懐かしい音が出会いを連れてくる。葉っぱを奏でる草笛奏者芝田展さん
葉っぱ1枚で曲を奏でる天狗が、たまに寺家ふるさと村に現れるという。それは「芝天狗」と名乗る草笛奏者の芝田展(ひらく)さんという方らしいーー。草笛奏者の芝田さんに、芝天狗のルーツを探るべくお話を伺いました。

私が芝田さんを知るきっかけとなったのは、にいはる里山交流センターのインスタグラム。

葉っぱを唇にあてて「赤とんぼ」の曲を奏でていました。葉っぱ一枚であれほど音程がつくれるんだ!マイクを使っていないのに動画からは美しい音色が響いてびっくり。

自然の中で吹く芝田さんの姿を見て、草笛奏者としてどんな活動をされているのだろう?と興味が湧きました。

 

今回私の「自然の中で芝田さんを取材したい」というその思いを汲んで下さり、寺家ふるさと村で取材と体験をすることになりました。

 

 

草笛を吹く体験

寺家ふるさと村を歩いていると、熊野神社の鳥居が見えました。

 

「いつもここで参拝してから歩きます」と芝田さん。芝田さんの生まれは、熊野古道のある和歌山県。「寺家ふるさと村は熊野古道に似ている」と話します。

寺家ふるさと村にある熊野神社。師岡にある師岡熊野神社分社されたと伝わっていて創建は不明。昔から御熊様と言われ、口伝によれば火災によりここに移転されたという

散歩をしながら芝田さんは、寺家ふるさと村の草花について案内をしてくれました。

これはわかる?と植物クイズを出す芝田さん。クズの芽は食べられることを教えてくれました

 

寺家ふるさと村には桑の実も自然になっている。公園のように手入れされていないからこそ、食べられる実や痒くなるウルシも自生している

私は植物のことは詳しくなく、芝田さんに教えてもらうことで初めて知ることばかり。桑の実もはじめて食べて、甘いことを知りました。

 

歩きながら芝田さんは草笛を吹きます。静かな寺家ふるさと村の中で草笛の音が響き渡っていきます。

「埴生の宿」「もののけ姫」「ふるさと」……どの曲もみんな一度は聴いたことがある曲です。また、ウグイスやホトトギスの鳴き声も草笛で発します。

 

しばらく歩くと芝田さんは「いいのがあるかな」と草笛になりそうな葉っぱを探しはじめました。

草笛用にストックされた葉っぱ。よい葉っぱを常に集めているという

「これでやってみようか」と小さな葉っぱを手渡されました。

選んでもらった葉っぱ。最初は指でつかむ力加減がわからず吹こうとするだけで破ってしまいました

私は見よう見まねで葉っぱの両端を親指と人差し指ではさみ、葉脈のところに唇をあてて息を吹きかけますが、「スーッ」と息が漏れる音だけがきこえて音は鳴りません。

 

「草笛は声帯と同じ。振動を感じられるように葉っぱに唇を当てて、上唇の内側から細い空気や広い空気を吹きかけると高い音か低い音になるのだよ」と芝田さん。片手で葉っぱを持ちながら軽やかに音を出します。

片手の指で両端を押さえ軽々と音色を奏でます

私は何度も挑戦してみますが、なかなか音は出ません。

 

「教室でも最初から音を出せる人は少ないです。でも子どもはすぐに吹けるようになります。

草笛は上唇と葉っぱとの間に空気を通して、その振動で音が出ます。喉に手を当てて『アーッ!』と声を出してみてください。喉が振動しているのが分かるでしょう。赤ちゃんって上機嫌なとき、アーとかウーとか声を出すでしょ?あのときの喉が振動する感覚を子どもは覚えているからなんですよ」

 

すっかり大人になってしまった私はすぐにはその感覚を思い出すことができませんでした。

オオジシバリは4月中旬から5月頃に黄色の花を咲かせます

植物の案内の間にも何度か芝田さんが草笛用に葉っぱを手渡してくれました。私は何度も何度も挑戦すると「ピュッ」と高い音がでました。

 

「出ましたね。この葉はオオジシバリと言って、薄くって柔らかいから音が出しやすいのです。この音を長く一定に出せるようになると、音を変化させる方法が分かってきます」

 

鳴った瞬間はうれしいし、もっと長く音を出したい。高い音も低い音も出したい。一度音が鳴ったことでもっとやってみたい欲がでてきました。

 

「一度音が出ても、吹かないと感覚は忘れてしまう。葉っぱをすぐ手にとれる環境が必要です」と芝田さんは言います。

 

芝田さんは週に1、2度寺家ふるさと村を訪れて草笛を吹きながら、教室や自分用にとっておきの葉っぱを探すのだそうです。

芝田さんは普段からこの道で草笛を吹きながら歩いています。遮るものがないこの場所で草笛の音は田んぼに響きます

「芝天狗」誕生ヒストリー

芝田さんにとっての草笛の原体験は、ふるさとの熊野古道で小学三年生の時、草笛が得意な友達から、登下校中に教えてもらったのがきっかけなのだそう。

しかし、大人になるとすっかり草笛を吹くことはなくなっていました。

 

芝田さんが55歳の頃体調不良の時期があり、呼吸法教室に通い、深い呼吸をすることが体調の回復につながった体験をしたそうです。

その後芝田さんは定年を迎え緑区に引っ越してきました。その時はじめて、寺家ふるさと村の存在を知ったと言います。

 

「実際に寺家ふるさと村へ行ってみると懐かしい感覚がよみがえり小学生の頃のように、葉っぱを口に当て草笛を吹いてみました。

すると今までに覚えた曲がどんどん吹けてとても楽しくなり、何度も訪れているうちに『草笛は肺の中の空気を全部吐き切るから呼吸法と同じだ』と感じました。実際、草笛を吹くと体が元気になっていくのが実感できるのです」

