おうちで育てる原木シイタケ
わが家のベランダで家庭菜園を始めて数年がたち、五寸ニンジンやベビーリーフが育ち、収穫物を食卓に並べていただく、という循環を家庭の中で感じられるようになりました。今回、そこに加わったのが、原木シイタケの栽培です!

私の住む横浜市緑区地域には里山があります。朝、家で聞く鳥の鳴き声。春夏になると、虫かごを持って出かける子どもたち。2023年1月に、その里山を守り育てている新治市民の森愛護会が1〜2カ月に1回主催するイベント「森の工作:シイタケの“ホダ木”作り」でいただいてきたのは、なんと、シイタケの原木でした。

「どの原木にしようかなあ?」

“ホダ木”とは、シイタケの原木栽培のため、一定の長さに切り種菌を植え付ける木のことです。イベントでは、原木にシイタケの種菌を植え付け、ホダ木を作ります。植え付けたものは家に持ち帰ることができ、持ち帰ったホダ木からはシイタケが収穫できます。

 

今までに経験のない、原木シイタケの栽培。いったいどんなことをするのだろうか、うまくできるのだろうかという興味から、すぐに申し込み、子どもたちと一緒に、私も楽しみにしていました。

 

当日現地の広場に着くと、愛護会の方たちが集まって準備をしてくれていました。ブルーシートや、軍手、原木の準備などなど。

「何をしているのかな?何か面白いことしているのかなあ」と眺める子どもたち

そして、いよいよ作業。各家族ごとに、原木を選び、それをブルーシートが敷かれた作業場に持ってきました。各グループごとに愛護会のメンバーの方たちが付いてくれます。メンバーの世代は、私のお父さんくらいの方々です。きれいに切られた長さ90センチほど、直径10センチほどの原木には、穴がポツポツ開けられています。円柱状の穴が10センチほどの間隔で30個ほど、原木上にバランス良く交互に美しく並んでいました。穴の形が円柱状なのは、ドリルで開けるからだということでした。「昔はクサビで打ったんだよー、だから穴の形も三角なのね」と一昔前の話なんかも聞かせてくれる愛護会の方。「クサビ」、その言葉に、はっとしました。クサビという言葉は聞いたことがあるけれども、現物は見たことがない……どんなものだろう、そしてそれはどうやって使うんだろう、それで三角の穴を開ける……?そんな考えが頭の中に浮かぶと同時に、その時代を知る人が語る言葉に惹きつけられ、一昔前に思いを馳せたりしながらの楽しいひととき。

 

その円柱の穴に、ぴったりとはまる種駒を打ち込んでいきます。種駒とは木片に、シイタケ菌をたくさん付けたもの。コンコンコン、コンコンコン原木に開けた穴に金槌で叩いて種駒を埋めていきます。それぞれの家族が駒を叩く音があちこちから響きだしました。

駒打ち。コンコンコン、木をたたく音が気持ちよい

作業の間は、各家庭それぞれ、担当の愛護会の方に説明を聞いていました。家に原木を持ち帰った後、どのように原木シイタケのお世話をすればよいのか、どのようなところに置いておくのがよいのか、また、シイタケは季節ごとにどんな様子をみせてくれるのか。なんと、この栽培方法では、シイタケは種駒を打ち込んでから1年半後に、ニョキニョキと生えてくるそう!そう聞いたら、無事にシイタケに出会えますように、と心を込めて打ち込みたくなってきました。愛着もわいてきます。

 

収穫のサイクルをあまり意識していなかったので、私には、この1年半が、長くも感じられました。土ノオトチーム(森ノオト編集部で「農・自然」をテーマにしたチーム)のキャプテン、小池邦武さんは、菌床栽培をやったことがあるそう。その場合は10日ほどで生えてくると言います。この原稿を読んだ後「従来は、こうやって手をかけているものだったんですね」という感想をいただきました。自然は、私が考えているよりも、時間をしっかりとかけて育つようにできているのかもしれません。ほかにも愛護会が行っている別のイベントのお話や愛護会の様子なんかも聞かせていただきました。私の家族を担当してくれた方は、森と子どもの関係をとても大切にされている方でした。その方自身も森で育ったそう。「昔はよく森で遊んだよ、森はたくさんのことを教えてくれる。だから今、子どもたちと森をつなぐ愛護会に参加しています」ということを、力強く、また頼もしくおっしゃいました。

愛護会の方々の語り口調に、どこか懐かしさを覚え、聞き入る子どもたち。心温まる世代交流

全ての種駒を打ち込んだ直後の原木は……重く、長い。家のベランダもしくは廊下でお世話をするには、少し長すぎるかなあと思っていたところ、半分に切っても大丈夫ということだったので、半分に切って2本にしてもらいました。

