「NPO法人フードバンク横浜」が食糧支援で、助け合いのサイクルを生み出していく。
もしも家族の誰かに不測の事態が起きたら…… 。自分自身が体調を崩したら……。少し立ち止まって考えてみると、相対的貧困は誰しもに起こり得る身近なことだと気づきます。私たちの暮らしは、実は綱渡りをしているような状況なのかもしれません。
より貧困を深く理解し、今の自分の立場だからこそできることを何か。今回、「NPO法人フードバンク横浜」の食糧支援の活動に参加させていただきながら、ボランティアスタッフの方や理事長の加藤安昭さんにお話を伺いました。(ライター養成講座2024修了レポート:菊村夏水)

「人間、お腹が満たされていれば何とかなるんです」

 

NPO法人フードバンク横浜の理事長、加藤さん(アイキャッチ画像右)が取材中におっしゃった一言がずっと頭の片隅に残っています。

 

加藤さんの言葉を聞いた時、空腹時に感じる無気力感を思い出し、ハッとさせられました。

 

実はOECD(経済協力開発機構)の2021年の相対的貧困家庭の割合を見ると、日本の相対的貧困家庭の割合は先進国の中で最も高くG7中でもワースト1位なんです。(※1)

 

厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、日本人の6人に1人は相対的貧困にあたるそう。(※2)

相対的貧困とは、生活状況が自分の所属する社会の大多数よりも、相対的に貧しい状態を指します。

 

※1 OECD「Poverty rate」

※2 厚生労働省「各種世帯の所得等の状況(p.6)」

食品食材の支援のほかに寄付金の支援も受け付けています

今の自分の立場だからこそできることは何かを考えたい。

そう思い立ち、ひとり親への食糧支援を主な取り組みとして活動されている「NPO法人フードバンク横浜」の食糧支援の活動に参加させていただきました。

この日に参加されたボランティアスタッフのみなさん

「NPO法人フードバンク横浜」が活動を開始したのは8年前の2016年です。

元々、ボランティア仲間だった理事長の加藤さんと副理事長の李素萍さんを中心に団体を結成しました。

 

食糧支援の対象者は横浜市の「児童扶養手当」を受給されている方で、HP上の「お問い合わせ」から支援受給の相談をすることができます。

 

横浜市中区から始まった活動は、徐々に範囲を拡大。

今では中区・神奈川区・戸塚区・港南区の計4区でそれぞれ月1回ずつ行っています。

支援対象者の方は事前予約をすることで月に1度、最寄りの区で支援を受けることが可能。

 

食糧支援から始まった活動は広がりを見せ、学習支援や専門家による生活相談支援を行っていたことも。

 

「目の前の人の困り事を解決しようと取り組んでいたら、自然と活動が広がっていきました」と理事長の加藤さん。

ボランティアスタッフの方はロゴが入ったチョッキを着用します

私がボランティアとして参加したのは3月の中旬で現場は、活動を始めた最初の地域でもある中区。

 

ボランティアスタッフの方が集まると、車に積まれた支援品を会場まで運ぶことから活動が始まりました。

 

支援品は事前に支援団体やフードドライブを通して集め、倉庫に保管。

支援日に倉庫から会場へ運搬し、支援受給者の方が選びやすいように陳列していきます。

 

気づくと会場にはたくさんの支援品が。ジャンルは食料に限らず洋服や書籍、化粧品など多岐に渡ります。

家庭や企業等にある賞味期限までに食べきれない食品を持ち寄り、必要としている方や団体などに寄付する活動。「NPO法人フードバンク横浜」では定期的に横浜市の各所にブースを設け食品の受け取りを行っている

時間になると、支援受給者の方が順番に入場し始めました。

ジャンルごとに分けられた支援品から、必要なものを選んでいきます。

 

任せてもらった当日の業務に必死になっていると、ボランティアスタッフの方や支援受給者の方とコミュニケーションをとる余裕もなく、あっという間に過ぎ去っていく時間……。

乳幼児から大人用までさまざまなサイズの洋服が並び、バッグや靴もありました

「足の具合はいかがですか?」

 

ボランティア業務に慣れてきた頃、ふと耳に入ってきた声。

 

顔を上げてみると、そこには受付を担当しているボランティアスタッフの新藤さんと支援受給者の方の姿が。

 

新藤さんは数カ月前に事故に遭い、足を怪我。幸い大きな怪我にはならなかったそう。

 

「だいぶ良くなってきました」と微笑みながら答える新藤さん。

何気ない身の上話に心がジワっと温まります。

 

さらに耳を澄ませてみると、あちらこちらからボランティアの方と支援受給者の方の会話が聞こえてきました。

 

「〇〇ちゃん大きくなったね!」とお子さんの成長の早さに驚く声から、

「仕事で悩んでいて」とボランティアスタッフの方に悩みを打ち明ける声も。

 

支援現場には物質的な食料の支援に加え人のつながりがあり、支援受給者の方にとって時にそれは精神的な心の支えとなっているように感じました。

さまざまな団体・個人から寄付が寄せられるため、バラエティ豊かな支援品が並びます

新藤さんの手元の資料に目を落としてみると、数カ所に「卒業」の文字が。

 

「これは……」と優しい微笑みを浮かべて言葉を続ける新藤さん。

 

「お子さんが高校を卒業すると同時に支援も卒業となるんです。(取材日は3月中旬)うれしいようで寂しいですね。こちらは卒業される方からいただいたもので……」

 

そう話しながら見せてくれたのは、お菓子の紙袋。

お菓子の紙袋を見つめる進藤さんのうれしそうな表情に思わず頬が緩みます。

この日は二組が卒業されました

「支援受給者のお子さんが大きくなった時に、ボランティアスタッフとして活動に参加してくれることがあります。今度は自分が困った人を助けたいと医者を目指して勉強を頑張っているお子さんも何人かいるんですよ」と話しながら目を細める理事長の加藤さん。

 

支援を受けたお子さんが、支援をする側に。

困った時に助けてもらった経験が、困った人を助けたいという思いに。

 

辛い時の経験は、時としてその人の人生を豊かにするのかもしれません。

誰かが寄付した食料がお腹を満たすことで行動の原動力となり、助け合いのサイクルを生んでいたのです。

お子さん向けの絵本類

「個人で少量の食糧支援をしても意味があるのだろうか」。

現場にボランティアスタッフとして参加するまでは、そんなことを考えている自分がいました。

 

ですが支援活動を通して、食糧が行動の原動力となり、現場で交わされるコミュニケーションが、時には受給者の方の心の支えになっていることを実感しました。

 

その積み重ねの結果、助け合いのサイクルが生まれています。

少量の食糧支援だとしても、私たちはそのサイクルの一員になることができるのだと実感しました。

ボランティアスタッフの方が提供したお菓子も支援品として並んでいました

ボランティアの帰り道、気づくと近隣で行われている「食糧支援」や「フードバンク」について調べている自分。

 

何度もボランティアに参加することは現状難しいですが、まずは自分のできる範囲から。

一人ひとりの小さな積み重ねが、助け合いのサイクルをさらに大きくしていきます。

 

そしてそのサイクルは、巡り巡っていつか私たちを助けてくれるかもしれません。

Information

団体名: NPO法人フードバンク横浜

住所 : 横浜市神奈川区 栄町 16-1 アミティ横浜304

HP URL : https://www.fbyokohama.jp

*支援、ボランティアを希望される方は、HPの「お問い合わせ」からご相談できます。

電話番号 : 045-512-4965

名前:副理事長 李 素萍 様

メールアドレス: food_aid@fbyokohama.jp

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