大人の妄想中の妄想 良い子・悪い子
横浜市都筑区にある一時保育さんぽは、横浜市乳幼児一時預かり事業の保育施設です。預ける理由は問いません。0歳から未就学のお子さんをお預かりし、自然の中でたっぷり遊びます。たくさんの地域の方に見守られながら、親も子もスタッフも一緒に育ち合っています。

(文=一時保育さんぽ・燕昇司 知里/写真=一時保育さんぽ・ちょこっと子育てレスキュー隊)

*このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー方式でお送りしていきます。

 

 

勝手なイメージ

森ノオトを読まれている方々は自然に、人に、素直に優しいのだろうという勝手なイメージがあります。自然や人を大切にすることで仲間ができて、仲間が仲間を呼んでじわじわ地域に広がる。それらがどんどんどんどんつながって気がつけば左を見ても右を見ても仲間に囲まれている。多少のわがままもめんどくさいことも、まぁしょうがないよね。自分もわがままだし、めんどくさい人間だもん。人と関わる中で人のことを許して、ついでに自分のことも許す。反対の時もあるかな。自分も許してほしいから、相手のことも許す。お互いゆるゆる暮らしていけたら心地いいのかもしれない。ゆるゆるって言葉には柔らかい、穏やか、きっちりしていないなどの意味がありますが、そこに“許して許す”ってことも加えてもらえないかな。

私自身、森ノオトを読むことでこんな取り組みをしている人がいるんだ、同じことを大切に想っている人がいるんだって勇気をいただきます。森ノオトだから伝えたいこと、森ノオトだから伝わることがある。間違っていたら許してね。

ちょこっと子育てレスキュー隊

ちょこっと子育てレスキュー隊の紹介

ちょこっと子育てレスキュー隊とは、都筑区にあるNPO法人のはらネットワーク一時保育ぽっぽ・さんぽをはじめ、親と子のつどいの広場や学童保育、子ども食堂など複数のNPO団体、子育て支援関係施設、民生児童委員、保育サポーターなどで構成された、2019年から活動している任意団体です。

主な活動は、子育て支援団体同士の情報、課題共有や、支援の届きにくい場に出向いて行う出張一時預かり、療育センター内できょうだい児の預かりを行うきょうだい児保育、地域の方に向けて行う保育サポーター育成講座、支援する側・される側の垣根を超えてだれでも勉強会に参加することができる「だれでも勉強会」などを行っています。活動資金は横浜市市民協働事業助成金(2023年度までの予定)と寄付で行われています。

 

ちょこっと子育てレスキュー隊の面白いところは、子育て支援を行っている他団体同士が協力し合っていることです。通常ならお客を取り合う?そんな関係にもなりうるのですが、そうではなくて子育て世帯の「困った」にいち早く対応できるように協力し合っています。

それぞれの子育て支援施設が協力し合うことで、子育て世帯を孤立させない、だれもが安心して子育てできる地域を目指しています。

 

 

出張一時預かり

1団体では解決できないけれど、他団体と協力して実現した例の一つに「出張一時預かり」があります。都筑区の中心駅はその名の通り横浜市営地下鉄・センター南、センター北駅になります。この付近には幼稚園、保育園、一時預かり施設など多くの子育て支援施設があります。しかし一歩駅を離れると、親子で利用できる施設はあるにはあるけど、子どもを預けられる一時預かりがありません。ちょっと病院に行きたい、用事を済ませたい、リフレッシュしたいときに、気軽に預けられる場所がないのです。このような場所は子どもの数も少なく子育てが孤立しがち。そこで、ちょこっと子育てレスキュー隊が自治体と協力して町内会館などをお借りして、出張一時預かりを実施。

一度に多くのお子さんを預かることはできませんが、毎回定員に達する人数でした。

 

利用者さんからの声では、地域に同じくらいの子どもがいたことを知らなかった、自分の住んでいる地域の町内会館の場所を初めて知ったなど地域を知る良い機会にもなりました。自分の住んでいる地域と子育てが結び付くと、その地域に興味関心が持てます。どんな人が住んでいるんだろう、どうしてこの場に子育て支援がないのか、どういった子育て支援が必要なのかなど問題提起にもなります。

 

ちょこっと子育てレスキュー隊は、常にその地域だけにレスキューすることができません。そのため後は地域の方々にお任せするしかないのです。子育て世帯が地域の問題を解決するのは大変なことです。でも子育て世帯を手助けしたいと思っている地域の方々もたくさんいます。その存在を知るだけでも、お互い地域住民として安心して暮らせるきっかけにはなるのではないでしょうか。

レスキュー必要ですか?

きょうだい児保育

1団体では解決できないけれど、他団体と協力して実現した例をもう一つご紹介します。

みなさんは、“きょうだい児”ってご存じでしょうか?

