わが子が2時間、アートに夢中! 「子どものためのプログラム」の秘密
あざみ野駅から徒歩7分。「横浜市民ギャラリーあざみ野」の3階アトリエでは、子どもたちが思わず2時間もアートに集中してしまう「子どものためのプログラム」が開催されています。
そこは一体どんなアトリエなのか?プログラムにはどんな工夫が?
子どもの「こんなことをしてみたい」に全力で応えるエデュケーターの大山元菜妃(おおやま もなみ)さんにお話を伺いました。(ライター養成講座2024修了レポート:中津理恵)

皆さんは、「横浜市民ギャラリーあざみ野」を訪れたことがありますか?アートフォーラムあざみ野(男女共同参画センター横浜北との複合施設)内には、実はさまざまなアートが広がっています。2つの展示室では、訪れた人たちが思い思いに作品と向き合っています。昼にパン屋さんが訪れる日もあり、ホワイエでお茶をしながら談笑している人も。日曜の夕方には、ロビーコンサートなどで使用されているグランドピアノが一般の方に開放され、心地よい音色が建物全体に響きます。時間の流れがちょっぴりゆったりと感じられ、自分の気持ちや感情にじっくりと向き合えそうな場所です。

あざみ野駅からゆるやかな坂を上っていくと、見えてくる真っ白な建物。中に入ると、吹き抜けが気持ちいい、開放感あふれる空間が広がっています

そんな横浜市民ギャラリーあざみ野のアトリエで開催されている「子どものためのプログラム」と出会ったのは、昨年の夏に子どもが産まれて、少し経った頃でした。無性に大きな絵とふれあいたい、でもまだ電車に乗るには、小さすぎた娘。そんな時に夫が「バナナと鮭の面白い絵が近所で見られるらしいよ」とSNSを見て教えてくれました。開催されていたのは「あざみ野コンテンポラリーvol.14 長谷川繁 1989-」。途中で子どもが起きてしまったらすぐに帰ろう、とドキドキしながらベビーカーで向かいました。

 

そんな心配をよそに、お子さんも一緒にゆっくり観てもらって大丈夫ですよ、と言われた展示室。館内には保育室を兼ね備えた、子どもたちがイキイキと遊ぶ「子どもの部屋」。

久しぶりに家以外の広い空間で過ごし、親子でも気兼ねなくアートにふれていいよと肯定されたようでうれしくなりました。帰り道、入り口に置いてあったアート関連のパンフレットをいただいた中に、「子どものためのプログラム」の資料がありました。

 

表紙には、「まずはゆったりとした時間の中で自分と向き合い、『こんなことをしてみたい』という気持ちに出会うことが大切です」と書かれていました。

 

ゆったりとした時間を過ごせるアトリエってどんな場所だろう?

子どもたちが自ら「つくりたい!」と思うプログラムをつくっているのはどんな人だろう?

すっかり「横浜市民ギャラリーあざみ野」に魅了されながら、美術館教育のプロたちが真剣に子どもたちと向き合っている現場を見せていただきました。

 

 

秘密①:子どもが全力でアートに向き合えるアトリエ設計

 こどものためのプログラム「木でお道具箱をつくろう」が始まる30分前にお邪魔したところ、子どもたちが使う材料や道具について相談しあっている横浜市民ギャラリーあざみ野の大山さんと、講師のこいちりょうじさんの姿がありました。

プログラムが始まるギリギリまで、用意した材料で子どもたちの想像力が湧くだろうか、安全だろうか、と材料の選別や、道具の確認を行っていました

そもそも3階のアトリエは、横浜市民ギャラリーあざみ野が建てられる時点から子どもたちが使う前提で設計されたそうです。元々横浜美術館の「子どものアトリエ」・「市民のアトリエ」の運営で、ノウハウを活かして、必要な設備を洗い出し、子どもも大人も安全に楽しく使える理想のアトリエがつくられました。

