
交差点の角に佇む小さな洋食店
藤が丘駅から国道246号方面へと北上すると、これまで森ノオトでも取材したことのあるお店や、地域に根ざした魅力的なお店が点在する藤が丘商店会があります。この道を駅から15分ほど歩いた、もえぎ野の交差点角に建つマンションの1階にグリズキッチンはあります。

木のぬくもりを感じる外観が目印です
以前、あるメディアで、グリズキッチンが「特徴のあるグラタンの店」として紹介されていたことが、記憶の片隅に残っていました。それが青葉区にあり、さらに犬同伴でも料理をしっかり楽しめる洋食店だと知ったことから、私はグリズキッチンを訪ねるようになりました。
私の大好きなお店になったグリズキッチンが、どのような思いで運営されているか、今回、お話を伺う機会に恵まれました。
取材で訪れた日は定休日で雪が舞いそうな曇り空でしたが、扉を開けた瞬間、外の空気とは切り離されたようなやわらかなぬくもりに包まれました。
「いらっしゃい」
そう声をかけてくれたのは、オーナーの秀樹さん。取材に同席してくれたのは、ご夫妻の愛犬・グリちゃんです。来客を知らせるように鳴きながらも、「グリ、大丈夫よ」と尚子さんに声をかけられると、すっと落ち着き、そばで静かに過ごしていました。

名物料理はこだわりミルクのグラタン
グリズキッチンでは、彩り豊かな野菜をふんだんに楽しめるバーニャカウダー(要予約)や、パスタなど魅力的なメニューが並びます。なかでも名物料理として愛されているのがグラタンです。
看板メニューのさつま鶏のマカロニグラタンは、静岡県の朝霧高原にあるまかいの牧場のノンホモ牛乳を使ったクリームソースが決め手。なめらかな口当たりと、ミルク本来のコクが広がります。定番メニューのほかにも、季節限定のトマトのグラタンや牡蠣グラタンなど数種類のグラタンがあり、その日の気分に合わせて選べるのも楽しみの一つです。

鶏肉は藤が丘商店会の田原精肉店から仕入れています
「自分の店を持つなら、まかいの牧場のミルクを使いたいと決めていました」と秀樹さんは話します。
なぜ、まかいの牧場のミルクなのでしょうか。その背景には、秀樹さんのルーツがあるのだそうです。
まかいの牧場という原点
秀樹さんの母方の実家は、なんと静岡県朝霧高原にある「まかいの牧場」。子どもの頃、秀樹さんは夏休みを利用して母親の実家に泊まり込み、牧場で過ごしたり、牧場内のジンギスカン店の手伝いをすることもあったそう。実際に牧場という場所で自然と向き合ってきた子ども時代の経験がその原点にあります。
「自分の店を持つなら、まかいの牧場のミルクを使って料理を提供したいと決めていました」と秀樹さんは話します。ミルクを使った料理は数多くありますが、クリームソースは応用の幅が広いのが魅力です。お店では、そのクリームソースを日本で独自に発展してきたマカロニグラタンという料理に仕立てることで、そのおいしさを日常の食卓にも届けたいと考えたそうです。
私自身、趣味の車中泊をしながらこの朝霧高原周辺を訪れることがあります。静岡では観光牧場として有名なまかいの牧場。その牧場と、藤が丘でいただいたグラタンが結びついたとき、思わず驚いてしまいました。
私はこだわりのグラタン誕生のルーツが気になり、実際にまかいの牧場を訪ねてみました。

まかいの牧場から見た富士山。空が高く風が通り深呼吸したくなる場所です
草を食むヤギの姿、その向こうに広がる富士山。人や動物、そして自然が同じ空間の中で穏やかに共存している風景が、そこには広がっていたのが印象的でした。まかいの牧場では循環型酪農が取り入れられ、農や命、自然の循環を体験できる工夫が随所にあることを感じます。
まかいの牧場のミルクはノンホモ牛乳です。脂肪分を均質化(ホモジナイズ)していないためミルク本来の風味が感じられるのが特徴です。グリズキッチンのグラタンに感じるやわらかさは、このミルクの個性が、そのまま生かされているのだと感じました。

