
日曜日のお昼前、私は長津田駅からこどもの国線の人気車両「ひつじでんしゃ」に乗り、東急こどもの国線・恩田駅に降り立ちました。こどもの国線は、東急線と横浜高速鉄道が運営する路線延長3.4kmの単線で、恩田駅の一日の乗降客数は974人、お隣のこどもの国駅の1割くらいです(2024年度東急電鉄調べ)。
家族連れでにぎわう電車を降りて無人の改札口を出ると、広い道路を挟んで閑静な住宅地が、その向こうに見える山にはお寺が見えます。駅前とは思えない、のどかな光景が広がっています。

平日は通勤の人も多いようですが、週末はとても静かで空が広く感じました
実は、私は以前よりこの恩田駅付近で気になっていることがありました。それは昔このあたりにあったといわれる「恩田城」です。もし本当にお城があったなら、その痕跡を探してみたいと思っていました。そんな訳で、私はさっそく地図を見ながら周辺を歩いてみることにしました。
駅を出て、線路に沿って長津田駅方面に歩き始めると間もなく、東急の車両工場が見えてきます。

東急車両工場学生時代からずっとお世話になったシルバーの車両(手前)を見つけ、懐かしい友に会ったような気分になりました
新旧さまざまな車両を間近に眺めながら坂を上がっていくと、間もなく「上恩田杉山神社」が、さらに進むと「福昌寺」というお寺がありました。どちらも歴史ある立派な寺社です。

(左)上恩田杉山神社(右)福昌寺
そこから恩田川に向かって下っていくと、細い坂道の途中に「堀之内自治会館」という建物を発見。さらに下りていくと、近くの交差点やバス停にも「堀の内」の名前が!このあたりの住所は「恩田町」ですが、堀と付く地名が今でも残っているということは、やはり恩田城は本当にこのあたりにあったに違いない……と、わくわくしてきました。

「堀之内」「堀の内」と表記は異なるものの、お城に関係ありそうな地名が確かに存在しています
図書館の郷土資料コーナーにある『日本城郭全集四』(著:鳥羽正雄、出版:人物往来社、発行:1967年)『日本城郭体系⑥』(著:平井聖ほか、出版:新人物往来社、発行1980年)を調べてみたところ、恩田城は時代や城主について不明としながらも、実在していたことは確かなようです。
また、1830年に編纂された『新編武蔵国風土記稿』には「(恩田村の)西の方なり。から堀あり。土人は城跡なりと云い伝ふ。されば折ふし古陶器などのかけ損じたるもの出るといふ」と書かれており、『日本窯業史研究所年報2』(著:日本窯業史研究所、発行:1983年)には、実際に行われた発掘調査で、15~16世紀の掘立式建物跡や、中国青磁、渡来銭などが出土した記録が記載されています。
空堀は、先ほど歩いてきた「上恩田杉山神社」から「福昌寺」のあたりにあったようで、よく見ると、Google mapには「杉山神社裏遺跡」という史跡も表示されていました(現在は私有地のため立ち入り不可)。
実際のお城はどんな感じだったのかなぁと想像しながら恩田駅方向へ戻る途中、住宅街の中に「うどん」と書かれたのぼりを見つけました。気になって近づいてみると、施設の1階にうどん屋さんが。ここは多機能型事業所「青葉 杜の葉」が運営するうどん屋「やじろべえ」さん。平日のランチ営業のみだそうでこの日はお休みでしたが、メニューには麺の中に素材を練りこんだ「モロヘイヤうどん」と「しいたけうどん」の並サイズが、野菜五種の天ぷらとデザート付きで600円とあり、何とも魅力的です。平日に再訪することに決めて、今日は先に進むことにします。
※後日、「やじろべえ」さんに改めて伺い、モロヘイヤうどんをいただきました。しっかりとコシがある細めのうどんは自家製麺だそうです。添えられた刻みモロヘイヤがつゆに絡んでとてもおいしい!野菜天ぷらは揚げたてサクサクで、量もちょうど良かったです。スタッフの皆さんがとても気持ち良い接客をしてくださり、大満足でした。

