いよいよ2年後に迫った東京五輪・パラリンピック。神奈川の目と鼻の先でさまざまな競技が開催される今回、特に障害者や障害者スポーツに関して、街や人の意識が変わることが期待されます。
夏季・冬季パラリンピックをはじめとした障害者スポーツの現場を長年取材してきたパラフォトは、約30人の会員を持つNPOです。フリーの写真家、エンジニア、デザイナーなど障害のある人も含めたメンバーが集まり、現地集合・解散スタイルで主にウェブ記事の配信を行っています。
パラフォトが取材姿勢として掲げているのは、継続的な取材と、できる限り選手の側に立つこと。メダルを獲りそうな選手に注目するマスコミに対し、パラフォトのウェブサイトには競技の結果だけでなく、現地のボランティアスタッフ事情や取材を通して感じたことなど、パラスポーツの魅力とそれを取り巻く環境について多様な視点で捉えた情報が掲載されています。
代表の佐々木延江さんは、2018平昌冬季パラリンピックに記者3人・カメラマン3人と参加。韓国でのパラリンピック開催は、1988年の夏季ソウル大会に続いて2回目です。多くのメディア関係者がメインプレスセンターの隣のホテルに泊まるなか、佐々木さんらはホテルとセンターの往復では街の本当の様子がわからないと、少し離れたセレモニー会場の近くに宿を取ったそうです。移動は主にバスで、会場と選手村を行き来する選手用のバスは、ノンステップバスが完備されていたとのこと。メディアへの対応は良く、ボランティアには食事と宿舎が用意されていました。
スポーツの大会としては五輪・サッカーワールドカップに次ぐ規模であるパラリンピックは、経験豊富な記者やカメラマンにとっても貴重な現場です。取材は手探りで、佐々木さんは「理解ある取材者の方が集まれば、本当にいい発信ができますし、準備不足で現場の空気と面白さにのまれてしまってなかなか取材・発信者になりきれない取材者もいました」と、大舞台での苦労を語ってくれました。
韓国は開催地としてチームスポーツを強化し、アイススレッジホッケー銅メダル、車椅子カーリング4位を獲得。昔は福祉が発展している国が強かったのですが、今ではスポーツとしての取り組みが進んでいる国がメダルを獲るようになりました。
一足先にパラフォトが主催した取材報告交流会に参加した森ノオトの船本由佳さんからは、「パラフォトの現場が取材者の育成になっていることをすごく実感しました。発表では皆さんが感想だけではなく、『これを機に私が次にできることは……』と発言していたのが素晴らしかった」とコメントがありました。
佐々木さんのお話を受けて、ワークショップに移りました。話したくなったテーマを各自が書いて見せ合いグループトークを行う「マグネットテーブル」です。
参加者からは、パラトライアスロン開催の経験がある横浜だからこそパラスポーツに対してできることは何だろう、「共に生きる社会かながわ」をうたう神奈川県とは何ができるだろうといった今後のアクションにつながる話に加えて、パラスポーツの練習場所は足りているのか、パラスポーツの魅力をローカルメディアで伝えるにはどうしたらよいかといった、佐々木さんへの質問も出ました。
パラスポーツの練習場所については、まだまだ限られた状況の中でやっているのが現状。たとえばウィルチェアーラグビーは、タイヤの跡が床についてしまうため掃除が必要で、それを受け入れてくれる体育館が少ないため遠方に行ったり、夜中に練習したりといった工夫を余儀なくされているそうです。「後押ししてくれる自治体がもっと必要。理解のある練習施設が増えれば、競技ももっと盛り上がる」と佐々木さんはいいます。
議論は練習場所だけでなく、競技に携われるような場所、みんなでテレビで試合を観られるような場所など、パラスポーツに触れられる場所を増やしたいという話題にもおよびました。今回の勉強会の会場となったTHE BAYS(ザ・ベイス)も、「スポーツ×クリエイティブ」をテーマに掲げる施設。場の活用について、こうした施設にも積極的に働きかけていき、施設同士でも連携ができるのではという提案も出ました。
「パラスポーツの魅力を伝えるには、やはり競技として面白くないと、みんな観ない」と佐々木さん。「大変なのにがんばってるね」というアプローチではなく、スポーツとしての面白さを伝えるために、4年に1度でなく、その間にもできることを考えました。参加者からは、「地元にパラリンピアンがいれば、パラリンピックまでの道のりを取材できる」「そういった人の存在をもっと知りたい」といった声が上がりました。
佐々木さんからもうひとつ紹介されたのが、「パラリンピック公認教材」の存在でした。「I’mPOSSIBLE」というキャッチコピーが使われた紙芝居のようなこの教材は、国際パラリンピック委員会が開発した国際版をもとに、日本財団パラリンピックサポートセンターと日本パラリンピック委員会が公益財団法人ベネッセこども基金と共同開発したもの。教室で行う座学とパラリンピック競技を体験する実技の2種類があり、パラスポーツやパラリンピックの価値について誰でも教えられるように作られたものだそうです。
佐々木さんは、地域のスポーツ指導員にこの教材の使い方を紹介したり、これを活用して障害のある子どもたちと一緒にパラスポーツを体験するといった試みの提案を北海道旭川に住む、障害者スポーツ指導員をしている友人にしたところ、北海道では教材を使った取り組みが行われているそうです。
「先生に押し付けるのではなく、たとえば指導者を目指している体育大学の学生さんや健常者スポーツの指導員が主体となって授業を担当すれば、自分もパラリンピックに関わることができるし、東京大会が終わっても、地域の経験者、教育者として関わり続けることができます」と話す佐々木さん。こうしたプログラムをやってみたいという人がいればぜひ声をかけてほしいと呼びかけました。
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佐々木さんによると、2020年の東京パラリンピックは、日本がお金を持っていること、またIPC(国際パラリンピック委員会)の会長がブラジル人のアンドリュー・パーソンズさんに代わってから初めての夏の大会でもあることから、世界から期待されているとのこと。残念ながら横浜は競技会場とはなりませんでしたが、一個人としても、メディアに携わる者としても、この機会に、身近にあるパラスポーツを知るところから始めて、2020年にそなえていきたいですね。
かながわローカルメディアミーティング次回は、5月24日(木)にNPO法人ファクトチェック・イニシアティブの立岩陽一郎さんをお迎えして、情報や発言の真偽を調査する「ファクトチェック」について学びます。時に社会を混乱させるフェイクニュースが拡散する昨今、信頼できる情報をどうつかめばよいのか、公開会議を行います。
ライターやカメラマン、編集者、メディア運営者、広告関連など「発信」を生業にする方だけでなく、地域メディアに関心のある方、情報の受け取り手として認識を深めたい方など、さまざまな方のご参加をお待ちしています。
<かながわローカルメディアミーティング>
2018年5月24日(木)14:00–16:00
・ファクトチェック・イニシアティブ立岩陽一郎さんの活動紹介と課題提供
・参加者相互の話し合い、質疑応答
会場:mass×mass関内フューチャーセンター(神奈川県横浜市中区北仲通3–33)
参加費:2,000円
申し込みフォームはこちら
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