子育て奮闘中ママ、美容室をオープン! 「poma」店長、星野未来さん
「夢を形にする」という言葉をよく耳にします。その言葉通り、地域に根ざした美容室!を目指して、自宅近くにお店をオープンさせた美容師の星野未来(ミク)さん。2児の子育て真最中でありながらも、自分の描いて来た夢を「今だ!」と実現させた経緯、そして彼女が見つめる未来とは? 聞いてみたいことをたくさん抱えて、青葉区鴨志田町に昨年秋にオープンした美容室、「poma」を訪ねました。

子どもが未就園児だった頃美容室に行くと、母という役割をしばし肩から下ろし、自分に戻れる場所という感覚になりました。また、子育ての時期ではなくても、美容師さんと語らいながら、期待を胸に施術してもらう時間は、日常から切り離された格別なひと時に感じられたものでした。

 

そんな魔法の空間をつくる美容師さん、そして店長さんはどんな思いを持っているのだろうとずっと気になっていました。今回、娘の同級生のお母さん同士として出会った星野未来さんにお話をじっくりと聞けることはとても楽しみです。

私の娘が小学校1年生のとき、娘を公園に迎えに行った夕暮れ、息子の夢雅くんを乗せたベビーカーを押しながら娘の美夢ちゃんをお迎えに来ていた未来さんと挨拶したのが初めての出会いでした。それから5年が経ちました(写真提供:poma)

〜美容師になったきっかけ〜

——とてもおしゃれな未来さんなので、小さな頃から夢は美容師さん!という感じだったのかなと想像します。美容師になろうと思ったきっかけをぜひ教えてください。

 

未来さん: 実は……、おしゃれとは遠い場所で青春時代を過ごしました。小学校のとき、2歳年上の姉の影響を受けてミニバスケットチームに所属して以来、中学校、高校、とにかくバスケットボール(以下バスケ)漬けの日々でした。おしゃれについて考える隙もなく、小学校から高校でバスケ部を引退するまで、髪型もショートカット一択でした。

 

—— バスケ一筋だったというのは、今、娘さんの小学校のミニバスケットのコーチをしている姿からも想像ができます。とても褒め上手で、元気をもらえる!とチームの体験会に参加した娘がいつも励まされて帰って来ます。

 

未来さん:小学生の娘も、息子もミニバスケットチームに所属して頑張っています。バスケの楽しさや、チームとして戦う中にある学びなど、わが子を含めて、たくさんの子どもたちに伝えられたり、バスケを通して、豊かに生きる力も身につけてもらえたらなあと思いながらコーチをしています。

お店は道路に面して大きなガラス張りになっています。下校途中の子どもたちが手を振ってくれたり、ミニバスチームの子どもたちが試合前に車から「行って来ま〜す!」と叫んでくれたり、窓ごしの温かなやりとりに元気をもらえると未来さん(写真提供:poma)

美容師の道へ進もうと思ったのは、高校3年生の夏、「もう進路を決めないと!」というギリギリの時でした。バスケ部がインターハイに出場したため、高校3年生の夏休みまで生活の真ん中にはずっとバスケがありました。インターハイが終わり引退して、突然にバスケから解放されてしまった感じでした。

それから「そろそろ女の子らしくしてみようかな?」という好奇心で美容室へ行きました。「ずっとショートカットだったから……」と美容師さんに話すと、伸ばしやすいようにとゆるくパーマをかけてくれました。鏡の中の自分を見て、自分の印象が一気に変わったことにとっても感動しました。髪型でこんなに印象が変わるなんて「すごい!魔法だ!」という感じでした。

その後の学校の進路相談で、担任の先生の「よく喋るし人付き合いもいいし、美容師、いいんじゃない?」という言葉にも背中を押されて、美容専門学校へ進むことになりました。

 

美容師でなければ、自分がバスケで膝を故障したときにとても親切にしてもらった記憶や、子どもが大好きだったので小児科の医療事務などにも興味はありました。子どもが大好きというのは、今バスケコーチとして関われているところで満たされていると思います。

