私たちが植えた花が一滴のハチミツになる。セヤミツラボとミツバチの365日
瀬谷駅から徒歩15分ほど歩いたところに「ハニービーハチサンファーム」はあります。ゲートの向こうには、ハーブ畑が力強く広がっていました。草が風に揺れ、蝶がひらひら舞っています。ここにはキジも飛んでくるとか。整えられた美しさはないのに、一瞬で魅了されました。セヤミツラボを立ち上げた山口正斗さん、養蜂家の鈴木悠太さんにお話を伺いました。

私は、「ミツバチの恩恵療法」という、ハチミツが人間の生活に与えてくれる効能や恵みをシェアする講座を長く開催しています。健康、防災、美容、楽しみ、さまざまな点からハチミツの力を実感してきました。それを生み出しているミツバチを、ミツバチたちと共に過ごしている「養蜂家」さんの仕事を、いつか目の前で見たかった。出会えないまま数年経っていましたが、養蜂を通した循環型のまちづくりにも主体的に参加されているという、私が思い描いていた養蜂家さんをとうとう発見!好機が巡ってきたのだと思いました。

ゲートの向こうは一面ハーブ畑。生き物たちが賑わうワイルドガーデンが広がります

「養蜂家」の季節の仕事

「養蜂家」とは、具体的にどのような仕事をするのでしょうか。鈴木さんが言うには、大きくは、一年を通してハチの「密度」を調整しているのだそうです。「密度」とは巣にいるハチの密集具合のこと。密度が高いと、病気で働けないハチが出ても残りのハチが役割を補い、巣全体の機能が保てるのだそう。ゆえに巣箱の中の板を産卵や蜜の溜まり具合を見て移動させる必要があるのだとか。

 

また、日本はヨーロッパに比べて湿度が高いため、こまめな掃除が欠かせません。ゴミが溜まった際には速やかに掃除し、ミツバチが思わぬ場所に巣をつくってしまった時は巣を取り除き、さらにミツバチが巣の隙間を埋めるために使われるプロポリス(抗菌作用を持つ樹脂状の物質)を除去したりします。スムシ(巣を食い荒らす幼虫)が潜んでいる可能性があるため、巣箱をバーナーで焼いたりもします。

元気かな?巣箱からミツバチの巣を取り出して、密度を確認します

「養蜂家」の仕事を季節に沿って、教えていただきました。

 

春は、ハチたちが働く季節。でも働きすぎると寿命が短くなり巣を守る力が減ってしまいます。産卵数やハチの数をコントロールしつつ、ハチ全体の健康寿命を守るため、しっかり見守ります。

 

夏は、ハチたちの動きの波は落ちてきているため、ここからは秋に向けてのオオスズメバチ対策をします。巣門(巣箱の入口)を狭くしたり、罠をしかけたり。

 

冬は、ハチたちの活動はほぼありません。が、近年は温暖化の影響で、冬でも暖かい日に女王バチが誤って産卵してしまうことがあります。産卵が起こると、ミツバチヘギイタダニが幼虫に寄生して増えやすくなるため、ダニ駆除剤を用いて新たなミツバチヘギイタダニの発生を抑える必要があります。あわせて、貯蜜(花から集めたハチミツ)が十分にあるか確認し、不足する場合はキャンディボード(固形状の砂糖)を与えてハチたちの生命をサポートします。

 

「ダニ駆除剤はミツバチの健康維持のために使用しています。使用しないと、群全体が衰弱してしまったり、大量死につながる可能性もあります。新年度のハチミツに混ざらないように枠を別にして管理するのも養蜂家の仕事の一つです」と鈴木さんは言います。

 

ミツバチは、ハチミツだけではなく、植物の受粉を助ける役割を担うため、農産物の生産にも欠かせない存在です。話を聞いていると、養蜂家とは、まるで巣箱を賃貸している大家さんのよう。見守って、メンテナンスして、賃料の代わりにハチミツを少しいただく。人間とハチはお互いに助け合って生きているのかもしれません。

 

 