さらりとしながら、口に含むと優しい甘みとコクが広がります
料理人になるまでの歩み
秀樹さんは学生時代、スポーツ用品店などで接客のアルバイトをしていました。
大学では法学部に進学し、社会のために役立ちたいと警察官を目指した時期もあります。
しかし、接客のアルバイトを続ける中で、本当に自分がやりたいことは何かを考えるようになりました。たどり着いたのは、人と向き合う仕事。食を通して人を喜ばせたいという思いが、次第に強くなっていったと言います。

学生時代から飲食業を志していたと熱い思いを語る秀樹さん
飲食の世界に入るきっかけとなったのは、まかいの牧場が取引していた富士市の会社が営むイタリア料理店でした。秀樹さんは大学時代に、そのお店で住み込みで働くようになります。
その後、そのお店の紹介を受け、大学卒業後は軽井沢にある老舗のイタリアンレストラン「スコルピオーネ」へ(現在は閉店)。
秀樹さんはそこでグリズキッチンの元となる経営理念やサービスの基礎、調理の基礎を学び、スコルピオーネのレシピを受け継ぐこととなります。とくに秀樹さんが向き合ったクリームソースこそが、グリズキッチンのグラタンの土台になっています。
また20代の頃には、カナダでワーキングホリデーも経験しました。同じホテルで働いていたのが、現在の妻である尚子さんでした。厨房経験とホスピタリティを海外でも学び経験を積みながら、いつか自分の店を持ちたいという思いを強くしていきました。

長い時間をともに歩んできたからこそ自然な役割分担が生まれているお二人
そして2023年秋。秀樹さんはついに、藤が丘の街にグリズキッチンをオープンさせ、その夢を叶えました。

お店で提供しているコーヒーは軽井沢のイタリアンレストランで学んだサイフォン式(写真提供:グリズキッチン)
“家族”として犬も一緒に
グリズキッチンは、店内で犬と一緒に食事ができる店でもあります。
尚子さんはこう話します。
「ここは私たち夫婦で目と手が届く、4席だけの小さなお店。犬同伴の方も、そうでない方も、日常の延長として食事を楽しんでもらえる場所でありたいと思っています」
あくまで軸にあるのは、人が料理を味わうための飲食店。そのうえで、家族同然の犬も同じ時間を過ごせる場所でありたいと考えています。
秀樹さんが理想とするのは、ヨーロッパの街で見かける、飲食店に自然に犬がいる風景。特別な存在としてではなく、暮らしの中に自然に犬がいる状態です。

犬たちは床で伏せたりマットを敷いた椅子の上で静かに過ごしながら、店内で飼い主と食事の時間を過ごしています
藤が丘の街で、変わらずに
グリズキッチンが目指しているのは、規模を広げることではありません。この藤が丘の街で、変わらずに料理を届け続けることです。
藤が丘商店会に所属し、顔の見える関係の中で、「この街にはおいしいグラタン屋さんがあると紹介してもらえることが何よりうれしい」と秀樹さんは言います。
犬連れのお客様だけでなく、家族連れも多く、ご夫婦や親子、三世代で訪れる方もいるそうです。
特別な日だけでなく、何かおいしいものが食べたいと思う、日常の延長にある食事の時間を提供するグリズキッチン。
今日もまた、厨房ではグラタンが焼き上がっています。

サイフォンで煎れたコーヒーと自家製ティラミスも人気です
終わりに
私は、横浜市動物適正飼育推進員として、人と犬がどう共に暮らしていけるのかということを、日々考えています。グリズキッチンで感じたのは、「犬が入れる店」であることよりも先に、人がきちんと食事を楽しむ場所であるという軸が、ぶれずに大切にされていることでした。
人の暮らしがあり、その延長線上に家族の一員として犬がいる。その自然な距離感が、料理や空間、そしてお二人の言葉の端々から伝わってきます。特別なことをしなくても、こうした場所が街の中に静かに存在していること自体が、人と犬が共に暮らす未来の一つの形なのかもしれません。
藤が丘という街で、今日も変わらず一皿一皿が丁寧に届けられている。そんな風景を、これからも見守っていきたいと思いました。
住所
横浜市青葉区みたけ台44-1 H号室
電話番号
045-479-2245
営業時間
ランチタイム11:00~15:00(L.O.14:00)
ディナータイム 17:00~21:00(L.O.20:00)
定休日
毎週 火曜日・水曜日(都合により臨時休業となる場合あり)
URL
生活マガジン
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