右側はスタッフの岡田理絵さん。専門学校時代からの友人で、最初に勤めた美容室時代からずっと未来さんのいる美容室に通ってくれていました。不思議と人生の節目にお互い関わって来た仲で、一緒にいる安心感に未来さんは心身ともに助けられているとのこと

〜美容師になって〜

——美容師さんというと、「修行の時代」があるというイメージですが、専門学校を卒業してからはどのように経験を積んできたのでしょうか。

 

未来さん:最初に就職した美容室は施術の価格設定が高く、高級なお店という感じでした。店員への要求や教育も厳しく、技術面に対しても、接客面に対しても、細かくチェックが入り、指導されました。けれども、この先の自分の美容師としてのキャリアのためにも、今はここで徹底的に5年間は学ぼうと入社の時点で覚悟を決めていたので、途中で辞めようかと迷うことはありませんでした。

 

——バスケと美容師、一見つながりがない別世界に飛び込んだように見えますが、一途に技術を磨いたり、周囲の人との関係の中で動いていくというのは、共通するものがあるのですね。子どもたちが今夢中になれていることは、どこかできっと、その子の人生の礎となるのかなと、未来さんの話を聞いて思いました。

 

未来さん:そうですね!厳しいと逆に燃えるというのも、バスケで培われた根性のおかげも知れません。そのお店を5年勤めた後、私は子どもが好きなので、子どもの髪が切りたくて、キッズサロンに勤めました。そのお店はプライベートサロンで、人がたくさんいる場所や、髪を切ることが苦手というお子さん、ご家族連れなどさまざまなお客さんと接することができました。仲間にも恵まれ、何より、子どもの髪を切ることは私にとって楽しく、癒やしでした。この間に、結婚、長女の出産、3カ月の産休、そして復帰も経験しました。このサロンに6年勤めている間に、ふつふつといつか自分のお店を持ちたいという意識が心の中に芽生え始めたように思います。

 

——そのような野望を胸に秘めていたからからこそ、その後第二子が生まれ、育児の大変さも増す中でも、お仕事と家庭とを両立する道を模索しながら進んできたのですね。

全ての経験は自分がお店を持ったときの糧になると信じていた未来さん。さまざまな経験を積むべく、キッズサロンの後は、近所のご高齢の方、タイトな時間で髪を切りたいサラリーマンなど、気軽に来られる美容室に約3年間勤めました。この頃は、冷静にお店の混む時間帯の波を分析したり、お客様の層やニーズを分析したりと、頭の隅で開業を意識して働いていたそうです(写真提供:poma)

どの職場からも影響を受けていますが、開業前に勤めた駅近のサロンの「ママに優しい仕事場づくり」というお店の姿勢には特に共感と感謝をしています。当時スタイリストでママという立場の人はいませんでしたが、「第1号となって、これからの働き方の見本になってほしい」と言っていただきました。子どもの急な病気の際も、職場の方で完全にお客さんへの対応を引き受けてくれるようなシステムがありました。お店の雰囲気も心地よく、とても働きやすかったので、ずっとここで働いてくのもよいかも……と思うこともありました。

お店の名前の由来となった、未来さんの相棒「ぽま」。今年で15歳。「もうおじいちゃんのぽまだけど、みんなに親しまれ、愛されていています。そんなぽまの名前をずっとみんなが呼んでくれたらうれしいな、ぽまのようにたくさんの方に愛されるお店にしたいなという願いを込めました」と未来さん(写真提供:poma)

〜自分のお店をオープン! 〜

——そのような育児とお仕事のバランスが取れる環境はとてもありがたいですね。子育てには周囲の理解や協力が必要ですね。それでも、その理解ある場所から巣立ち、厳しい道に見える開業へと挑戦しましたね。

 

未来さん:バスケで養われた思考回路なのか、常に上へ、上というのは自分の中で決めたことへ向かってということなのですが、挑戦したくなる性分なんですね。

6年前に、鴨志田町に引っ越しました。自然にも近くて、落ち着いた雰囲気の町に惹かれたことと、もう一つの決め手は、自宅の物件の近所に一つ美容室があったことでした。美容室の開業というのは、「居抜き物件」といって、美容室だった店舗の次に入るという形が、コスト的にも近道になります。開業するなら、その場所で自分がお店をやりたいという夢を描くことができたのが決め手でした。もちろん、それは随分先のことだとは思っていました。

