クラシックも童謡も、0歳から一緒に! 親子で楽しめるコンサート「音のはらっぱ」
子どもに生演奏を聞かせたいと思っても、コンサートの間じっとしていられないだろうなあ、とあきらめていませんか?「音のはらっぱ」は、公園や原っぱに行くくらい気軽に参加できる0歳からのコンサート。その企画から運営に至るまで出演者の3人で行っています。コンサートを始めたきっかけや、こだわりを伺ってきました。

「音のはらっぱ」は、川崎市高津区で定期的に行われている、ピアニスト、フルート奏者、声楽家のプロ3人による0歳から楽しめるコンサートです。毎回、テーマに合わせた楽曲が約30分の間に10曲ほど演奏されます。会場では靴を脱げるので、子どもたちはゴロゴロしても動きまわっても大丈夫。私も娘が7カ月の時に初めて参加して以来、何度も足を運んでいます。最初は隣のお子さんが気になってハイハイで動き回っていた娘も、回を重ねるごとに音に合わせて身体が自然と動くようになり、成長を感じる楽しみも。ステージの演出も毎回趣向が凝らされ、聴くだけではなく、一緒に歌って身体を動かして、あっという間の30分です。取材日も娘と共にコンサートを楽しんだ後、お話を伺いました。

会場の小黒恵子童謡記念館は、お屋敷のような重厚な門が目印。門をくぐると、緑豊かなお庭が広がり、子どもの像や、アヒルの像が迎えてくれます。ベビーカーや自転車も敷地内に停められます

1カ月でつくり上げた「音のはらっぱ」

音のはらっぱは、ピアノと司会を担当する望月香菜子さんの体験からはじまりました。望月さんはコロナ禍の2021年に出産をされ、人と交流ができない日々が続きました。そんな中、約1年ぶりのコンサートで生のオーケストラを聴くと、身体全体に音楽が響いて鳥肌がたち、力が沸いてきたそうです。

 

その体験から、自分と同じようにコロナ禍で子育てをしているお母さんお父さんたちに向けて、近所で気軽に音楽を楽しめる場を作りたい!と動きだします。すぐに仕事仲間で子ども好きの岩井志帆さん(フルート担当)と、別の仕事で一緒になった時「歌のお姉さんになりたいんです」と話していた声楽家のよねやまかなこさんに声をかけ、意気投合。そこからなんと1カ月足らずで「音のはらっぱ」の第1回公演が開催されました。

 

1カ月でコンサートを企画して開催するなんてできるのですか?と尋ねると、「その時はとにかく夢中で、まず会場を探しました。靴を脱げる所がよかったので、他の仕事でも演奏をしたことのあった小黒恵子童謡記念館がいいよね、となりました。調べると、ちょうどよい日が1カ月後しか空いていなくて……」と、望月さん。

 

場所が決まっても、そこから演奏する曲目決め、告知のチラシづくり、個人練習に音合わせとやることも決めることもたくさん。お子さんが寝静まってから、毎晩のように3人で電話をつなげて話し合い、自主開催にこぎつけました。初回はお客さんが少なかったものの、近くで感じた子どもたちの反応に3人とも強いやりがいを感じて、継続を決意。子どもが飽きずに楽しめる曲の順番を考えたり、無理なく運営を続けるために市の助成を申請したりと、企画面でも運営面でも改善を続けました。当日の会場設営こそご家族の手を借りますが、3人での企画運営スタイルは変えず、広報とSNS発信は望月さん、チラシのデザインは岩井さん、お客さんの申し込み対応や当日の受け付けはよねやまさん、と見事な役割分担ができています。

コンサートの様子。好きなところにマットを敷いて座るスタイル。この回は土曜日開催だったので、お父さんの参加がいつもより多く見られました

 

ピアノの望月香菜子さん。お子さんも3歳になり、音のはらっぱを毎回楽しみにしているそう。「普段から聞いている曲も、コンサートで聞かせると吸収が違うと娘をみると感じます」

 

歌のおねえさん よねやまかなこさん。子どもの頃から、歌のおねえさんに憧れて声楽と保育を学ぶ。「クラシックも童謡も両方歌える貴重な人材。日本語をこんなにきれいにうたってくれる人はなかなかいないです」と望月さん

 

フルート 岩井志帆さんは、2023年12月に出産したばかり。「出産後は、今までよりもっと“まあるい音”を出そう、と優しい気持ちになりました。産む前よりも、“聴かせたい音”のイメージがはっきりしたように思います」

音のはらっぱ 二つのこだわり

音のはらっぱのこだわりの一つ目は、「クラシックの曲目を必ず入れること」。子ども向けのコンサートでは、クラシックの曲が演奏されないことが多く、子どもの頃からクラシックに親しんで欲しいという思いがあるそうです。今回のコンサートでは、「愛の挨拶」と「誰も寝てはならぬ」の2曲。「愛の挨拶」では、岩井さんのフルートの音色をしっかり聞かせる演奏。「誰も寝てはならぬ」では、よねやまさんの大声量が会場を震わせるほど響きわたりました。赤ちゃんには音が大きすぎるのではないか、なんて心配もよそに、誰も泣くことなく真剣に聞いているのが印象的でした。

