注文靴をより日常に。 暮らしに寄り添うビスポークシューズ|青葉台・kisakishoes
おしゃれでカラフルな靴が並んだパンフレットを見て、素敵!と開いたページにはこんな言葉がありました。
ー日々の暮らしに寄り添い、年月と共に自分らしくなっていく靴、手入れしながら時間が経つほど艶を増し、大切になっていく靴、kisakishoesでそんな靴との付き合い方を始めてみませんか?
デザインも履き心地も最良の靴。そんな靴を長く大切に履く暮らし。ぐっと心を掴まれた私は、kisakishoesを訪ねてみることにしました。

ミシン以外は全て手作業でビスポークシューズを製作しているというkisakishoesは、青葉台駅から藤が丘駅方面に坂を登って5分ほど、小さなビルの3階にあります。開け放たれたドアをくぐってまず目に入るのは、作業台と革用のミシン。靴型や道具でいっぱいの壁。そこはお店というより工房です

ビスポークシューズって何?

ビスポークシューズとはフルオーダーメイドの注文靴。ビスポーク=be spoken。“been spoken for”が由来と言われています。つまり客と職人が話しながら作る靴がビスポークシューズです。

 

「手縫いのビスポークシューズは、20年、問題なければ30年履けるんですよ。足に合わせることはもちろんですが、デザインに関しても全てご希望を伺って製作します」。そう教えてくれたのは、kisakishoes の木佐木 愛(キサキ メグム)さん。

 

kisakishoesの靴が長く履ける大きな理由は、靴底を手で縫い付ける「ハンドソーンウエルテッド製法」にあります。のりで靴底を圧着した靴の場合、底を剥がすと革が動くなどして履き心地が変わってしてしまいます。糸で縫い付ければ、ダメージなく靴底を交換できるので履き心地を育てていくことが出来るそう。

 

木型から製作するので、小さな足、大きな足はもちろん、外反母趾や少し変わった足の形でも好みのデザインで履き心地の良い靴を手にすることができます。

くるぶしに傷が出来てしまうローファー、駅まで歩けなかったヒール靴、ギックリ腰になったウェッジソールの革靴など、履けなかった靴がいくつも私の脳裏をめぐりました。

「合わない靴は歩きづらいだけではなく、体の歪みや体調不良を引き起こします」と木佐木さん。靴と健康の関係、気になります。

 

木佐木さんが靴作りを考え始めたきっかけは、大学卒業前に訪れたヨーロッパ旅行でした。小さな博物館で、昔の靴をたくさん目にして「靴は自分の手で作れるのでは?」と思い立ったそうです。幾つもバイトを掛け持ちして学費を用意し、渋谷区にある靴の学校「mogeworkshop」で基礎的な靴作りを学びました。

 

mogeworkshopに通う間に、木佐木さんは木型をもっと知らなければ、ぴったり合った希望のデザインの靴は作れないことに思い当たったと言います。より深く学びたいと考えた木佐木さんは、ビスポークシューズブランド「Bench Made」の主催する「Bench Work Study」で木型製作や英国式ハンドソーンウエルテッド製法など、本格的なビスポークシューズについて学び始めます。「本当は学び足りなかったことを補足しようと思ったんですけど、学びなおしでした(笑)」と木佐木さん。結局8年間学んで、9年目からBench Madeで働くことになったそうです。

 

そして、2012年に独立。元々、青葉区のみたけ台で育ったという木佐木さん。こだわりのあるお店が住宅街に点在する青葉区で育ったこともあり、自然な流れでこの地に工房を構えることにしました。

ビル1階にかけられた看板。木佐木さんが手書きした文字とイラストで作ったロゴマークも素敵。髪が靴になったお妃さまは、名前の「きさき」と掛けたそう

お気に入りの一足ができるまで

ところで靴ってどうやって作るのでしょうか?靴製作の工程を簡単に教えてもらいました

 

まず左右の足を採寸、足型を紙に写します。そして基となる木型を片足分作ります。靴のデザインによって製作用の木型の数値は変わります。足に合わせた片足分の木型を元に、左右差を調整し、製作する靴の木型を両足分完成させます。完成した木型を元にアッパーと呼ばれる甲革の型紙を起こし、革を裁断、縫製します。ここまでが「クロージング」という作業。

 

この後の作業は「メイキング」と呼ばれ、インソールと、芯などを入れてアッパーを縫い付け立体に仕立て、底付けをして完成です。

 