 

——ところが、思っていたよりもだいぶ早く開業のタイミングは訪れましたね。お店を持つとなると、美容師という技術職とは別の、経営のスキルも必要になりますよね。その未知の世界で、どのように開業まで進まれたのでしょうか。

6年前に引っ越して来てからというもの、毎朝出勤しながら自宅近所の、このお店を見ることが習慣になっていた未来さん。その日は突然訪れました……   (写真提供:poma)

未来さん:昨年4月末の朝、いつものように通りすがりにお店を見ると、「閉店します」という張り紙があったのです。毎日見ていたので、前日まではありませんでした。まさか今日とは……、青天の霹靂でした。けれど、考えている間もありませんでした。すぐにお店を押さえなければと、自転車を降り、管理会社の電話番号を探しました。番号を見つけ、その場でスマホを取り出して、管理会社に電話をかけていました。自分の人生で、こんなに衝動的に動くことってなかったと思います。

 

8月いっぱいまで駅前のサロンで働きながらの開業の準備は、とても大変な時期でした。特に資金を作るための融資を受ける段取り、手続きなどの知識も経験もない中で、頭がパンパンになりながら夏を過ごしました。まずは政策金融公庫にエントリーしなければなりませんでした。そのためには事業所計画、1年分の収支計画、開業の動機書等々、自分で作らなければならないものが山積みでした。途方に暮れそうだったけれど、そんな時間さえなかったです。

その状況で力になってくれたのが、美容師仲間たちでした。すでに開業している仲間からのアドバイスにとても助けられました。特に美容室専門の開業サポートサービスを教えてもらったことは大きかったです。そこで、公庫の融資だけでなく、横浜市の支援制度もあるということを教えてもらいました。横浜市民で、横浜市内で開業をする人への融資してくれる地方銀行の制度があり、協調融資という選択をしました。

ヘッドスパやまつ毛パーマをしても身体に負担が少ないようにと、お店の中で、未来さんがこだわったポイントの一つであるシャンプー台。ふわっと包まれるような感覚で、リラックスできました(写真提供:poma)

—— 急展開で不安や苦労も大きかったと思いますが、動き出したからこそ、サポートしてくれる仲間の存在や、多様な制度があることも知ることができたのですね。

そして同時に、お店の改装という目に見える部分の準備も進められていたのですよね。

 

未来さん:そうですね、一人でがらんとした店内で搬入した箱を開封しながら、ふと涙が出たこともありました。このお店を私一人でやっていくのは寂しいと、その時思いました。そこで、頭に浮かんだのが、専門学校時代からの友人の岡田理絵さんでした。

彼女は専門学校を卒業後、美容業界には進まなかったのですが、学校時代から、絶対才能があるってずっと信頼していた仲間です。そんな彼女に今こそ力になってもらいたいと、またもや迷う暇もなく電話をしていました。彼女も「いいよ」って即答してくれました。快く彼女がこの業界に戻ってきてくれて、とってもうれしかったです。理絵さんも小学生2児の母で、子育ての真最中なので、そんな彼女が働きやすいお店を目指す!というのも私の中では大事にしたいことです。

 

—— 色々な課題を周囲の力も借りながら、無事に、10月22日!ついに「poma」がオープンしましたね。しかも、その日は小学校の運動会でした。運動会では隣でカメラを構えて、わが子を激写していたのに、その日の午後、お店を開店させるというバイタリティーには驚きました。お日柄で選ぶと、その日になった!ということですが、子育ても美容室も頑張っていくぞ!という未来さんのこれからが凝縮されたような素敵な始まりの日だなあと思いました。

お世話になっている方々からお祝いが次々の届き、オープン前にお店が一気に彩られました。この時届けられたオリーブたちは今お店のシンボルツリーとなってお客さんを迎えています(写真提供:poma)