プログラムと告知チラシ。カラフルで親しみやすいデザインは、フルートの岩井さんが独学で制作。「チラシの空の色は、その季節の空に似せたり、ほんの少しずつ色を変えているんですよ!」とここにもこだわりが

二つ目のこだわりは、「昔から歌い継がれている童謡を入れること」。子どものコンサートなら当たり前のことのように思いますが、テレビの教育番組などで新しい曲がどんどん生み出され、童謡が歌われる機会が減っています。普段、望月さんはピアノ教室を開いていて、生徒さんや親御さんが童謡を知らないことが多いと感じるそうです。美しい日本語にメロディーをのせた童謡を通じて、子どもたちがさまざまな言葉と出会えるように、次の代に歌いつないでいきたい、という思いがあります。

コンサート後半は童謡や手遊びなどの動きのある曲に。フルートの演奏がない時は、岩井さんは客席を回って子どもたちと交流していました

子どもにも、親にも、寄り添う

音のはらっぱに参加すると、お母さんお父さんへの心遣いもとても細やかだなと感じます。コンサートの始まりに赤ちゃんが大きな声で泣いていると、「大きな声でごあいさつありがとう!」とMCの望月さんがにっこり。その言葉だけで、親のソワソワする気持ちが安心感に変わります。コンサート中は、お母さんの背中に寄りかかったり、歩きだしたり、思い思いのスタイルで楽しむ子どもたちが見られます。途中のMCでも「お子さんが曲を聞いていないかな、と思っても大丈夫です。お子さんはちゃんと身体で何かを感じているので、この時間を共有していることを大切にしてくださいね」とここでもホッとさせられる言葉が。

 

「子どもはお母さんの笑顔が大好き。お母さんが笑うと子どもも笑う。だからお父さんお母さんたちも笑顔にしたいなと思っています。楽しくてほっこりする、そんな寄り添えるコンサートをつくっていきたいです」という岩井さんの言葉の通り、親もリラックスできる空間になっています。

 

アンケートでも「私自身がリフレッシュできました」というお母さんからの声が多いそうです。また、「子どもが聞いていたのか不安でしたが、帰り道、コンサートで1曲目にやった歌を口ずさんで、あの曲楽しかったねと話していて、ちゃんと始めから聞いていたんだ、と思いました」との声も。親が心配をしなくても、ちゃんと子どもに音楽が届いているのですね。

お見送りも3人で。子どもたちにも親御さんにも優しく声をかけていました

他の地域でも「音のはらっぱ」を広げたい

2022年にスタートして、次回で10回目を迎える音のはらっぱ。リピーターも多く、中には、電車で遠くから来る人も。これからの活動について聞いてみると、「他の地域でもやってみたいです。子どもに生演奏を聴かせたい、という同じ思いのママさんたちがいると思うので。別の地域だと0からのスタートになりますが、もっと多くの人に音楽が届けられるよう挑戦してみたいと思っています」と望月さん。今は、企画したコンサートを1日だけ公演するのみ。もったいない、と感じてしまうのは私だけではないはず。良い会場さえ見つかれば、「出張 音のはらっぱ」の実現に近づきます。これ以外にも、楽器を増やそうかとか、少人数で顔と名前が分かる規模で、一緒に歌って踊れるような場もつくっていきたい、などアイデアはつきません。

 

歌のよねやまさんが最後にポロっと話してくれました。「私は以前までテレビの歌のお姉さんになって大勢の前で歌いたい、と思っていましたが、今は子どもたちとこんなに近い距離で歌うことができることが幸せです」。コンサート中、憧れのまなざしでよねやまさんを見上げている子どもたちの顔を思い出します。子どもたちにとってよねやまさんは、「会いにいける歌のお姉さん」なのですよね。

よねやまさんのキラキラの笑顔と伸びやかな歌声に、子どもたちも夢中

野原のように開けていながら、子どもにも親にも寄り添って優しく出迎えてくれる音のはらっぱ。いつもの公園に遊びにいく気持ちでお子さんと一緒に出掛けてみませんか。そしてこのはらっぱがあなたの町にも広がっていきますように。

Information

音のはらっぱ

URL:https://lit.link/otoharaconcert

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・次回公演

2024年8月2日(金)

開演:①10:00(開場 9:45) ②11:00(開場 10:45)

会場:小黒恵子童謡記念館(川崎市高津区諏訪3-13-8)

料金:大人1,000円、小人(小学生以下)500円、2歳以下無料

予約フォーム:https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSetHgBR-BXv9sYlfdI-KvwcpMI7eUjfvnHkTwRq_bNcsM0gyw/viewform

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この記事を書いた人
髙橋有紗ライター
出産後、子どものふるさとになるこの町をもっと知りたい・関わりたいと思い、育休中に森ノオトのライター講座に参加。食欲旺盛で寝るより食べたい派。おいしいの始まりをたどるうちに、週末ハンターに。鉄道旅や風景印集めも好き。川崎市高津区在住。
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