
東急田園都市線のすずかけ台駅に私が降り立ったのは、7月の午前7時過ぎ。週末の朝ということで駅前は人も少なくとても静かです。しかし日差しは早くも強まりつつあり、暑さと日焼け対策をしっかり行って、いざ出発です。
駅を出て線路を渡り、東京科学大学すずかけ台キャンパスの門を通り過ぎて高尾山の方角へ歩いていくと、「南つくし野こうま公園」という看板が見えました。ここは国道246号線と田園都市線に挟まれた斜面にある公園で、電車を間近に見下ろすことができます。また丘の上にある芝生には、白い馬の親子の大きなオブジェがあって、ちょっとした野外美術館のような雰囲気も。木々に囲まれ、今の時期には特に木陰がありがたいスポットです。つい休みたくなってしまいますが、今回は先に進むことにしましょう。

青い芝生に白い馬のコントラストが映えて、住宅地の公園にいることを忘れそうです!
このあたりは、東京都と神奈川県との都県境になっており、公園側は東京都町田市、国道を挟んで反対側は神奈川県横浜市です。歩道橋を渡って、今度は横浜市側へ。そのまま真っすぐ進んでいくと、景色は先ほどまでの整備された住宅街から一転して、細く曲がった道に畑や農家が点在するのんびりとした風景に。
朝の涼しい時間で農作業をしている方も多く、声をかけると「良かったら畑を見ていって!」と育てている作物を教えてもらったり、ジョギングやサイクリング中の人と挨拶を交わしたりと、気分も爽やかです。

道路を渡ると横浜市緑区。ちょっとタイムスリップしたような風景が広がります
さらに少し歩いていくと、高尾山への入り口が見えてきました。道標の他に「一等三角点 長津田村(高尾山)入口」という看板もあります。本格的な山の雰囲気ではありませんが、看板には「山頂まで200m」と書いてあり、ここはれっきとした「登山口」といったところでしょうか。

すずかけ台の駅からは徒歩15分ほど。道標に沿って細い道を上がっていきます。
さっそく「登山道」に入ると、「農耕車以外通行止め」の看板があり、のどかな雰囲気を感じます。道幅は細いながらも舗装されており、安心して歩くことができます。坂を上がるにつれ西側に畑が広がり展望が開けてきます。

ヒマワリの間あたりに東京の高尾山があるはずですが、建物に隠れて確認できませんでした
のんびり歩くこと約5分。緑区の最高峰、標高100.46mの高尾山に無事「登頂」しました。
山頂には飯縄(いづな)神社が祀られており、「ご由緒」と書かれた案内板が建てられています。それによると、この神社の御祭神は八王子の高尾山薬王院の飯縄大権現を勧請(かんじょう)したものと伝えられているそうです。また、江戸時代の寛文6年(1666年)頃の検知帳にこのあたりの地名の記載があったそうで、古くからこの地で信仰を得ていたようです。

現代の飯縄神社の背後にはサイエンスの最前線、東京科学大学のキャンパスが見えました
神社の一角には、明治16年(1883年)に置かれた一等三角点「長津田村」があります。
……と言っても、実は私にとって三角点とは、地図上の三角マークのイメージしかなく、詳しいことはよく知りませんでした。国土地理院等のウェブサイトによると、三角点は、日本の位置(緯度・経度)の基準を表す国家基準点で、明治時代に政府が全国の地図作成のために設置したことが始まりだそうです。当時は三角測量という方法で、全国に一等三角点を定めて地図の骨組みとなる大きな三角形のネットワーク(網)を作り、それを基準として、二等、三等三角点の位置を決めて全国の測量が進められました。三角点は全国に約10万点ありますが、その中でも最も上位に位置付けられる一等三角点はたった973点。横浜市にはここにしかありません。
ちなみに富士山の山頂にあるのは「二等三角点」です。ということは、近代測量の観点では、横浜の高尾山が格上?!と言えるかもしれませんね。

