空間丸ごと、召し上がれ。リノベーション専門の不動産屋さんが作る「瀬戸内ひだまりかき氷 鷺沼店」
瀬戸内産フルーツをまるごとシロップにしたかき氷が食べられる「瀬戸内ひだまりかき氷鷺沼店」は、毎年暑い時期になると行列が絶えない人気店です。かわいらしいお店の雰囲気、フォトジェニックなかき氷に目を奪われてしまいがちですが、意外な会社が運営をしていて……?オーナーの内海芳美(うちみよしみ)さんに、開業までのストーリーを伺いました。

東急田園都市線・鷺沼駅とたまプラーザ駅の間、住宅街を少し奥に入った古い集合住宅の1階にあるかき氷屋さん「瀬戸内ひだまりかき氷」。私がこのお店を知ったのは、2019年。Instagramの投稿からでした。お祭りでよく見る原色のシロップがかかったかき氷とは全然違う、季節のフルーツで彩られたフォトジェニックなかき氷の写真に一瞬で心を奪われ、子どもを連れてすぐに食べに行ったことを思い出します。

実はこのかき氷屋さんを運営しているのは、香川県にある「ひだまり不動産」……?そうです。なんと、不動産屋さんなのです!

なぜ四国の不動産屋さんがここ鷺沼でかき氷屋さんをやっているの?数年来のそんなギモンを解き明かすべく、オーナーの内海さんに直接お話を伺ってきました。

 

 

「ひだまり不動産」って、どんな不動産屋さん?

瀬戸内ひだまりかき氷の横にある「ひだまり不動産」の事務所の入り口。こちらは内海さんの住居も兼ね、香川県と神奈川県     の二拠点生活のベースにもなっています

不動産屋さんの看板にも、かき氷屋さんの看板にも登場する、このかわいいおかっぱのキャラクター “うっちゃん”のモデルになっているのが、内海さん。このお店のオーナーです。インタビューの日は、お店のカウンターの奥から、このイラストそっくりのかわいらしい笑顔で私を出迎えてくださいました。

 

「ひだまり不動産」は、香川県高松市を拠点に、内海さんが2006年にはじめた不動産屋さん。以来、ご家族で経営を続けているのだそう。個人宅の売買から始まった事業は、今では「リノベーション物件」= 古い建物に新しい価値を加えて改修した魅力的な物件を提供する個性的な不動産屋さんとして人気を誇っています。

 

「東京で仕事をすることも多くてね。娘夫婦がこちらに住んでいることもあって、いつかは東京の方にも拠点を持ちたいと思っていたんだけれど、なかなかここは!という所が見つからなくて。数年越しで見つけたのが鷺沼のこの建物だったんです」と内海さん。「古いアパートメントを丸ごとリノベーションして作ったのがここ、RENOWA-SAGINUMA(リノワ鷺沼)。1階はかき氷屋さんと、私の事務所兼住居と、構造設計事務所。そして2階と3階の6部屋は、クリエイティブな人たちが暮らすカスタマイズフリーな住宅や仕事場になっているんですよ」。

 

実はこのかき氷屋さんの入るアパートも、一棟丸ごと、ひだまり不動産が手がけているリノベーション物件だったのです!

築40年を超える古いアパートメントが、ひだまり不動産の手で素敵にリノベーション。住宅街の中に佇むレトロかわいい空間にワクワクします

「東京のど真ん中で物件を探していたら窓の外にはビルしか見えない、なんてことも多かったけど、鷺沼は緑も豊富であんまり地元の高松と変わらない雰囲気を感じていて。ここなら住めるかも!って思ったの。他の地域からの流入者も多い感じがして、二拠点生活でも暮らしやすいですね」。

中でもこのお庭が内海さんの特にお気に入りポイント。緑豊かなお庭にウッドデッキを作って、ますます魅力的に。「このお庭でかき氷を食べられるというのがいいわよねぇ」

「かき氷を食べにきたら、お店の雰囲気を丸ごと見てほしいんですよ。かき氷が入り口になって、こんな素敵な雰囲気のお店を手がける不動産屋さんがあるんだということを知るきっかけになってくれたらいいなぁ、と思っているんです」。

 

あれ?

