
「破棄される洋服をリメイクして、子どもや若者が輝けるファッションショーを企画しています」
昨年6月、横浜市泉区で学校に行きづらい子を持つ親の会ハピネスを運営する相澤由佳里さんから、森ノオトめぐる布市の出口を広げるプロジェクトに、そんなメッセージを添えてモニター希望の申し込みがありました。出口を広げるプロジェクトは、全国から寄付される手芸布や手芸用品を、地域の団体に活用してもらい、より循環量を増やしていこうという取り組みです。
廃棄される洋服をめぐる布市の資材を使って、子どもたちの手で生まれ変わらせ、子どもたちが主役のファッションショーで紹介する。相澤さんは、泉区でこども食堂がじゅまるを運営する中村葵さんらとともに、 「UPBEATDAY」と名付けたプロジェクトをスタートさせました。
2025年3月22日は3度目のステージで、泉区の商業施設、ゆめが丘ソラトスが舞台でした。明るい光が差し込む吹き抜けのフロアを会場に、モデル役の子が一人ひとり、アップサイクルした洋服を身にまとって登場です。家族や友人、買い物客らが見つめる中、堂々とランウェイを歩ききりました。「人見知りで、やりたくないという子もいたのに、家で練習してよくがんばりました」と相澤さんは目を潤ませていました。

晴れやかな表情でステージに整列する子どもたち

ステージでポーズを決めるモデルの子

ファッションショーだけでなく、アップサイクルした洋服と取り組み紹介の展示も
学校に行きづらい子を持つ親の会を10年前から運営してきた相澤さん。「学校に行かない子どもたちが日中何をしているかというと、女の子はメイク動画を見ている子が多いんですよね。絵がうまい子だったり、ファッションセンスのある子だったり、芸術的な才能があふれる子も多いです。でも、発表する場がない。本人も人前に出たいとは思っていないんです。もし発表できる場があったら楽しいんじゃないかなと思うようになって」。「ファッション、メイクで子どもたちが輝ける場をつくれたら」と思いをあたためます。
ある時、相澤さんは知人から廃棄予定の新品の洋服を譲り受けることに。中国からの輸入品で、届いてみたら縫製やボタン位置が規格外のため、販売できないものだったのだそう。相澤さんから見ると、どこがだめなのかわからないほどのクオリティです。たまたま、めぐる布市の出口プロジェクトを知人から教えてもらい、手芸用品でリメイクできたら洋服が生きるのではと、すぐにプロジェクトのモニターに応募したそうです。
青葉区鴨志田町にあるめぐる布市の工房を訪ねた相澤さんは「いろんな色や素材の布にふれ、テンションがすごくあがりました。いただいた洋服とさまざまな布たちが組み合わさり、これは楽しいことになるかもと思ったんです」と、その時の胸の高鳴りを教えてくれました。

めぐる布市から譲り受けたカーテンレースやリボンレースでアップサイクルされた洋服たち

若い人たちの感性で手芸資材も洋服も新たな命を吹き込まれた
当初はハピネスのメンバーに声かけし、縫い物が好きな子やファッションショーに出たい子を募ったのだそう。洋服と布を見ても、どうしたらいいか戸惑っている様子の子たちに、相澤さんの知人のデザイナーさんがアドバイスをしてくれました。「まず洋服を切ってみようか」と声をかけ、迷いが出る時には「失敗してもいいからやっちゃいなよ!」と明るく背中を押して洋服のアップサイクルに取り組んできました。
かかわってくれる仲間を増やそうと、一緒にUPBEATDAYを企画しているこども食堂がじゅまるの中村葵さんのつながりで、横浜市立戸塚高等学校定時制の家庭科部の生徒たちも協力してくれることに。ある中から、どれが一番イメージに合うのか、真剣に素材に向き合って作品を作ってきたそうです。

戸塚高校家庭科部の生徒がアップサイクルした洋服。レースやリボン素材を活用して新しい装いに。「首元が寂しいのでレースにくるみボタンを付けました」と、左側の洋服を担当した生徒さん
ファッションショーは2024年10月に相鉄いずみ野線・いずみ中央駅前まあるい広場で、12月には和泉中央地区ふるさと祭りの舞台に参加。12月の時には、初回より人が多かったり、寒さもあったりで、「もっと上手にやれたのに悔しい」という声が聞かれたのだそう。「もっと上手にやりたいという気持ちを聞いて感激しました」と相澤さん。ソラトスでのステージに向けて、次は洋服をどうしたらもっとかわいらしく見せられるか、自信をもって歩けるようにと、高いヒールのブーツを履いて、うつむかずに前を向けるようにと、練習してきました。
華やかなメイクやヘアスタイルで、ハレの舞台に立った小学生から高校生までの8人のモデル役の子たち。たくさんの人の視線を感じながら、顔をあげ、胸を張って歩く姿が印象的でした。このステージには、洋服を作った子やモデルの子だけでなく、メイクも若い人たちが担当したのだそう。「人に会うのも怖かったりドキドキするという子も、勇気を出して来てくれて、舞台袖で見守っていました。新しい体験になったと思います。自分たちで取り組んだことが形になり、自信になってくれたらうれしいです」と相澤さん。

昨年10月の最初のファッションショーの時の様子。リメイクのセンスもコーディネートもそれぞれの感性が光る(写真提供:UPBEATDAY)

昨年12月のステージの様子。地域のお祭りをファッションーで盛り上げた(写真提供:UPBEATDAY)
UPBEATDAYのBEATには、「鼓動」という意味があります。「鼓動が高鳴る日々を過ごそう」という思いを込めて、このプロジェクトの名前を付けたのだそう。
洋服のリメイクをしながら「子どもたちの心が動いているのを感じた」と感慨深げに話す相澤さん。心身を動かしながら作り上げた洋服が、ファッションショーの舞台へ。人前に出るのが苦手な子も、学校が合わないなと感じている子も、本番で注目を集めながら歩く。そして、輝く舞台を裏方からかかわった子たち。こんなプロジェクトにしたいと支える人たちの思いを受けて、それぞれに子どもたちの心が躍動するプロジェクトとなりました。
捨てられるはずだった洋服、使いそびれた手芸用品。一度は見捨てられたようなものたちに、価値を見出し、自分たちの手で新しい命を吹き込み、輝かせていく。この一連のプロジェクトを振り返って、相澤さんはこう話します。「今、たくさんのものにあふれていて、ものの命を感じるのが難しくなっています。自分が手に取ったものに命があると意識を向けることは、自分自身の命を大切にすることにつながっていくと思うんです。それだけでは輝かなかったものも、つながっていくことで輝きを増すのだなと」。
UPBEATDAYは今後も、ファッションのアップサイクルの取り組みを紹介しながら、ものを大切にしていくことを伝えたり、ものづくりの場をつくっていきたいと考えているそうです。好きなことから始まるこの取り組みが、子どもたちの胸の鼓動とともに、環境啓発の輪をじんわりと広げていくことと思います。


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