ただの日陰では感じられない木陰の心地よさ、そこにも植物の不思議があるのです。(Text:持田智彦)
今年は梅雨が早く過ぎ去り、毎日ギラギラと太陽の強い日差しが降り注いでいますね。
私は外仕事なので、炎天下でずっと作業をしていると汗が噴き出しています。そんななか、木陰での一服が安らぎを与えてくれます。
さて、そんな安らぎを与えてくれる木陰ですが、建物の日陰では得られない涼しさ感じると思います。ではなぜ木陰は涼しく感じるのでしょうか?
それは葉っぱから水が蒸発しているからなのです。
葉が水を蒸発すると温度が下がる理由は、水が液体から気体に変化する時、水の分子同士のつながりを切るために、周囲から熱エネルギーを奪っているからです(ちなみに個体の氷から水に変化する時も、同じく周囲のエネルギーを奪うので氷の周りは涼しく感じます)。
木陰は葉で日陰になっている。それに加えて水の蒸発で温度が下がっているから、なおさら涼しく感じるんですね。さらに、木が立っている土からも水が蒸発しているんですよ。
なぜ葉から水は蒸発しているのでしょうか?
植物は生きてゆくのに土壌の中の根から水を吸い、その時に水と一緒に養分も吸い上げます。そして、水は葉で光合成などに利用されて、主に気孔という葉の裏にある器官(穴)から大気中に放出されます。このことを蒸散と呼びます(気孔で水を放出する時、かわりに光合成に必要になる二酸化炭素を吸っています)。
植物は蒸散を行うことで葉の温度が上がり過ぎるのを防いでいます。人の汗や、打ち水と同じ効果を得ているのです。
もし晴れた夏の日に蒸散が行われなければ、葉の温度はすぐに高温になり、深刻なダメージを受けてしまいます。蒸散は、葉の温度を一定にするために大事な役割を担っています。なんと植物が吸い上げた水の約95%は、蒸散によって使われています(ちなみに光合成に使われるのは1%以下です)。1枚の葉が含有する水分は、蒸散しやすい条件の時には1時間で全てが入れ替わると言われるほど、植物は汗かきなのです。
この蒸散は、大きな木の上に水を上げる力にもなっています。例えて言うと、ストローでコップの水を吸い上げるのと同じ現象が起こっています。この力はとても強い。世界には100mを超える巨木がありますが、水の凝縮力や浸透圧の力などを駆使し、その様な高さまで水を上げているのです!(ちなみに日本では一番高くて63mのスギの木があります)
植物にとって、水はとても大切なもの。樹種や大きさなどで異なるものの、1日で水を蒸散する量は、大きい木だと1日で200〜300リットル以上。大量に必要な水ですが、夏には雨が全然降らない日が続くので、そうすると土もカラカラになってしまい、水が足りなくなってしまいそうです。なかには弱ってしまう木もありますが、それでも多くは元気に育っていますよね。カラカラに見える土から、木はどうやって水を吸い上げているのでしょうか?
実は水が地下から上に上がってくるのです!
雨が降ると水は土に浸み込み、重力により土の隙間を通り、地下深く、地下水脈にまで浸透していきます。でも地表が乾いてくると、地下から地表に向かって水が上がってくるのです(毛細管現象の力です。水がたまった場所に乾いた布を置いた時の様なイメージ)。深く浸み込んだ雨水や地下水脈の水が、土の隙間を移動して上がってきます。
土の中での水の流れは、上から下より、下から上に常に流れているのです。だから、夏のカラカラの天気でも大丈夫なのです。
しかし、街なかの街路樹など、地下と土の隙間が連続してうまくつながっていない場所では、水分が不足して木が弱ってしまうのです。
地下水が上がる時、水に含まれているミネラル分も一緒に上がってきます。そのミネラルは地表で水が蒸散すると土の中に残ります。そこで問題になるのが塩害です。乾燥している気候の土地では、ミネラル分が水とともに常に上がってきて、土の中に溜まってしまうので、塩類堆積が起こり、それが塩害を引き起こします。塩害が起こると植物が水を吸い上げることができなくなってしまいます。
日本のように雨の多い気候では、上から下の水の流れが多いためミネラル分が地下に流れてしまう割合が多く、問題は起こりません。
日本の土壌のPHが酸性になる理由がそこにあるのですが今回はここまで。
これからしばらく暑い日が続き、外に出かけるのも辛く感じますが、そんな時は木陰で「植物たちも暑いけど頑張っているんだな」と、心の中で応援しながら、ひと休みをして下さいね。
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