アトリエの中も、外の広場にも、お湯が出る水道がつくられています。寒い季節でも思いっきり絵の具で遊べます

秘密②:約半年かけてじっくり練られる、アートプログラム

年間に行われる10本以上のプログラムは、子どもたちが夢中になれて、安全に取り組めるように、全て横浜市民ギャラリーあざみ野に勤める教育普及事業を担当するエデュケーターが中心となって考えています。

毎年秋頃から、年中・年長・小学生と、年齢別にできることや使える道具をベースにしながら、来年度のプログラムの案を練り始めます。あらかた決まったら、それぞれのプログラムに合った講師探し。講師が決まったら、プログラムのアイデアをさらにふくらませ、講座の2、3カ月前には机をどう配置するか、材料や道具は何を使うか、しっかり話し合っていきます。

 

特別な道具以外、材料や道具は器材室にすべて揃っていることも、ここの強み。プログラムがスムーズに安全にできるために、材料は十分に用意されています。

なんでもつくれそうなくらい、豊富な種類の画材、材料が揃えられている器材室。アイデアがたくさんわいてきそうです

いよいよプログラムが始まると、使用する道具や材料と、今日つくるものについての説明が丁寧に行われます。大人しく聞いていた子どもたちも、早くつくりたくてだんだんウズウズ。さあ、つくっていいよと言われると、パッとみんな思い思いに材料を選び、夢中でつくり始めました。

見慣れない道具に子どもたちは興味津々。講師の方の話を聞きながら、何をつくりたいか想像を膨らまします

秘密③:正解のない、子どもたちへの慎重な声かけ

印象的だったのが、プログラムが始まるときに、講師のこいちりょうじさんが子どもたちへかけた言葉でした。

「自分でできる限り考えること。どうしても分からなくなったら、その時に大人に聞いてみてください」

子どもたちの「こんなことをしてみたい」と言う気持ちをとにかく大事にしているからこそ、その自主性を重んじる声かけの工夫を、大山さんが教えてくれました。

 

「例えば、長い紙が用意されてて、それを貼っていいよ、と言ったときに、子どもたちから『切っていいんですか』『折っていいんですか』という質問が出ると思うんです。つくる前に、切っても折ってもいいよ、と言った方が親切ではあるけれど、子どもが自発的に折ってみちゃおうかな、とやってみてから、そこにいるみんなに『こんなふうに折っていいんだ』って初めて発見してもらうようにしています」

 

子どもたちの自主性を大事にする一方、つくりながら悩んでいる段階の声かけはかなり難しいと言う大山さん。

「こちらからこうしていいよって提示してあげるタイミングなどは、正解がありません。毎回、プログラムが終わった後は、反省会。あの時、ああ言ってよかったのかな〜と、考え始めると止まらなくなります」。

子どもたちに釘の打ち方を聞かれて、手伝う大山さん。子どもたちができた!と言うまで粘り強く付き添っていました

大人の声かけ次第で、子ども本人の「やってみたい」という気持ちが削がれてしまわないよう、いつも脳みそをフル回転しながら慎重に声かけをしているそうです。

 

 

美術館教育専門の「エデュケーター」とは

そんな大山さんの職種であるエデュケーター。プログラムづくりから、道具や材料の準備、子どもたちへの声掛けまで、幅広く携われています。

「学芸員という職業は聞いたことがあるかもしれませんが、エデュケーターという言葉は聞いたことがない方も多いかと思います。教育普及と呼ぶことも多いですが、要は美術館教育の専門職です。美術館の規模によっては、学芸員が、展覧会の企画や作品の研究・管理、教育普及、広報等あらゆる仕事をこなしているところもありますが、横浜市民ギャラリーあざみ野が属する横浜市芸術文化振興財団は美術館教育に特化したエデュケーターがたくさん在籍しています。」

ご実家が子ども向けのスポーツクラブを営んでいて、幼児教育が身近だった大山さん。大学で学んだ美術と幼児教育がつながるのは自然なことでした

「子どものためのプログラム」で出会う、見たことのないわが子の姿

木に穴を開ける道具が人気で行列ができていました。鉛筆差しにしたり、飾りにしたり、アイデアでいっぱい

 

