ライフワークが生んだ地域の居場所。たちばな台の家庭文庫「座文庫」
青葉台駅、たちばな台公園のそばの住宅街にある「座文庫」は、ご自宅の一部屋を地域に開く家庭文庫です。座文庫はどのような場所なのでしょうか?主宰者の伊藤武昭さんにお話を伺いました。

東急田園都市線・青葉台駅からバスに乗って5分。たちばな台の坂をせっせと上った先、住宅街の一角に座文庫はあります。主宰者の伊藤武昭さんはご自宅の一部屋を家庭文庫とされていて、絵本や図鑑、児童書などが並び、0歳から小学生頃まで親しめるような本がお部屋にたっぷり並んでいます。

ベージュの壁の一軒家に「座文庫」はあります。向かいは緑豊かなたちばな台公園です

 

インテリアコーディネーター、整理収納アドバイザーとして活動される妻・寛子さんの屋号「ゆうゆう素敵工房」の文字も

2018年にオープンした座文庫。毎週水曜日、10時から12時と14時から17時に開館しています。利用料はかかりません。小さいお子さん連れの方や小学生のお友達同士を中心に文庫を訪れていて、本を読んだり宿題をしたり、お菓子を食べながらおしゃべりをしたり……思い思いの時間を過ごしているそうです。

玄関を入ってすぐ左に、ミッフィーのかわいい絵が!座文庫のお部屋やトイレ、紹介リーフレットに至るまで、ミッフィーカラーで統一されています。写真中央の黄色い小さな扉からも中に入れます

 

明るく居心地のよい室内。本が収納できるかわいらしい椅子や棚は武昭さんの手作りなんだとか!

 

本棚の一角。10畳ほどのお部屋に約400冊の絵本や児童書が並びます。ミッフィー絵本からおりがみ遊び、植物図鑑……さまざまなジャンルの本が楽しめます

たちばな台にかわいい家庭文庫があるらしい……。本を読むことが好きで、本を挟んだ人とのつながりの形に興味があった私は、自宅の一室と蔵書を地域に開くとはどのようなものなのだろうと、足を運ばせていただきました。

 

ところで「座文庫」という名前は、どのような意味なのでしょうか?

座文庫の「座」が指すのは「劇場や人の集まる場所」。「座文庫」は武昭さんがライフワークとして続けてきた人形劇のミニ劇場でもあるのです!

主宰者の伊藤武昭さん。小学校の教師を勤めあげ、退職後に座文庫として家を開く活動を始めました。「じっとしていられない性分なの」と話す武昭さんは、午前中毎日歩くのが日課だそう!

武昭さんが人形劇を始めたのは大学時代だそうです。ご友人に誘われて人形劇サークルに入った武昭さん。「はじめは楽しいとは思えなかった!」とからりと笑いますが、大学を卒業した後も教員の仕事のかたわら上演の場を設け、活動を続けました。

 

「人形劇は役者や照明、音楽、舞台設営など、人手がいるんです。だから家族や友人などを巻き込んで、劇団の名前は『人形劇・ふぁみり座』。仕事が休みになる8月の上演を10年ほど続けていました。私の子どもたちが通っていた保育園を含めて4、5園ほど巡回して上演をしました。

人形劇を上演していると子どもたちが目を輝かせて寄ってきて……。そんなことがあるとこっちは俄然やる気になっちゃってね」と声を弾ませて武昭さんは話します。

 

そんなやりがいを感じながら上演を続けていましたが、年を重ねてからは舞台を一から作り上げる出張公演の形は体力的に続けるのが難しいと感じ始めたそうです。

 

「それなら自宅で上演しよう!ということで、自宅の一部屋をリフォームし、劇場と文庫を兼ねた『座文庫』を作ることを決めました。ここは元々は子どもたちが使っていた部屋で、壁を抜いて天井を高くして、半年以上かけて舞台を作っていきました」

武昭さんに人形劇を見せていただきました。突然の上演でも、ストーリーがスラスラと出てきます。今は年に一度、近所にある太陽の子桜台保育園の子どもたちを座文庫に招き、上演を行なっています

今、武昭さんが上演するのは、紙に描いた人形を動かす「ペープサート」と音楽に合わせて人形を動かす「人形ボードビル」の2パターンがあるそうです。

 

