在来種の豆屋さん「べにや長谷川商店」の長谷川清美さんインタビュー
青大豆、紅しぼり、栗いんげん、緑貝豆、パンダ豆……。実家は北海道遠軽町の雑穀商「べにや長谷川商店」。故郷で栽培されている、見たこともないような在来種の豆に光を当て、首都圏を中心に豆と豆の食べ方を普及してきた長谷川清美さんに話をうかがいました。

「美味しい」という理由だけで残ってきた在来種

──長谷川さんは「在来種」の豆にこだわり、販売と豆料理の普及をお仕事にされています。在来種とはどんな豆なのですか?

 

長谷川清美さん(以下敬称略): 「在来種」の豆とは、商用の大量生産の豆とは異なり、農家のお嫁さんやおばあちゃんの間で自家用にコツコツとつくられてきたお豆のことです。種を買うのではなく、自分で植えた作物から種をとり、何世代も受け継いでいく「自家採種」で、手間がかかるなどの理由から現在ではごくわずかしか手に入らない希少な品種となってしまいました。
おもしろいのは、在来種は「美味しい」という理由だけで残ってきた、ということです。お隣のおばあちゃんが「この豆はうまい」と言うから、種をもらってうちでも蒔いている、そういう人が多い。こうやって伝わってきた豆は、嘘やごまかしがない。「あ、これは本物だな」と思ったんです。

 

──長谷川さんがあざみ野で在来種の豆の販売会社「べにやビス」を立ち上げたのが2001年。このお仕事を始めるきっかけは?

 

長谷川: 実家は昭和元年に創業した雑穀商「べにや長谷川商店」です。長年豆や乾物を扱っていましたが、私自身は故郷にいる頃はそれほど興味がなかったんですね。おぼろげな記憶のなかで、農家のおかんが「余ったから」と言って持ってきた在来種を、父や祖父が買い受けていたのを覚えています。
転機になったのは今から15年ほど前でしょうか。相模原の伊勢丹で遠軽町の物産展が開催された時に、母が「前川金時」という在来種の豆を持って参加したんです。母としては娘に会いに行くついで、くらいの気持ちだったのでしょう。物産展でのお客さんの反応は、「見たことのない豆」「どうやって料理するの?」というもの。試しに買った方が「家で煮てみたらとても美味しくできた」とわざわざ持ってきてくださって、それで人だかりができて瞬く間に完売してしまった。それを知って「そんなにうちの豆は美味しいんだ! 売ってみたい」と思うようになり、かつて在職していた西武百貨店を皮切りに在来種の豆の販売を始めました。
その後は自然食品店などを中心に少しずつ取り扱い店舗が増えてきました。この近辺ではMOTHER’S藤が丘店やたまプラーザ店、江田駅構内のF&Fなどで手に入れることができます。

 

べにや長谷川商店で扱う豆の一部。見たこともないような色鮮やかなもの、ユニークな模様のもの、小さいもの、大きいものなど。味も飛び切り美味しいと評判

 

煮くずれた豆でも美味しい?!

──在来種の豆はどのように料理したらよいかわからない、という人も多いのでは?

 

長谷川: 確かに。私が売りながら感じていることは、「豆は食べ方を一緒に伝えないと売れない」ということです。特に在来種はコアな商品なので、なおさらです。

そのため、MOTHER’S藤が丘店の2階で「豆サロン」を開催して豆スイーツや煮豆の活用法をお伝えしたり、今年の10月からはあざみ野で「お豆の学校」を開講して、豆の煮方や餡を使った料理、北海道の保存食の講義など、豆や豆料理について体系的に知ることができる機会を設けました。

 

──参加者の反応はいかがですか?

長谷川: 「豆は必ずしも浸水しなくても煮ることができるんですよ」と話すと、皆さんとても驚かれます。圧力鍋を使えば、10分の浸水プラスたった5分火にかけるだけでふっくら豆が煮えるんです。ほかにも、豆は煮崩れちゃいけない、と思い込んでいる方が多いのですが、実は煮崩れた豆でもシチューにすればコクが出て美味しいし、コロッケやペーストにもぴったりです。
豆は一度煮てしまえば、いくらでも料理に展開することができるんですね。なので、最初はともかく煮てみる。黒豆をふっくらとしわなく煮るのは、ある程度ステップを踏んでからでもいいと思っています。ともかく、「失敗したらイヤだ」という思いを払拭してほしいですね。

 

──おすすめのレシピがありましたら教えてください。

長谷川: 『べにや長谷川商店の豆料理』でも紹介していますが、ミックスビーンズのマリネは絶品です。余ったら餃子の具材にしても美味しい。ほかにも、余ったお豆と野菜を酒粕で煮込んだシチューや、私の母の得意料理でもあるきんぴらごぼう入りコロッケなど、びっくりするほどいろいろな展開ができるんです。

 

──楽しいお豆ライフを送る秘訣は?

