ひとりぼっちにさせない!つながりの中で産み育てることを支える 助産院バースあおば
横浜市青葉区鴨志田町、森ノオトの事務所からほど近い場所にバースあおばはあります。26年目を迎えた2022年12月、1882人目の赤ちゃんがここで誕生しました。地域に根ざした助産院の役割や母たちのつながりの場ともなる産前産後ケアについて、地域のお産を見守ってきたバースあおばの助産師さんにお話を伺ってきました。

2022年もクリスマスが近づいた12月半ば、取材にバースあおば(以下、バース)を訪ねました。「どうぞ~」と助産師の宮岸晴美さんに迎えられ、一歩入ると挨拶もそこそこに「あー、柴山さんね。あの時、心音が怪しくなったんだよね。へその緒何回巻いてたんだっけ?」と助産師の柳沢初美さん。

 

4年前に出産をバースで迎えた私は、夜中に破水したものの、お腹の子はお昼になっても出てこず、途中心音が怪しくなって総合病院へ搬送されたのでした。搬送中は助産師の仲かよさんが付いてきてくださり、救急車で揺られたかせいか、病院に着くとほどなくして娘は自然に出てきてくれました。久しぶりの訪問に少し緊張して取材に臨んだ私は、お二人からかけられた言葉に「久しぶり」の文字がかき消され、一瞬にして心が軽くなりました。まるで故郷に帰ってきたみたいな気持ちです。

取材当日はお会いできなかった助産師の仲さん(後日撮影)。この日は産後ケアのため一部屋を除いてすべて満室

そろそろ取材を始めようという頃、2泊3日の産後ケアを終え赤ちゃんを連れたご夫妻が帰られるとのこと。兵児帯(へこおび)を使って上手に抱っこされた赤ちゃんは、他院で産まれもうすぐ生後1カ月なのだとか。横浜市の産後母子ケア事業はデイケア(通い型)、ショートステイ(宿泊型)ともに7日間まで利用できるので、年が明けたらまた来る予定と、笑顔で帰って行かれました。

赤ちゃんがまんまるくきれいに抱っこされた兵児帯の巻き方は柳沢さんのお墨付き

全国の出生数は年々減少傾向にあり、2021年には過去最少の81万人台に、2022年は80万人を割る見通しです。お産自体は減っている一方で、産後ケアのニーズは高まっているといいます。産後ケアは横浜市も力を入れており、事前に相談、申し込みをすることで母子の体調に合わせて産後の心身のケアや赤ちゃんのケアを受けることができます。対象は横浜市在住の産後4カ月未満の母子で、横浜市から委託を受けた市内の11カ所の病院と11カ所の助産院で産後の母子を受け入れています。(2023年1月時点)。バースもそのうちの一つとして、お産を支えることから、産後のケアへとその役割を広げています。

 

需要も高まっている産後ケアですが、バースの産後ケアの利用者は、他院で出産した方も多いのだそう。「ハイリスクなお産をしたお母さんほど産後も手厚いケアをされるのがベストなパターンよね」と柳沢さん。双生児出産や前回帝王切開の経験を持つ方、高齢出産の方など腰痛やむくみのリスクも高まりがちです。そうでなくても、時に出産は交通事故に例えられるほど体への負担も大きく、十月の時をかけて小さな命をはぐくみ、この世に生み出す仕事は大変なもの。まずは、お母さんが心も身体もたっぷりとケアされ満足することで、たくさんの愛情を赤ちゃんに注ぐことができるのです。

バースあおばで産まれた1882人目の赤ちゃん

具体的にはどんなケアを受けられるのでしょうか。まずはお母さんの休息と身体にやさしい食事。そして、上半身のテルミー、お灸ケア(代金別途)などを受け、身体を癒やします。赤ちゃんが4カ月になるまで利用できるので、おっぱいケア(ミルクの方も)や沐浴からお風呂への移行、初めてのお散歩など、月齢に応じた一歩を踏み出すきっかけにもなります。悩みを聞いてもらうことで、気持ちも軽くなっていきます。

