家庭から生まれる特別な味「お菓子工房yamamoto」
「お菓子工房yamamoto」。店舗はなく、限られたイベントやSNSからのオーダーでしか出会えないそのお菓子は、一度味わうと忘れられないとファンを魅了しています。家族のために研究を重ねた優しい味は、店主の思いとともに、口の中で広がります。

お菓子工房yamamotoは、横浜市青葉区の住宅街に自宅工房がありますが、店舗はありません。注文を受けたお店に期間限定で卸したり、マルシェで販売したり。SNSで依頼を受けてから製作し、お渡しするという販売スタイルのため、いつでも出会える、というお菓子ではないのです。

 

が、一度食べた人が、毎年記念日にリピートをしたり、友達のSNS投稿で見かけてオーダーするなど、口コミでファンが増え続けています。

取材したこの日作っていたのは、一番人気のモンブラン。栗が出回る8月末から仕込みを始める。20キロの栗を渋皮煮にするのが一番大変。でもその自家製渋皮から作るマロンクリームがおいしさの秘訣

実は、店主の山本真紀さんと私は、子どもが2〜4歳の頃、青空保育で一緒に子育てをしていた仲です。その頃の真紀さんは、ちょうど趣味でお菓子づくりを始めた頃。

当時は、ただ作るのが楽しく、お菓子づくりがストレス発散だったと言います。

真紀さんは、6年生の男の子と4年生の女の子のお母さん

子どもの集まりの時や、家に遊びに行くと、「ちょっと作ったから食べて」と、わが家では決して出てくることはない美しくデコレーションされた手作りのケーキや焼き菓子が、何事もない日常にポンっと振る舞われ、びっくりしたものでした。

 

その後、子どもたちの幼稚園が変わったため、なかなか会うこともなくなりましたが、ある時から頻繁に、真紀さん のSNSにおいしそうなケーキや焼き菓子が上がってくるようになりました。

 

ーとうとう、お菓子屋さんを始めたのねー

 

と、時々タイムラインに上がってくるお菓子の写真に、頑張っているなあと、親戚を応援するような気持ちで眺めていました。

 

実は、あの一歩を踏み出すことに、ものすごい葛藤があった、というのは、今回の取材を通して初めて聞きました。

 

お菓子を作ることが好きで、独学でひたすら追求し作り続けていた頃、友人から「お菓子は食べてもらうことが大事。食べてもらうための活動をしてみたらいいんじゃない?」と、ポロリと言われた言葉に、ハッとしたという真紀さん。

 

しかし、やってみたい気持ちはあるものの、誰もこないんじゃないか、誰かに笑われるんじゃないか、と怖くてなかなか踏み切れないでいたと言います。

 

そんな感情の機微の中で、やはりチャレンジしてみたい!と意を決し、友人たちに宣言することで後には戻れない状況を作り、2019年4月、「お菓子工房yamamoto」としてスタートしました。

 

お菓子工房yamamotoのお菓子は、添加物をなるべく抑え、体に優しいお砂糖を使っています。

ケーキの販売を始めてから、「ケーキが苦手なわが子が初めてケーキをパクパク食べる姿を見た」と言われるように

そんなお客様の声で初めて、子どもはみんなケーキが好きだと思い込んでいたところ、生クリームが嫌いな子どもも結構いるということがわかったそう。添加物が入っていると重たく感じることもあると知ったと言います。

何度も試作をしては、周りの子どもや親子に食べてもらい、研究し続けた中で気づけたこと(写真提供:お菓子工房yamamoto)

今でこそ、SNSからのお客様や取引先のお店などに恵まれ、安定して売り上げられているものの、ここにくるまでに何度も思い悩む時期がありました。

 

最初は、毎月テーマを決めてお菓子教室をしていましたが、オープンしたてこそ物珍しくて来てくれた友人たちも、だんだんと来なくなってしまいました。

そのうち、毎月作るケーキを決めて準備を重ね、お客様を集める、そこに疲弊していきました。

 

そんな頃、コロナ禍に入り自宅でのお菓子教室が開催できなくなったため、ちょうど良い機会と1年間お休みをしました。「この間、何も考えずに、純粋にただひたすら自分が作りたいお菓子を作ることだけを楽しむ時間は、とても充実していた」と言います。

やはり、自分はお菓子づくりが好きなんだということを再認識できたのも、一度立ち止まってみたからこそ。

改めて、好きなことを仕事にするにはどうすべきか考えようと、前を向けるようになりました。

 

活動再開のきっかけになったのは、友人に頼まれて開催した、いちごのロールケーキのレッスンです。

その友人がSNSで紹介してくれたこと、それを見た人から「うちでもやってほしい」と声がかかったことがうれしく、やはりお菓子で人に喜んでもらいたいと、メニューを増やし、技術を磨きながら、お菓子教室の機会も増やしていきました(写真提供:お菓子工房yamamoto)

 

2022年には、知り合いから声をかけてもらったことをきっかけに、マルシェでの販売も始めます(写真提供:お菓子工房yamamoto)

現在、お菓子工房yamamotoのお菓子は、菓子製造の許可をとった自宅工房で製造されていますが、この工房ができる前は、レンタルキッチンを利用していました。

 