瀬谷区にハチミツという名産を

活動の始まりは、地元に住む若者たちのビジネス的な視点からでした。横浜市上瀬谷地区で開催されるGREEN×EXPO 2027に向けて、瀬谷区の「お土産」を作ろうという気持ちから始まり、2021年に「養蜂」でまちを盛り上げようと立ち上げたのが「一般社団法人セヤミツラボ」です。

 

瀬谷生まれの山口さんを含めたセヤミツラボ発足メンバーは、高齢化が進むこの場所で、どうやったら人が住み続けたいと思うか、地域を盛り上げられるかを考えました。そのヒントが「養蜂」でした。そんな熱い気持ちから2022年に養蜂所を立ち上げるためにクラウドファンディングを始めます。実は巣箱を置いたばかりで、本当にハチミツが採れるかわからなかったそうですが、思いやビジョンに共感した地域の人々の応援を得て、160万の資金獲得に成功しました。応援してくれた人には、瀬谷で採れた野菜や、その後採れたハチミツで恩返しをしたそうです。

 

一方で、現在「二代目養蜂家」として活動する鈴木さんは、発足当初からのメンバーではありませんでした。彼がセヤミツラボに参加したきっかけは、「生産者」という肩書に惹かれたこと、GREEN×EXPO 2027が控えていた瀬谷の地で、地元民として一生に一度の経験ができるのではないかという気持ちから活動をスタートさせたそうです。そして地域とのかかわりの深さを知り、今ではしっかりと「養蜂家」として地域の一員になっています。

 

ハーブ畑に目をやると、ミント、ラベンダー、バジル、フェンネルが一枝ずつ力強く育っているのがわかります。「ホーリーバジルとスイートバジルの違いはわかりますか。今摘んできますね」鈴木さんはまさにハチのように軽やかにベンチから畑へ飛んでいきました。それを見て山口さんは「彼、自然とか植物とか大好きなんですよ」とやさしく笑います。鈴木さんが摘んできてくれたバジルを手でなでると、ホーリーバジルは、スパイシーでスモーキーな香り、スイートバジルは、食欲を誘うように弾ける甘味と青い香りがしました。

右がスイートバジル、左がホーリーバジル

瀬谷区の皆で育てたホーリーバジルを活用して、瀬谷区で就労継続支援 B 型事業所「ぱんの木」を運営する安田智考さんが、2023年にスタートさせた「学福農商 YOKOHAMA SEYA ガパオ祭り」では、バジル、ハチミツ、野菜、ニンニクなど瀬谷産の食材が、地域の「学校」や「福祉」施設、「農家」、飲食店などの「商業」が協力して収穫、加工をし、おいしいガパオ料理、ピザ、レモンスカッシュとして瀬谷区の飲食店などで提供され、地域を盛り上げています。

 

セヤミツラボのハチミツも、瓶詰めやパッケージする作業などを「ぱんの木」で活動する障がいのある方が担当し、製品化しています。

 

そんなふうに、「農福連携」でそれぞれの立場から支え合う姿は、人とミツバチの共生のようでもあり、地域の中で循環が生まれている様子が感じられました。

ぱんの木などで購入できるセヤミツラボの琥珀色のハチミツ

春は、桜、菜の花、初夏はトチノキ、ネズミモチ、夏はクリ、カラスザンショウ、秋はホーリーバジル、ヌルデ、季節の花々の花粉が元となっているため、季節によってハチミツの色や香り、味が変わります。

 

今日はセヤミツラボのハチミツを試食させていただけるということでしたが、ここでお二人からクイズが出されました。「3つのうち、ニセモノが混じっています。それはどれでしょう?」箱には淡い琥珀色、中間色、濃い琥珀色のハチミツが並んでいます。私は中間色、淡い琥珀色、濃い琥珀色の順番でいただきましたが、どんどんおいしくなっていくのがわかり、ひとさじめが「ニセモノ」なのでは?と答えました。結果は当たり!「ニセモノのハチミツ」とは、ハチミツに水あめや砂糖を混ぜたものを指します。また、効率アップや大量生産のためにハチミツの早期出来上がりを促す加熱処理をしたものも、本来のハチミツとしての効能が消えていると言われています。だからこそこんなふうにミツバチたちにゆっくりと伴走して一緒に育てた天然のハチミツは、とっておきのごちそうです。

