。

さがみっこプリン。スイーツの基本である「卵・小麦粉・砂糖」へこだわりを持ち、その思いはhanacafeのかわいいHPにもつづられています

そんなhanacafeを経営する華子さんは新卒から飲食業界に入り、自分の店を持つ夢を温め続けていたそうです。

 

「大学生の頃のカフェ巡りだったかな……。カフェを開きたいと思ったきっかけは、思い出せないほどひょんなこと。それでも、昔からずっとその思いを持ち続けていました」と華子さんは話します。

 

華子さんはここ10年ほど、数多くのターニングポイントを迎えたそうです。

「結婚、妊娠、出産……。育休が明けて時短で働く中で、自分ができることに挑戦しました」と、当時を振り返ります。そんな言葉を裏付けるように、お店の棚にはさりげなく表彰状が飾られていました。

 

「独立する前、自分がどこまでできるか確かめるために、ショッピングセンター協会が主催する接客の大会に出場し、東関東大会まで駒を進めました。自分の夢へつながるようにという思いと、これまでの自分の集大成として」と、華子さんは爽やかに話します。

焼き菓子や茶葉の並ぶ棚の左上にある表彰状。「飾ればお客さんとの話の種になるから」と、地域の方との関わりしろを散りばめます

4歳の娘を育てる華子さん。子どもを育てながらカフェを立ち上げるのに、迷いはなかったのかと私が尋ねたところ、「時期は少し選びました。子育てが少し落ち着いてくる3、4歳位のタイミングでの立ち上げを目指し、それまでは勤めながら準備を進めました」と話してくれました。

 

「娘は2カ月半から保育園に預け始めたので、保育園の先生と一緒に育てているようなものです。家族や保育園、いろいろな人の手を経て娘が育ち、自分は社会のトレンドや流れの中に身を置いて働き続けました。だからこそ、夢を現実視し続けられたように感じています」と、凜と話す華子さん。今ではカフェで自然と親の仕事を眺める娘さんは、楽しそうにカフェについていろいろ尋ねてくるそうです。

一杯一杯丁寧に淹れてくれるコーヒーの香りが店内に満ちます。ドリンクメニューは他にも和紅茶やハーブティー、季節の果実を使ってつくるシーズナルドリンクと魅力的なラインナップ

夫でデザイナーの川合卓也さん(以下卓也さん)が、hanacafeのロゴ制作を始めとするデザインの部分を担当し、hanacafeを支えています。

「性格は正反対」と話すお二人。朗らかな印象の卓也さん(左)と、強い芯を感じさせる華子さん(右)

「hanacafeの内装を決める時には、けんかもありました」と話す卓也さんは、空間づくりのこだわりの違いを今では楽しげに振り返ります。卓也さんが制作した、hanacafeのロゴについて尋ねてみました。

「6〜7年前に、間借りのワンデイカフェのような形で出店が決まり、『屋号が必要』とロゴを作成しました。その時にhanacafeのロゴは、ほぼ現在の形が出来上がっていました」。

ラテアートをモチーフにした色使いのロゴ。最初は某うどんチェーンのロゴに激似だったという裏話も。「それは嫌!」と正直に伝えたという華子さんの言葉に、思わず頬が緩みました

「妻と一緒に同じ方向性を持ちながら、深い部分までhanacafeを知った上で、モチーフを作り上げられました。妻と一緒に働くことは、一緒に遊ぶこととは違う、娯楽では得られない楽しさを感じています」と、卓也さんは穏やかに話します。

hanacafeは住宅街から続く小さな商店街への入り口に位置しています。かつては銭湯などもあり、なんでも揃う一角だったそう

半径50メートル圏内に住んでいる人がよく訪れるというhanacafeですが、自然と長居したくなる内装のつくりもあり、住宅街の隠れ家スポットとして愛されます。

「ある日お客さんに言われたんです。『いつも通り過ぎている街の景色だけど、hanacafeに座って眺めると、いつもと違って見える』って。そんな場所が、隠れ家なのかなあ」と華子さんは顔をほころばせます。

 

生活の流れの中でこの地に住むことになったと話す華子さんに、地域について聞いてみました。「この一帯は、下町の面影を残していて、人と人との関わりがゆったりとしているように感じます。町内会や夏祭り……、昔から感じていた地域のつながりは、カフェを開いてからより強く感じるようになりました」。

お店に訪ねてくるお客さんや、ふとカフェの前を通りかかる人との会話に温かさを感じるという華子さん。地域のお客さんも、長居したくなる居心地の良い空間に、つい足を運んでしまうのかもしれません。

「長居していると色んなところを見ますよね?だから『ワナ』を仕掛けるんです」と話す店主の策の一つ、ペンダントライト。これはお店で使っているドリッパーを素材にした華子さんの自作。他にもこだわりのワナがたくさん仕掛けられているので、足を運んだときは要チェック

今後お店を大きくする気はあるのですか?と尋ねると、「この地域にひっそりと溶け込む形で続けていきたい」と華子さんは答えます。

「こうして夢が形になったことを、今でも時々不思議に思います。色々あったな、とも思いますけど」と明るく話す華子さんの姿は、みずみずしい充実感にあふれているように私の目に映ります。

 

いくつものターニングポイントを乗り越えながら、自分の実現したいものに関わり続け、温めた思いが形になった場所。時に一人ではなく、家族や周りと共に目指して生まれた約5坪の空間は、かなえたいと努力を続けた先に待っていた場所だったんだと、hanacafeの魅力の奥に触れた私は胸を熱くしました。

Information

「hanacafe」

住所:横浜市西区伊勢町1-70-1 1F

・JR京浜東北・根岸線 桜木町駅 徒歩13分

・京急本線 戸部駅 徒歩10分

・横浜市営バス 伊勢町 徒歩1分

営業時間:水曜〜土曜 9:30〜16:00(不定休あり。営業スケジュールの詳細はInstagramに掲載)

HP:https://hanacafe.studio.site/

Instagram:https://www.instagram.com/hanacafe1701/

ネットショップ:https://hanacafe1701.thebase.in/

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この記事を書いた人
佐藤沙織ライター
横浜市泉区生まれ、西区在住。そこに住む人の等身大の言葉でつくられた森ノオトの記事に魅せられてライターへ。身近な人の気持ちや様子をそっと書き残していけたら。読書と犬が好き。趣味のゴルフは毎回大乱闘。
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