「クロージング」では、採寸し木型を起こすラストメイカー、型紙を起こすパターンメイカー、革を裁断するクリッカー、アッパーを仕上げるクローザーと呼ばれる職人たちがそれぞれ担当。「メイキング」も2~3人で分担するなど、靴作りは工程ごとに分業することが一般的だとか。しかしkisakishoesでは、このたくさんの工程を木佐木さん一人で行っています。「最初から最後まで一人で行えば、お客様のオーダーがブレないんです」と木佐木さん。最高の一足を作るという靴作りへの情熱がふつふつと伝わってきます。

 

ビスポークシューズのデザインは無限の可能性があります。kisakishoesではどのように靴のオーダーを受けるんですかと伺うと「どんなのがお好きですかね?」と見本の靴が机の上に並べられました。

 

可愛いですねと私が手に取ったのは、穴飾りの施された赤い紐靴。「紐靴だったら、靴紐を通す羽根のような部分をまず決めましょう。ひらひらしている外羽根がダービ、内羽根で縫い付けてあるのがオックスフォードっていうんですが、印象が違うでしょ」と木佐木さん。ダービーを選ぶと「こういうのもありますよ」とダービーのバリエーションを見せてくれました。こうしてまずはベースの形を決めます。さらに見本靴を出してもらって、細部のデザインを決めていきます。穴飾りを入れるとか、タッセルやフリンジ状の飾りなど装飾を施すかを考え、革の色や種類を決めていきます。「同じ形でも革が違うと印象が変わりますよ」。

 

確かに、ピカピカに輝くクロームなめし革と自然なムラのある天然染色の革では全然違う!「革の種類や硬さも履き心地に影響します。足の形や肉質によって向き不向きがあるので、アドバイスしています」

 

靴職人である木佐木さんと直接やり取り出来ることの素晴らしさを感じるとともに、最後まで一人で仕上げることの意味の深さを感じます。

「これが欲しいと既成靴の写真を持って来る方もいますが、それでも大丈夫ですよ。ビスポークは “be spoken”ですから、何でも希望を伝えてください。話しながら決めましょう」と木佐木さん。決して作り手の意図を押し付けられることもなく、かと言ってこちらの意見だけを通すわけではない。このようなやりとりを通して、お気に入りの一足のデザインは出来上がっていきます。

 

デザインが決まれば即製作!という訳ではありません。

まずは足型を取り、木型を起こし、フィッティングシューズと呼ばれる仮靴の製作をします。本来フィッティングシューズは靴底をコルクで作るなど、試し履き専用の靴ですが、kisakishoesでは外でも履ける仕様になっています。芯など簡略化してありますが通常足入れ後に廃棄されてしまうフィッティングシューズをカジュアル使いの一足として受け取ることが出来ます。これはうれしい!

 

このフィッティングシューズを2~3週間実際に試しばきした上で、靴の状態を確認してもらい、改めて木型を修正。そしてようやく本番靴の製作に入ります。

 

注文内容や混み具合にもよりますが、本番靴を受け取るまでは早くても注文から3~4カ月後。これだけ多くの工程を手作業で仕上げるとなるとビスポークシューズが高価になるのは当然のこと。こんな丁寧に作られた靴、履いてみたい!

木佐木さんが手に持っているのが木製の木型。テーブル上のグレーの木型は樹脂製。季節により湿度の変化が激しい日本では、木が割れてしまうそう。2足目以降での流用だけでなく、修理などにも使う木型は、耐久性を考え樹脂製にしています。テーブル手前はアッパーと呼ばれる靴の甲革を縫い合わせたもの。次から次へと出てくる靴作りにまつわるお話。その奥深さを感じます

買って終わりではない。靴との付き合い方

靴は出来上がって終わりではありません。kisakishoesでは、出来上がった靴を3カ月ぐらい馴染ませた上で再度調整しています。調整のほか、長く履くために日々のお手入れは必須です。

「靴磨きはとっても奥深い世界なんですが」と言いながら、木佐木さんが教えてくれたお手入れの方法は、これなら続けられそうというとてもシンプルなもの

日常のお手入れは、とにかくブラッシング。表面だけでなく、底と甲革を縫い付けた溝部分もしっかり汚れを払うことが大切です。

ブラッシングの後、固く絞った布でざーっと水拭き。ネル生地がベストですが、くたっとした古いTシャツなどで大丈夫。水拭きのあとはクリームを塗ります。

「革はお肌なので、汚れを落として、基礎化粧(クリーム)することが必要です。厚化粧(ワックス)はオフしてあげないといけません」と木佐木さん。そうでした、革は動物の皮膚でした。保湿してくれるクリームと違って、ワックスは表面をコーティングするものなので、塗りすぎると革が呼吸できなくなり硬くなってしまうそうです。

