■地域の、日常の場所に、音楽をもってくる。
ーーこれまでHura-meshiやCOPPET、Taco-nomiなどで開催されてきたnamaotoのライブが、7月4日(水)にはついにウィズの森にも登場ですね。いま、青葉区各地で開催しているnamaoto、いったいどんな風にして始まっていったんですか?
新谷竜輔さん(以下敬称略): 昨年、桜台の眼鏡専門店YAMASENグラスワークスさんに、野球用のサングラスを買いに行ったんです。そのとき、堀部さんに誘われて「青葉台でFace to Face(AFF)」の飲み会に参加して、COPPETの奥山さんと「街角でミュージシャンが気楽に音楽を奏でる、そんなライブを自分のお店でもやってみたい」と言われて、「できますよ」って。
私はずっと音楽に関わっていて、大学時代から東京のあちこちで音楽イベントのプロデュースをしたり、音楽コンクールの審査員を務めるなど、ミュージシャンとのネットワークがあったんですね。また、妻と一緒に立ち上げたデザイン会社では、ミュージシャンのプロモーションもしている関係から、様々なミュージシャンを呼んでこられる環境にあるので。セットに関してもひと通りはそろっているので、場所さえあれば、その雰囲気にあった音をつくることができるな、と。
ーー でも、何で、青葉台の、しかもフツーのパン屋さんやレストランなんですか?
新谷: まず、何と言っても、青葉台が大好きなんです。
ーー おっと、いきなり核心!(笑)それはどうして?
新谷: 学生時代から青葉区に住んでいて、ずっと、この街に癒されてきました。実は私は、3歳のころからバイオリンを習っていて、クラシック音楽漬けで。高校時代にドラムと出会って、大学時代はバンド一色、プロを目指して活動する傍ら、アルバイトでバイオリンを教えたりしていました。青葉台は当時から「音楽の街」「アートの街」というイメージがあって、クラシックの世界でたいへん有名な指揮者や演奏家の方が住んでいたり、フィリアホールのような専門のホールもあって、とにかく文化水準が高い。この街で出会う人は、文化や芸術を楽しむゆとりがあって、それがすてきな街の雰囲気を生んでいるなあ、と感じていました。
クラシック音楽の土壌が豊かな青葉区で、ポップミュージックやフォークの分野はどうかというと、私が見渡す限り、それほど盛んではないと思ったんですね。土壌がないから、やりたい! やってみよう! という最初の試みが「namaoto」なんです。
ーー で、瞬く間に広がっていった、と。
新谷: 都内でライブハウスを貸し切ってイベントをする、これはずっとやってきていて。青葉台の、普通のお店の、日常のスペースで、あえてライブをやるというのがnamaotoのコンセプトです。いろんなお店でライブをやるなかで、その空間のムードや雰囲気に合ったアーティストを連れてきて、一夜限りの、その場でしか聴けないライブをつくる。元々音楽が好きな人、地元の人が、音楽を通じて出会って仲間意識が芽生え、ますます地域が好きになっていく。人生の大先輩から、小さなお子さんまで、多様なお客さんが足を運んでくれて、都心のライブハウスではあり得ない空気感がここで生まれています。ミュージシャンもそれに魅力を感じていて、また青葉台に来たい、と言ってくれています。
ある日、COPPETの奥山さんに言われたんです。「この街でnamaotoをやってから、生活に潤いが出た」と。ライブ当日のお客さんの顔を見ていると、とても楽しそうだったり、うれしそうだったり……感動を自分でつくることができた、という手応えを感じます。これは病み付きになりますね。
■青葉台をニューヨークみたいな音楽の街にしたい。
ーー namaotoで歌うのは、どんなミュージシャンなんですか?
新谷: 実力があるアーティストを呼んでいます。若くて、表現意欲があって、アグレッシブで。メジャーになるまであと一押し、という人たちです。アーティストをマッチングする基準は、お店の場所、空間、雰囲気に合うかどうかで決めています。
namaotoの常連さんには、アーティストに固定のファンがついていて、その人の曲を聴きたいと何度も足を運んでくださる方がいます。アーティストを応援して、この街で育てて、青葉台からメジャーに巣立たせたい、という気概を感じます。これは、プロデューサー冥利につきますね。
ーー 青葉区のコミュニティFMのFMサルースでも、ラジオ番組を持っていらっしゃるとか。
新谷: 毎週土曜日の18時から生放送でオンエアしている「ミュージックデニッシュ」です。COPPETさんプレゼンツで、namaotoのミュージシャンたちが出演します。
ほかにも、毎週土日のどっちかで、南町田のグランベリーモールで「Music Breeze」というライブをやっています。ほぼ毎週、この地域のどこかで、音楽の種をまいている感じです。
ーー?新谷さん、とてもお忙しいんじゃないですか? デザインの仕事もあるんでしょう?