レンタルキッチンは混み合っていてなかなか思うような時間に予約が取れず、予定が立て込むと子どもを寝かせつけた後、21時に出かけて夜中の2時に帰ってくる、そんな生活が続きました。

さすがにこれでは続けられないと、自宅にキッチンを作りたい旨を夫に相談したところ、反対されたと言います。

 

「家庭の中心は子どもであってほしい。お菓子づくりをするのはいいけど、もっと家庭に向き合ってほしい。今の働き方をするなら賛成はできない」と。

 

その言葉で、真紀さんは、「なぜ自分がお菓子を作りたいのか、工房を持ちたいのか」をあらためて自分に問いかけました。

 

真紀さんのレシピの中でも特に人気のケーキは「ウィークエンドシトロン」。

レモンのパウンドケーキです。

偏食が多く、真紀さんが作ったケーキもほとんど食べなかった娘さんになんとか食べてほしいと、彼女が好きなレモンを使って、娘さんが食べられるケーキを考案しました。

ウィークエンドシトロン。上からふりかける飾りのアイシングは、通常粉砂糖(白砂糖)で作るが、甜菜糖のアイシングで優しい甘味と、生地に甘さと酸っぱさがちょうどよい配合になるよう研究(写真提供:お菓子工房yamamoto)

「タルトタタン」は息子さんが好きなケーキです。

うまく作らないと型から外せなかったり、キャラメルで煮るので苦すぎたり、と難しい(写真提供:お菓子工房yamamoto)

何度も作っては、息子さんに試食をしてもらいました。

タルトタタンといえば、生クリームやアイスが添えられているものが多いのですが、お菓子工房yamamotoのタルトタタンは、単体でもおいしくなる配合と作り方を研究しました。

息子さんからもお墨付きのケーキが生まれ、定番商品として毎年作っています。

 

家族のために研究し、家族の応援で生まれたお菓子。

お菓子工房yamamotoのお菓子は、家庭の中から生まれた味です。

 

家族も笑顔でいられて、おかえりと迎えてあげられる。そして自分もやりたいことに集中できる。そのためのキッチンが欲しいと再度夫に相談したところ、やっと了解を得て、家に新たに専用のキッチンを作ることができました。

 

現在は、お菓子教室はリクエスト制です。レッスンをしてほしいという方に、すでにあるメニューの中から選んでもらい集客もお任せしています。

集客やレッスンのためのレシピ開発に時間を割かれず、販売用のケーキや焼き菓子の製造に集中することができるようになったことで、より多くの方にお菓子工房yamamotoのお菓子を食べてもらえる機会が増えました。

 

自分のやりたいことだけを優先するのではなく、家族とのバランスを考えて考案したスタイルが、結果、一番良い形となりました。

 

 

3年前SNSで見かけたことをきっかけに、毎年、お子さんの誕生日ケーキを注文してくれるお客さんがいます。

お子さんは、ケーキが苦手、でも親はせっかくだから誕生日をケーキで祝いたい、という依頼でした。

そこで、お子さんの好きないちごをムースにしてケーキを作ったら、とても喜んで食べてくれた上に、おかわりまでしてくれて、その家族にとって一気に誕生日が特別な日になったそう。

 

「親の気持ちもわかるし、子どもの気持ちもわかる。だからこそ、自分のケーキでそのお手伝いができるのがとても幸せだと感じる」と言う真紀さん(写真提供:お菓子工房yamamoto)

この取材の日は、ちょうどモンブランのケーキを作っていました。

 

取材後に、そのできたばかりのモンブランを試食させていただくことになりました。

「ケーキ食べていってね」と言われて、実はモンブランが苦手……ということが言い出せなかった私。良くも悪くも顔に出やすい性格、食べた直後が微妙な顔になっていたらどうしようと不安だったのですが

一口食べて、本当にびっくり。モンブランって、こういうものだった?

和菓子なのか洋菓子なのか、いまいちわからない味が苦手で、ケーキを選ぶときに選択肢に入ったことがなかったのですが、真紀さんのモンブランは、栗のとても深い味わいとしつこくない甘さで、一気にパクパク食べてしまいました。

 

モンブラン苦手と言っていたのは、なんだったのだろう?これまでの人生、もったいないことをしていたのかな?と思い返したほど。

 

夢を実現したくて、ガクガク、ブルブルしながらも勇気を出して一歩踏み出した真紀さんが手にしたのは、好きを仕事にする、という自信と、人が応援し、支えてくれる人々の温かなつながりでした。

Information

お菓子工房やまもと

Instagram  @maki.yamamoto0514

https://www.instagram.com/maki.yamamoto0514/

LINE:https://lin.ee/XgPYIyrJ

ケーキや教室の注文・ご要望は公式LINEから承っています。

Avatar photo
この記事を書いた人
齋藤由美子ファクトリー事業部マネージャー/ライター
森ノオトの事務局スタッフとして、主にAppliQuéのディレクションを担当。神々が集う島根県出雲市の田舎町で育ったせいか、土がないところは落ち着かない。家では「シンプルな暮らし」関連本が十数年にわたり増殖中。元アナウンサーで、ナレーターやMCとしての顔も持つ。小6女子の母。
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森ノオトのつくり方

森ノオトは寄付で運営する
メディアを目指しています。
発信を続けていくために、
応援よろしくお願いします。

もっと詳しく