やりたい!作ってみたい!!を全力で応援。みんなの夢を叶えた「はじめての絵本づくり応援講座」
水彩絵に切り絵、仕かけ絵本……。多摩図書館の手づくり絵本展には、作風も表現も自由な世界にたったひとつの絵本がずらりと並びました。すべて、川崎市多摩市民館の「はじめての絵本づくり応援講座」でまっさらな状態からつくられたもの。夢中になって生み出された作品の輝きとともに、「孫のために」「母のために」という絵本の紹介文にも惹かれ、関係者のみなさんにお話を聞いてきました。

2023年10月、川崎市多摩市民館で開講した「はじめての絵本づくり応援講座」。募集開始は、ひと月前の9月でした。募集開始日の午前10時前には市民館の窓口に人が並び、10時をすぎると電話が鳴り続け、またたく間に満席になったというのです。始まる前から熱気がほとばしり、関係者も驚くほどの期待を集めて、その講座は始まりました。 

スミナツコさんデザインのモノクロのチラシは色を塗って楽しめる遊びゴコロが。展示会で飾られたバージョンがこちら

川崎市の市制100周年のプレ事業として今年度、市内の各区で絵本づくりの講座が行われました。「絵本づくり」とひと口に言っても、講座のかたちは区ごとにさまざま。多摩区の場合は、多摩区市民館の職員・篠原さんが、本を起点にしたコミュニティづくりをしているスミナツコさんを訪ねたことから企画が動き出しました。市民館の柴田さんも加わって企画を練り、講師はスミさんと仲間のneneさん、日下淳子さんの3名で担当することに。スミさんはグラフィックデザイナー、neneさんはイラストレーター、日下さんは編集者というそれぞれ分野の異なるプロフェッショナル。あらかじめ型を決めて完成させるスタイルもある中で、この講座は、「一人ひとりのほんとうのオリジナル絵本づくり」を目指しました。講師の3人にとっても、大勢の人に絵本づくりを教える初めての挑戦だったと言います。 

制作ワークショップでは3人の講師が丁寧に寄り添いました(写真提供:多摩市民館)

講座には、小さな赤ちゃんを育てる女性やご夫婦からお孫さんがいる方まで、多世代の方がそれぞれの思いを胸に集いました。「絵本の表現方法を知る」「伝わる文章のコツを知る」という2回の座学を経て、10月下旬から約1カ月かけて、4回の絵本づくりワークショップがありました。 

 

物語文に絵をつけるのが絵本ではないので、絵から始めてもいいし、文章がなくても、仕かけ絵本でもいい。自由な気持ちでつくってくださいね」。絵本づくりのスタートに、講師からはそんなお話をしたそうです。1回2時間のワークショップが全部で4回。最後には作品を展示できるように、完成させることが目標です。「自分の中で完結するのではなく、発表の場を設けて、できたものに共感してもらうということがとても大切だと思っています」とスミさん。アイデアがまったくない場合を踏まえて、型も事前に用意していたそうですが、出番がないほど受講生のみなさんの熱意が高かったそうです。 

講師がいろんな表現をアドバイスして、絵本づくりをサポートしました(写真提供:多摩市民館)

それでも、中には「絵が描けないんです……」という方も。親子向けのお絵描き遊び教室を開催しているneneさんは、「自信のない子もたくさん見てきましたが、絵を描けない人はいないって信じているんですよね。描き方よりも、自信をもってもらうことが大事だと思っています。講座では、たくさんの道具を見せながら、絵でなくて、ピンク色を塗っただけでも気持ちが伝わるよ、というお話もしました」と話します。「自由につくるからこそ難しさを感じつつも、こちらのアイデアを受け取って、それならできるかも!と思いを形にしていくときの表情の輝きを目にしました。絵本づくりには、いろんな方のドラマがありました」とneneさん。 

 

 

「学生のころからずっと絵本をつくりたくて」「30年越しの夢を叶えたい」。受講生の中には、絵本づくりへの思いをずっと温めてきた方も。 

 

「生活に追われる中で、この絵本を描ける時間が幸せだった、大人になってこんなに夢中になれることはなかった、と言ってくださる方がいて、じーんとしました。絵本をつくりたいとずっと思っていたけれど実現しそびれていた方もいて、必要なのはきっかけや仲間だったのかもしれません」。そう話すのは、日下さん。 

 

 

伴走してくれる講師の励ましやアドバイスに背中を押されて、一緒に受講した仲間たちと和気あいあいと工夫を重ね、“届けたいだれか”への愛のあふれる作品たちが生まれました。 多摩図書館で2月8日〜26日まで開かれている絵本展には、受講生と講師、職員の作品を合わせた18点の手づくり絵本が展示されました。 

 

