第7回・克雪から利雪へ。新しい雪国文化の創造
豪雪地帯の厄介者・雪を夏の冷房エネルギー源に活用

  

小千谷市内の伊佐邸。雪を落としやすい屋根形状、高床の基礎は雪国ならではの造りだ

 

新潟県中越地方は全国有数の豪雪地帯だ。真冬は一晩で1階部分がすっぽり雪で埋もれてしまうほど雪が降り、ひたすら雪下ろしをする日々が続く。この地に暮らす人々にとって雪は「見るのもイヤな厄介者」。中越地方では、雪を落とすために屋根の片側を大きく流す落雪屋根や、基礎を高く立ち上げる高床、雪除けのための雁木や、強固な構造など、雪と共存するための独特の住宅建築様式が発達してきた。

「克雪(こくせつ)」という言葉がある。現代では屋根に温熱式の融雪パイプを敷設するなど、読んで字の如く「雪を克服する」という意味で使われる。しかし、ただ雪を除けて消すために多大な労力や資金を費やすのはどうにも空しい。できれば雪を利用して有効活用できないものだろうかと立ちあがった工務店や建築家のグループがある。1989年に中越地方を中心に活動を開始した雪国住宅研究会がそれだ。近年、「克雪から利雪(りせつ)へ」というキャッチコピーを掲げ、冬季に降った雪を夏季の冷房に利用する「雪冷房住宅」のモデルをつくり上げた。

 

「この家を建ててから、雪との付き合い方が変わった。ただ雪を捨てるためだけに行う雪下ろしの苦しみが楽しみに変わった。雪を集めて雪室に入れたら、夏の冷房に使えるのだから」

こう話すのは、小千谷市に住む会社員の伊佐満守さん。新潟県中越地震で全壊した自宅を建て直す際に地元の工務店アクトホームに相談したところ、社長の廣井年郎さんが雪国住宅研究会のメンバーということもあり、伊佐邸新築工事が新潟県の「雪冷熱エネルギー活用調査事業」の補助事業に採択された。伊佐さんは2006年の竣工以来3年間、住まいながらデータを提供することで、県の実証調査研究に協力してきた。この基礎研究のノウハウが、雪冷房住宅の標準ガイドラインの元となった。

廣井さんによると、「冬は豪雪に見舞われ、夏は蒸し暑いという気候特性を持つ小千谷市は、雪のエネルギーを冷房に利用するのに適した地域」とのこと。実際、取材の日も屋外にいると汗が滴り落ちるほどの蒸し暑さだった。

 

1階部分を雪室にして30tの雪を蓄える。雪室の高さは2m55cm。9月中旬まで雪が残るため、夏の冷房には必要十分な量だ

 

この雪冷房住宅の基本性能は、1階が高床式の基礎を兼ねた鉄筋コンクリート製の雪室と貯蔵庫、2階に雪冷熱エネルギーで冷房するメインの居室やキッチン・ダイニングを置くという構成である。また、3階部分の小屋裏には、雪室から居室に送風するための配管ダクトを設置するスペースを設けた。

屋根形状は雪室の入り口部分にうまく雪が集まるよう流れを調整し、冬季間に雪を雪室に押し込んでいく。雪室に蓄えられる雪の量は約30t。その冷熱エネルギー量を原油換算すると259.5lで、CO2削減量は687.4kgとなる。雪室には9月中旬までは雪が残るので、夏の冷房利用には事欠かない。

 

雪冷房の方法は3通り。ファンを回して冷気を室内に送風する「直接熱交換冷風循環方式」と、熱交換にヒートポンプを利用して暖房利用も可能とする「熱交換冷水循環方式」、設備機器を使用せず雪で直接空間を冷やす「自然対流方式」が検討されてきた。

個人邸ではイニシャルコストを抑えながら確実な冷房効果を得られる直接熱交換冷風循環方式が適切であると、伊佐邸では雪室から各居室にダクトを回して送風ファンで冷熱を送っている。温度のコントロールは居室にあるつまみで送風量を調節するだけという、いたってシンプルな仕組みだ。動力は送風にしか使わないので、ひと夏の冷房コストは1000円ちょっとで済む。

伊佐邸では雪冷房によって夏季日中でも室温は25度から27度を維持。伊佐さんは「夏はとても過ごしやすい。雪を家の中に入れるなんて、家が湿気てしまうんじゃないかと心配していたけれど、むしろ室内が乾燥することに驚いた」と笑う。

 

 