“きょうだい児”というのは、重い病気や障害を抱えるきょうだい(兄弟姉妹)のいる子どものことを言います。きょうだい児は幼少期から親がきょうだいのケアに追われてさみしさを感じたり、親の大変さを気遣い甘えやわがままを我慢したり、きょうだいの行動に恥ずかしさを感じたりするなど特有の悩みを抱えるケースがあります。

一時保育さんぽ・ぽっぽでは療育などに通うご家族を優先的に預かるきょうだい児優先枠を設けていました。

 

しかし、きょうだい児保育には大きな壁がありました。それは一時保育さんぽ・ぽっぽにも預けられないご家族がいるということ。重度の障害を患っているきょうだいを連れて、きょうだい児を送迎するのがむずかしいのです。きょうだいときょうだい児を連れて一時預かり施設に行き、そして療育センタ―に向かう、終わったらまた一時預かり施設にきょうだいを連れてお迎えに行く。そんな困難さを抱えていました。

そこでちょこっと子育てレスキュー隊では、療育センター内に出張一時預かりとしてきょうだい児保育を提案し、横浜市の協働事業として採択され実施することができました。

きょうだいもきょうだい児も同じ建物で保育するため、送迎が1カ所になりご家族の負担が減りました。

大好きなミニカーを公園にも持っていきたい……

大人の妄想中の妄想

きょうだい児を丁寧に保育すること、ご家族にきょうだい児の様子を丁寧に伝えることで、「あなたを大切に想っているよ」が子どもに伝わります。

それは「自分はいいもの」と感じることです。自己肯定感というものです。自分はいいものと思えるかどうかは、周りの力が必要です。その子から出る表現に対し、どう言葉を返すか、どう視線を送るか、どう寄り添うか、とても大事です。

 

こんなお子さんに出会いました。

いつもは他の一時保育を利用して預かってもらっているけど、週に一度は、ちょこっと子育てレスキュー隊のきょうだい児保育を利用するようになりました。最初はなんていうかすごく良い子。こちらの話すこと、提示することを「うんうん」と聞いてくれる。お母さんとの分離でも泣かず、部屋でもよく遊び、外でもよく遊び、汚れた服を着替えて、手洗いして、よく食べて、また遊ぶ。保育者側からするとすごく保育がしやすい。でも2歳にしてはでき過ぎです。2歳にしては?いいえ年齢関係ないですよね。でき過ぎって上から目線ですし、2歳にしてはなんて失礼な言い方でした。ごめんなさい。

 

ここで言いたいのは、保育者が保育をしやすいというのは、こちらがしてほしいことをしてくれる。大人の言う通り動いてくれる。保育者はその行動をほめてさらに言うことを聞いてもらおうとする。

 

その状況は大人からしたら、しめしめな状況ですし、願ってもない状況だろうし、多くの保育現場、教育現場ではそれを目指しているところもある。それが保育・教育でありそれが良い子と捉えがちだけど、そうじゃない。

大人の言うことが聞けると良い子。聞けないと悪い子。そんな基準は本来どこにもありません。そんな基準は大人の妄想中の妄想です。

子どもに対して「あなたは大人の言うことを聞くから良い子だね、好きだよ」なんて伝わっちゃいけない。

「わがまま言ったって間違ったって良いし、好きだよ」って伝えなきゃいけない。それを伝えることが私たち保育者、大人、周りの目の使命だと思っています。

 

 

ゆるゆる視線

きょうだい児は、自分より周りのことによく気づきます。親のこと、きょうだいのこと、周囲の視線。

それ自体悪いことではないと思います。それと同じように自分のことも大切にしていいということを伝えたい。

きょうだい児がどうやったらもっと自分を表現してくれるか、甘えてもらえるか、わがままを言ってもらえるか。それには視線を送ることでした。

親と別れる様子に視線を送る。遊んでいる様子に視線を送る。ごはんを食べるとき、眠たいとき。ちゃんとできているかな視線じゃないです。そっちじゃないです。あなたはどんなことを思っているのかな?視線です。意識しないと大人は割と子どもに対して鋭い視線を送りがちです。柔らかい視線ゆるゆる視線です。

 

さらに、この預かっている場は私たち保育者の場ではなくて、あなたの場であり、あなたの時間であることを感じてもらうように子どもに感じてもらう。例えば「公園に行きますよ」ではなく「お天気がいいから公園に行ってみない?」「お昼の時間ですよ」ではなく「そろそろお腹がすいてきません?ごはん食べる?」すごく当たり前のことだけれど、聞いてみる。その子は最初に聞かれて「?」って感じでした。なんで聞くの?みたいな。

 

私たちはあなたを大切に想っているよ。だからあなたに聞いているの。言葉では言わないけど、どの保育者もその気持ちを込めて聞きます。「どうする?」「あなたはどうしたい?」

そのやりとりを続けるうちに、その子は「今日は公園行かない。部屋で遊びたい」「ごはん食べない。まだ遊んでいる」自分のやりたいことを保育者に伝えてくれるようになりました。そしたらもう、朝のお母さんとの分離では泣く、おむつ替えはしないと逃げ回る、ご飯の途中でも遊びだす、おもちゃの取り合いだってする、自分を見ていてほしいときはアピールする。