それって……もしかして私のことかしら……。

 

美しい店内で美しいかき氷を食べて、このお店は一体どんなところが運営しているんだろうと興味を持ってウェブを検索し、不動産屋さんが運営しているの!?とびっくりして、ひだまり不動産のサイトを眺めたこの私は、内海さんの狙い通り(笑)。そう伝えると、内海さんは「まさにそうねぇ!」と応えてくださいました。

「うちはね、いわゆる賃貸雑誌には、賃貸や売買の物件を出していないの。だから、いいな、と思ってくれた人が探し当ててたどり着いてもらうということが必要なんです。かき氷を食べにきてくれたことがきっかけで、ひだまり不動産のリノベーション物件についても興味を持ってもらえたらうれしいですね。リノベーションをした物件で何かをやりたい、という人たちの背中を押せたらと思ってるから」。

「ひだまり不動産」の手がけた物件が数多く掲載された内海さんの著書と冊子。リノベ物件がテナントを呼び、テナントが人を呼び、そこににぎわいが生まれ、地域一帯が活性化していく……そんな内海さんの思い描く、不動産を中心とした美しいサイクルの様子がよくわかります

かき氷屋さんを始めたきっかけは? 

「2012年にスタートした瀬戸内ひだまりかき氷はね、ひだまり不動産の“チャレンジショップ”、なんです」と内海さんは言います。「不動産屋さんが飲食店をやるというチャレンジをするお店、っていう意味で、“チャレンジ” ね。まったくの手探りで始めたお店だから」。

 

かき氷屋さんにチャレンジしてみようと思ったそもそものきっかけは?と尋ねてみると、「東京で食べたかき氷がとってもおいしかったから」という答えが返ってきました。

 

「仕事で東京に出てきたとき、荒川区町屋のイベントで、フルーツのピューレが乗ったかき氷を食べたの。そのかき氷がとってもおいしくて。まだフルーツをふんだんに使ったかき氷が珍しい頃だったからとても新鮮だった。瀬戸内のフルーツでこんなかき氷を作ったら、絶対おいしいだろうなぁと思ったのが始まり」と言います。

 

「幸い、不動産屋だから店舗となりそうな場所はすでにある。みんなからはかき氷屋なんて商売になるの?って言われたんだけど自前の店舗があるんだから、ええい、やってみよう!という感じで、地元高松でお店をはじめたの」。そう言って内海さんは笑います。

 

「まず、高松の農家さんから瀬戸内レモンを500kg仕入れました。それで、そのレモンを使ったかき氷のシロップ作りを、お菓子屋さんやカフェを運営する3店舗のパティシエの方々にお願いしてみたんですよ。みんな、ひだまり不動産が店舗を手がけたことで出会った人たちね。そしたら三者三様、全然違うものができてきて。わぁ、これは面白い!と思って」。

こちらがその時に作ってもらったというメニューの一つ、和三盆レモン。今もお店で食べることができます。レモンの実を皮ごと使ったほろ苦味のレモンの蜜の上には、香川県の伝統的なお砂糖、和三盆糖がかかっています。カリカリっとした歯触りが絶妙なアクセント

かき氷にかけるシロップ(ひだまりかき氷では天然果実蜜と呼んでいるそう)は、香川県産のフルーツにこだわって自社工場で作っています。ご縁のある農家さんから旬の果物を仕入れ、自社工場で果実蜜を作ります。その量1年間に4000kgにもなるんだとか!

 

旬のフルーツをふんだんに使ったかき氷のおいしさは高松であっという間に評判を呼び、行列の絶えない人気店となりました。

香川県のオリジナル「さぬき姫いちご」のかき氷。上に乗っているパステルカラーの丸いものは、香川の郷土菓子「おいり」です。もち米から作られているあられで、中は空洞。口に入れるとすぐ溶けてしまいます。かき氷とのコントラストがなんとも楽しい(写真提供:瀬戸内ひだまりかき氷)

 

ずらっと並んだ美しいラインナップ。中から、ヨーグルトソルベが登場するのもひだまりかき氷の特徴です。このおいしい味変も、楽しみの一つ!(写真提供:瀬戸内ひだまりかき氷)

ひだまり不動産が手がけるかき氷店は、2023年現在全国に5店舗。そのうち3店舗は、蜜を卸しているパートナーシップ店。直営店は高松の本店と鷺沼店の2店舗だけだそうです。

 

「ここ鷺沼が、関東初出店のお店なんです。実はね、このお店、SNSでしか告知をしていないんですよ。あ、そうだ。近隣のおうちには、フライヤー(しかもコースター!)を娘と一緒に2000枚だけポスティングしたわね、それだけなのよ(笑)。全く広告していないの。ほぼSNSだけの告知だったのにもかかわらず、それをちゃんと見つけてくれるかき氷マニアの人たちがいて。それが徐々にクチコミで広がって今に至ります」。

 

 

大切なのはブランディング。「様式美も売っています」

私がひだまりかき氷を見つけたのも、やっぱりInstagramの投稿からでした。それ以来、瀬戸内ひだまりかき氷に毎年通っているのは「かき氷をこのお店に食べにいく」ということ自体が、特別な体験に感じられるから。

 