雪冷房の冷房成績係数はCOP11.8(2007年夏季実績)と優秀だが、それ以上に伊佐さん一家が実感しているのが、除湿と空気清浄効果である。

湿度に関しては、居室の室温30度の時の1m3あたりの飽和水蒸気量が30gなのに対して、雪室のそれは6.8g/m3で相対的に低く、居室の暖かく湿った空気が雪室に送られて雪表面で結露し、除湿されることがわかった。

また、結露する際に室内の塵や埃も一緒に取り込まれることも判明した。長岡科学技術大学上村研究室の調べによると、雪冷房の前と後で室内のハウスダスト量が5分の1に減っていたという。「室内で発生するハウスダストだけでなく、ホルムアルデヒドやアンモニアなどの水溶性の化学物質を雪が吸着する性質が効果として表れた」と廣井さんは言う。

「生活臭がほとんど感じられなくなるので、家庭で介護をするような場合にも雪冷房住宅は有効なのではないか」と伊佐さん。奥様も「夕飯に魚を焼いていても、玄関ではまったく匂いを感じないそうです」と驚く。

 

雪国住宅研究会会長の廣井年郎さん(左)と、お施主さんの伊佐満守さん

 

伊佐さんご一家が最も活用しているのが、雪室に併設している貯蔵庫だ。約4.5畳のスペースにスイカ、枝豆、トウモロコシなどの夏野菜や、奥様手製のヤマブドウジュース、地酒、ビールなどが冷やしてある。冷気は雪室から直接入り、常に10度以下と貯蔵に適した温度だ。照明以外の動力、コストはもちろんゼロである。

「家庭菜園で採れた野菜を保存できるから、畑もやりがいがあります。この貯蔵庫ができてからは蕎麦打ちが趣味になってね」

と伊佐さんは石臼とこね鉢、そして自ら挽いた蕎麦粉を見てにやり。すかさず奥様が「お父さん、今日の夕飯はお蕎麦でお願いね」と相槌を打つ。

雪入れを手伝ってくれるご近所の方に手打ち蕎麦と雪中貯蔵酒をふるまったり、夏の間野菜やビールの貯蔵を引き受けたり。雪室によって地域とのコミュニケーションと楽しみが広がった伊佐さんご一家。数字では表すことのできない効果が、実は最も大きな収穫のようである。

 

雪冷房住宅は雪室の設置と断熱、送付ダクトやファンなどの装置を設けるため、普通に家を建てるよりも300万円ほど余計に費用がかかる。ガイドラインの制定で標準仕様ができたものの、さらにコストがこなれてくるにはある程度の量産体制が必要になってくるだろう。廣井さんは「雪冷房住宅が広く一般に普及するためには行政の後押しが必要」と話す。事実、屋根融雪などの克雪に補助金を出している自治体もあるため、雪冷房のような利雪にも補助の拡大を期待したいところだ。

また、雪冷房住宅は、震災復興住宅の1つのモデルでもある。これまで雪を消すために使っていた労力とお金を、雪を使うことで文字通りのエネルギーと人々の希望に変えることができたら……。それは、中越地震で心身ともに疲弊した地域の希望の懸け橋になるかもしれない。廣井さんはそんなイメージを抱いているという。

 

雪を積極的に活用し、楽しみに変え、まちづくりに生かしていこう。中越地方ではそんな仲間たちが少しずつ増え、ネットワークがつながり始めているようだ。同じ小千谷市の池ヶ原地区では、8月の暑い盛りに「真夏の雪祭りin池ヶ原」を毎年開催。真夏の農村に冬の間貯めておいた雪山が出現し、子どもたちがそり滑りや雪遊びに興じる姿が見られる。雪山の隣には10年前に建設した雪蔵があり、雪中貯蔵の地酒やジャガイモ、人参などが保存されている。祭りを主催するNPO法人グリーンライフおぢや理事長の米山厚さんは「地元住民にとって何一つありがたみのない厄介者の豪雪を、まちの宝に変えて地域の活力にしたかった」と話す。

 

雪蔵の前に立つNPO法人グリーンライフおぢやの米山厚さん。「雪中貯蔵した地酒は味がまろやかになり、ジャガイモや人参は糖度が増す。地域の特産の一つになっている」

 

地元の大学などでも雪冷熱活用の実証研究に関わる研究者が現れたり、ストップ温暖化「一村一品」大作戦全国大会2009で金賞を受賞するなど、地域特性を生かしたエネルギーの利活用事例として注目を集める雪冷房住宅。捨てる雪を、貯めて生かす。雪を前向きにとらえて楽しむ新しい文化が、地域の復興とリンクする日は近い。

 

小千谷市の池ヶ原集落の夏祭り。右に見えるのは雪蔵。高さ4mの雪を籾殻で覆うため1年中雪が溶けることなく、蔵の中は通年1度程度の氷温に保たれる

 

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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