ひとさじのハチミツ。ミツバチ一生分の働きの結晶

ひととおりお話を聞かせていただいた後、私たちは畑の一角の大きな木の下にあるミツバチの巣箱へ近づいていきました。ミツバチの羽音が徐々に大きく聞こえてきます。

 

木漏れ日の射す午後、巣箱の後ろに立ち、私は一つ深呼吸しました。今日の服装は、ミツバチからの攻撃を受けやすいとされる黒い服は避け、白の長袖シャツと分厚いデニム。「大丈夫、ミツバチは穏やかだから」と聞いてはいたものの、それでもやはりドキドキして鼓動が高まります。

 

ゆっくりゆっくり巣箱に近づいていきます。静かに唸るような羽音。目の前を行きかう小さな命。そしてついに手を伸ばせば届くほどの距離に近づいたとき、想像していた強い「警戒色」とは違い、淡くやわらかいクリームイエローと墨色の縞模様の身体で動く、想像よりも静かな彼らの世界がありました。

 

「怖くないんですか?」と山口さんにかけられた声でハッとしました。日差しと人の気配が私を現実に戻します。いえ、私は普通にハチが怖いです。でも、とても美しいです。

やわらかく淡い色合いのミツバチたち

 

小さくて静かな世界

それぞれの命の役割

ミツバチたちは、身体が大きくあごも毒針も強力なオオスズメバチに襲われると成す術がないそうです。オオスズメバチと違ってミツバチが針を使えるのは一生に一度。ミツバチが針を使う時、それは仲間を守って自分の命を落とす時です。その針ごと身体が引きちぎれてしまうからです。

 

こんなふうにミツバチの愛らしさ、懸命さを知ってしまうと、そんな彼らの命を脅かすオオスズメバチは胸がざわつく存在で、まるで悪者のように思えてしまいます。鈴木さんが発信するInstagramでは、襲いかかるオオスズメバチに勇敢に立ち向かい、地面に力尽きたたくさんのミツバチたちの姿があり、私は心を痛めました。

 

でもオオスズメバチも特定の昆虫が増えすぎるのを防止するため、ここに必要なのだと鈴木さんは言います。ミツバチが「かわいそう」、オオスズメバチが「悪者」という視点ではなく、自然界ではどの命にも役割があります。風除け、日陰作りなど、雑草には雑草の役割があるように。私たち人間も含め、生き物は食物連鎖、生態系のバランスの上に生きていることを再認識させられました。

畑の南東側。木陰の下のミツバチの巣箱

私は今日、改めて養蜂家さんやミツバチたちに大きな敬意と感謝の気持ちを抱きました。いえ、それだけではなく、私たちも当事者になれることを知りました。鈴木さんは言います。「ハーブを庭に植えてください。それだけでいいんです。その蜜源植物がハチたちを守ってくれるので」

 

帰りがけ、ハーブの茂みでミツバチが蜜を集めている姿を見つけました。花に顔をうずめるようにして花から花に夢中になって移る様子が何ともかわいらしい。ミツバチと同じポリネーター(受粉の仲介者)である白い蝶たちもそこかしこに舞っています。「あそこにキジが来ていますね」山口さんが少し先を指さして教えてくれます。いつの間にか畑の中で羽を休めていたらしいキジが畑から飛び立つところでした。生命の営みがここでは静かに、確かに息づいています。

花に顔をうずめて、蜜を集めるミツバチ 心なしかうれしそう

Information

リビングラボ | 一般社団法人 セヤミツラボ | 横浜市

神奈川県横浜市瀬谷区相沢2-19-1

https://www.seyamitsu.com/

Instagram:https://www.instagram.com/seyamitsulabo/

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この記事を書いた人
山田留美子ライター
本と山と旅が好き。在宅ホスピスのソーシャルワーカーをしながら、「図書館で働く人」に憧れ、司書資格を取るため大学生の道へ。生活の木たまプラーザ校にて、地球と体に優しい暮らしをテーマにSDGs、ハーブ講座随時開講中。豆柴と過ごすお休みが好き。
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