未来さん:子育てと美容室、両立させるためには……と考えて、休業日は日曜日、月曜日に決めました。日曜日はミニバスのコーチをしていますし、子どもと休みを合わせることで、休日を家族で過ごしたいということがあります。そして、日曜日がアクティブになるので、連休が欲しくて月曜日を休みにしています。一週間の家事の下準備をしたり、長く続けたいので身体をしっかり休めるということも仕事のうちと思っています。仕事、家庭、どちらかを犠牲にする、というような感覚を持ちたくないんです。若い頃とは違って、今は家族がいますから、家族の時間と仕事の時間のバランスをしっかりとることは、とても大事だと思います。オーナーだからこそ、休日を自分の生活スタイルに合わせて決められるので、そういう部分でもちょっと踏ん張って、自分のお店をオープンできたことは今後の家族のためにも自分にとってもよかったと思います。

今年の春、地元の小学校の卒業式の朝、pomaは着付けの予約でいっぱいでした。来年の春は未来さんの娘さんも含めて、もう予約が埋まってしまっているとのこと。近所に着付けをしてくれるお店があることはとてもありがたいですね(写真提供:佐久川政史さん)

〜地域を愛し、地域に愛されるお店「poma」〜

——思い切って今開業したことで、自分らしい美容室をつくるということと同時に、未来さんが「大切にしたいものをより大切にしていく」というライフスタイルの新たな始まりでもあったのですね。オープンから半年経ちますが、どのような美容室にしていきたいと思っていますか。

 

未来さん:今までの経験を生かして、地域のお子さんからご高齢の方まで幅広い年齢の方たちに、気楽に訪れてくれるような美容室にしたいです。今は子育てもしていることを気負いなくお客さんにも時には伝えつつ、同時にしっかりとした施術はお任せください!というスタンスでやっています。おかげさまで、子どもたちが学校帰りに「ただいま〜」なんて時には乱入して来ても、笑って見守ってもらえていてありがたいです。私が許してもらっている分、お客さんにも、赤ちゃんも、お子さん連れも大大歓迎です!キッズスペースもあるので、何も気を使わないでご家族みんなで来ていただきたいです。

地域に育ててもらえるような、そして地域や子どもたちに何かの形でこれから貢献していけるお店にしていきたいと思っています。

 

—— 取材にお店を訪ねたのは午後でした。しばらくすると、「ただいま〜」とお店のガラス越しに大きなジェスチャーで弟の夢雅くんが手を振ります。そして、お店の前にランドセルをぽこんと置いて「公園に行ってくるね」と駆けて行きました。その後、お姉ちゃんの美夢ちゃんが「ただいまー」とお店のドアを開けました。「宿題やったら遊びに行ってくるね」と、美夢ちゃんは夢雅くんのランドセルも持ってすぐそばの自宅へ帰って行きました。「ありがとう!」と笑顔で見送る未来さん。

 

「子どもたちがいるから頑張れている」、そんな未来さんの言葉の意味が伝わってくる光景でした。

 

未来さんが叶えたい夢はまだ始まったばかり。彼女の中にある夢は、お店も、そして家族も明るく照らしながら、この町で形となっていくのでしょう。一人のお母さんのエネルギーは決して小さなものではなく、やがて町のエネルギーになる!大切なものを守りながらも、挑戦し続ける未来さんの姿に、そんな手応えをもらえた取材となりました。

Information

[hair&beauty poma]

住所:横浜市青葉区鴨志田町504-3 吉岡コーポ1階-2

電話番号:045-508-9328

HP: https://beauty.hotpepper.jp/slnH000616101/?vos=cpshpborgmail14032400

Instagram:hair_and_beauty_poma

営業時間:午前9時〜午後18時(最終受付17時)

お休み:毎週日曜日、月曜日(不定期休みあり)

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この記事を書いた人
南部聡子ライター
富士山麓、朝霧高原で生まれ、横浜市青葉区で育つ。劇場と古典文学に憧れ、役者と高校教師の二足の草鞋を経て、高校生の感性に痺れ教師に。地域に根ざして暮らす楽しさ、四季折々の寺家のふるさと村の風景を子どもと歩く時間に魅了されている。森ノオト屈指の書き手で、精力的に取材を展開。
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