 

そんな芝田さんに、愛称の「芝天狗」の由来をきいてみました。

 

「寺家ふるさと村で草笛を吹きながら歩いていたら『すごいっ!』と拍手をしてくださる女性や『エッ!そんな葉っぱ一枚で!』と驚く男性など、とてもうれしくなり鼻高々の天狗になりました。

私の名前は芝田 展(ひらく)ですが子どものころ、友人からは『シバテン』と呼ばれていました。そのシバテンが天狗になったことから、草笛の時は『芝天狗』になることに決めました。

 

ちなみに本物の天狗様は山中にお住まいでヤツデの葉で空を飛んだり、カクレミノの葉で姿を消したりさまざまな術をお持ちですが、芝天狗は草原に住んでいて何の術も持たない下等な天狗だそうです。

高知県では河童のことを『芝天狗』と呼ぶそうです」

右が初心者でも吹きやすい柔らかな葉っぱ。左の固い葉は上級者にならないと音がでない

音色が広げる草笛の輪

芝田さんは草笛講師として現在、四季の森公園や長津田地区センターで活躍しています。

 

「あちこちで草笛講師をすることになったのも、草笛の音色を聴いた人から声をかけてもらったことが始まりなんです」と芝田さんは言います。

 

「緑区の四季の森公園では、先輩の草笛教室の講師に声をかけられ、その補助として教室に入ることに。その方の後を継ぎ、15年ほど四季の森公園での講座を続けています」

 

長津田地区センターでは、草笛グループ「みどりの笛」というサークルで演奏会等に出演しています。

元は、月2回合計10回で草笛を吹けるようになるという講座でしたが、終了後「これで終わらせるのはもったいない。もっと吹けるようになりたい」という声が上がり、月1回活動する草笛のサークルを立ち上げたといいます。

ある学校では毎年クリスマスの頃に草笛の体験会が行われているそう。そしてなんと芝田さんが2023年、NHKの「あさイチ」にも出演し、博多華丸・大吉さんに草笛を教えたのだとか!

さまざまな出会いの中でも、芝田さんが特に忘れがたいエピソードとして語ってくれたのは、ある男性との出会いがもたらした演奏の機会でした。

 

「いつも通りに散歩をしながら草笛を吹いていたら、ある男性に話しかけられました。私の演奏を聞くと彼の好きなエッセイを思い出すと言うのです。彼は前に何度か私を見かけていたようでした。その日は草笛の手ほどきをし、連絡先を交換して別れました」

 

芝田さんはその男性が話したエッセイを読み、その本に草笛の演奏が出てくることを知ります。

 

「その後彼から連絡があり、一緒に食事をしました。私はその際にエッセイに出てきたモーツアルトの【春への憧れ】を披露したんです」

 

演奏の後は互いの生い立ちを語った後、「今度行う勉強会で草笛を披露してくれないか」と誘われた芝田さん。

 

「その勉強会が、京セラ株式会社の創始者である稲盛和夫さんの経営塾だったんです。当日は200名もの人が集まって、その前で草笛を披露したことは忘れられません。

2022年に亡くなった稲盛さんの追悼として、曲目は彼が好きだったという『ふるさと』などが選ばれました。演奏はもちろんですが、偉大な経営者が故郷を思って歌っただろう、その意外な一面を知る貴重な経験となりました」

 

芝田さんは懐かしそうな表情で、語ってくれました。

 

 

最後に

私が動画で草笛の音色に魅了されたように、寺家ふるさと村で芝田さんの草笛の音色を聴いてたくさんの人が魅了されていました。

どうやって吹いているのだろう?葉っぱからこんな音がでるの?そんな好奇心からみんな芝田さんに話しかけたのだと思います。

 

そんな一つひとつの疑問や好奇心に応えるように、お話をしてくれる芝田さんの優しさ。そんな芝田さんのお人柄こそが、たくさんの人との出会いや、今の活動につながっています。

 

草笛は、自然の葉っぱを使い、唇に当てて息を吹きかけて鳴らす、という手軽でとてもシンプルなもの。

 

楽器をはじめてみたい。演奏してみたい。でも敷居が高いそんな思いを持っている方も気軽にはじめられると思います。コツをつかむのはとても難しい。それでも音の出た瞬間はうれしいし、どんどんやってみたいと思う気持ちが湧いてきました。

 

草笛を吹いているとふと、子どもの頃、カラスノエンドウを帰り道に吹いていた記憶がよみがえってきました。葉っぱに触れて吹いているとなぜか童心の頃を思い出し、難しいと感じていた草笛もどんどん楽しくなり、夢中になってしまいました。

 

ぜひあなたも、芝田さんの音色を聴いて葉っぱに触れて、草笛を吹いてみませんか?

懐かしい感覚を取り戻す不思議な草笛をぜひ体験してみてください。

Information

草笛奏者 芝天狗

芝田 展(ひらく)

 

草笛教室

四季の森公園 第一水曜日 10:00~11:30

住所:神奈川県横浜市緑区寺山町291

問い合わせ先:四季の森公園管理事務所

TEL:045-931-7910

 

サークル

緑・草笛研究会

長津田地区センター 第三木曜日13:30~15:00

住所:横浜市緑区長津田町2327

TEL:045-983-4445

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この記事を書いた人
石﨑絵美ライター
滋賀県出身。夫の転勤をきっかけで横浜へ。食べることとボディメイクが趣味。無理なくできることを実践しながら、身体の変化を楽しんでいる。障害児二人の子育てに奮闘しながら成長中。神社参拝も好き。
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