 

生まれる前から産後ケアを検討しておくことが大切と柳沢さんは話します。産後ケアが助産院を知るきっかけになる方も多いようで、無痛分娩を検討している方が見学に来て、産むイメージを初めて持てたというケースもあるのだとか。出産はその人の最善の選択をしているはずだから、どんなお産を選んでいたとしても受け入れる。その上で、しっかり産める身体をつくろう!安心して子育てに進もう!というのがバースのケアです。「ケアを通じて、私たち助産師も視野が広がったよね。お産中心の時にはできなかった、子育て中の悩みにも目が向けられるようになった。新生児だけでなく、生まれて少し経った赤ちゃんに触れることで抱っこの仕方やあやし方も変わってくるしね」と柳沢さん。産後ケアを通じて助産院にも大切な気づきがあるようです。

取材日の前日、4人目の赤ちゃんを出産して入院中のOさんを交え、楽しい会話は続く

コロナ禍に入ってから、産前の母親学級もオンラインが多くなり、リアル開催が少なくなっている中で、バースあおばでは実際に人と人が会うことを大切にしています。密になってしまいがちなマタニティビクスやヨガ、一緒につくって食べる食事会、味噌づくりなどは現在お休み中。その代わり、近いところへのピクニックや毎週月曜日のウォーキング、予定日の近い妊婦さんたちで行うまき割りなど、外での活動は可能な範囲で続けています。

 

何のためのまき割り?と思う方いらっしゃいませんか。実は自分で産める身体づくりが、すべての活動の基本にあります。私も初めてマタニティクラスに参加した際に知りました。助産院では医療行為を行わないこと、そのため安全に出産するには産むための身体づくりが必要なこと。妊娠期から自分の出産をイメージし、食や運動を通して産める身体をつくっていきます。また、イベントに参加していくうちにお母さん同士が知り合いになり、ゆるやかに仲良くなっていくというメリットもあります。さまざまな悩みやちょっとしたことを相談できる人がいることは安心感にもつながります。「一人ぼっちのお母さんをつくらない。お母さんにさみしい思いはさせない!ってことよね」と柳沢さんは力強く話します。

バースから歩いて数分、豊かな自然の残る寺家(じけ)ふるさと村。マタニティウォーキングの散歩道としても心地よく夏でも緑が多く歩きやすい。検診の際にも足を延ばしてみてはいかがでしょうか

妊婦さんたちに産前からお産について知ってほしいと、バースあおばのマタニティクラスは他院で出産予定の方々にも開かれています。「自分で産めるように」をテーマに助産師宮岸さんを中心に全4回で行われます。

夫婦での参加ももちろん歓迎です。出産や産後の生活について知ることで、お父さんも不安や恐怖を感じずにサポートしやすくなります。マタニティクラスとは別に、抱っことおんぶのクラスも好評なのだそう。「抱っこ、おんぶクラスはお父さんが受けたりもするわよ。肩や腰も痛くなるし、腱鞘炎にもなりやすいでしょ。だから妊娠中から受けるとよいわね」と柳沢さん。

 

産前だけでなく、産後のお母さんたちのつながりをつくれるのも、バースならでは。「イベントやミニカンの後にちょっと寄ったりしますよね。世間話をしに来る場所って感じで」と話すのは4人目の赤ちゃんを出産したばかりのOさん。ミニカンとは同じ月生まれの赤ちゃんとお母さんが月1回のペースで集まる「ミニカンガルーの会」のこと。話したり、遊んだり、情報交換をしたりと月齢が近い子を持つ親同士、その時特有の悩みや成長などを共有し、リフレッシュの機会にもなっています。ミニカンは他院で出産をした方や、バースで産後ケアを受けた方はもちろん、バースを一度も利用していない方でも、どなたでも参加することができます。