どんな作品が生まれたのでしょうか。 

こちらは、おばあちゃんの子どものころの春夏秋冬の遊びを絵本にしたもの。ヨモギつみにシロツメクサ遊び、ホタル狩りに群れる赤トンボ……。おばあちゃんが子どものころに見ていた心の風景が、絵からありありと伝わってきます。季節とともにある豊かな遊びを通した、未来への願いがやさしくあたたかく、心にしみ入る作品でした。

装丁も講師にアドバイスを受けながら完成させた思いのあふれる作品たち

「はじめての」と銘打った講座にもかかわらず、講師もびっくりするほどの出来の作品たちが生まれました。こちらは、小さな女の子を育てる女性の切り絵の仕かけ絵本。ページを開くと、洋服を選ぶこと、おしゃれをしてお出かけすることの楽しさが、オリジナリティあふれる仕かけで表現されています。 

作風はまるで自由……。講師に相談しながら思いを形にしました

 

レーザーでつくったという仕かけ絵本はネコ好きにはたまらない魅力たっぷり

一人ひとりが、絵本を形にしていくプロセスを講師のみなさんはどんなふうに見つめていたのでしょう。「思いの伝え方っていうのは言葉が一般的だけど、みなさんの創作を見ながら、一冊の絵本という形にして伝えるっていう手段があったんだなと思いました。丁寧に自分を見つめ直す機会になり、自分のお母さんや、孫に、娘に……と、いろんな形で思いを一つの作品に仕上げるのを見させていただいたなって思います」とスミさん。 

 

 

「寄り添ってくれる講師でないと、ここまで来られなかったと思います。自分の思いを文字にすることの恥ずかしさもあったと思います。いいよ!いいよ!と励ましてくれて、気軽に聞ける講師陣がいたことで、受講生の方も少しずつ自分をさらけだし、自分の表現が素直に出てきたんじゃないかと思います」と市民館の柴田さん。実は柴田さん自身も、講座を通して勇気づけられた一人。講座の最終回でみなさんのつくった本の紹介に感動して、自分でも絵本をつくってみることにしたのだそう。「まさか自分でできると思っていなかったんですが、みなさんにエネルギーをもらって」と柴田さん。多摩市民館のおしごとを題材にした、市民館への愛のあふれる絵本をつくりました。 

多摩市民館の柴田さん、講師のneneさん、スミさん

市民館の柏原館長も、こう振り返ります。「市民館の役割である人と人とのつながり、みんなで一緒に学ぶことのツールとして絵本がありました。講座終了後のアフターがあったり、展示に向けての交流会もあったりと、講師のみなさんの熱意に支えられてここまでこぎつけられました。SNSでの発信もあり、広がりがすごかったなというのがこの講座の力です」。これに終わらず、次年度は市制100周年記念事業として、手づくり絵本の作品展を企画しているそうです。 

講師と受講生のみなさんで文化祭のような雰囲気でワイワイと作った絵本展の装飾

「絵本づくりを通して、普段出会わないおばあちゃんたちと絵本づくりをできたのもとっても楽しかったです。展示会の準備も、文化祭なんて何年ぶりなんて言いながら、みんなで一生懸命な姿がほほえましかったです。年代が違っても、絵本が好き、つくりたい、という人と交流できてよかったです。みんなで一緒に目標に向かってつくる、というのがすごくよかった」とスミさん。 

絵本展の会場では受講生の方や講師のお知り合いの方も次々と見にきていました

取材を終えて絵本展の作品を眺めていると、次々と人が訪れ、じっくりと作品を手に見入っている姿がありました。展示された絵本を見て「やっぱり私も…」と背中を押される方がいたり、はじめての絵本づくりを通して、ずっとやりたかった絵の仕事を始めたいという方も。ひとつの創作のエネルギーがその人の中で満ち、外に向けてめぐりめぐっているようでした。講座は終わっても、その余韻はきっと広がり続けることでしょう。講師陣と主催者との熱意ある協働によって講座に命が吹き込まれ、人と人との励まし合うあたたかなつながりが生まれ、一人の人生をエンパワーしていくこの企画に、心からの拍手を送りたい気持ちです。 

Information

はじめての絵本づくり応援講座【市制100周年記念プレ事業】

(講座は2023年10月5日~11月30日に開講し、終了しています)

https://www.city.kawasaki.jp/tama/page/0000152522.html

 

 

多摩市民館×多摩図書館 連携企画「手づくり絵本展」

2024年2月8日(木)~2月26日(月)
川崎市立多摩図書館 館内特集展示コーナーにて開催
https://www.library.city.kawasaki.jp/images/upload/tezukuriehon.pdf

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この記事を書いた人
梶田亜由美ライター
2016年から森ノオト事務局に加わり、AppliQuéの立ち上げに携わる。産休、育休を経て復帰し、森ノオトやAppliQuéの広報、編集業務を担当。富山出身の元新聞記者。素朴な自然と本のある場所が好き。一男一女の母。
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