長谷川: まずは豆を飾って楽しんでください(笑)。それこそ在来種は、いろいろな色、模様や大きさがあって、とても可愛いんですよ。それから茹でて、塩で食べてみてください。一番シンプルな調理法ですが、きっと豆のおいしさに驚くはずです。

 

長谷川さんは、お豆サロンや豆の学校の時はもんぺ姿で颯爽と活動する。「とても動きやすくておすすめですよ」。MOTHER’S藤が丘店の2階で。

 

農家の「おかん」の商売を成り立たせたい

──在来種の豆を売り、レシピを開発する。とてもニッチなお仕事だと思います。長谷川さんはどんな夢を抱いてお仕事をされているんでしょうか。

 

長谷川: 北海道で細々とつくられている在来種の豆を売っても、売り上げはたかが知れています。でも、在来種の作付面積を広げて大規模栽培、安定供給をしよう、などということは考えていません。元々、量産が難しいお豆なのですから。
将来的にはあざみ野でやっているお豆の学校を拡大して、北海道の畑で農家のおじいちゃんおばあちゃんを講師に豆づくりをするとか、農家の日常的なエコ暮らしを体験してもらったりと、豆を通じた農的暮らしを提案し、在来種の豆づくりをする人が増えればいいな、と思っています。
やっぱり私は在来種にこだわっていきたい。農家のおかんが畑の片隅で細々とつないできたお豆を販売して、それがちゃんとおかんたちの副収入になればいいと思う。できればお豆の加工品を開発して、農家レストランや産直で商売が成り立つような仕組みをつくりたいですね。

 

──あくまでも生まれ故郷の遠軽町にフィードバックしていきたい、というお考えですね。

長谷川: 遠軽町で採れる在来種のお豆は、だいたい20種類くらいです。まだまだ掘り起こせていません。全国を見渡せば、もっと多様な品種が各地域に残っているはずです。そして、遠軽で農家のおかんが在来種を使った料理を伝えてきたように、全国各地の農家のおかんたちも、同じようにその地域独特の料理をつくり、守ってきたんですね。
田舎の人は往々にして、自分のところにしかない在来種、つまり宝の価値に気がつかないことが多い。でも、外でおもしろそうなことをやっている、ちょっと豊かになって楽しそう、そのきっかけが在来種だったら「私たちの村にも宝がある!」と気づくかもしれません。北海道の農家の豆から始まる「おかんの一大プロジェクト」を成功させて、全国各地の人たちが地元に目を向けるきっかけになれば、と願っています。神奈川県にも、津久井在来といった大豆の品種がありますし、その地に根付いてきた郷土料理が着実に受け継がれているはずなのです。
私は在来種を扱う者として、その可能性を確信しています。郷土食は、日本人のソウルフードです。温かさ、懐かしさ、人間の生きてきた証……。誰もがほっとする、安心できる味なのですから。
まずは皆さんに、お豆の楽しさ、美味しさを伝えることから着実に広めていきたいですね。

流通にのらないような「もったいない豆」だって、十分に食べることができる。そんな知恵を農家に学び、伝えていきたいと考えている。

 

##取材を終えて……(一言)
長谷川さんは北海道遠軽町の在来種の豆にメッセージを託して、日本の豊かな食文化を掘り起こす開拓者のような存在だと感じました。このまちでも在来種の豆を手に入れることができます。私たちの食卓に「豆」がのぼることが、食文化の種をつなぎ、種を蒔くことになるんですね。
(取材・文・写真/キタハラマドカ)

 

Information
「お豆の学校」があざみ野で開講中! 毎月第1、第3木曜日、土曜日の日中と夜クラス。12月から中級コースが始まります。単発での参加も可能。詳しくはホームページで。
長谷川清美さんがまとめた『べにや長谷川商店の豆料理』(PARCO出版/1600円+税)が好評発売中。100近いレシピと豆図鑑、豆料理の基本、コラムなど、お豆に関する情報が満載。豆好きは必携です!

Information

長谷川清美(はせがわ・きよみ)

あざみ野在住。北海道遠軽町の老舗雑穀商「べにや長谷川商店」長女で、販売会社「べにやビス」代表取締役。首都圏の百貨店、食材の宅配会社、自然食品店を中心に在来種の販路を広げるほか、「お豆サロン」「お豆の学校」などを開講し、豆料理など食べ方の普及に力を注ぐ。『べにや長谷川商店の豆料理』(PARCO出版)が好評発売中。

http://www5c.biglobe.ne.jp/~kiyomi65/

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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