横浜市にはところどころに田んぼがあって、農地とはいえ住宅地の中にある緑の空間をとても心地よく感じています。気になって横浜市の耕作地について調べると、市全体の面積の6%、水田はその耕作地のわずか5%でした。そんなにも限られた場所だったとは……。(農林水産省_わがマチ・わがムラ(市町村データ))
米作りをしている三澤元芳さんとお父様の芳夫さんにお話をできるという機会を得て、青葉区奈良町の三澤総合農場に出かけてきました。森ノオトでもたびたび登場する三澤さんは横浜市青葉区で代々続く農家さんで、田奈地区に二町三反(2.3ha)の農地のうち六反で米作りをしています。神奈川県の奨励品種「はるみ」を約3トン栽培しています。そのお米は皇室献上米にもなったというすごい方々なのです。
三澤さんは高齢で農作業が難しくなった方の土地を引き受けることがあるそうです。
「畑は一枚やめてもやっていけるけど、田んぼは水の流れがつながっているから隣り合った田が一枚抜けたり、荒れたりしちゃうと困るんですよ」と元芳さん。
水田は平らだと思い込んでいましたが、水が流れやすいよう一枚一枚に傾斜があり、勾配がつけられ、それぞれの田に水がいきわたるよう精密な整備が施されています。
集合した水田を見ることが多いのは、そんな理由もあったのですね。
そして、田んぼに引く水にまつわるお話を田奈の水利組合の連合会の副会長をやっている芳夫さんが教えてくれました。
「田奈には水利組合が15あって、その組合員で年に一度ポンプを清掃して運営しています。組合員は田んぼ1反いくらというように組合ごとに水の利用料を払っているんですよ。
米作りには水が一番大切。昔は上流の川から自然流水していたけど、東急こどもの国線・こどもの国の駅前に駐車場ができて、その上にあった奈良川から水を引けなくなり、横浜市が井戸を作ってくれて、ポンプアップするようになったんだ」。
それは約60年前の出来事ですが、田奈地区の農業は大きく変わってきたようです。
横浜市内の主要な米の産地でもある田奈地区では、当時のJA田奈に2012年米の乾燥施設が創設されました。
「(田奈で創設された理由について)米は自分で作らなきゃってこだわっている、普通じゃない人間が大勢いたんだな」と笑う芳夫さん。
その穏やかな声にはご自身も含めた農家としての矜持を感じるものでした。「やっぱり自分で食べる米は自分で作りたい」とも。
「購入すると高額な田植え機やコンバインはJAから借りています。米の乾燥施設もある。こういった機械の貸し出しや作業受託をしてくれること(田植えや稲刈りなどの農作業を代行してくれる仕組み)は、水田を続けていくための力になる。ただ、作業受託の値段(経費)がお米の価格より高くなってしまうと、なんのために米作りをやっているか分からなくなるから、作業受託はお米の値段から換算することになるんだと思う」と元芳さんは言います。
JA横浜では農機具の貸し出しが集中しないよう、種まきの頃から3週間くらいに分けて農家に貸し出しているそうです。そうすると、収穫時期にもコンバインの貸し出しが集中しないそうで、農家を支援するシステムが充実しています。
さらに、約2トンの米を乾燥できる施設も、生産者ごとに貸し出しが行われます。
「例え500キロの米だとしても、生産者ごとに乾燥されますよ」と元芳さん。
乾燥機の許容量いっぱいまで米を入れれば早くたくさんの量を乾燥できるのでしょうけれど、そうではなく、生産者の名前を出して売れるようになっている仕組みに、いかにも横浜の農業らしいスタイルだと新潟の米農家で育った森ノオトの松園さんも驚いていました。横浜市で栽培されている米の量が米どころと比べて少ないこともあるのかもしれませんが、乾燥の方法一つとっても、地域によって米の取り扱いが変わっていくのですね。
そして、三澤家の米のこだわりを元芳さんが明かしてくれました。
「今は乾燥機もよくなってね。タイマーがあるから機械を止め忘れて米を乾燥させすぎることもないよ。最初の半日くらい送風にして、そこから熱をかけながらゆっくり乾燥させていく。乾燥機を借りることもできるけど、時間をかけて乾燥したいから乾燥機だけは購入しています。目指す米の水分含量は14.5%。15%以上になると貯蔵性が落ちるんですよ」。専門的なお話を丁寧に教えてくださる元芳さん。おいしい米を作るためにできる手間を惜しみません。
種籾(もみ)から苗を作り、それを田に植え付けて、その後は水管理のために毎日田んぼを見に行くという芳夫さんは、
「米の産地なら、水管理もセンサーとかで遠隔管理されているかもしれないけれど、こちらでは堰(せき)を石で止めていて、手動で水やりをしています。今年みたいに雨が降らないと限られた水を農家同士で分け合って使わないといけないんで大変です」とご事情を教えてくれました。
横浜に田んぼが残っていくために私たちができることはあるのでしょうか?
元芳さんからは「やっぱり地元の米を食べてほしい。新規就農で米作りをする農家さんもいるにはいるけれど、工程が多く、毎日の水管理などなかなか大変で、始める人は少ない」と返ってきました。
続いて芳夫さんは「横浜の米を買ってもらえれば励みにもなるし、米がおいしいよって言われるとうれしいね」。
増えていくことは難しいけれど、今ある田んぼが続いていくためにできることはあるようです。
最後に、元芳さんは「まだ形にはなっていないけれど、災害時にJAと農家仲間で地域の人たちにお米などを提供できるシステムを築きたい」とのことでした。
「おいしいって言ってもらえるとうれしい」、「おいしいと言ってもらえると信じて作っているよ」という三澤さんのお顔がとても明るく、心に残りました。
そして、ふと米や野菜を食べて、おいしいと作り手に伝えられていないことに気づきました。直売所で買う機会があれば、その方々にメッセージを伝えるチャンスかもしれません。「おいしい」のお礼だったり、「こういうものが欲しい」の要望だったりを。
また、元芳さんの語る防災の面からも、近くに生産の場があることはなんて心強いことでしょう。だからこそ横浜の農業や米作りが続いていってほしいと祈りにも似た気持ちがこみ上げてきました。
住宅街に広がる癒やしの緑の空間としてもずっとあり続けてほしいと願うのです。
<三澤さんのお米が買えるお店>
「ハマッ子」直売所四季菜館
住所:横浜市青葉区田奈町52-8(田奈支店敷地内)
TEL:045-507-4593
営業時間: 10:00-17:00
定休日:毎月第1火曜日 年末年始
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