(text,photo:牧志保)
実りの秋を迎え、そろそろ稲刈りの季節を迎える9月初旬、エコDIY住まいラボ4回目の講座が開かれました。
今回は、八ヶ岳南麓で循環する暮らし・パーマカルチャーを自ら実践しているソイルデザイン四井真治さんに、土について深くてワクワクする話を聞きました。
午前の部は青葉区寺家町の「四季の家」での講義形式で、午後は場所を鴨志田町の「森ノオウチ」に移し、実際に土にふれながらの実践講座です。
白いシャツに、使い込まれた帽子を被り、機能的で頑丈そうなリュックサックを背負って登場した四井さん。大自然の中で生活しているからでしょうか。穏やかで大らかな第一印象を受けました。
午前の部の参加者は約40名で、その内、これまでに四井さんの話を聞いたことがある人は4人。「パーマカルチャーを知っている人は手を挙げてください」という質問に、約半数の人が手をあげました。
パーマカルチャーとはパーマネント(永久の)とアグリカルチャー(農業)、もしくはカルチャー(文化)を組み合わせた言葉で、「永続的な農業」「永続的な文化」という概念です。1970年代にオーストラリアで提唱された考えですが、日本にはずっと昔から日本のパーマカルチャーが存在していたと四井さんは言います。
四井さんは山梨県北杜市の標高750mの地に家族、それからヤギのキューちゃん、猫のかえで、にわとり、ミツバチ、カブトムシ、ミミズ……たくさんの動物、虫や微生物とともに生活しています。山の中での四井さんご家族の生活があまりにも魅力的で、私を含め参加者は一気に四井さんの話に引き込まれていきました。
雑木林の中にあるという四井さんのご自宅は、新緑の季節には緑の光に覆われます。夏は木が作りだす木陰の影響でとても涼しく、冬は周囲の木の葉は落ちて、家の中に日光が降り注ぎ、冬でもTシャツで過ごせるほど温かいのだそう。
「春にはオオムラサキ(自然環境を測定する目安になるとされる指標昆虫)が乱舞し、夏にブランコで遊んでいるとカブトムシがバサバサと木の上から落ちてきます。秋には栗をひろい、山に自生するヤマドリダケというポルチーニ茸のようなトロリとした美味しいきのこが手に入ります。冬には近所の人たちと集まって、醤油や味噌を仕込みます」(四井さん)
庭には、所狭しと野菜や果樹が植えられ、収穫した果樹でジャムを作ります。年間5日程度しか手を入れないという麦畑では家族1年分の麦が収穫でき、養蜂中の西洋ミツバチからは年間20kgのはちみつをいただけるそうです。
庭にあるハーブを使い、ドライフラワー、ハーブティー、エッセンシャルオイル、ハーブウォーターを作り、映画『魔女の宅急便』を参考にして作ったというお手製のかまどでは、四井さんのお子さんが得意の火おこしを手伝います。かまども、ハーブウォーターを作る際に使う蒸留器も四井さんの手作り。作れるものは手作りし、子や孫に引き継いでいくという道具類は丁寧に手入れされ、大切に保管されています。
そんな恵まれた自然環境の中で日々の生活を送っている四井さんご家族ですが、3年かけて雑木林の木を切り、段々畑を作って植物を植え、10年かけて今の素晴らしい環境を創造してきました。
四井さんは、人間が快適に暮らすことだけを追及するのではなく、人が暮らすことで、その「場」がさらに豊かになるような暮らしを実践しています。それって一体どういうことなのでしょう……。
一つの例が排水処理をめぐる循環システムです。四井さん家族が生活することによって発生する、お風呂やキッチンから出る生活排水。これを排水として敷地外に流すのではなく、敷地内にあるバイオジオフィルター(自然浄化システム)に取り込み、浄化してビオトープ(池)や田畑に流し込みます。
バイオジオフィルターの水辺には、空芯菜、わさび、セリ、クレソン等が植えられ、それらの植物や微生物の力を借りて水を浄化します。ビオトープにはフナやメダカが暮らし、トンボも以前に比べ数が増えたそうです。
たい肥小屋においても同じです。家庭で発生する生ごみは、たい肥となります。たい肥小屋では山羊やニワトリが暮らし、ニワトリはたい肥を食べるため餌を与える必要がありません。山羊やニワトリの糞はそのままたい肥となります。たい肥小屋は山羊、ニワトリだけでなく、カブトムシ、ミミズなど様々な虫や多くの微生物の温かなベッドとなっているのです。
このように、四井さん家族がこの地に暮らすことにより、新たに生き物の住処が生まれました。パーマカルチャー的なライフスタイルとは、多様な植物や生物がつながり、補い合いながら成り立つ暮らしであるようです。