揃えておきたい靴のお手入れ用品。いずれも1000円以下で手に入るものが多い。(左上)汚れを払う大きなブラシ。(上中)クリームを最初に塗り込む小さなブラシ。色に合わせ使い分けるのがおすすめ。(右上)クリームで磨くための布と水。(下)靴用クリーム。「ワックスのオフは大変な作業です。重ねづけすることでかなりの光沢が出せるのでクリームがおすすめです」。クリームはまず透明のものを1つ用意しましょう。硬いものや、柔らかいもの、色のついたものなど様々あるので、使いやすいものを試してみるといいそうです。色のついたものは、目立たないところで試してから使いましょう

 

クリームは最初は小さなブラシを使って塗り込みます。写真ぐらいのごく少量を刷毛が折れるくらい強めに、毛穴に入れ込むイメージで伸ばします(革は動物のお肌です!)。こんなに少しなのかと驚きますが、刷毛にクリームが染み込んでいるので大丈夫。もし足りない場合は少量を数回に分けて入れ込みます。全体に伸ばしたら、しばらく置きます

ブラシでクリームを入れた後、1時間~1日ほど置いたら、さらに布でクリームを塗り込みます。革にもよりますが、2~3回重ねればかなりの光沢を出せます。

この布をピーンと張らないとむらが出てしまうそうです。布の巻き方を教えてもらいました。

ちなみに靴墨は色を染めるもの。ワックスは光沢を出すもの。木佐木さんは基礎化粧品のクリームだけでお手入れすることをすすめています。

1.人差し指と中指2本に布を掛けて、布を下にぴんと伸ばす

 

2.余った布を甲側でぎゅっとねじり

 

3.ねじった布をにぎります。ピーンと張った布に水一滴と少量のクリームをつけて優しく塗って皮膜を作ります

注文靴をより日常に

「注文靴をより日常に」をモットーに活動中というkisakishoesでは、木型製作から靴作り全般を学べる靴作り教室「ブンデスタディ」も開催しています。デザインや製法も自分で選び、自分のペースでお気に入りの一足を作れます。自分の靴のほかプレゼント用の靴を製作する方もいるそうです。ある男性は、結婚相手の女性の靴をこっそりと製作。アパレル会社に勤めていたこの男性は、仕事で足のデータを集めていると説明し彼女の足形を取ることに成功。ぴったりのシンデレラシューズを無事完成させ、結婚式でプレゼントしたそうです。

 

教室の他にベビーシューズや革小物を作る、1日完結のワークショップも開催されています。

また、毎年開催されている「オープンデイ」では、子どもも参加できる無料のワークショップありますし、ビスポークシューズやkisakishoesをより身近に感じられるチャンスです。

今年は9月か10月に予定しているそうですので、facebookでの告知を要チェック!

独立以来毎年、代官山のギャラリー無垢里で個展を開いています。毛穴が特徴的な豚革を使って製作した梨がモチーフのスリッポン(左上)、ハギレを利用したイロイロサンダル(右上)など。どれもとっても素敵!作家としての木佐木さんもとても魅力的です。ウェブサイトやFacebook、Instagramでも素敵な靴を見ることができます

ビスポークシューズなんて私とは無縁の特別なもの。そう思っていましたが、「日々の暮らしに寄り添う靴」を提案するkisakishoesを訪れて気持ちは一変しました。

 

「足の形はみんな違います。同じ人の右足と左足でさえ違います。それぞれの足に合わせて希望に沿ったデザインに仕上げることは、毎回とても勉強になるんですよ」と語る木佐木さん。豊かな感性とともに、真摯に靴作りに取り組むkisakishoesでなら、おしゃれも履き心地も諦めない、毎日がときめくお気に入りの一足が見つけられると感じました。

Information

kisakishoes(キサキシューズ)

住所:横浜市青葉区つつじが丘10-21-301

E-mail:megumukisaki@gmail.com

電話:080-5179-2171(kisakishoes キサキメグム)

営業:予約制

※作業によっては電話に出られませんので、

ご予約・お問い合わせはメールが便利です。

 

HP:http://www.kisakishoes.com

Blog:http://kisakishoes.hatenadiary.jp

Facebook:@kisakishoes

Instagram:@shoe_poetry(製作した靴など)

@dkisakishoes_kisaki(靴作り教室の様子)

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この記事を書いた人
畑道代ライター卒業生
広島市出身。本や雑誌を得意とするグラフィックデザイナー。フリーランスとなって12年の節目に、新たな刺激を求めて森ノオトに参加。築34年の古家のセルフリノベがライフワーク。夫・息子と3人暮らし。
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