 

家に持って帰ってきた原木シイタケ。早速しなければならないことを思い出し、取り掛かります。それは原木を一日中、水に浸からせること!一日水に浸からせることで、木の芯まで、水が行き渡ります。芯の水分で、シイタケを育てていくから、大切な作業なのだそうです。わが家では、あまりスペースがないことから、大きなバケツに水を張り、原木を縦置きにし、まずは半分浸しました。バケツからはみ出てしまった部分は、次の日にバケツの中でひっくり返して、浸してみました。2日かけて水に浸した後に、水から引き上げました。これで十分に芯までしみ渡っているのだろうか、1年半の間、芯の水は乾かないのだろうかという少しの不安を抱えながら……。その後は置き場選び。大事なのは、“直射日光が当たらない場所に置くこと”。そして、“適度に風通しの良いところに置くこと” 。そこでわが家も、日が当たらず、風通しの良い場所にスペースを作り、原木を置き、来年の秋を待つことにしました。原木が乾燥したかなと思った時に、霧吹きをかけ乾燥しないようにしていました。

4カ月たった今も、芯に水がしみ込んでいます

現地での作業の後、ずっと前に駒打ちしてある“ホダ木“も一緒にもらうことができました。持ってみると、駒打ち直後の原木と違い、とても軽くなっている!と思っていると、愛護会の方が「水をあげていれば、この春、出てくるよー!」と言います。秋の実りと思っていたシイタケ、実は季節を問わず15℃以下の適温でぐんぐん育つそう。そのため、育つ時期は、春と秋。春にも、シイタケが採れる!

 

しかし、わが家に持って帰ってきたシイタケは、待てども、出てくる気配がなく2カ月過ぎ、春休みに入りました。桜の花も咲き始め、温度的には適温になってきたようにも思えたけれども、まだ、出てきません。そんな時に一緒に作業を行ったご家族から報告をもらいました。「シイタケが出てきて、おいしく食べられました!」と。早速聞いてみると、毎日お水をジョウロでたっぷりあげているとのこと。それからは水を毎日あげました。そして、風あたりが少し弱くなるように、より低い位置に置いてみました。1カ月たつと、ニョキニョキと顔を出してくれました。自然の力ってすごい!と、無事に春にシイタケに出会えたことに感動しました。

ニョキニョキ出てきて、柔らかいうちに収穫するのがよいかもしれません。その代わり、少し小ぶりな時期での収穫となりました。それでも、塩をかけて、オーブントースターで焼いたら、とっても柔らかくおいしかったです

それぞれの家で育てられたシイタケたちは、出てくる時期もさまざま、一つひとつのシイタケの成長のスピードもまちまちです。一緒に作業したご家族からも「シイタケは適温を自分で判断して出てくる」と、伺いました。シイタケにも好きな場所がある、成長したい時期、成長すべき時期を捉えて一気に出てきたりするんですね。成長の過程を日々見られたことで、一層身近に感じたシイタケの存在。びっくりするくらいグングングングン成長してくれたことを通して、植物たちの生命力も肌で感じました。子どもたちも学校に行く前、遊びに出かける前に毎日、霧吹きでシュッシュッと水を吹きかけてくれました。「かわいいなー」って言いながら。「小さなシイタケ出てきたよ!」と報告してくれたりもしました。5月末のこの記事を書いている現在は、何事もなかったかのように押し黙って、出てくる気配を見せなくなったシイタケ(笑)

そして、自分たちで駒打ちしたシイタケに会えるのは、1年半後。もう一つの楽しみはまだ少し先です。

Information

新治市民の森愛護会

HP:http://niiharu.la.coocan.jp/index.html

 

にいはる森工房のイベント「森の工作」1~2カ月に1回開催

次回は「そうめん流しセット作り」7月16日(日)10:00-12:00

詳細は愛護会HPをご確認ください。

 

※シイタケの“ホダ木”作りの情報は愛護会HPで随時更新。

「子ども森の日」年4回開催(春祭り、夏祭り、秋祭り、冬祭り)の中で行うこともあります。

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この記事を書いた人
田中友貴ライター
横浜に越してきて、たくさんの緑に囲まれて過ごし、季節の移り変わりをいっそう感じるようになりました。わが子たちも、自然とともに育ちあっていてます。最近の興味は、キャンプ、食育、バトミントン、畑での野菜作りなど。家庭菜園も始めてみたいと思っています。
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