「生きているってどういうことだと思いますか?」
そんな四井さんの問いかけに会場の参加者は、しばし考えをめぐらします。
「命は一番大切なものなのに、そのことを考える人は少ないですよね」と四井さん。
「命とは、何かを集める仕組みなのではないでしょうか。生物は自分の体を維持するために栄養を集め、蓄え、エネルギーを拡散しています。これは全てのものに当てはまると思うのです。生物単体でこの循環を行えるものはいません。周りの環境と共存しながら、全体として成り立っています」
四井さんは、この命の仕組みに基づいて暮らしをつくっていけばいいのではないかと、ある時気づいたと言います。
「植物は根を大きく広げて栄養を集めますが、自分で移動することはできません。動くことができる動物が移動して栄養を集め、それを植物に還元します。生産者である植物と捕食者である動物が助け合いながら、命をつないでいます」(四井さん)
午後は森ノオウチの畑に場所を変え、実践的な土との関わり方を学びました。
森ノオウチの畑は笹が生い茂る土地を今年5月に開墾し、月に1度、有志メンバーで種や苗を持ち寄って畑作業を楽しんでいます。畑の端にはコンポストも設置し、たい肥作りも行っています。
これまでミニトマト、ナス、大葉、じゃがいも、サツマイモ、エンドウ豆、二十日大根、ズッキーニ、モロヘイヤ、バジルを植え、夏には新鮮な野菜を収穫しました。
しかし思ったほどの量は収穫できず、コンポストに至っては、土が発酵ではなく腐敗してしまうなど、来年以降の課題が残る状態です。
そんな畑を四井さんに見てもらい、アドバイスを受けるというまたとない貴重な時間に、持ち寄り畑のメンバーでもある私も真剣です。
四井さんからのアドバイスは、畑の水はけが悪い状態を改善すること。
2つの方法を教えてもらいました。畝の間に溝を掘り、畝底に水が抜けるように工夫すること。もう1つはレーズドベッドという膝の高さまでの枠を作り、畑を地面から離して水分の調整を行う方法です。
次にコンポストを見てもらいました。森ノオウチのコンポストの問題点は2つ。1つ目は、水はけが上手くいっていないこと。2つ目はコンポストに入れる生ごみの量が多すぎて、処理能力が追い付いていないこと。問題点が明確になり対処方法が見えてきました。
コンポストでたい肥作りを行う際のコツも伝授していただきました。
水分調整、それから炭素(繊維質)と窒素(栄養素)の割合調整、この2点が大切なようです。
炭素(繊維質)の割合に対して、窒素(栄養)が多すぎると悪臭が発生します。都市部の川が臭うのは、窒素分などの栄養分を吸収する生きものが少なくて、窒素(栄養)が余っている状況なのだとか。コンポストには炭素(繊維質)の量を圧倒的に増やし、そこに生ごみを加えていくと上手くいくそうです。
「人間を含め、陸上生物は土を作って命の仕組みが成り立っています。私たちは土を大切にしないといけません」と四井さん。生ゴミがゴミ処理場で無駄なものになっているのはもったいないと言います。
生ごみ処理だけでなく、色々な便益を生み出すというたい肥作り。小田原市片浦地域では、そのたい肥作りを核に地域のコミュニティが生まれています。閉校となった校舎を使い、「片浦食とエネルギーの地産地消プロジェクト」が進行中です。こちらのプロジェクトに四井さんも関わっています。
最後に四井さんは、「これから日本が変わるとしたら、キーになる場所は、都心でもなく、田舎でもない、森ノオトエリアのような郊外住宅地ではないか」と言います。家庭単位で土とつながった循環する暮らしを実践し、それが地域全体に広がっていく。「このエリアは、それが実現可能な雰囲気を醸し出している」と四井さん。
私の住む家には、猫の額ほどの小さな庭があります。その小さな場所で花を楽しみ、野菜を収穫し、収穫した花の種は野鳥の餌になります。小さな循環ですが、自分の生活するスペースで循環が起きるととても気持ちがいいものです。今後はコンポストでの土作りにもチャレンジしていきたいと思っています。
この秋冬は、来年に向けて森ノオウチの畑の改善、コンポストでのたい肥作りと、忙しくなりそうです。来年の夏にはきっと皆さんに胸を張って紹介できる畑となっていることを夢見て頑張ります。改善後の森ノオト持ち寄り畑とコンポストのレポートを楽しみにしていてくださいね!
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