ある机ではブロックを積み重ねるのが流行ったり、別の机では穴をたくさん開けていたり。子どもたちが影響し合うのも、同じ場でつくるおもしろさの一つです

疲れたら少し休憩してね、と声をかけられる子どもたち。はーい、と言うものの、誰一人手を休めません。部屋の熱気がどんどん上がる中、終了時刻をすこし延長して、約2時間、全員が集中して作品づくりに取り組んでいました。

 

「もう本当に、子どもたちの集中力とパワーがすごくて、全然休憩してくれないんです(笑)」。

全力で子どもたちと向き合い、汗をかいた大山さんが、少々疲れながらもうれしそうに話してくれました。

 

「親御さんが、この子はこういうのが好きなんだ、こんなに集中できるんだって、わが子の知らない面に気づく場面には何回か遭遇しています。また、『親子で造形ピクニック』(障がいのある子どもたちのためのプログラム)で、材料に触りたがらなかった子が、筆を持って描くことができた、自分から進んで手に絵の具をつけてみた、そういう本当にちょっとのことだけれど、子どもたちが自分で『できた』と感じられる場として、『こどものためのプログラム』をこれからも継続していきたいと思います」

次々とできあがった個性的なお道具箱。どこに何を入れるか考えるのも楽しそうです

同じ材料からつくったはずなのに、一人ひとり全く違うものができあがり、圧巻です。大人が思いつかないようなアイデアがたくさん披露されて、大盛り上がりでした。

大山さんとこいちりょうじさんの綿密な打ち合わせと見守りの結果、誰も怪我をすることなく、大盛況でプログラムは終了しました。

 

子どもたちの「こんなことしたい!」という気持ちに夢中になれる「子どものためのプログラム」。

ちょっとやってみようかな、これをつくってみたいな、という子どもたちの気持ちに、真剣に応えてくれる人たちと場所がここにありました。

自分ととことん向き合う子どもたちの姿を見ていると、大人も「こんなことしたい!」という気持ちがワクワクわいてきますよね。もちろん、大人が参加できる「市民のためのプログラム」も横浜市民ギャラリーあざみ野にはあります。

子どもは油絵に挑戦、大人は陶芸体験、なんて休日も過ごせちゃいますよ。

Information

横浜市民ギャラリーあざみ野アトリエ 子どものためのプログラム

2024年度のプログラムの詳細・開催日はこちらからご確認ください。

https://artazamino.jp/series/for-kodomo

 

会場:横浜市民ギャラリーあざみ野 3階アトリエ

申し込み方法:「子どものためのプログラム」ホームページの申し込みフォームから申し込むことができます。※応募多数の場合は抽選です。

参加費:それぞれのプログラムに準じます。

 

・プログラムの一部では、開催時間中に「子どもの部屋」の一時保育(事前予約制、対象年齢:1歳6カ月〜未就学児)を主催事業保育料金にてご利用いただけます。

※男女共同参画センター横浜北とNPO法人こども応援ネットワークが協働で運営。

※該当イベントには、市民ギャラリーあざみ野サイト内に「保育あり」と記載。

※2カ月〜1歳5カ月児の保育につきましては要相談。

詳細: https://www.women.city.yokohama.jp/a/nursery/

 

お問い合わせ

横浜市民ギャラリーあざみ野(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)

〒225-0012

横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 アートフォーラムあざみ野内

Tel:045-910-5656

Fax:045-910-5674

E-mail:info@artazamino.jp

Web:https://artazamino.jp/

Instagram:@artazamino

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この記事を書いた人
中津理恵ライター
子どもをきっかけに、地域と関わることが増え、もっと街を知ってみたいと森ノオトに参加。子どもとその家族が楽しく暮らせるヒントをいつも探しています。美術館と、空の下で食べるごはんのためのキャンプと山が好き。できれば毎日10時間眠っていたい。
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