「それぞれの良さがあります。歌はそれ自体にストーリーがありますが、人形劇は絵本から上演作品を選びます。ただ、名作だからといって、そのまま人形劇にして面白いかというと違うんです。人形劇は動きから想像が広がっていくので、台詞の扱いが難しい。台本については学生時代、メンバーでよく議論していました」

 

読書が元々好きだったのですか?と聞くと、「正直、子どもの頃は本は全然」と茶目っ気たっぷりに話してくれた武昭さん。読書の世界に本格的に足を踏み入れたのは人形劇を始めてからなのだそうです。

 

「人形劇をやるのにアンデルセンやグリム童話といった童話を一通り読みました。面白いな、と思いましたね。一見無茶な話に思えても、色んな気づきがあって。昔話だけでなく、谷川俊太郎とか安野光雅とか、当時新しくてよい作品っていうのもたくさん出ていたので、人形劇にするためにはまず原作を読まなくてはと買い漁りました。

とはいっても絵本は高かったので、古本屋を回ったり人形劇サークルのメンバーで回してみたりして」

 

人形劇づくりのインスピレーションを得るため、絵本を読み続けた武昭さん。武昭さんのライフワークの肥やしとなった絵本たちが、今座文庫に並んでいるのです。大切に保管されてきた絵本たちは今地域に開かれ、子どもたちが読み集う場をつくっています。

森ノオトスタッフの娘さんも遊びに。座文庫の壁に陳列された本は毎月並びが変わり、新刊も仕入れているそうです

小学校の先生を勤めてきた武昭さんは、学校や家庭以外の「子どもの行き場」が気になると話します。

 

「地域で子どもを見るスペースがないなと感じています。学校や家庭、学習塾以外の子どもの行き場がどんどんできるといいなと思っているんです。ここで過ごす子どもたちの様子を見ていると、先生からも親からも解放されているからか、生き生きして見えます。そういう場所が増えていくといいですよね。

成長する過程では騒いだり泣いたりしながら、さまざまな人とふれあうことが必要です。読書ももちろんですが、地域の中で子ども同士が遊ぶことや第三者の大人に出会う機会が大切かなと思うんです」

 

座文庫には絵本のほかにボードゲームが用意されていたり、人形劇の人形たちで遊べたり。図書館ではなく、私設の文庫だからこそ、子どもたち同士お話ししながら過ごしてほしいと話します。

 

「地域に入っていくのは、思っている以上に難しいことです。ここをはじめた頃、色々考えても誰も来なかった時は、がっかりすることもありました。でも、地域の人が集える場は大切だから、6年コツコツと続けています。初めて遊びに来た子どもに『また来てね』と声をかけると、『また来るよ!』と元気に返してくれる。そんな子どもたちや親御さんのために、これからも安全で気持ちがいい空間をつくっていきたいと思っています」

光が差し込む出窓の脇には、人形劇を観た子どもたちからの手紙が飾られていて、私は座文庫で子どもたちが過ごした楽しい時間を想像しました

70歳を超えるとは思えない若々しい笑顔で話す武昭さん。人形劇は大学生から続けてこられて、50年以上になるのでしょう。武昭さんのライフワークを支えた根っこの経験が、形を変えて地域の居場所をつくっているんだ。並ぶ絵本の奥にある豊かな循環を知り、私はより一層座文庫の場が温かなものに感じられました。

 

手作りの温もりが感じられる座文庫へ。友達と、お子さんと、ぜひ足を運んでみてくださいね。

Information

座文庫

横浜市青葉区たちばな台1-1-8

HP:https://aoba-yell.com/portfolio/zabunko-yuyusutekikoubou/

開館:毎週水曜日10〜12時、14〜17時

利用料:無料

問い合わせ:045-961-8676

*レンタルスペースとしても貸し出し可能(無料)

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この記事を書いた人
佐藤沙織ライター
横浜市泉区生まれ、西区在住。そこに住む人の等身大の言葉でつくられた森ノオトの記事に魅せられてライターへ。身近な人の気持ちや様子をそっと書き残していけたら。読書と犬が好き。趣味のゴルフは毎回大乱闘。
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