第22回:ローカル・イノベーションの時代が始まった。
元東芝・格納容器設計者の後藤政志さんインタビュー
(環境ビジュアルウェブマガジン「ジアス・ニュース」での連載より)

東芝で格納容器を設計してきた技術者・後藤政志さんがメディアに登場するようになったのは、[3.11]以降のこと。東電福島原発事故について技術面からわかりやすく的確に解説している。特に事故発生直後、乱れ飛ぶ憶測と不安が交錯するなか、後藤さんの解説を頼りにUstreamにかじりついた人も多いのではないだろうか。後藤さんの論調は「過酷事故を確実に回避する術を持たず、安全哲学が不在の原発の存在は受忍できるものではない」と厳しい。そんな後藤さんが語るエネルギーシフトとは……。

 

 

超党派議員連盟「人間サイエンスの会」(NS)で講演をする後藤政志さん

 

■「格納容器の自殺」

 

3月11日、地震の発生時に私は都内にいて帰宅難民になり、翌12日に家にたどり着きました。そこで福島原発で進行中の事故を知り愕然としました。原発の事故対策は「止める」「冷やす」「閉じ込める」が原則です。地震で原子炉に制御棒が挿入され運転が止まったものの、地震と津波で電源が失われ冷却機能が働かず1〜3号機全てがメルトダウン、しかも圧力容器が損傷しました。そして、放射能を閉じ込める最後の砦である格納容器の圧力が2倍以上……。圧力を抜くために「ベント」をしないとさらに圧力が上がって爆発を引き起こすかもしれない。格納容器ベントを行えば原子炉の放射能をそのまま周囲にまき散らすことになり、「格納容器の自殺」とも言える、究極の、最悪の選択です。私は恐怖で足がすくみました。と同時に、格納容器の設計に携わってきた者として技術的な側面からの事故解説が必要だと思い、実名を明かしてUstreamから発信を始めました。

 

現在も原子炉・格納容器ともに損傷していて、かろうじて冷却は行われているものの、原子炉が外界にむき出しになったまま、放射能を含んだ水も空気も環境中に漏れ出ています。事態が悪く進行していないだけで安定などという表現はとんでもなく、今でもものすごい危機のまっただ中にいます。東電もメーカーも技術者も、いま原子炉の状態がどうなっているのか、誰にもわかりません。それだけ原発とはコントロールできないものなのですが、あたかも安定しているかのように伝える報道は大きな間違いです。

 

 

■確実に安全であることを証明できない原発

 

今回の事故は地震と津波という、一つの現象が同時に複数の機械を壊してしまう共通要因故障が原因で、多重防護が十分でなかったことがわかります。現行の原発の設計指針は、厳しい地震が来ることと、冷却機構が失われる可能性が同時に発生することを考えていないため、冷やす、閉じ込める機能が突破されてしまうと、もうお手上げ状態なのです。

 

そもそも日本の原発では過酷事故に対する想定があまりに甘い。フランスやドイツ、スウェーデンなど欧州諸国では、格納容器ベントを行うという最悪の事態を想定して、数十メートルに及ぶフィルターを用意してあります。日本では原子力安全院が過酷事故の可能性を軽視してきたため、ベント弁にフィルターをつけることはおろか、ベント系の設計も後付けで、バックアップ装置の安全設計にも信頼性がないような状況で、福島原発ではベントの現場でバルブを開けるのにも手間取るような事態が起こったのです。

 

外部電源を確保することも、やらないよりはましですが、大地震が起こったら渋滞や地盤崩落が起こって電源車が到着できない、到着してもプラグが差し込めないという初歩的なトラブルで役に立たなかった。原発の安全性を議論するなら、ここまでの事態を想定した設定条件にしないと安全とは言えませんし、それは現実的に不可能です。

 

これまでも原発では制御棒の脱落や誤挿入のトラブルは十数件起きており、福島第一原発の3号機、志賀原発1号機では臨界事故を起こしています。これらの事実は隠蔽されてきましたが、通常時にすらコントロールができていない原発を安全だというなんてとんでもないことです。また、設計者時代に格納容器に圧力をかけて爆破する実験を行ったのですが、設計条件の1.2〜1.5倍くらいまで圧力をかけたらそこで実験は終わりです。「設計上壊れませんでした。原子力は安全です」ということを証明するためだけに莫大な費用をかけるような実態でした。

 

今回の事故は福島県の少なからざる土地を失ってしまったとも言える大事故です。原発のように過酷事故を確実に回避するすべを持たず、周辺住民を巻き込み、しかも長期間汚染エリアに立ち入りができないような被害をもたらす技術は、私たちはとうてい受忍できるようなものではないと考えます。もし仮に今後原発を推進しようとする人がいれば、工学的に安全性を完璧に証明できるのでしょうか。

 

 

■原発は安定供給の面からもリスク大

 

このように、原子力は元々安全性の問題があるのにも関わらず、「電力の安定供給」をキーワードにこれまで推進されてきました。しかし、私は今回の事故で、安全性と同時に安定供給についての神話も破綻したと考えています。関東から東北地方の広域にわたってすべての原発が停止し、さらに今なお活発な余震が続いています。これまでもそうだったように、地震のたびに電力の安定供給ができなくなります。再生可能エネルギーを安定供給の面から問題視する声もありますが、原発は時々大規模に不安定になるエネルギー源であるため、安定供給の面からも再生可能エネルギーよりもリスクが大きいと言えます。