新谷: 妻と二人でやっているデザインの会社「semi-charmed Life associates」では、C.I.(Corporate Identity)、V.I.(Visual Identity)、新聞広告やホームページ制作、名刺制作、それから音楽レーベルとして、いろいろな仕事を手がけています。大学卒業後、広告代理店で働いていたので、企画書をつくるのが得意で、新規性があるイベントやデザインを提案できるのが強みなのかな。デザインの部門である程度安定して仕事ができているので、私は好きな音楽にも集中できるんですね。子どもにも恵まれて、大好きな青葉台に根ざしていこうという決意を固めて、いま、理想に近い生活を送っていますよ。
ーー 青葉区で大人気のnamaoto、新谷さんならどんどん大きく広げていけるんじゃないかと思うんですが。
新谷: 大きな規模のライブというより、いまのような小さな規模でのライブを、いろんな場所に増やしていきたいですね。街の小さなカフェやパン屋さんなど、一つひとつの会場のキャパシティは限られていますし、1カ所で週に何度もやるものでもない。生活の中にあるいつもの空間が、時々、音楽の場所になる。そんな小さな驚きと発見を、街のあちこちに、ポツポツと広げていきたいんです。
最終的には、“音楽にあふれる街・青葉区”をつくることが目標です。究極的にはニューヨークのように、地下鉄やカフェなど、街の至る所から、いろんな音楽が聴こえてくる。生活のワンシーンとして音楽が溶け込んでいる、そんな雰囲気の街づくりを目指しています。
ーー 想像しただけで楽しみ! ワクワクしてきます。いまのところnamaotoは夜のライブなので、子連れのお母さんはなかなか行かれない……のが残念なんです。新谷さんとゆっくりお話ししたのも、今日が初めてですしね(キタハラはいままで2回ライブに参加していますが、子どもが小さいため最後まではいられず中座しています)。ぜひ、お母さん向けのライブを、昼間にやってほしいなあ。
新谷: ぜひ、やりましょうよ! 森ノオトとnamaotoのコラボ、いいじゃないですか。ママライブ、子連れライブ、実現しましょうね。
ーー さっそく、企画しましょう!
■取材を終えて……(一言)
昨年12月、Hula-meshiで始まって以来、気づいたら瞬く間に青葉台の街を席巻しているnamaotoライブ。熱心なファンと、ふらりと訪れる新しい出会いがうまく混じり合いながら、ものすごい勢いで広がっています。これだけ広める力がある新谷さんって、どんな人だろう。じっくりお話しするのはこのインタビューが初めてでしたが、なんとまあ、力のある人!
3歳で始めたバイオリンでクラシック音楽を習得し、高校時代にはドラムに出会い、大学ではプロのミュージシャンを目指してバンド活動に明け暮れた音楽畑の人……では片付けられぬ経歴。高校時代に剣道でインターハイや国体に出場、引退後に始めたハーフトライアスロンで実業団にスカウトされ、ロードバイクの選手として活躍するなど、おそらく、高い集中力と瞬発力で、すばらしい成果と実績を残せる方なのでしょうね。
そんな新谷さんが本気になれば、きっと、「青葉台をニューヨークみたいな音楽の街にする」という夢は叶うんじゃないかな、と。その夢、一緒になって盛り上げたい、実現したい! そんな仲間もいっぱいいるはず! 「青葉区に骨を埋める決意を固めた」という新谷さん、これからも末永くよろしくお願いします。
新谷竜輔(しんや・りゅうすけ)
横浜市青葉区のデザイン・イベント企画・音楽プロデュースの会社semi-charmed Life associates(株式会社セミ・チャームド・アソシエイツ)代表。青葉台で絶大な人気を誇るライブイベント「namaoto」をプロデュースする。3歳でバイオリンを、高校時代にはドラムを、大学時代にはバンドに明け暮れ、音楽漬けの日々。大学卒業後、広告代理店、デザイン会社、インターネット関連の商社に勤め、2010年に独立。