入り口を入るとすぐ右手には、この年出産を迎えたご家族の写真が

「地域におけるバースあおばの役割とは何でしょう?」

私の質問に、柳沢さんは一瞬も迷わず答えます。「一言で言うなら、フィンランドのネウボラおばさん的存在よね。つまり、ずーっといる存在ってこと」。ネウボラとはフィンランド語で“相談の場”と訳されます。産前産後から子育て期まで切れ目のない支援をしてくれる存在です。時には上の子との関わり方や家族のケアまで妊娠期から関わることで、お母さんの情緒も安定するのだそうです。妊娠期からずっと寄り添う身近な助産院の存在は、お母さんにとって地域の自分の居場所とも言えそうです。

 

産後ケアをしていると「助産院を初めて知った」という声を聞くことがあるのだとか。「産後ケアを通して助産院や自然分娩の良さを知るきっかけになれば」と宮岸さんは話します。宮岸さん曰く「実は昔から言われていることだけど、助産院での出産は無駄が少ないのよね。薬も使わないし、メンタルのケア、おっぱいのケア、おむつのことも助産院という一つの場所で話せるし、経済的でもある」。寄り添ってもらいながら自然に分娩をすることには、お母さんの心身や赤ちゃんの健康にもたくさんの利点があると言われています。妊娠から出産、産後の育児をつなげて考え、相談場所をつくっておくことで、お母さんと赤ちゃん、そして家族もスムーズにステップを踏んでいくことができます。自然で気持ちのよいお産を経験した女性は、また産みたいと思えることで、次の子も、とリピーターになって帰ってくることが多いようです。そしてそのバトンは次の世代へとつながっていきます。

出産部屋 “うぶごえ” 。赤ちゃんたちはこのぼんやりとした明かりの中に初めての世界を見る

「昔は村の会合や催し物、子供たちの運動会にお産婆さんが呼ばれていた時代があったよね。取り上げた子どもたちが大きくなった姿を見るということが当たり前にあったみたい」と宮岸さん。「昔はさ、自宅出産が普通だったから、お産婆さんは地域の管轄だったのよ」と柳沢さんが付け加えます。バースもそんな存在になれたら、と宮岸さんは話します。

実習生を受け入れ、教育にも力を入れているバースですが、最近は無痛分娩が増え、自然分娩を見たことがないまま助産師になっていく学生も多いのだそうです。ここで生まれた子が、次は自分の子どもを産みに来る2代目の時代に入ってきているバースあおば。自然分娩で取り上げることのできる助産師育成にも力を入れ、信頼のおける熟練の技でこの地に世代の循環を生み出していきます。孤独の中ではなく地域で命を育む感覚は母たちに安心を生み、ゆるやかなつながりをもたらします。それが、いつしか大きな輪となり、日本全体を支えていく子どもたちの成長へとつながっていくのだということを強く感じます。

「どんな出産を考えている方も、一度は見学に来てみて~」by宮岸さん

*本記事は、独立行政法人福祉医療機構の<WAM助成2022>として実施した取材記事です。

 

Information

<助産院バースあおば>

・電話番号  045-962-7967

・HP        http://www.birthaoba.com

・Instagram @birthaoba

・住所      横浜市青葉区鴨志田町509-1 中谷都第3ビル1F

・受付時間  9:00~ 12:00
13:30〜 17:00

休診日:日曜日・祝日

・駐車場    あり

・アクセス  最寄り駅:東急田園都市線・青葉台駅

青葉台駅バス2番乗り場より
青30系統〔循環〕寺家町方面、青31系統「鴨志田団地」に乗車し、「中谷都」下車徒歩1分

 

横浜市産後母子ケア事業(ショートステイ・デイケア)について

詳細は横浜市のホームページで最新情報を確認してください。

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この記事を書いた人
柴山有花理ライター
娘との青空弁当、読書時間をこよなく愛す、静岡出身。社会人を経て、身体と食に興味を持ち栄養学を学ぶ。出産・子育て経験から、こどもの未来に食からアクセスすることの大切さを痛感。夢は、生まれる前からの食の記憶に働きかけること。
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