かき氷のおいしさはもちろんのこと、店内のインテリア、店員さんのお洋服、かき氷の入った器やスプーン、かき氷に乗せるトッピングに至るまで、お店の雰囲気がどこを眺めてもとても美しい……。行くたびに、「ステキなお店でかき氷を食べる」という経験をまるごと買いに行ったような、満たされた気持ちになるのです。

 

「瀬戸内ひだまりかき氷」にかき氷を食べに行く、というのはわが家の夏のエンターテインメントの一つとして定着しているんですよ」。そんな話をしてみると、内海さんはうなずいてくださいました。

 

そして唐突に「トンカツ屋さんって楽しいでしょう?」と言うのです。私が「?」と思っていると、こう続けます。

 

「衣をつけているところ、揚げているところ。それから盛り付けをして、って。トンカツ屋さんのカウンターに座っていると、全てが見えるじゃない?あれって、ものすごくワクワクしませんか? かき氷屋さんもそうなの。氷を削って、作って、それから蜜をかけて。その全てがパフォーマンスなんです。ここではそれを全て見せて、ワクワクする時間をまるごと売っている、というわけ。様式の美しさも売っているつもりでいるんですよ」。

カウンターからかき氷ができていく様を眺めます。私のかき氷が目の前で作られていくこのワクワク感よ……! 作ってくれているのは、内海さんの次女さんです

白いTシャツにカンカン帽が制服。

壁に描かれた大きなオリーブの木の絵は、画家の山口一郎さんが手がけています。

かき氷をよそうのは、ガラス作家・蠣崎マコトさんが手がけたガラスの器。

それを載せる木のお盆は、木材屋さんが営む「KITOKURASU」というお店から。

 

「カウンターから全部見えてしまうので、スポンジの色やタオル一枚に至るまで、隅から隅まで気を配っています。これがね、“ブランディング”。ブランド力を高める価値を与えることなんです。リノベーションの物件を作る時と同じように、統一感のあるブランディングをとても大切にしています」

 

私が感じていた、「ステキなお店でかき氷を食べるという経験をまるごと味わう感覚」は、ひだまり流のブランディングが作り出していたものだということを知り、なるほど、と膝を打ちました。

 

かき氷とリノベーション物件。一見全然違うものを売っていながら、実は根っこでは同じ売り方をしている。揺るがない内海さんの信念を知って、とても面白いなぁと思います。

こんなところで暮らしたい!お店をしたい!と思わせてくれるように、このお店でかき氷を食べたい!と思わせる力が、ひだまりプロデュースのお店にはありました。

 

 

秋冬にはパンケーキ屋さんが始まります!

これまで夏季営業がメインだった、瀬戸内ひだまりかき氷。今年から新たなチャレンジとして、パンケーキの販売も開始し、通年営業になるそうですよ。

 

分厚くてふわっふわの生地は、これまた香川県産の小麦粉「さぬきの夢」を使って作ります。この粉、実は、うどんを作るために開発された小麦粉なんだそう。パンケーキにかけるシロップは、黒糖と、かき氷で使っている天然蜜!お好きなものを選んでどうぞ。

これが、ひだまりかき氷流のパンケーキ!ふっくらふかふかの2段重ね。かき氷のシロップをかけて食べるという驚きのアイデアも、食べれば納得

鷺沼の「瀬戸内ひだまりかき氷」に、フォトジェニックでおいしいかき氷やパンケーキを食べに行ったら、このお店を運営しているのが実は香川県の不動産会社なんだ、ということを思い出して、お店をすみずみまで眺めてみてくださいね。

 

いつか、新しいことを始めようとする時、新しい住まいを考える時。かき氷屋さんの内海さんが、不動産屋さんの内海さんになって、あなたの背中をそっと押してくれるかもしれません。

チャーミングな笑顔の内海さん(写真右)。おいしくて楽しいアイデアが次々生まれる瀬戸内ひだまりかき氷のこれからも楽しみです(写真提供:瀬戸内ひだまりかき氷)

Information

瀬戸内ひだまりかき氷 鷺沼店

SETOUCHI HIDAMARI KAKI-GORI

住所:神奈川県川崎市宮前区鷺沼2丁目 13-17 RENOWA SAGINUMA 1F

アクセス:東急田園都市線・鷺沼駅、たまプラーザ駅徒歩12分

定休日:水曜日

営業時間、定休日はSNSをご覧ください

Instagram::https://www.instagram.com/setouchi_hidamari_kakigori/

Facebook:https://www.facebook.com/setouchihidamarikakigori

HP:https://www.kaki-gori.com/

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この記事を書いた人
佐藤美加ライター
新宿生まれ新宿育ち。音楽業界出身、SNS運用を主な生業とするフリーランス。2児の子育て中、森ノオトの記事に救われたことがきっかけで書き手に。この街のたくさんの物語に光を当てて届けたいと思っています。編み物はライフワーク!短歌はじめました。
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