大人の学び舎「あざみ野カレッジ」の学生であるリポーターの小池は、昨年ブックディレクター幅允孝氏による「ブックディレクターのお仕事 本と出会う楽しみ」の受講の様子を森ノオトで紹介しました。
「あざみ野カレッジ」では生涯学習をモットーに、様々な講座を月一回のペースで開講しています。その内容は多岐にわたり、「次はどんな講座があるかな?」とチェックをしています。
すると……ヨコトリ未体験の小池にピッタリの講座を発見! 「ヨコハマトリエンナーレ2014〜見どころ・特色・コンセプトまるごと大解説」を去る8月23日に受講してきました。
ヨコハマトリエンナーレは3年に一度、横浜で開催されている現代アートの国際展で、今年で5回目となります。近年日本ではアートが「地域づくり」や「地域活性」のコンテンツとして注目され、各地で様々なアートの祭典が開かれていますが、ヨコトリはその先駆者的存在です。
さて、講座の案内役は横浜美術館学芸員で、ヨコハマトリエンナーレ2014キュレーターの木村絵理子さん。ヨコトリのサブタイトル「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」が持つテーマについて、とても解り易く説明してくれました。
『華氏451度』は1953年に刊行されたレイ・ブラッドベリのSF小説。書物を読むことが禁じられた社会において、小説を読む楽しさを知ってしまった人物が翻弄された世界が描かれています。ちなみに華氏451度は、摂氏温度約230度で、紙が自然発火する温度です。
今回のヨコトリの特徴のひとつは、アーティスティックディレクターに、アーティストである森村泰昌氏を迎えたことでした。おかげで学芸員にはできないような展覧会を実現できたそうです。この『華氏451度』から着想を得た森村氏が「忘却」をテーマに掲げたことで、特色のある展覧会になっています。
パンフレットにはこう書いてあります。
私達はなにかたいせつな忘れものをしてはいないだろうか。
人生のうっかりした忘れもの、現代という時代の特殊な忘れもの、
人類の恒常的な忘れもの。
ヨコハマトリエンナーレ2014は、それら様々な忘れものに思いを馳せる
「忘却めぐりの旅物語」である。
序章と11の挿話からなる心の漂流記。いざ、「忘却の海」へ。』
展覧会の構成は小説仕立てになっていて、忘却や消滅の運命にある作家や作品などが、序章と1話から11話にわたって紹介されています。
序章では、いきなり『アンモニュメンタルなモニュメント』つまり、記念碑的でない記念碑が、横浜美術館前に鎮座しています。大聖堂などに多く見られるゴシック建築様式のトレーラー……。作家がわたしたちに、作品に秘められたある種の“矛盾”について問いかけるようです。
さらに横浜美術館のエントランスホールには巨大なゴミ箱「アート・ビン」。
実は数ある展示会で実際に展示されているのは、捨てられずに、いわば“生き残った”作品です。このゴミ箱には生き残ることができなかったアート作品が集められています。
「ゴミとなってしまった作品と、そうならずに残った作品の境界を考えてみてほしい」と木村さん。
そして、第1話で展示されている木村浩氏の作品『言葉』。単にことばがペイントされていると思いきや、実はこの作品でつかわれている書体は、いまでは実在していません。
また、第3話の『大谷芳久コレクション』では、太平洋戦争中に出版された貴重な詩集が紹介されています。
そのほか「忘却」について自然と考えてしまう作品とともに挿話の世界へと誘われ、たどりつくのは、第11話の会場、新港ピア。
その先には大海原が広がっています。
「忘却めぐりの旅物語」を体験して、大海原を目にしたとき、一体どんなことを感じるのでしょう…… それは実際に参加してみた人だけが得られる感覚なのでしょう。たしかにアートは、日常で失っている何かを自分の中に沸きたててくれる不思議な魅力があります。
木村さんは「横浜美術館だけでも、観賞するのに2時間くらいかかります。新港ピアは別の日に観た方が疲れないかもしれません」と教えてくれました。
3年に一度の地元横浜のアートの祭典。開催は11月3日(月・祝)までです。
ぜひ皆さんもあざみ野カレッジで生涯学習してみてはいかがですか。
次回、9月23日(火・祝)のカレッジは、海の専門家で、人気番組『THE!鉄腕!ダッシュ!!-ダッシュ海岸-』にも出演中の木村尚さんが講師を務める『東京湾とともに―横浜から広がる江戸前の再生』。横浜の海・東京湾の知られざる今を学べます。
詳細・申込は下記リンク先へ。
http://artazamino.jp/series/azamino-college/
hitomi’s point
昨年小池が観賞し、印象に残っているの展覧会のひとつが、銀座の資生堂ギャラリーで開催された「LAS MENINAS RENACEN DE NOCHE 森村泰昌展 ベラスケス頌:侍女たちは夜に甦る」です。森村氏が物語仕立てで「全8幕の一人芝居」として表現した世界にすっかり入り込んでしまったフシギな感覚がいまでも忘れられません。その森村氏がヨコトリで小説に仕立てた世界に興味が持てないわけありません。このリポートを書いている現在まだヨコトリには行けていない小池ですが、実際に足を運ぶ日を楽しみにしています。
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