 

今後原発をどうしていくのかという議論に関しては、とにかく明確な撤退の意志を確認する必要があると考えます。今すぐに原発を止めるかどうかについては、社会や経済など様々な面での事情があるので、ある程度の時間を要するでしょうが、日本の方針として原発は安全性の面からも安定供給に関しても問題があることを認識し、それを繰り返し確認していかないと、再び原発推進や開発への揺り戻しがきてしまいます。いま最も危険性の高い老朽原発と地震の危険性が指摘されている原発を停止し、定期点検中の原発は再稼働せず、既存の火力発電所や埋蔵電力を活用していけば、日本が原発から脱却するにはそれほど長期間を必要としないはずです。原発の恐ろしさとリスクをきちんと理解できる知性があれば、史上最悪の原発事故を起こしながら原発回帰などあり得ないはずなのですが……。

 

 

普段の後藤さんはとても気さくで話しやすいお人柄だ

 

■完璧な事故対策よりもエネルギーシフトへ

 

原発と再生可能エネルギーの違いは安全性の面で自明です。原発は過酷事故を確実に防ぐことのできない技術です。

 

再生可能エネルギーは一見するとハイテクではなく目に見える技術です。しかし、技術者にとっては難しい側面があります。例えば太陽光は地球上にまんべんなく降り注いでいますが、密度が薄くエネルギーに変換するには効率が悪い。風力発電は流体力学で風車を回転させて発電しますが、風の流れは一定ではなく常に変動し予測ができません。タービンのように一定回転ではないので簡単ではない。それだけに技術課題がたくさん浮かび、技術者としてはおもしろいとも言えます。都市部ではヒートアイランドが問題になっていますが、それを逆手に取れば熱い温度と低温領域の温度差で発電ができます。波や潮汐、地熱など、エネルギーが局所的に偏在する自然エネルギーは、可能性のかたまりで、困難があるほど技術者は挑戦し、新たな技術開発が生まれます。しかし、「失敗を活かせる技術であるなら」という条件があります。原子力は失敗が許されない、受忍できない技術です。

 

いまは原発と再生可能エネルギーの空中戦のような状態になっていますが、私は最終的には再生可能エネルギーで100%エネルギーを自給できると信じていますし、長期的にエネルギーシフトをしていくことは必然だと思っています。今まであれだけ原子力に巨額を投じてきたのに、再生可能エネルギーを並列で開発してこず、経済的に普及が阻害されるような状況が意図的につくられてきたのは不幸でした。もんじゅのようにまったく役に立たず危険なだけのものにかけてきたお金を、これからは再生可能エネルギーの技術開発に回せばいい。原発の完璧な事故対策よりもエネルギーシフトのほうがはるかに容易ですよ。

 

 

■これからは技術者にとって夢の時代。

 

私は、若い技術者に対して、今回の事故で決して暗くならずに、いまの困難を再生可能エネルギーにチャレンジするいい機会だと思って、乗り越えていこうと言いたい。いままで原発に使ってきたお金を再生可能エネルギーに回したらあっという間に技術開発が進むはずです。原子力がなければエネルギーが足りない、というのはプロパガンダ。再生可能エネルギーが普及すれば、原発や放射能から解放されて、未来はものすごく明るいですよ。

 

私は元々海洋構造物を研究してきて、流体力学が好きなので、もし仕事があれば洋上風力発電に挑戦してみたいと思っています。日本は現時点でもトップレベルの技術力を持っていて、今後大きな輸出産業にもなり得ます。これだけの事故を起こし安全哲学がない原発の輸出なんてとんでもない。

 

これからは小規模分散型で、地域性、個別性に鑑みた技術開発が進んでいくでしょう。ローカルな特性にマッチした技術を検討する恰好の機会が訪れています。私たちのように引退して多少技術力を持っている技術者層と若い人を組み合わせてプロジェクトを組めば、とてもいい技術開発できると思うし、地方の大学や研究機関も特徴が出てくるでしょう。若者の失業者がこれだけ多い状況はおかしいし、再生可能エネルギーの技術開発は雇用を生み出すという面からもとても可能性の大きな分野です。

 

これからは技術者にとって夢の時代です。ただ、私たちは福島原発事故を忘れてはならないし、消化しなければなりません。これを踏まえたうえで未来を展望し、何とか乗り越えていこというのが私の姿勢です。いまはそのために厳しいことを言わなければならないし、それがいまの私の役目だと思っています。

 

※2011年7月21日、衆議院第一議員会館で開催の、超党派議員連盟「人間サイエンスの会」(NS)主催の講演と、講演後のインタビューにより構成。

 

Information

後藤政志(ごとう・まさし)

工学博士・元原子力プラント設計技師

 

1973年、広島大学工学部船舶工学科卒。1973年、三井海洋開発(株)で海洋構造物(石油掘削リグ)設計に携わる。1989年(株)東芝入社、 原子力プラント設計に従事し、2009年東芝退社。現在、芝浦工業大学、早稲田大学-東京都市大学大学院共同原子力専攻、國學院大学非常勤講師。博士 (工学)。3.11東京電力福島第一原子力発電所の事故に関して、格納容器設計者の観点から、事故分析、技術解説を行っている。

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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