 

そうそうそうだよね。甘え、泣き、けんか、素直な感情に色が付いたようにあふれ出す。保育者も多分お母さんも大変にはなったかもしれないけれど、あなたのそのありのままこそがいいし好きだよ。それを受け止める私たちも豊かになれる。どんなあなただっていいんだよ、大切だよって、保護者の方と一緒に伝え合うことができて本当に幸せです。

同じ目線になれる大人ってすてき

保育サポーター

そしてこの団体の要でもあります保育サポーター。参加している団体の保育士や施設の利用者だった方が、ちょこっと子育てレスキュー隊の保育サポーター育成講座を受けて参加してくれています。

以前は一時保育などを利用していた利用者さんが、ちょこっと子育てレスキュー隊の保育サポーターとして参加してくれているんです。もうそれが素晴らしいのです。利用者さん側の気持ちをよく理解してくれていて、寄り添ってくれる。保育の知識や方法、経験とかではない寄り添い力。支援する側・される側ではなくて、お互いが対等で、お互いがお互い様で、目線の高さが一緒。保育サポーターも地域の人、子育て中の人だったりします。地域にこういう人がいてくれるのは、子育てに不安を抱えていたり、障がいを患っている子どもを育てる親としては、少しだけ安心感につながると信じています。保育サポーターの方から放たれる「あなたを大切に想っています」は子どもだけじゃない、子育て中の保護者にこそ届いています。

空色も混じれ!

水たまりと水たまり

雨上がり、子どもたちを連れて決まって行く公園があります。そこの公園は水たまりがたくさんできます。大小さまざまな水たまり。子どもたちは水たまりめがけて走り、バシャバシャっと駆け抜ける。ジャンプして水が跳ねて顔にかかる。顔中泥だらけ。でも笑ってまた走る。子どもは水たまりから水たまりへ笑顔で走り抜ける。その横で私はそこらへんに落ちている棒を使って水たまりと水たまりをつなげる。子どもの頃やったことありませんか?好きなんですその遊び。

水たまりと水たまりをつなげると、こっちの水たまりからスーッと水が傾斜を伝って流れ込んでくる。そのうち反対側の水たまりからもスーッと水が押し戻される。するとつなげた溝から水があふれて周囲に水がじわーっと広がる。それが好き。

 

ちょこっと子育てレスキュー隊の取り組みもそのじわーっとした広がりに似てるように思えます。

子育て支援施設と子育て支援施設がつながることで子育て世帯の孤立を防ぐ。

地域の保育サポーターが支援格差を知り、きょうだい児保育で障がいを患っている子どもを抱えるご家庭の事情を少しでも理解する、きょうだい児の表現の大切さを理解して寄り添う。

利用者さんは、ここに預けてよかったと感じる、少し自分に余裕が生まれる、子育てをいろんな人とすることの喜びを感じる。

「あなたのことを大切に想っているよ」そう思っている人が地域にいる。それが一人にでも伝わることで、じわーっと広がる。子育てを孤立させない、障害の有無で線引きさせない。境界線をなくしてお互い同じ地域で住んでいることに安心感を得られる。

 

水たまりと水たまりを意図的につなげる棒の役割は私たち大人かもしれないけど、バシャバシャっと走っているうちに境界がなくなって公園を一つの大きなしっとりした地面にするのは子どもなのかもしれない。

私たち大人はそんな子どもたちをゆるゆる視線で見ていればいい。

無題です

Information

ちょこっと子育てレスキュー隊

https://www.facebook.com/profile.php?id=100083592847306

「だれでも勉強会」公式LINE

https://liff.line.me/1645278921-kWRPP32q/?accountId=248vjxrg

 

 

横浜市乳幼児一時預かり 一時保育さんぽ 平日9:00~17:00

横浜市都筑区荏田南5-8-13 1階 TEL:045-532-9960 、FAX:045-532-9967

http://www.nohara-net.com

一時保育さんぽの情報は、さんぽ公式LINE(ID @787edpet)に登録または、ホームページで。

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さんぽの扉LINE(ID @159qtebc)

 

<プロフィール>

燕昇司知里

21歳で結婚して、22歳、23歳で女の子を出産。育児を楽しめなかった暗黒期を経て、33歳で男の子を出産。そこで初めて家族との育児の楽しさ、地域との関わりでの子育ての楽しさを知る。自分の経験から育児をつらく感じている人に寄り添いたいと思い、35歳から通信制短期大学で保育士資格を取得し、子育て支援の世界へ。その後さまざまな生きづらさを感じているご家庭にも直面し、特別支援士、早期発達支援士を勉強、取得。現在は保育士兼認定ワークショップデザイナーとして研修やワークショップを開催し、だれもが暮らしやすい地域を目指している。

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