麺はざるとかけ、量は四種類から選べます。ミニデザートのゼリーも優しい味わいで、身も心もほっこりと満たされました
上恩田杉山神社まで戻ってくると、すぐ近くに赤い鳥居と小さな祠があることに気付きました。これは「内方姫供養塔」というもので、洪水を鎮めるために自ら身を投げたお姫様を供養するために建てられ、今でも地域の方が1年に1回供養祭を開いているそうです。こちらは恩田城と関連があるか分かりませんでしたが、地域の伝承話として「あおば紙芝居一座」により紙芝居が作られているそうです。

案内板はありませんでしたが、きれいに掃除がされ大切に維持されていることが伝わってきました
さて、再び恩田駅周辺へ戻ってきました。この区域には、昔アカネ科のつる草が群生していて、その根を薬として煎じて飲んでいたことなどから、地元の要望で「あかね台」と名付けられたそうです。
さすがに開発された住宅地では、恩田城の痕跡は見つからないだろうなぁと思いながら歩いていると、広いグラウンドのある公園に行き当たりました。入り口で名前を確認すると「あかね台鍛冶谷(かじやと)公園」。鍛冶を行っていた谷戸という意味でしょうか。
それにしてもこんな所にいきなり鍛冶という地名が出てくるのはどういうことでしょうか?ここは、恩田城があったと思われる場所からは裏手にあたります。もしかすると、ここで城主が刀剣などを作らせていたのかもしれません。
それを裏付ける資料を見つけることはできませんでしたが、このあたりにわずかに残る地名や地形などから、在りし日の恩田城のイメージを何となく想像することができたのは、現地を実際に歩き回ったからこその収穫でした。

鍛冶谷と書いて、「かじやと」と読むそうです
そろそろこのあたりで一息入れたくなってきました。公園を出て、昔の面影が残る通りを歩いていると、道端に「カフェなつうめ」の看板が。しかし看板はあるけれど、お店らしきものが見当たりません。きょろきょろ見回すと、奥の方に一軒家があります。普通のお家に見えるけれど、本当に入っていいのかしらと思いながら近づくと、お店の方が出てきて笑顔で迎えてくれました。
テラス席に案内され、人気メニューと書いてあった「さつまいもプリンケーキ」とコーヒーを注文。さつまいもプリンケーキは、滑らかなプリンの中にお芋の食感を感じ、甘みとカラメルソースのほろ苦さが絶妙なバランス!テラスは緑に囲まれてとても心地よく、リラックスできます。
ここはご夫婦が自宅の庭を改装して営まれている小さなカフェで、自家栽培の野菜を使ったルーから手作りのカレーと、スイーツが大好きな奥さまが作るケーキが看板メニュー。テラス席だけなので、気候の良い春と秋の、お天気の良い土・日・月曜日だけの営業だそうです。テラスでは奥さまと妹さんが手作りした素敵な手芸品も販売しており、ガレージセールを行うこともあるそうです。歩き疲れた私もすっかり元気を取り戻し、次に来るときはカレーもぜひ食べてみたいと思いながらお店を後にしました。

コーヒーはお代わりもOK。営業日は事前に電話で確認してから行くのが確実です。メニューの絵もとても素敵でした
駅に戻る道すがら、いくつか野菜の直売所を見つけました。その一つ「鈴木清友農園」は、こどもの国から頂いた牛や馬の天然廃棄物から作った堆肥を肥料として使っているそうです。カラフルなのれんをくぐってお店に入ると、かごに盛られた季節の露地野菜が並んでいました。閉店間際でしたが、わずかに残っていた茄子と栗を買い求め、自然の循環に感謝しながら秋の味覚をいただきました。この直売所は日曜日と水曜日の12時~16時の営業ですが、お店の看板には、青葉区内での出張販売の案内も書いてありました。

(左)鈴木清友農園入口、(右)鈴木清友農園看板
お腹も心も満たされ、恩田駅から帰りの電車に乗り込んだ私は、恩田城主になったつもりで車窓の田んぼを眺めました。もしかしたら似たような景色を当時の人も見ていたかもと思うと、時空を超えてご近所さんに会ったような、不思議な気持ちが湧いてきました。
ぜひみなさんも”降りない駅”に降りてみませんか。地域に息づく歴史の一端を垣間見ることで、いつもの場所がちょっと違って見えてくるかもしれません。
うどん屋 やじろべえ:https://yuusuikai.or.jp/
カフェ なつうめ:090-4456-5192(営業日は電話でお問い合わせください)
鈴木清友農園:Instagram:@suzukikiyotomonouen
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