「一等三角点」と刻まれた標柱。上部の十字の中心が、その三角点の緯度と経度を示しています。見えているのはほんの一部で、地中には重さ90kgの柱石が、その下に45kgの盤石が埋設されており、標柱が傾いても復旧できるようになっています
全国を網羅する五万分の一地形図が整備されたのは、ここ「長津田村」の一等三角点が整備されてから約40年後の大正13年(1924)。GPSなどが発達した今でも、三角点は国家の基準点として、地図の補正や工事の位置基準などに用いられています。明治時代からそのまま使用されているという一等三角点「長津田村」の標柱を眺めていると、ここが日本の地図作りにおいてとても重要な役割を果たしているのだなぁと、何だか誇らしい気持ちになってきます。
ここからは大山をはじめとする丹沢の山々や富士山が一望できます。私が訪れた日は夏の空気でやや霞んでいたものの、畑や住宅の向こうに箱根と丹沢の稜線、その後ろに富士山も見ることができました。

高速道路やビルは出来ましたが、昔の人が見たのと同じ山並みが今も広がります
高尾山は、旧大山街道の宿場町として栄えた長津田の見どころ「長津田十景」にも「高尾暮雪」として選ばれており、春には桜、秋には紅葉、冬には雪をかぶった山々など、季節毎に違う景色を楽しむことができます。ベンチも置いてあり、私もゆっくり眺望を楽しみながら休憩を取りました。

西側が開けているので、山に落ちる夕日を眺めに来るのも良いかもしれませんね
さて、高尾山から無事「下山」したところで、次は「お土産」です。隣接する東京科学大学の近くに、大学関係者にも人気のおいしい野菜の販売所があるということで、さっそく行ってみることにしましょう。
販売所は東京科学大学すずかけ台キャンパスの岡部門の近くにあります。キャンパス内は、近代的な研究棟や豊かな自然が調和して、高尾山の里山とはまた違うアカデミックな雰囲気を感じます。大学では現在、キャンパス内の調整池をホタルのすめる環境に再生するための「キャンパスにホタルを!」プロジェクトが立ち上がっているそうで、支援を呼びかけるポスターが掲示されていました。

平日であれば、森ノオトでもご紹介した学内レストラン「Kitchen MOTOTECH」などで食事やお茶を楽しむのもいいですね
さて、広いキャンパスを抜けて岡部門から数分歩くと、道の脇に「野菜直売所」という看板が出ています。店番をしていた農家さんによると、この販売所は年中無休で、近隣の農家3~4軒で育てた季節の野菜を、毎朝収穫して置いているとのこと。

営業は朝9時半からですが、野菜が揃うのは10時頃から。無人販売の時間もあるので、小銭の準備を忘れずに!
この日も、今朝収穫したばかりのさまざまな無農薬野菜が、一部をのぞきワンコインの100円で並べられていました。7月は甘いとうもろこしや夏野菜。その日の収穫次第で品揃えも変わります。季節によっては、手作りのこんにゃくが並ぶこともあるそうです。
直売所は大学の先生方や職員にも大人気で、2016年にノーベル医学・生理学賞を受賞した、大隅良典先生も常連のお一人だそうです。
私もトマト、とうもろこし、モロヘイヤ、ナスなどたくさんの夏野菜でズッシリと重くなったリュックを担いで帰路につきました。
季節によりさまざまな景色が気軽に楽しめ、地理や地図にも思いをはせることができる、地元・横浜の高尾山。皆さんもぜひ「登頂」してみませんか?
なお、すずかけ台駅から高尾山までの道は街灯がない箇所もあるため、時間によっては足元にご注意ください。また、駅を出ると自動販売機などがほとんどないので、特に夏場は事前に飲みものなどを準備していくことをお勧めします。
連載「森ノオト観光協会」はまだまだ続きます。次回もどうぞお楽しみに!

高尾山に登ってみた方は、ぜひ森ノオトの感想をお寄せください。

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